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第5章
君に触れたら-1
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*
「真鳥、ちょっと待って」
「……何、白坂」
(やっと捕まえた……!)
放課後、一人きりで廊下を歩く真鳥に、ようやく話しかけることができた。
教室に忘れ物でも取りに来たのか、サッカー部の青いユニフォームを着ている。
なぜかずっと、私を避けていた彼。
二人だけで話すのは動物園以来だ。
「私の過去について、教えてほしいの。この前、途中でやめたでしょ」
ひと気の少ない校舎の隅に誘い、真鳥を睨み上げる。
「過去、ね……」
真鳥は窓の向こうに広がるグラウンドへ目線をずらした。
「前にも言ったけど、別に知らないままでいいんじゃない? もともと、過去を忘れたいって言ったのは、白坂だよ?」
「……それでも知りたいんだ。私だけ知らないまま、呑気に学校生活を送れないよ」
深く溜め息をついた真鳥は、私へ向き直った。
「どうしてもって言うなら、教えてやれないこともない、けど」
「本当?」
「どうなっても知らないよ」
「……うん」
「それなら月曜の昼休み、空けておいて」
「わかった」
「――じゃあ俺、部活行くから」
素っ気なく話を終わらせた真鳥は、さっさと背を向け遠ざかっていった。
彼の後ろ姿を見送っていると、誰かの気配を感じ、そっと振り返る。
「――結衣?」
ちょうど階段を降りてきたのは、蓮先輩だった。
「今……、真鳥君といなかった?」
「……はい」
「前も一緒にいたね、彼に何か相談ごとでもあるの?」
動物園のときのことを言っているのだと思う。
あれは誤解されても仕方ない。
ただの同級生に額を触られているなんて、明らかに不審だ。
真鳥は『熱があるか確かめていた』と誤魔化したけど、はたから見れば、友達以上の関係と勘違いするだろう。
どう答えれば正解……?
蓮先輩には特に、私の過去のことは知って欲しくない気がする。
もし過去を知られて嫌われたらと思うと、ショックで寝込みそうだから。なるべく隠したままにしておきたい。
私自身も知らない、過去を。
「未琴のことで……、ちょっと相談があって」
「永野さんのこと?」
「はい。だから何でもないんです」
真鳥とは、何もない。
暗に伝えるためのセリフは、早口になっていた。
「そっか……。ごめん、詮索しすぎた。あのとき、真鳥くんが結衣の過去について、何か弱みでも握っているのかと思ったから」
「弱み……」
「少し心配になっただけなんだ、本当にごめん」
「――蓮?」
眉を下げ、済まなそうに謝罪する蓮先輩の台詞に、誰かの声が被さる。
「急にいなくなったと思ったら、こんなところにいたんだね」
現れたのは蓮先輩の元恋人、三井先輩だった。
「二人って……、付き合ってるの?」
険しい目つきをした三井先輩が、私たちへ詰め寄る。
「付き合ってはいないよ」
先に答えたのは蓮先輩だった。
「僕がただ、大切にしているだけ」
三井先輩がハッと息を呑む。
「真鳥、ちょっと待って」
「……何、白坂」
(やっと捕まえた……!)
放課後、一人きりで廊下を歩く真鳥に、ようやく話しかけることができた。
教室に忘れ物でも取りに来たのか、サッカー部の青いユニフォームを着ている。
なぜかずっと、私を避けていた彼。
二人だけで話すのは動物園以来だ。
「私の過去について、教えてほしいの。この前、途中でやめたでしょ」
ひと気の少ない校舎の隅に誘い、真鳥を睨み上げる。
「過去、ね……」
真鳥は窓の向こうに広がるグラウンドへ目線をずらした。
「前にも言ったけど、別に知らないままでいいんじゃない? もともと、過去を忘れたいって言ったのは、白坂だよ?」
「……それでも知りたいんだ。私だけ知らないまま、呑気に学校生活を送れないよ」
深く溜め息をついた真鳥は、私へ向き直った。
「どうしてもって言うなら、教えてやれないこともない、けど」
「本当?」
「どうなっても知らないよ」
「……うん」
「それなら月曜の昼休み、空けておいて」
「わかった」
「――じゃあ俺、部活行くから」
素っ気なく話を終わらせた真鳥は、さっさと背を向け遠ざかっていった。
彼の後ろ姿を見送っていると、誰かの気配を感じ、そっと振り返る。
「――結衣?」
ちょうど階段を降りてきたのは、蓮先輩だった。
「今……、真鳥君といなかった?」
「……はい」
「前も一緒にいたね、彼に何か相談ごとでもあるの?」
動物園のときのことを言っているのだと思う。
あれは誤解されても仕方ない。
ただの同級生に額を触られているなんて、明らかに不審だ。
真鳥は『熱があるか確かめていた』と誤魔化したけど、はたから見れば、友達以上の関係と勘違いするだろう。
どう答えれば正解……?
蓮先輩には特に、私の過去のことは知って欲しくない気がする。
もし過去を知られて嫌われたらと思うと、ショックで寝込みそうだから。なるべく隠したままにしておきたい。
私自身も知らない、過去を。
「未琴のことで……、ちょっと相談があって」
「永野さんのこと?」
「はい。だから何でもないんです」
真鳥とは、何もない。
暗に伝えるためのセリフは、早口になっていた。
「そっか……。ごめん、詮索しすぎた。あのとき、真鳥くんが結衣の過去について、何か弱みでも握っているのかと思ったから」
「弱み……」
「少し心配になっただけなんだ、本当にごめん」
「――蓮?」
眉を下げ、済まなそうに謝罪する蓮先輩の台詞に、誰かの声が被さる。
「急にいなくなったと思ったら、こんなところにいたんだね」
現れたのは蓮先輩の元恋人、三井先輩だった。
「二人って……、付き合ってるの?」
険しい目つきをした三井先輩が、私たちへ詰め寄る。
「付き合ってはいないよ」
先に答えたのは蓮先輩だった。
「僕がただ、大切にしているだけ」
三井先輩がハッと息を呑む。
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