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第12話 柿沢の気持ち
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麗が来てからというもの、頑張りが変わったオレは会社での信用も高くなった。
仕事が成功続き。
尊敬する上司、畑中さんにも褒められた。
「後でまとめて打ち上げしよう」
「いっすね」
順調順調。休憩室でコーヒーを飲みながら微笑む。
早くレイに会いたい気持ちが、仕事のスピードアップにも繋がってる。そんなことを考えていると隣のイスを引く者があった。
見てみると柿沢。オレの中に緊張感が湧く。
「隣いいですか?」
「隣? 他も開いてるのに……」
それを無視して柿沢は隣に座る。
最近怖い柿沢。オレは怒られるのかと息を飲んだ。
「彼女さんって、どんな人ですか?」
「え? 彼女?」
「ええ。プライベートなこと聞いちゃダメですか?」
「いや、そんなことは……」
専門学生時代、顔を合わせた柿沢。
知り合いの後輩だったこともあり、その関連で数度学食で知り合いとともに食事をした。
あの時は女性に対する怯えが消えず、まともに顔を見て話す機会はなかった。しかし、こうしてみるとなかなか可愛い子だったんだなぁ。
「19でさ。猫みたいな子なんだ。可愛くて、抱きしめてやりたいって言うか」
柿沢の表情か少しばかり曇る。
コーヒーが入った紙コップを、その表情で見つめていた。
「いつもミートソースでしたよね」
「あー。学食? そうだったなぁ。360円で安くて旨い」
「値段覚えてるなんてスゴ」
「そりゃ覚えるでしょう」
「学生の頃、賞取ってましたよね。学長賞」
「CGのな。懐かしいなぁ」
「輝いてましたよ」
「過去形かよ」
「憧れてました」
「……ん?」
「先輩はもっと大人の引っ張ってくれる女性と付き合うのかと思ってました」
「何だそりゃ」
コーヒーを一口だけ飲むと、柿沢が言葉を続けた。
「だから遠慮してました」
「は?」
「失敗した」
「……な、何を?」
「私、『電スリー社』受かってたんですよ?」
「ああ。聞いてた。あの大手を蹴ってウチに来たんだろ? ボーナスだって、3倍は出てたぞ?」
「なぜだと思います?」
「それは、そのう」
ジッと見つめたまま彼女はオレの答えを待っている形だった。
少し空気に重さを感じてしまった。
「……オレ? ですか?」
「うぬぼれないでください。先輩危なっかしいし、暗いし、なんか引きずってるようで、そばにいてあげないとって思ってまして」
「おいおい」
「でも」
「ん?」
「少し遅かったなー」
柿沢は立ち上がり、こちらに背を向け紙コップ専用のゴミ箱の中にコップを入れると、寂しく肩を落として出て行ってしまった。
なぜだろう。この釣り落とした感。
好きだとも何とも言われていないのに。
正直、蛍を失ったオレには特別好きになる人はいなかった。
親友の彼女に横恋慕し続けていた。
だが、その親友とその彼女は、自分の友人や後輩を紹介し続けてくれた。
一番欲しいものは違ったのに。
だから、誰でもいい感はあった。
付き合えば好きになれる。そんな感情。
好きになるために付き合いたい。
本末転倒──。
柿沢が告白してくれていたら、一も二もなく飛び付いていただろう。
真司や蛍に紹介しただろう。
オレはもう心配ないですよって。
お二人さん、もう気を遣わないで下さいって。
麗は──。
今のオレの天使。オレの心を慰めるために送られた御使い。
彼女と一緒にいると安らぐ。
蛍を思い出すのも少なくなった。
麗は甘えさせてくれる。
いつもそばにいてくれる。
こんなオレを愛してくれている。
「タイちゃん、おかえりー」
ソファーに寝転んでいた麗は飛び起きて、オレを迎えに来てくれた。その麗を抱きしめる。強く、強く。
「なーん」
「レイ。オレを放さないでくれよ」
「うん分かった」
「ああ、愛してる。愛してるんだよ。レイ」
「うん。分かってるよ」
靴も脱がないのに、しばらくそのまま。
なにも不安なことなどないのに。
「タイちゃん?」
「レイ……」
「なんか変だよ」
「そうか?」
「仕事で何かあったの?」
「……実はそうなんだよ」
「じゃ、元気が出るように、タイちゃんの好きなこといっぱいしてあげる~」
「ま、マジ? ああん、レイ~」
「ちょっと! まずは靴を脱いでから!」
