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脅しと無力化の差

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 乱入してきた、2台の車。
 降りた木席皮きせきがわは高そうなスーツ姿で、両手をズボンのポケットに入れている。

 見るからにそっち系の面構えで、ビキビキとしたまま、静かに言う。

長門ながと……。てめーには、ガッカリだ。女子1人を連れてくる簡単なお使いすら、このザマとはな?」

 カランビットナイフで槇島まきしま睦月むつきと戦っていたリーダーである長門たくは、地面に座り込んだままで平身低頭。

「す、すみませ――」
「もう黙ってろ! バカの1つ覚えみたいに、謝るんじゃねえ! てめーの不始末は、あとで話すぞ? さーて、そこのガキ! ……そう。てめーだよ!!」

 不機嫌そうに言った木席皮は、次に睦月を見た。

 そのままで、話し出す。

「俺が会いたいのは、室矢むろやカレナだ。スマホで呼び出せ! ……お前、あいつの親友なんだろ? 調べはついているんだよ」

 立っている睦月は、全く動かない。

 それを見た木席皮は、意外にも怒らず、傍で控えている手下へ命じる。

「おい! あいつを出せ!」

 2台目のバンで、側面のドアが開かれた。

 ガアーッと、レールを滑る音の後に――


朱美あけみ!?」


 睦月が叫んだ通り、バンから押し出されてきたのは外間ほかま朱美だった。

 隣の若い男に、拘束された状態。
 両手を縛られており、猿轡さるぐつわを嚙まされている。

 涙目で何かを言っているようだが、言葉になっていない。


 木席皮は、朱美について語る。

「ま、そーいうこった……。安心しな! 俺たちと同じ方向に歩いていたから、車で送って差し上げたんだよ。人けがない夜道は物騒だからなあ? ……こいつがどうなるのかは、てめーの態度による」

 言葉を切った木席皮は、スーツの上着から1本を出した。

 すかさず、隣の男がライターで火をつける。

 フ―――ッ

 夜空に、一筋の煙が立ち上った。

「これを吸い終わるまでに決めな? おっと! 本人確認もいるか……。少し喋らせてやれ」

 目くばせを受けた男が、朱美の首に手を回しつつ、もう片方でナイフを突きつけた。

「いいな? 叫んだら、承知しないぞ!?」

 別の1人が、彼女の猿轡を外す。

 口が動くようになった朱美は、睦月を見た。


 ◇


 この場を支配した木席皮は、余裕がある態度とは裏腹に、緊張していた。


 長門拓は、凄腕の異能者だ。
 こいつが実力行使に出ながら、あっさりと負けた以上、まともに戦っても勝ち目はねえ……。

 ここで逃さず、型に嵌めなければ、サツが出てくるだろう。
 嗅ぎ付けられる前に、どこかへ連れ込んで、他人に話せない状態にしねーと……。

 とりあえず、数人にやらせるか?
 中毒にするのは、まだ早い。

 いつ、どうやって処分するのかは、あとで決めるとして……。

 くそっ!
 ここまで、話を大きくしやがって!!


 室矢カレナは、あの『室矢』を名乗っている。
 名誉市民のように、くだらん称号ではない。
 俺の女にすれば、何でも手に入るだろう。

 こんな田舎で下の幹部を気取っても、しょうがねえ!
 せっかく、都心で成り上がるチャンスだってのに……。


 まったく。
 こいつらは、使えん!

 5人がかりで女子高生を襲ったうえ、今だって俺が注意を引いているのに、あのガキの死角から襲うこともせず……。


 1本目を吸い終わり、地面に落とす。

 吸ガラを革靴の底で踏み消さず、苛立たしげに、次を取り出した。
 咥えたまま、槇島睦月を見る。

 吸っている間は、自分が困っているとバレずに格好をつけられる。

 
 小学生と言ってもいい、童顔と身長。
 そのくせ、異常なまでに場慣れしてやがる……。

 ここへ来るまでに同じ高校の制服を見つけたから、人質にしてみたが――

「ツイてるな、俺は……」

「は?」

 傍に立つ部下が、間抜けな声を上げた。

 それを無視して、睦月の出方をうかがう。


 隣の男に捕まっている外間朱美は涙声で、睦月に呼びかける。

「ご、ごめん! でも、心配だった――」
「朱美! どっち!?」

 睦月の問いかけで、朱美はビクッと動く。

 その後に、大声で叫ぶ。


「ピ……ピ――マン!!」


 隣の男が朱美に、猿轡をかませた。

「叫ぶなと言っただろうが! ああ?」

 朱美の首に添えたナイフを押し付けるが、まだ早いと感じた木席皮は、すぐに止める。

「黙れ! ……んで、室矢カレナを呼ぶのか、呼ばないのか?」

 木席皮は最後通告を言うも、表情を消した睦月は、周囲の小石や砂を吹き飛ばすように霊圧を放射した。

 強いプレッシャー。
 周りの空気が、肌を刺すように感じる。

 彼女はそのシルエットを変えながら、つぶやく。


「響け、百雷ひゃくらい……」


 舌打ちした木席皮は、殺さない程度に人質を切り刻むしかないと覚悟した。

「分かった! それが、てめーの答えだな!? ……そいつを痛めつけろ! 死なない程度でな?」

「うっす!」

 答えた男が朱美の首筋から顔にナイフを動かして、ほおを軽く切ろうと――


 男の目の前に、睦月。

 気づけば、いたのだ。


 セーラー服ではなく、あい色の小袖と黒袴くろばかま

 剣道着と似たカラーリングだが、量産品とは思えない様子。


「なっ!?」

 驚いた男は、とっさに朱美の首筋へブレードを突きつけ、睦月を脅そうと試みた。

 けれども、ナイフを持つ右腕は本人の意思に反して、全く動かない。


 睦月は自身の権能による糸で、あやとりのように男の右腕を拘束した。

 理解できず、隙だらけの男に対して、正面から抱き着くような位置で左手を首の後ろに添えつつ、右手であごの下からクイッと持ち上げる。


 コキャキャッ


 男の首が睦月の両手の動きに伴い、横へ捻じれた。

 骨が鳴る音の直後、そいつの全身で力が抜ける。
 両ひざが地面について、ドサッと横へ……。

「は?」
「え、何だ?」

 周りの男たちは一部始終を見るには角度が悪く、油断していたことから、パニックになるだけ。

 和装になった睦月は、朱美の襟首を持ちながら、一瞬で移動した。
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