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プロローグから最強最悪の陰陽師……暗躍しています
暗躍ー3
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会議室の上座。今まで傍観に徹していたこの国のトップ・海老原総理大臣が、落ち着き払った口調で二人の間に割って入った。
海老原 元総理。歳は60代後半。7割ほど白髪となった髪をオールバックにし、その歳の人にしては170cm代後半と長身。防衛大臣をへて、三年前に総理大臣となった人だ。物腰は柔らかく、大きな福耳とその名前から、一議員の頃から『恵比寿様』の愛称で呼ばれている。
「ですがッ…」
吉田議員は、総理の声にも尚も反論しようとする。
「吉田君、君の言いたいことも分かる。だが今把握しているだけでも怪異による事件に巻き込まれた被害者は、優に三桁を超えてしまっている。国民の人命を考えれば、何を優先すべきか解ると思うが」
総理の言葉にグッと言葉を詰まらせる吉田議員。「場を乱してしまい、すみませんでした」と頭を下げると、自分の席へと戻っていた。その後ろ姿に明星は、思いっきりあっかんべーをする。
「道川君、君もだぞ。人材不足による今の状況に不満があるというのならば、改善策を共に考えてほしい」
「はい。はい」
海老原総理の一瞥に、出した舌を誤魔化すように顔を背け、返事を返す明星。とは言え心の中では「…って言ってもこの会議自体、時間のムダだと思うけどな~ぁ」と、溜め息混じりに思う。
会議は、あの吉田議員が進行役らしい。よく新しい総理大臣と国務大臣たちが、旧官邸の階段で並んで撮った映像があるが、吉田議員はそこに写ることの無い、秘匿の『怪異対策担当大臣』といったところだろう。各、配られた書類をもとに現在の状況説明から始まる。
「現在、今まで起きた怪異事件をデータベース化し、怪異を研究対象とする民俗学の専門家たちを集め、色々と意見を聞いています」
「それで事前予測は立つのか?」
「人が襲われたという伝承や都市伝説から照らし合わせ、対象の怪異を特定します。その後、対応策を講じてはいますが、『事件』となると人が起こすのと同じく、今の時点では起きてからではないと警察・公安ともに動けません」
「それじゃあ、事前対策にならないじゃないかッ」
「ですから、ここで皆様方にも打開案と出して頂きたいと…」
「いやいや、それよりも人材育成のほうが急務だろうッ。一週間前に起きた、北九州と東北の大量神隠し事件も、人員が要れば対応できた案件だッ」
「アレは人員というより、警察上層部の判断ミスが原因だと思うがね」
「だから、あの時私は言ったんだッ。先に東北のほうを優先すべだとッ」
「その判断ミスも、カバーするためには人材が必要だと言………ッッ」
……………………
……………
……
(ほっっっんと、時間のムダでしかない)
呆れた顔の明星。
海老原総理の手前、ポータブルゲーム機はテーブルに置いたものの話に加わる気は毛頭無い。会議内容がお粗末過ぎる。まるで子供が正義の味方ごっこをするために、空想の怪獣の倒しかたの設定を話し合っているような陳腐さ。
(一度皆さんで、現場でモノホンに襲われてみれば危機感が上がるかな~ぁ。……いや、アレが視えて無いようじゃ、何されたか解らないうちにあの世行きかぁ)
チラリと視線を横に流す。
会議室の隅。水々しい色合いの葉とツルの間を、鈴なりの青瓢箪がなっている日本画が飾ってある。それがまるで倍速の映像のようにみるみるうちに葉とツルが干からび、青瓢箪は薄茶に変色してボトボトと落下した。
すると次に瓢箪たちに目鼻口が付き、ニョキリと小さい手足が伸び出す。そして腰ふりダンスを始めたのだ。
くびれのあたりに手を当ててフリフリする度に、瓢箪の中でカラカラと乾いた種らしき音がする。……と言っても、聞こえているのも、視えているのも、人間では明星だけだろう。
年代物の日本画のようだ。多分、付喪神になったのだろう。
付喪神とは長い年月を経て、器物などに宿ると言われる精霊や妖怪のことだ。それが、「この会議は、自分たちのように中身が無い」と揶揄しているのだ。
さっきの猫又・白檀は、議員たちに意図的に姿を認識できるようにしてやたが、怪異がコチラに合わせてご丁寧に姿を視せてくれるとは限らない。そして、草花や昆虫と同じで何処にだって居る。それらを管理なんて到底出来る話では無いのだ。
思わず「…プッ」と吹き出してしまう明星。
無駄に熱を帯びた議論がピタッと止まり、一斉に議員たちがギロッと睨んだ。慌てて明星は視線を反らす。反らした視線の先にはポータブルゲーム機があった。
ふと……頭の中で言葉のピースが浮ぶ…。
…。
ーー…正義の味方ごっこ。
ーー…倒しかたの設定。
ーー…画像化した日本画。
…………………全部がガチりとハマる音がした…。
明星の切れ長の目が大きく見開く。そしてその顔はニヤ~~~ァと悪魔的笑みへと変わっていった。
見ていた海老原総理含め議員全員、嫌~~~~ぁな予感しかしない。
「うん。いいこと、思いついちゃった☆ 皆~ぁ、手伝ってくれるよねっ?」
…と、「絶対、否定など許さない」といった爽やかな笑顔で小首を傾げてみせる。
