上 下
3 / 4
プロローグから最強最悪の陰陽師……暗躍しています

暗躍ー3

しおりを挟む
 会議室の上座。今まで傍観に徹していたこの国のトップ・海老原えびはら 総理大臣が、落ち着き払った口調で二人の間に割って入った。
 海老原 元えびはら はじめ総理。歳は60代後半。7割ほど白髪となった髪をオールバックにし、その歳の人にしては170cm代後半と長身。防衛大臣をへて、三年前に総理大臣となった人だ。物腰は柔らかく、大きな福耳とその名前から、一議員の頃から『恵比寿様』の愛称で呼ばれている。

「ですがッ…」

 吉田議員は、総理の声にも尚も反論しようとする。

「吉田君、君の言いたいことも分かる。だが今把握しているだけでも怪異による事件に巻き込まれた被害者は、優に三桁を超えてしまっている。国民の人命を考えれば、何を優先すべきか解ると思うが」

 総理の言葉にグッと言葉を詰まらせる吉田議員。「場を乱してしまい、すみませんでした」と頭を下げると、自分の席へと戻っていた。その後ろ姿に明星は、思いっきりあっかんべーをする。

「道川君、君もだぞ。人材不足による今の状況に不満があるというのならば、改善策を共に考えてほしい」

「はい。はい」

 海老原総理の一瞥に、出した舌を誤魔化すように顔を背け、返事を返す明星。とは言え心の中では「…って言ってもこの会議自体、時間のムダだと思うけどな~ぁ」と、溜め息混じりに思う。
 会議は、あの吉田議員が進行役らしい。よく新しい総理大臣と国務大臣たちが、旧官邸の階段で並んで撮った映像があるが、吉田議員はそこに写ることの無い、秘匿の『怪異対策担当大臣』といったところだろう。各、配られた書類をもとに現在の状況説明から始まる。

「現在、今まで起きた怪異事件をデータベース化し、怪異を研究対象とする民俗学の専門家たちを集め、色々と意見を聞いています」

「それで事前予測は立つのか?」

「人が襲われたという伝承や都市伝説から照らし合わせ、対象の怪異を特定します。その後、対応策を講じてはいますが、『事件』となると人が起こすのと同じく、今の時点では起きてからではないと警察・公安ともに動けません」

「それじゃあ、事前対策にならないじゃないかッ」

「ですから、ここで皆様方にも打開案と出して頂きたいと…」

「いやいや、それよりも人材育成のほうが急務だろうッ。一週間前に起きた、北九州と東北の大量神隠し事件も、人員が要れば対応できた案件だッ」

「アレは人員というより、警察上層部の判断ミスが原因だと思うがね」

「だから、あの時私は言ったんだッ。先に東北のほうを優先すべだとッ」

「その判断ミスも、カバーするためには人材が必要だと言………ッッ」

 ……………………
 
 ……………
 
 ……


(ほっっっんと、時間のムダでしかない)

 呆れた顔の明星。
 海老原総理の手前、ポータブルゲーム機はテーブルに置いたものの話に加わる気は毛頭無い。会議内容がお粗末過ぎる。まるで子供が正義の味方ごっこをするために、空想の怪獣の倒しかたの設定を話し合っているような陳腐さ。

(一度皆さんで、現場でモノホンに襲われてみれば危機感が上がるかな~ぁ。……いや、が視えて無いようじゃ、何されたか解らないうちにあの世行きかぁ)

 チラリと視線を横に流す。
 会議室の隅。水々しい色合いの葉とツルの間を、鈴なりの青瓢箪あおひょうたんがなっている日本画が飾ってある。それがまるで倍速の映像のようにみるみるうちに葉とツルが干からび、青瓢箪は薄茶に変色してボトボトと落下した。
 すると次に瓢箪たちに目鼻口が付き、ニョキリと小さい手足が伸び出す。そして腰ふりダンスを始めたのだ。
 くびれのあたりに手を当ててフリフリする度に、瓢箪の中でカラカラと乾いた種らしき音がする。……と言っても、聞こえているのも、視えているのも、人間では明星だけだろう。
 年代物の日本画のようだ。多分、付喪神つくもがみになったのだろう。
 付喪神とは長い年月を経て、器物などに宿ると言われる精霊や妖怪のことだ。それが、「この会議は、自分たちのように」と揶揄やゆしているのだ。
 さっきの猫又・白檀は、議員たちに意図的に姿を認識できるようにしてやたが、怪異がコチラに合わせてご丁寧に姿を視せてくれるとは限らない。そして、草花や昆虫と同じで何処にだって居る。それらを管理なんて到底出来る話では無いのだ。
 思わず「…プッ」と吹き出してしまう明星。
 無駄に熱を帯びた議論がピタッと止まり、一斉に議員たちがギロッと睨んだ。慌てて明星は視線を反らす。反らした視線の先にはポータブルゲーム機があった。
 ふと……頭の中で言葉のピースが浮ぶ…。
…。

 ーー…正義の味方ごっこ。

 ーー…倒しかたの設定。

 ーー…画像化した日本画。

     …………………全部がガチりとハマる音がした…。

 明星の切れ長の目が大きく見開く。そしてその顔はニヤ~~~ァと悪魔的笑みへと変わっていった。
 見ていた海老原総理含め議員全員、嫌~~~~ぁな予感しかしない。

「うん。いいこと、思いついちゃった☆  皆~ぁ、手伝ってくれるよねっ?」

…と、「絶対、否定など許さない」といった爽やかな笑顔で小首を傾げてみせる。
 その時、日本画の瓢箪の一つがバランスを崩して前のめりに転んだ。勢いで、登頂の穴から乾いた種らしきモノが飛び出した。
 それはまるで『駒』のように見えた…。







          ☆★☆
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

NewLifeOnline〜彼女のライバルはバトルジャンキー勇者だった〜

UMI
SF
第2の世界と言われるゲームNewLifeOnlineに降り立った主人公春風美咲は友達の二条咲良に誘われゲームを始めたが、自分の持つ豪運と天然さ、リアルの度胸で気付いたら友達が追いつけないほど強いトップランカーになっていく物語だ。 この物語はフィクションです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...