あの空の向こう側

うたたん

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起動

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場所は王国イルハーブ。

豊かな水と森林に恵まれた、この王国で物語は始まる。

王国とは言っても絶対的な王政を敷いているわけではなく、このとても小さな国では、王は民と共に働き、民もまたそれが普通であった。
ただ、国として国賓が来た場合や、外交をしなければいけないときのみ、王族は正装し最低限の交渉をするのであった。

数年前まで、主流であった地べたを這いつくばる乗り物に代わり、空飛ぶ乗り物が主流になっていた。
ヘンネと呼ばれた空飛ぶ乗り物は、ある日、地下深くから発見された。
初めに発見されたヘンネは、炭鉱を掘り進めている坑夫によって見つけられた。
かなり古代の地層から掘り当てられた割に、ツヤツヤと光り輝き、しかも、手で払うだけで汚れが落ちる。
やがて、人は争う様に新しい乗り物であるヘンネを発掘し、自分で乗るもの、高値で売る者と様々であった。
発掘が進むに従って、比較的浅い層でも見つかる事がわかり、次第に復旧する台数も目に見えて増えて行った。

ヘンネは鳥の様な形をしていて空を舞い、不思議な機構で空を進む。
推進力はスプーンひとさじの何処にでもあるただの砂。
ヘンネは砂を入れると半年間は空を飛べた。

ある小さな小屋の中にヘンネがあった。
その小屋は今にも崩れそうなおんぼろで、実際二階へと続く階段は半分壊れていて登れそうに無い。
小屋の一階スペースに器用に翼を畳んでギリギリ収納されているその機体は、光が当たるとまるで黄金の様に輝いていた。

「マイカ、スパナ取って」
「えーっと、これかな? 」
「それは、レンチだよ。ほら、そこの二又になってる工具があるだろ。違う違う、あっそれ。いま触ったやつだよ」

肩まである三つ編みの金髪にくりくりお目目。濃い緑色の作業着に身を包んだ女の子、マイカ・イルド・イルハーブは、スパナを手に取ると男の子に手渡した。
青い帽子を深々と被った、ちょっと華奢な男の子。ビルト・ダリア・イシュタはマイカから受け取ったスパナを目の前のベージュに輝く機体の隙間から入れると、器用にスパナをあてがい力を入れた。「カチンッ」と言う音が聞こえると、二人で顔を見合わせてニンマリ笑う。

「とれた! 」

ビルトはそう言うと機体の隙間から手を抜いた。マイカの目の前に差し出された手には、銀色に輝くスパナの他に赤色の物体が握られている。

「これが…… 」

金髪の女の子マイカが、爛々と輝く目で覗き込んだ。

「うん。これが、とがだ」
「じゃあ、この機体は」
「もちろん飛べる」
「わぁ、ビルト!素敵! 」

マイカが飛び跳ねて喜ぶ。
ビルトは一通りマイカが飛び跳ねるのを確認したあと、手に持っているとがと呼ばれる物体を作業台の上に置いた。
ビルトは機体の後部にまわると、組んである足場をスルスルっとよじ登り、操縦席に乗り込んだ。
マイカは梯子をよじ登り、危うい足取りで機体後部へやっとの思いで辿り着き、ビルトが乗りんだ運転席を覗き込む。
マイカが覗き込むのを待って、ビルトは操縦桿の上にある四角い枠に手を触れた。
今までただの四角い模様だったそれは、メインパネルの様で、ビルトが触った途端に色々な記号を映し出した。

「わぁ、これ外国語? 」

覗き込んでいるマイカが、綺麗に輝き出したメインパネルを見てはしゃぐ。

「古代語だよ。何でも数万年前の言葉らしいよ」
「へぇー。全然読めないね」
「全く解読出来ない言葉だってさ。僕らの使っている言葉と体系が全く違うみたいだ」
「ふーん」

マイカはビルトの説明を殆ど聞いていない様子で、爛々らんらんと輝く目であちらこちらを探求している。
ビルトはそんなマイカの横顔を、優しく眺めていた。

「そうだマイカ!動力を解放してみようか」
「えっ、この小屋狭いよ?大丈夫…かな? 」
「大丈夫、大丈夫」

ビルトは笑顔でマイカの問いに答えると、メインパネルの真ん中にある青い丸型の模様を押した。
小屋内に静かな機械音が共鳴し、機体が僅かに振動する。
メインパネルには、見たこともない幾何学模様が映し出され、さらに次々に表示が切り替わりやがて落ち着いた。
画面の変化は殆ど無くなり、左右に目盛りの様なものが表示されている。

「ビルト、この後どうするの? 」

マイカが上ずった声で問いかける。

「ちょっとだけ力を解放してみよう。マイカ何かに捕まってて」

マイカは目の前の足場の手摺をしっかり握った。
マイカが捕まるのを確認すると、ビルトはメインパネルの中央に触れた。さらに大きな共鳴が小屋の中に響いた。

「ビルト!小屋が壊れちゃうよ!」

小屋の窓がガタガタ揺れ、今にも割れそうな音を立てる。

「あと、ちょっとだけだから!」

ビルトはそう言って、操縦桿を握る。そのまま手前にそっと引いた。機体が少しだけ浮き上がる。

「ビルト!浮いた、浮いたよ。すごい!! 」

手摺にしがみつきながらマイカが叫んだ。
ふわふわ、浮き上がったヘンネは、ビルトが操縦桿をそっと押し戻すと静かに地面に着地した。
機械の共鳴音もやがて落ち着きほぼ無音に戻った。

「やった!やった!ビルトすごーい! 」

マイカはヘンネが着地した途端、ビルトが座っている操縦席に雪崩れんこできた。狭い操縦席でひっついて、二人は頬っぺたを重ねて笑い合うのであった。
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みんなの感想(1件)

まりも
2018.12.09 まりも

王国名とマイカの名の共通点・マイカとビルトの関係・ヘンネの謎等のうたたんワールドらしい今後の展開に含みを持たせた言葉選び、情景が浮かぶ文章構成で読み手を引き込むとても素晴らしい仕上がりですね。
続きをクレメンス( ´∵`)

うたたん
2018.12.09 うたたん

うあ、感想書いていただき感謝感激ー
残念ながら一話読み切りで、続きの構成全く考えていないわけではないでちが連載してるのがたまっているので……
頑張って続き描きます!!!

ありがとなー( ^∀^)

解除

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