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時を超えたパパ活

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 目の前に、赤と黄色でオッドアイの女子がいる。

 立ったまま腕を組んだ、ブレザーとスカートの制服姿。

 黒髪ロングで、ご令嬢が普通のJKに成りきってみた感じだ。

「私は……あなたの娘です! 会いたかったですわ、お父さん?」

 向き合っている俺は、うなずいた。

 りょう愛花莉あかりと名乗った、俺の娘は――

「え? まさか、有亜ありあの!?」
「そうですわ!」

 冗談キツい……。

 確かに、目立つオッドアイだし、何となく親近感を覚える。

 だが!

「お母さんは、あり得ないですか?」

「初対面で、詩央里しおりじゃたないの? とか、最大でも小さいだの言ってきた奴に――」
 ブホッ!

 気分を落ち着けるためか、紙コップを口につけていた愛花莉は、噴き出した。

 ゴホゴホッと、せる。

「大丈夫か?」

 涙目になった愛花莉が、こちらを見た。

「え、ええ……」

 視線は、何があった? と言いたげ。

「お前の想像とは違うぞ? 単に、挑発されただけ……。未来のお前の事情を知らんから、何とも言えない! 知りたければ、戻ったあとで誰かに聞け」

「そ、そうさせていただきますわ……。しかし、お母さんにも良いところが――」
「グループ交際をすれば、憎まれ口を叩いた挙句に、俺の手首の関節を決めながら銃口を突きつける。さらには、自分が嫌だからと、俺を婚約者にして、面倒なお見合いから逃げたんだぞ、あいつ!」

 思い出したら、腹が立ってきた。

 口元をひくつかせた愛花莉は、顔を伏せた。

「……どうしても、嫌だと?」

「女が多すぎて、有亜を迎え入れる必要もない……。あいつは防衛省にいるし、魔法師マギクスとしても異色だ。あいつ自身に怒っているが、問題はそこじゃない! 室矢むろや家は、中央省庁に介入する余地を与えたくない」

 愛花莉はうつむいたまま、息を吐いた。

 上体を戻した彼女は、どこか吹っ切れた様子だ。

 さっきまでの有亜とよく似たシニカルな雰囲気が、消えている。

「では、最後に1つだけ、お願いを……」

「その前に、俺も聞きたい」

 愛花莉は、首を縦に振った。

 それを見た俺は、率直に言う。

「過去に戻ったことは、驚かない。だけど、俺が父親であるのなら、こうやって接触したうえに『自分は娘である』と明かすことで、未来が変わるだろう?」

 逡巡しゅんじゅんした愛花莉は、観念したように告げる。

「実はですね? 娘の私たちは、お父さんに会えなくて……。年末年始などの季節の挨拶を儀礼的にするだけで」

「え、そうなの?」

 笑顔になった愛花莉は、衝撃的な事実を告げる。

「はい! お母さん達が色々と理由を作って、お父さんと娘だけにしないんですよ。会う機会も数えるほど」

「……実の娘に手を出すと思われてんの!?」

 知りたくもない未来が!

 フォローするように、愛花莉が付け加える。

「なまじ知っているだけに、『もしかしたら』の考えがあるのでしょう」

 うへー。

「なので、お父さんの顔を見に来たんですよ? ろくに会えないから、ここで知られても大丈夫」

「その理屈だと、母親には――」
「秘密にしてくださいませ」

 考えをまとめるため、持っていた紙コップを口に運ぶ。

 残りを飲み干し、愛花莉を見た。

「それで、お願いは?」

「私とデートをしてください、お父さん!」


 ◇


「あれ?」

 隠れている梁有亜は、首をかしげた。

 片手で向けていた、先端にアンテナをつけたような形状のガンマイクを下ろす。

「おかしいわね? 待ち合わせだと思ったのにぃ……」

 駅前で誰かを待っていた、梁愛花莉。

 そこに室矢重遠しげとおがやってきて――

 気づけば、また愛花莉だけに。

 彼女も、どこかへ立ち去った。


「まだ、追いかけるの?」

 年下の親友である咲良さくらマルグリットの声に、有亜は振り返った。

「ええ! うちのキャンパスにいた怪しい人物だもの……。それに、あの子が重遠の毒牙にかからないよう、見張らないとぉ!」

 壁にもたれているマルグリットは、その巨乳を支えるように腕を組んだまま。

「ねえ、有亜? ……何でもない。とにかく、あの2人の邪魔はしないで」

「そうね……」

 マルグリットは、生返事を聞きながら、どこまで話したものか? と悩む。

 親友に無理強いをする気はないが、さりとて……。

「予想していたけど、監視がキツいわね! あの女子を見張っているのが、警察だけで2、3チームとは」

「東京で正体不明のMA(マニューバ・アーマー)が暴れ回って、与党のVIPが襲撃された……。直後に、この連続失踪事件よ? むしろ、穏便なぐらいだわぁ」


 世間話をするマルグリットは、室矢カレナの眷属けんぞくだ。

 それだけに、重遠が時間を止めて、有亜の未来の娘である愛花莉と話していたことも知っている。

 周囲をフレームワークのように把握すれば、日本警察だけではなく、密かに狙っていたスパイの慌てふためく様子が……。

 警察チームを盗聴する。

『室矢くんに接触しますか? ターゲットの顔を見ているはず』
『いや、ここではリスクが高すぎる!』

『慎重すぎでは?』
『俺たちが詰めよれば、どうせ消えた! 室矢を尾行しつつ、「梁あかり」と再び会ったら、その会話と行動パターンを分析する』

『彼女が出現しそうなのは、オープンキャンパスの次元振動研究室と、それだけ……。分かりました! 警視庁に連絡して――』

 八代やしろ沙矢さや吉見よしみの会話を聞いたマルグリットは、思わず呟く。

「好奇心はネコをも殺す、か……」
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