その時、日本画の瓢箪の一つがバランスを崩して前のめりに転んだ。勢いで、登頂の穴から乾いた種らしきモノが飛び出した。
それはまるで『駒』のように見えた…。
☆★☆
海老原 元総理。歳は60代後半。7割ほど白髪となった髪をオールバックにし、その歳の人にしては170cm代後半と長身。防衛大臣をへて、三年前に総理大臣となった人だ。物腰は柔らかく、大きな福耳とその名前から、一議員の頃から『恵比寿様』の愛称で呼ばれている。
「ですがッ…」
吉田議員は、総理の声にも尚も反論しようとする。
「吉田君、君の言いたいことも分かる。だが今把握しているだけでも怪異による事件に巻き込まれた被害者は、優に三桁を超えてしまっている。国民の人命を考えれば、何を優先すべきか解ると思うが」
総理の言葉にグッと言葉を詰まらせる吉田議員。「場を乱してしまい、すみませんでした」と頭を下げると、自分の席へと戻っていた。その後ろ姿に明星は、思いっきりあっかんべーをする。
「道川君、君もだぞ。人材不足による今の状況に不満があるというのならば、改善策を共に考えてほしい」
「はい。はい」
海老原総理の一瞥に、出した舌を誤魔化すように顔を背け、返事を返す明星。とは言え心の中では「…って言ってもこの会議自体、時間のムダだと思うけどな~ぁ」と、溜め息混じりに思う。
会議は、あの吉田議員が進行役らしい。よく新しい総理大臣と国務大臣たちが、旧官邸の階段で並んで撮った映像があるが、吉田議員はそこに写ることの無い、秘匿の『怪異対策担当大臣』といったところだろう。各、配られた書類をもとに現在の状況説明から始まる。
「現在、今まで起きた怪異事件をデータベース化し、怪異を研究対象とする民俗学の専門家たちを集め、色々と意見を聞いています」
「それで事前予測は立つのか?」
「人が襲われたという伝承や都市伝説から照らし合わせ、対象の怪異を特定します。その後、対応策を講じてはいますが、『事件』となると人が起こすのと同じく、今の時点では起きてからではないと警察・公安ともに動けません」
「それじゃあ、事前対策にならないじゃないかッ」
「ですから、ここで皆様方にも打開案と出して頂きたいと…」
「いやいや、それよりも人材育成のほうが急務だろうッ。一週間前に起きた、北九州と東北の大量神隠し事件も、人員が要れば対応できた案件だッ」
「アレは人員というより、警察上層部の判断ミスが原因だと思うがね」
「だから、あの時私は言ったんだッ。先に東北のほうを優先すべだとッ」
「その判断ミスも、カバーするためには人材が必要だと言………ッッ」
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(ほっっっんと、時間のムダでしかない)
呆れた顔の明星。
海老原総理の手前、ポータブルゲーム機はテーブルに置いたものの話に加わる気は毛頭無い。会議内容がお粗末過ぎる。まるで子供が正義の味方ごっこをするために、空想の怪獣の倒しかたの設定を話し合っているような陳腐さ。
(一度皆さんで、現場でモノホンに襲われてみれば危機感が上がるかな~ぁ。……いや、アレが視えて無いようじゃ、何されたか解らないうちにあの世行きかぁ)
チラリと視線を横に流す。
会議室の隅。水々しい色合いの葉とツルの間を、鈴なりの青瓢箪がなっている日本画が飾ってある。それがまるで倍速の映像のようにみるみるうちに葉とツルが干からび、青瓢箪は薄茶に変色してボトボトと落下した。
すると次に瓢箪たちに目鼻口が付き、ニョキリと小さい手足が伸び出す。そして腰ふりダンスを始めたのだ。
くびれのあたりに手を当ててフリフリする度に、瓢箪の中でカラカラと乾いた種らしき音がする。……と言っても、聞こえているのも、視えているのも、人間では明星だけだろう。
年代物の日本画のようだ。多分、付喪神になったのだろう。
付喪神とは長い年月を経て、器物などに宿ると言われる精霊や妖怪のことだ。それが、「この会議は、自分たちのように中身が無い」と揶揄しているのだ。
さっきの猫又・白檀は、議員たちに意図的に姿を認識できるようにしてやたが、怪異がコチラに合わせてご丁寧に姿を視せてくれるとは限らない。そして、草花や昆虫と同じで何処にだって居る。それらを管理なんて到底出来る話では無いのだ。
思わず「…プッ」と吹き出してしまう明星。
無駄に熱を帯びた議論がピタッと止まり、一斉に議員たちがギロッと睨んだ。慌てて明星は視線を反らす。反らした視線の先にはポータブルゲーム機があった。
ふと……頭の中で言葉のピースが浮ぶ…。
…。
ーー…正義の味方ごっこ。
ーー…倒しかたの設定。
ーー…画像化した日本画。
…………………全部がガチりとハマる音がした…。
明星の切れ長の目が大きく見開く。そしてその顔はニヤ~~~ァと悪魔的笑みへと変わっていった。
見ていた海老原総理含め議員全員、嫌~~~~ぁな予感しかしない。
「うん。いいこと、思いついちゃった☆ 皆~ぁ、手伝ってくれるよねっ?」
…と、「絶対、否定など許さない」といった爽やかな笑顔で小首を傾げてみせる。
その時、日本画の瓢箪の一つがバランスを崩して前のめりに転んだ。勢いで、登頂の穴から乾いた種らしきモノが飛び出した。
それはまるで『駒』のように見えた…。
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