「うんうんうん!」
「超元気だし」
オレは鼻息荒く、ベルトに手をかけながら部屋の中に飛び込んだ。
仕事が成功続き。
尊敬する上司、畑中さんにも褒められた。
「後でまとめて打ち上げしよう」
「いっすね」
順調順調。休憩室でコーヒーを飲みながら微笑む。
早くレイに会いたい気持ちが、仕事のスピードアップにも繋がってる。そんなことを考えていると隣のイスを引く者があった。
見てみると柿沢。オレの中に緊張感が湧く。
「隣いいですか?」
「隣? 他も開いてるのに……」
それを無視して柿沢は隣に座る。
最近怖い柿沢。オレは怒られるのかと息を飲んだ。
「彼女さんって、どんな人ですか?」
「え? 彼女?」
「ええ。プライベートなこと聞いちゃダメですか?」
「いや、そんなことは……」
専門学生時代、顔を合わせた柿沢。
知り合いの後輩だったこともあり、その関連で数度学食で知り合いとともに食事をした。
あの時は女性に対する怯えが消えず、まともに顔を見て話す機会はなかった。しかし、こうしてみるとなかなか可愛い子だったんだなぁ。
「19でさ。猫みたいな子なんだ。可愛くて、抱きしめてやりたいって言うか」
柿沢の表情か少しばかり曇る。
コーヒーが入った紙コップを、その表情で見つめていた。
「いつもミートソースでしたよね」
「あー。学食? そうだったなぁ。360円で安くて旨い」
「値段覚えてるなんてスゴ」
「そりゃ覚えるでしょう」
「学生の頃、賞取ってましたよね。学長賞」
「CGのな。懐かしいなぁ」
「輝いてましたよ」
「過去形かよ」
「憧れてました」
「……ん?」
「先輩はもっと大人の引っ張ってくれる女性と付き合うのかと思ってました」
「何だそりゃ」
コーヒーを一口だけ飲むと、柿沢が言葉を続けた。
「だから遠慮してました」
「は?」
「失敗した」
「……な、何を?」
「私、『電スリー社』受かってたんですよ?」
「ああ。聞いてた。あの大手を蹴ってウチに来たんだろ? ボーナスだって、3倍は出てたぞ?」
「なぜだと思います?」
「それは、そのう」
ジッと見つめたまま彼女はオレの答えを待っている形だった。
少し空気に重さを感じてしまった。
「……オレ? ですか?」
「うぬぼれないでください。先輩危なっかしいし、暗いし、なんか引きずってるようで、そばにいてあげないとって思ってまして」
「おいおい」
「でも」
「ん?」
「少し遅かったなー」
柿沢は立ち上がり、こちらに背を向け紙コップ専用のゴミ箱の中にコップを入れると、寂しく肩を落として出て行ってしまった。
なぜだろう。この釣り落とした感。
好きだとも何とも言われていないのに。
正直、蛍を失ったオレには特別好きになる人はいなかった。
親友の彼女に横恋慕し続けていた。
だが、その親友とその彼女は、自分の友人や後輩を紹介し続けてくれた。
一番欲しいものは違ったのに。
だから、誰でもいい感はあった。
付き合えば好きになれる。そんな感情。
好きになるために付き合いたい。
本末転倒──。
柿沢が告白してくれていたら、一も二もなく飛び付いていただろう。
真司や蛍に紹介しただろう。
オレはもう心配ないですよって。
お二人さん、もう気を遣わないで下さいって。
麗は──。
今のオレの天使。オレの心を慰めるために送られた御使い。
彼女と一緒にいると安らぐ。
蛍を思い出すのも少なくなった。
麗は甘えさせてくれる。
いつもそばにいてくれる。
こんなオレを愛してくれている。
「タイちゃん、おかえりー」
ソファーに寝転んでいた麗は飛び起きて、オレを迎えに来てくれた。その麗を抱きしめる。強く、強く。
「なーん」
「レイ。オレを放さないでくれよ」
「うん分かった」
「ああ、愛してる。愛してるんだよ。レイ」
「うん。分かってるよ」
靴も脱がないのに、しばらくそのまま。
なにも不安なことなどないのに。
「タイちゃん?」
「レイ……」
「なんか変だよ」
「そうか?」
「仕事で何かあったの?」
「……実はそうなんだよ」
「じゃ、元気が出るように、タイちゃんの好きなこといっぱいしてあげる~」
「ま、マジ? ああん、レイ~」
「ちょっと! まずは靴を脱いでから!」
「うんうんうん!」
「超元気だし」
オレは鼻息荒く、ベルトに手をかけながら部屋の中に飛び込んだ。
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