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第2章

雨空に焦がれて-4

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「――白坂」

 体育館から教室へ戻るとき、ひとけのない廊下の隅で、一人の男子生徒に呼び止められた。

 振り向いた先にいたのは、中学のときから知っている、沢本君。
 すでにジャージから制服に着替え終えていて、緩めにネクタイを垂らしている。

 なぜか彼に会うと、嫌なイメージしか浮かんでこない。
 目つきが悪く、いつも誰かと喧嘩をしている。
 昔からずっと苦手なタイプで、一刻も早く彼の前から立ち去りたい。そう思うのに、背の高い沢本君は私の前に立ち塞がり、通してくれそうになかった。


「お前。まだ、あいつのこと好きなのか?」

ハスキーなその声には、不愉快さが滲み出ている。


「あいつ……?」
「柏木蓮のことだよ。まだ、あきらめてないんだな」

 『まだ』ってどういうことだろう。
 まるで、ずっと昔から私が柏木先輩のことを好きみたいな言い方だ。私が先輩を好きだと自覚したのは、つい最近のことなのに。


「残念だけど、好きになるだけ時間の無駄だ。あの男には、他に好きな女がいる」

 それは…………ずっと忘れられない、という人のこと?

 なぜ沢本君がそのことを知っているのかわからない。
 だけど、私はそれでも柏木先輩のことが好きだ。
 片想いでもいい。少しでも彼のそばにいられるのなら、振り向いてもらえなくていい。


「他に好きな人がいてもいいの。先輩のそばにいられるうちは、それで充分幸せだから」
「何で……、何でだ?」

 私の言葉を聞いた沢本君は、顔色を変えジリジリとこちらへ詰め寄ってきた。
 手首を痛いほど捕まれ、顔をしかめる。


「さ、触らないで……」

 嫌悪感を覚え、わけもなく体が震えてくる。


「どうして、あいつじゃないといけないんだよ……」

 絞り出したような悲痛な叫びが、静まり返った廊下に響く。


「何で、いつもいつも……同じ男を好きになるんだ?」
「――え?」

 何を、言っているの?
 私はこの前初めて、先輩のことを好きになったはず。
 沢本君が何か勘違いをしているのだろうか。

 私へ視線を置きながらも、虚ろになっていく彼の不気味な瞳。
 恐怖を感じ、強く捕まれた手首をそのままに後ずさった。
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