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第2章
雨空に焦がれて-4
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*
「――白坂」
体育館から教室へ戻るとき、ひとけのない廊下の隅で、一人の男子生徒に呼び止められた。
振り向いた先にいたのは、中学のときから知っている、沢本君。
すでにジャージから制服に着替え終えていて、緩めにネクタイを垂らしている。
なぜか彼に会うと、嫌なイメージしか浮かんでこない。
目つきが悪く、いつも誰かと喧嘩をしている。
昔からずっと苦手なタイプで、一刻も早く彼の前から立ち去りたい。そう思うのに、背の高い沢本君は私の前に立ち塞がり、通してくれそうになかった。
「お前。まだ、あいつのこと好きなのか?」
ハスキーなその声には、不愉快さが滲み出ている。
「あいつ……?」
「柏木蓮のことだよ。まだ、あきらめてないんだな」
『まだ』ってどういうことだろう。
まるで、ずっと昔から私が柏木先輩のことを好きみたいな言い方だ。私が先輩を好きだと自覚したのは、つい最近のことなのに。
「残念だけど、好きになるだけ時間の無駄だ。あの男には、他に好きな女がいる」
それは…………ずっと忘れられない、という人のこと?
なぜ沢本君がそのことを知っているのかわからない。
だけど、私はそれでも柏木先輩のことが好きだ。
片想いでもいい。少しでも彼のそばにいられるのなら、振り向いてもらえなくていい。
「他に好きな人がいてもいいの。先輩のそばにいられるうちは、それで充分幸せだから」
「何で……、何でだ?」
私の言葉を聞いた沢本君は、顔色を変えジリジリとこちらへ詰め寄ってきた。
手首を痛いほど捕まれ、顔をしかめる。
「さ、触らないで……」
嫌悪感を覚え、わけもなく体が震えてくる。
「どうして、あいつじゃないといけないんだよ……」
絞り出したような悲痛な叫びが、静まり返った廊下に響く。
「何で、いつもいつも……同じ男を好きになるんだ?」
「――え?」
何を、言っているの?
私はこの前初めて、先輩のことを好きになったはず。
沢本君が何か勘違いをしているのだろうか。
私へ視線を置きながらも、虚ろになっていく彼の不気味な瞳。
恐怖を感じ、強く捕まれた手首をそのままに後ずさった。
「――白坂」
体育館から教室へ戻るとき、ひとけのない廊下の隅で、一人の男子生徒に呼び止められた。
振り向いた先にいたのは、中学のときから知っている、沢本君。
すでにジャージから制服に着替え終えていて、緩めにネクタイを垂らしている。
なぜか彼に会うと、嫌なイメージしか浮かんでこない。
目つきが悪く、いつも誰かと喧嘩をしている。
昔からずっと苦手なタイプで、一刻も早く彼の前から立ち去りたい。そう思うのに、背の高い沢本君は私の前に立ち塞がり、通してくれそうになかった。
「お前。まだ、あいつのこと好きなのか?」
ハスキーなその声には、不愉快さが滲み出ている。
「あいつ……?」
「柏木蓮のことだよ。まだ、あきらめてないんだな」
『まだ』ってどういうことだろう。
まるで、ずっと昔から私が柏木先輩のことを好きみたいな言い方だ。私が先輩を好きだと自覚したのは、つい最近のことなのに。
「残念だけど、好きになるだけ時間の無駄だ。あの男には、他に好きな女がいる」
それは…………ずっと忘れられない、という人のこと?
なぜ沢本君がそのことを知っているのかわからない。
だけど、私はそれでも柏木先輩のことが好きだ。
片想いでもいい。少しでも彼のそばにいられるのなら、振り向いてもらえなくていい。
「他に好きな人がいてもいいの。先輩のそばにいられるうちは、それで充分幸せだから」
「何で……、何でだ?」
私の言葉を聞いた沢本君は、顔色を変えジリジリとこちらへ詰め寄ってきた。
手首を痛いほど捕まれ、顔をしかめる。
「さ、触らないで……」
嫌悪感を覚え、わけもなく体が震えてくる。
「どうして、あいつじゃないといけないんだよ……」
絞り出したような悲痛な叫びが、静まり返った廊下に響く。
「何で、いつもいつも……同じ男を好きになるんだ?」
「――え?」
何を、言っているの?
私はこの前初めて、先輩のことを好きになったはず。
沢本君が何か勘違いをしているのだろうか。
私へ視線を置きながらも、虚ろになっていく彼の不気味な瞳。
恐怖を感じ、強く捕まれた手首をそのままに後ずさった。
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