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最終話 こんにちわ
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養子をとることも視野に入れた方がいいのかもしれない。そう思うようになった三十手前。
しかし、いい病院があるウワサを聞いた。
何人もその病院で体外受精が成功しているらしい。
一も二もなく私達は飛びついた。
四回目のチャレンジはあれから一年半。
結婚してから六年目となっていた。
「私どもは“アンタゴニスト”という薬に注目しております。それで今まで何人も成功して来ました。そちらでやってみましょう」
ということになった。
“アンタゴニスト”
その頃は画期的だった排卵誘発剤。詳しいことはネットや書籍などで。
難しいことなんて覚えちゃいない。だいたいにして、私が食らいついたのは
「当病院の採精室は快適に採精できます」
というほうだったのだ。
遠い病院だったが、妻は“アンタゴニスト”を打つのに半月ばかり30km先の病院に通った。
そして当日!
私は妻を乗せて病院に向かっていたがコンディションは最悪だった。
その日会社を休むために残業を朝の4時までやっていたのだ。
精子に影響がでなければいいが……。
妻は手術室に運ばれ、私は快適な採精室に入った。
今までのところとは雲泥の差!
リッチなソファが用意されており、デカい画面のモニター。
そして、数本の大人なビデオや大人なナンセンス雑誌。
すぐに部屋から出ると、男性機能が貧弱と思われてしまう。
余計なプライドが男にはあるのだ。
西部劇じゃあるまし「早撃ちガンマン」の異名は男性にとっては不名誉なことなのだ。
「……大丈夫。きっと疲れているのよ」
「……自分ばかりを責めないで」
「ううん。全然気にしてない。むしろ新しい一面を見れて嬉しい」
※慰めはイメージです。
なんて、慰めを言われた日にゃぁ逆に傷つくってなもんだ。
そうならないためにも!
部屋からは遅くでなくてはならない──。
ナンセンス雑誌を一通り吟味し、ビデオのやつをじらしてやる作戦だ。
こっちはお前なんて全然興味ないんだぜ?
調子にのるんじゃねーよ?
というやつで、向こうから見て下さい。
しょうがねぇなぁ。
じゃぁ、見てやるか。
っていうやつ。分かります?
分からない人も多いとは思うが説明も面倒なので頃合いを見計らってビデオを見る。
提出。
これで男の仕事は終わりだ。
待合室で、適当な女性誌を見て待っていた。
そして、妻の採卵も終わり。
なんと今回は元気な卵子が4つも採れた!
それに加えて、
「旦那さんの方が運動率が48%しかありません」
「すいません……。昨日、寝ていないもので」
ああ。なんということだろう。
妻の方は4つも採れたと言うのに。
これではまた受精しないのではないか?
「今回は“顕微授精”にしませんか?」
“顕微授精”
健康な卵子に対し、注射器で精子を注入し受精させてしまう方法。
と言うやつだった。オプションでお金はかかるが、ここまで来たら最善の方法を狙いたい!
「お願いします!」
ということで顕微授精をし、完全な受精卵を作った。
倫理面から4つは体内には戻せず、2つ。だったかな? その辺は忘れてしまったのだが。
そしてたしかサービスで数ヶ月受精卵を凍結してもらえたんだと思う。
だがその辺は不確かなので、参考にしないで欲しい。
そして時が満ちて、検査の日。
その日も私は仕事で妻からのメールを待っていた。
そして、午前中。
期待のメールはやって来た。
赤
ち
ゃ
ん、来たよ。
おめでとうございます。
ありがとうございます。
街に飛び出してみんなに言いふらしたい気分だった。
とうとう、四度目にして妊娠した。
ここで人生のスタッフロールを流してもいいぐらいだった。
◇
時が満ちて。赤ちゃんはスクスクと育っていた。
妻の体内の不都合で帝王切開ということになっていた。
朝から妻とともに病室でその時間を待っていた。
妻に麻酔が打たれ、手術室に運ばれて行く。
私はそのストレッチャーについていったが、普通分娩でないのでそこで止められた。
他の妊婦さんも分娩室に入って行った。
手術室から分娩室は遠い。
だが
「いったーーーーーーーい!!」
「いたーーーい!!」
「あんたの……あんたのせいよぉぉぉおおおおーーーッ!!」
という声が聞こえて来た。
今まで聞いたことのない、痛いの声。
出産って、そんなに痛いの?
ハンパねぇ……。
と思っていた。
看護師さんに促され、赤ちゃんがくる病棟に移動した。
ケースに入れられた我が子がやってきた。
キャスターの音がカラカラと音を立てる。
男の子だった。
小さい。小さい。
赤な顔。
シワだらけの顔。
里芋のような頭。
なんという可愛らしさ。
看護師さんがサービスで、お腹を触ると
「おんぎゃ、おんぎゃ」
と小さい声で泣いた。
やっと父になれた。
喜びで一杯の日だった。
◇
それから──。
二年後にまた体外受精で次子である長女ができた。
彼女には先天性の病気があった。
だがその病気なんて気にせず我がままにスクスクとテンション高く生きている。
長男はというと、高校入学祝を叔父に
「叔父さん。僕はステューシーのTシャツが欲しいんだ」
「おおよし買ってやる」
とみんなで見に行ったTシャツは目ん玉飛び出るくらい高かった。
グンゼでええやろ。
洒落っ気のついた彼は朝の洗面台を独占している。
おばあちゃんに
「お。イケメンオンステージが始まりました」
などと言われつつ、ワックスでヘアスタイルをキメている。
君たちの人生は決して順風満帆じゃない。
思い通りにならなくて、あがき、もがき続けるだろう。
挫折も失敗も多く経験しろ。
親にもたくさん迷惑かけろ。
その一つ一つが君たちを大きく、大きくするのだから。
【おしまい】
しかし、いい病院があるウワサを聞いた。
何人もその病院で体外受精が成功しているらしい。
一も二もなく私達は飛びついた。
四回目のチャレンジはあれから一年半。
結婚してから六年目となっていた。
「私どもは“アンタゴニスト”という薬に注目しております。それで今まで何人も成功して来ました。そちらでやってみましょう」
ということになった。
“アンタゴニスト”
その頃は画期的だった排卵誘発剤。詳しいことはネットや書籍などで。
難しいことなんて覚えちゃいない。だいたいにして、私が食らいついたのは
「当病院の採精室は快適に採精できます」
というほうだったのだ。
遠い病院だったが、妻は“アンタゴニスト”を打つのに半月ばかり30km先の病院に通った。
そして当日!
