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愛花莉、未来の父親とデートする

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「班長! 室矢むろやくんですが、気になる情報がありまして……」

「何だ?」

 K県警の捜査一課にいる八代やしろ沙矢さやの発言に、ゴツい男の吉見よしみが応じた。

 ためらった沙矢は、恐る恐る、報告する。

明大めいだいの男子が数人、トラブルを起こしたようです! 大学の教務にも記録されておらず、本人たちが騒いでいるだけで……。これは文系のキャンパスで、理工系とは違う場所です」

「何があった?」

悠月ゆづき明夜音あやねに粉をかけて、それに怒った室矢くんが彼らの時間を飛ばしたらしいです。……本人たちが言うには」

 沙矢は、慌てて付け加えた。

 呆れた吉見が、自分の意見を述べる。

「室矢家のハーレムメンバーにして、財閥のご令嬢を堂々とナンパか! 知らなかったのだろうが……。そいつらは?」

 手帳を取り出した沙矢は、2回の時間飛ばしがあったと報告。

「今は外洋航路の船員で、すぐに呼び出すことは無理です。明大はもう退学したと、教務で確認しました」

 悠月財閥に詰められ、楽しいキャンパスライフと人生を棒に振ったわけだ。

 日本に帰ってこられるのかも、怪しい。

 ため息を吐いた吉見が、結論を出す。

「どっちみち、室矢を張って、『りょうあかり』の正体を突き止めるんだ。勉強よりもナンパが大事なチャラ男は、どうでもいい!」

 直後に、吉見のスマホが鳴った。

 「梁あかり」が現れたと知り、現場へ。


 ◇


「本日は、恋人のように接してください。……最後までイタすことを除いて」

 女子高生の未来の娘から、大変な提案をされてしまった。

 赤と黄色のオッドアイで見ているのは、梁愛花莉あかり
 ゴスロリを着こなしている。

「怒らないで欲しいけど、キスはいいのか?」

 ニマッとした愛花莉は、首をかしげた。

「……ご希望でしたら」
 
 どこまで冗談か不明なのは、母親の梁有亜ありあと似ている。

 ここは、明示めいじ法律大学の理工学部キャンパスから最寄りの市街地。

 主要駅を囲むように、大型のショッピングモールや、お高い飲食店からファーストフード店まで揃っている。

 女子向けのカフェは、SNSで映えそうな店内。

 雨でも関係ない、駅から直通。
 制服を含めて、まさに老若男女が通り過ぎていく。

 立ち止まった愛花莉は、ガラス張りの店内を見た。

「休憩しませんか?」

 空いているボックス席で向かい合い、それぞれに注文したメニューが――

 ゴトッ

 愛花莉の前には、明らかに大きいグラス。

 パフェだな?

 縦に細長く、生クリームと切った果物を使い、複数の層になっている。
 食べ始める頂点には、クラッカーのようなお菓子と、果物の本体だ。
 
 女子ウケを狙い、見ているだけで可愛い、美味しそう。

 俺のほうには、平皿でオシャレに盛り付けられたランチセット。

 スパイシー味のサンドイッチと、サイドメニューのポテトなど。

「愛花莉は……。じゃあ、少しもらうよ?」

 スッと差し出されたパフェに、新しいスプーンですくう。

 ムダに凝っている平皿のすみに置きつつ、一口。

「うん、美味しい!」

 対面に座っている愛花莉へ俺の平皿を差し出せば、やはり適当につまむ。

「私は、しばらく滞在します。……これでも、身を守るすべは心得ていますわ!」

 監視されているから、泊まっている場所は喋りたくないか。

 どこから見ても刑事っぽい男女に、観光客やら、ビジネスマンを装った外国人のスパイ……。

「分かった。デートは、明日以降も?」

「誘っていただけるのなら……」


 ――商業施設にあるカフェ

 長い黒髪をした、オッドアイの少女。

 1人でボックス席にいて、パートナーの室矢重遠しげとおを待っているようだ。

 手持ち無沙汰らしく、周りで監視していたグループがそれぞれに判断を迫られる。

 重遠がトイレから戻ってくるまで、彼女と話すチャンスだ。
 失敗すれば、もう尾行や張り込みはできず、室矢家の敵となる可能性も。

 黒をベースにした、クラシックなドレス。
 着る人を選ぶ、ゴスロリだ。

 白い肌でオッドアイの彼女に、よく似合っている。

 梁愛花莉は、食べ終わったパフェを置いたまま、ゆっくりと紅茶を飲む。

 カウンターに並んでいた、刑事らしき男女のうち、女のほうが立ち上がり――

 愛花莉は、ボックス席の傍に立つ人物を見上げた。

「何の用で?」

「あの男は、やめておきなさぁい……」

 そこに立っていたのは、銀髪ロングで、青と黄色のオッドアイの女子大生。

 梁有亜だ。

 愛花莉は、すでに全体を把握しており、咲良さくらマルグリットもいると理解。

 叔母さまは、距離を置いたまま、店内や通路にいる勢力に睨みを利かせているようね?

 マルグリットについて結論を出した愛花莉は、相棒の男に止められた女刑事の八代沙矢を気にせず、自分の母親となる有亜に視線を戻した。

「誰と会うのかは、私が決めますわ」

「あの男には、3人以上の女がいるのよぉ? ムダに傷つくだけ――」
 ダンッ!

 両手でテーブルを叩いた愛花莉は、怒った雰囲気に。

「……そういう態度だから」
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