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5.奇襲
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身体の揺れを感じて、僕は目が覚めた。
目の前でアーチャが必死に何やら叫んでる。僕は耳に意識を集中する。
「……の影響かしら。ゼロ!ゼロ!目を覚まして! 」
聞こえた。
「良かった、急いでここを出るわよ。少し前から敵の奇襲を受けているの」
「えっ、敵って」
「もちろん、ビルスクル王国軍よ」
僕らはいつものテントでは無く、廃墟と化した建物に数名づつ隠れるようにして短い睡眠を取っていた。
「アーチャ、ここにいたか。大変だ、ライザック准将が戦死した」
肩を大きく揺らせて入ってきたクリスは、昼間見せていた表情とは打って変わって、悲壮感すら漂う顔でアーチャに指揮官の訃報を告げた。
「何ですって!あのライザック准将がまさか……」
指揮官の訃報に、アーチャの顔色も青ざめていく。
「アーチャ、ここも危ない。今すぐ逃げるぞ」
ヨロヨロとおぼつかない足取りで、よろめくアーチャをクリスが抱きとめる。
「まさか、准将が……私達はこの先……」
「アーチャ、しっかりしろ!」
クリスはアーチャの頬を軽く叩いた。直ぐにアーチャが我を取り戻す。
「そ……そうね。クリス、ありがとう。急いで移動しましょう」
「よし。じゃあ俺は移動用の車を確保してくるから、荷物をまとめておいてくれ。いいか?全部は持っていけないからな」
クリスはそう言うと、僕に目を向けた。僕を見るクリスの表情は何故かとても冷たかった。
「なあアーチャ、こいつも連れて行くのか? 」
クリスは僕を見ながらアーチャに問いかける。
「もちろんよ、ゼロを連れて行かなきゃ……」
「アーチャ!!!」
クリスが突然大きな声を出す。
「今、俺は言ったはずだぞ。全部は持っていけないって」
クリスは僕を冷たく見たまま続けた。
「こんな奴の代わりは、いくらでも中央から送られてくるだろうに」
アーチャは無言で僕を見つめていた。
クリスはしばらくアーチャを見つめていたが「やれやれ、好きにしろ」と呟くと、肩をすくめて出て行った。
「ゼロ、クリスの言うことは気にしないでね」
アーチャは僕に向かってそう言うと、身の回りの荷物をまとめ始めた。僕の診察に使った銀色に輝く器具と診察結果を写すモニターも大事そうに荷物に仕舞い込むのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おらっ、しっかり歩け。いくらお前でも歩くぐらいは、まともに出来るだろうに。お前のその立派な足は飾りかよ」
僕はクリスの肩を借りて歩いている。突然の襲撃を受けて、我がライザック大隊は壊滅。生き残った兵士達は、指揮系統を完全に失い、てんでばらばらで散り散りに逃げ回っていた。本部のあった……つまり准将が居た辺りはまだ炎が上がっているようで、その炎はあたりの暗闇を怪しく照らしていた。
「クリス、アーチャ、無事だったのか。よかった」
後ろから走ってきた、背の高い男がクリスとアーチャを見つけて声をかけてきた。
男は痩せこけており、暗闇の中ギョロっとした目付きがより強調されている。手足はすらりと長く、クリスとは体型が真反対であった。
「ん?ジンか?良かった!お前も無事だったか」
「ああ、何とかな。アーチャも怪我してないか? 」
ジンはアーチャを気遣った。
「ええ、私は大丈夫」
ジンは二人の無事を確認すると安堵の表情を浮かべ、僕をチラリと一瞥するや否やこう言った。
「何だ、こいつも連れて行くのか」
まただ、一体僕が何をしたって言うんだろう……
ジンの僕を見る目がなぜか痛かった。
目の前でアーチャが必死に何やら叫んでる。僕は耳に意識を集中する。
「……の影響かしら。ゼロ!ゼロ!目を覚まして! 」
聞こえた。
「良かった、急いでここを出るわよ。少し前から敵の奇襲を受けているの」
「えっ、敵って」
「もちろん、ビルスクル王国軍よ」
僕らはいつものテントでは無く、廃墟と化した建物に数名づつ隠れるようにして短い睡眠を取っていた。
「アーチャ、ここにいたか。大変だ、ライザック准将が戦死した」
肩を大きく揺らせて入ってきたクリスは、昼間見せていた表情とは打って変わって、悲壮感すら漂う顔でアーチャに指揮官の訃報を告げた。
「何ですって!あのライザック准将がまさか……」
指揮官の訃報に、アーチャの顔色も青ざめていく。
「アーチャ、ここも危ない。今すぐ逃げるぞ」
ヨロヨロとおぼつかない足取りで、よろめくアーチャをクリスが抱きとめる。
「まさか、准将が……私達はこの先……」
「アーチャ、しっかりしろ!」
クリスはアーチャの頬を軽く叩いた。直ぐにアーチャが我を取り戻す。
「そ……そうね。クリス、ありがとう。急いで移動しましょう」
「よし。じゃあ俺は移動用の車を確保してくるから、荷物をまとめておいてくれ。いいか?全部は持っていけないからな」
クリスはそう言うと、僕に目を向けた。僕を見るクリスの表情は何故かとても冷たかった。
「なあアーチャ、こいつも連れて行くのか? 」
クリスは僕を見ながらアーチャに問いかける。
「もちろんよ、ゼロを連れて行かなきゃ……」
「アーチャ!!!」
クリスが突然大きな声を出す。
「今、俺は言ったはずだぞ。全部は持っていけないって」
クリスは僕を冷たく見たまま続けた。
「こんな奴の代わりは、いくらでも中央から送られてくるだろうに」
アーチャは無言で僕を見つめていた。
クリスはしばらくアーチャを見つめていたが「やれやれ、好きにしろ」と呟くと、肩をすくめて出て行った。
「ゼロ、クリスの言うことは気にしないでね」
アーチャは僕に向かってそう言うと、身の回りの荷物をまとめ始めた。僕の診察に使った銀色に輝く器具と診察結果を写すモニターも大事そうに荷物に仕舞い込むのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おらっ、しっかり歩け。いくらお前でも歩くぐらいは、まともに出来るだろうに。お前のその立派な足は飾りかよ」
僕はクリスの肩を借りて歩いている。突然の襲撃を受けて、我がライザック大隊は壊滅。生き残った兵士達は、指揮系統を完全に失い、てんでばらばらで散り散りに逃げ回っていた。本部のあった……つまり准将が居た辺りはまだ炎が上がっているようで、その炎はあたりの暗闇を怪しく照らしていた。
「クリス、アーチャ、無事だったのか。よかった」
後ろから走ってきた、背の高い男がクリスとアーチャを見つけて声をかけてきた。
男は痩せこけており、暗闇の中ギョロっとした目付きがより強調されている。手足はすらりと長く、クリスとは体型が真反対であった。
「ん?ジンか?良かった!お前も無事だったか」
「ああ、何とかな。アーチャも怪我してないか? 」
ジンはアーチャを気遣った。
「ええ、私は大丈夫」
ジンは二人の無事を確認すると安堵の表情を浮かべ、僕をチラリと一瞥するや否やこう言った。
「何だ、こいつも連れて行くのか」
まただ、一体僕が何をしたって言うんだろう……
ジンの僕を見る目がなぜか痛かった。
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