私は妻を乗せて病院に向かっていたがコンディションは最悪だった。
その日会社を休むために残業を朝の4時までやっていたのだ。
精子に影響がでなければいいが……。
妻は手術室に運ばれ、私は快適な採精室に入った。
今までのところとは雲泥の差!
リッチなソファが用意されており、デカい画面のモニター。
そして、数本の大人なビデオや大人なナンセンス雑誌。
すぐに部屋から出ると、男性機能が貧弱と思われてしまう。
余計なプライドが男にはあるのだ。
西部劇じゃあるまし「早撃ちガンマン」の異名は男性にとっては不名誉なことなのだ。
「……大丈夫。きっと疲れているのよ」
「……自分ばかりを責めないで」
「ううん。全然気にしてない。むしろ新しい一面を見れて嬉しい」
※慰めはイメージです。
なんて、慰めを言われた日にゃぁ逆に傷つくってなもんだ。
そうならないためにも!
部屋からは遅くでなくてはならない──。
ナンセンス雑誌を一通り吟味し、ビデオのやつをじらしてやる作戦だ。
こっちはお前なんて全然興味ないんだぜ?
調子にのるんじゃねーよ?
というやつで、向こうから見て下さい。
しょうがねぇなぁ。
じゃぁ、見てやるか。
っていうやつ。分かります?
分からない人も多いとは思うが説明も面倒なので頃合いを見計らってビデオを見る。
提出。
これで男の仕事は終わりだ。
待合室で、適当な女性誌を見て待っていた。
そして、妻の採卵も終わり。
なんと今回は元気な卵子が4つも採れた!
それに加えて、
「旦那さんの方が運動率が48%しかありません」
「すいません……。昨日、寝ていないもので」
ああ。なんということだろう。
妻の方は4つも採れたと言うのに。
これではまた受精しないのではないか?
「今回は“顕微授精”にしませんか?」
“顕微授精”
健康な卵子に対し、注射器で精子を注入し受精させてしまう方法。
と言うやつだった。オプションでお金はかかるが、ここまで来たら最善の方法を狙いたい!
「お願いします!」
ということで顕微授精をし、完全な受精卵を作った。
倫理面から4つは体内には戻せず、2つ。だったかな? その辺は忘れてしまったのだが。
そしてたしかサービスで数ヶ月受精卵を凍結してもらえたんだと思う。
だがその辺は不確かなので、参考にしないで欲しい。
そして時が満ちて、検査の日。
その日も私は仕事で妻からのメールを待っていた。
そして、午前中。
期待のメールはやって来た。
赤
ち
ゃ
ん、来たよ。
おめでとうございます。
ありがとうございます。
街に飛び出してみんなに言いふらしたい気分だった。
とうとう、四度目にして妊娠した。
ここで人生のスタッフロールを流してもいいぐらいだった。
◇
時が満ちて。赤ちゃんはスクスクと育っていた。
妻の体内の不都合で帝王切開ということになっていた。
朝から妻とともに病室でその時間を待っていた。
妻に麻酔が打たれ、手術室に運ばれて行く。
私はそのストレッチャーについていったが、普通分娩でないのでそこで止められた。
他の妊婦さんも分娩室に入って行った。
手術室から分娩室は遠い。
だが
「いったーーーーーーーい!!」
「いたーーーい!!」
「あんたの……あんたのせいよぉぉぉおおおおーーーッ!!」
という声が聞こえて来た。
今まで聞いたことのない、痛いの声。
出産って、そんなに痛いの?
ハンパねぇ……。
と思っていた。
看護師さんに促され、赤ちゃんがくる病棟に移動した。
ケースに入れられた我が子がやってきた。
キャスターの音がカラカラと音を立てる。
男の子だった。
小さい。小さい。
赤な顔。
シワだらけの顔。
里芋のような頭。
なんという可愛らしさ。
看護師さんがサービスで、お腹を触ると
「おんぎゃ、おんぎゃ」
と小さい声で泣いた。
やっと父になれた。
喜びで一杯の日だった。
◇
それから──。
二年後にまた体外受精で次子である長女ができた。
彼女には先天性の病気があった。
だがその病気なんて気にせず我がままにスクスクとテンション高く生きている。
長男はというと、高校入学祝を叔父に
「叔父さん。僕はステューシーのTシャツが欲しいんだ」
「おおよし買ってやる」
とみんなで見に行ったTシャツは目ん玉飛び出るくらい高かった。
グンゼでええやろ。
洒落っ気のついた彼は朝の洗面台を独占している。
おばあちゃんに
「お。イケメンオンステージが始まりました」
などと言われつつ、ワックスでヘアスタイルをキメている。
君たちの人生は決して順風満帆じゃない。
思い通りにならなくて、あがき、もがき続けるだろう。
挫折も失敗も多く経験しろ。
親にもたくさん迷惑かけろ。
その一つ一つが君たちを大きく、大きくするのだから。
【おしまい】
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