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Epilogue

君が忘れた、あの空を-1

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 その一件のあと、何事もなかったように登校するのは、かなりの勇気が必要だった。
 沢本君は以前のように近づいてくることはなく、真鳥は欠席しているのか姿はない。
 朝から賑やかな教室に、椎名さんの後ろ姿が見えて緊張が走る。


「……おはよう、椎名さん」

 かすれた声が出る。


「結衣、おはよっ」

 振り返った椎名さんが、いつもどおり元気に挨拶を返してくれて、戸惑いと嬉しさでよくわからない感情に巻き込まれる。

 私が嫌われていたことを知っても、まだ話してくれるの?


「あの……、この前のこと、ごめんね。色々巻き込んでしまって」
「こっちこそ、沢本のこととか、知らなくてごめん。気軽に話してくれればよかったのに」
「……椎名さんに嫌われたくなかったの。今まで、私が嫌われていることを知った途端、急に無視されたり陰口を言われたりすることが多かったから」

 マイナスな考えばかり浮かべる私を、椎名さんは笑い飛ばした。


「何言ってんの。私が白坂さんのこと、嫌いになるわけない。そんなことで態度変えるってさ、自分も嫌われたくない弱い人間だったんじゃない? それは、本当の友達じゃないよ」
「椎名さん……」
「白坂さんのことは欠点も含めて好きになったの。欠点といっても、そこも可愛いと思ってるけどね」

 悪戯っぽく微笑んだ彼女が格好よくて、ますます憧れの気持ちが強くなる。


「そうだ、今度の休み、雑貨屋に一緒に行こうよ。約束してたでしょ」
「……うん、私も行きたいなって思ってたの。誘ってくれてありがとう」

 もう一緒には行けないと思っていたから、胸の中に温かいものが広がっていく。


「あと、私のことは緋彩ひいろって呼んで。私も結衣って呼ぶから」

 泣き笑いになりながら、私は大きくうなずいた。



 放課後、私は蓮先輩に誘われて、二人きりで下校していた。
 いつかの夕暮れも、大きな川を眺めながら、こんなふうにゆっくりと堤防を歩いていたのを思い出す。


「最近、千尋先輩と未琴、一緒にいるのを見かけなくなりましたよね」
「……うん」
「私のせいで関係が壊れたのかと思うと、不安になってしまって」

 あんなにお似合いの二人だったから。いつか和解できる日が来ることを願っているけれど……。


「それは結衣のせいとかじゃなく、二人が決めることだよ」
「そう、ですよね……」
「たとえば、千尋が過去に人をいじめていたとしたら。嫌いになる? 今の千尋のこと」
「いえ……何か事情があったのかなと思いますし。話を聞いただけで、即座に嫌いにはなれないと思います」


 根本的に『いじめをする人』というイメージは消えないし、どうしてもそういうフィルターを通して見てしまうことになる。
 だけど現在進行形ではなく、過去の話だから。
 それだけで嫌いになる理由ができたとは言えない。

 私も未琴の立場なら、逆らえなくて同じことをしていた可能性もある。
 三井先輩だって、主犯格とはいえ、蓮先輩への気持ちが強すぎたせいで、私を排除する方向へ行ってしまったわけで……。
 私にも悪いところがあったし、彼女たちだけを責めることはできない。
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