知らない国のアリス

うたたん

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6.異形の影

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 しんと静まり返った洞窟内。冷んやりとしていて且つ、ジメジメとしたその内部は何処までも暗闇が続いていた。どこか遠くの方で水滴の落ちる音が洞窟内に鳴り響いている。水滴が落ちているのは数カ所あるらしく、洞窟内で幾重にも重なりこだまして鳴りひびいていた。洞窟内には生きとし生けるものはいない様子で、ただただ無機質な岩肌が幾重にも重なり、まるでそれは月明かりの無い漆黒の森の中の様でもあった。
 洞窟の中に少し大きな広間が有り、中央に大きな物体が転がっていた。かなり腐敗が進んでいるようで、物体からはものすごい腐臭が洞窟内に放たれている。腐臭を放つその物体は大きな人型をしていた。頭には大きなツノが二本生えており、頑強な上半身と良く締まった下半身。背中には黒く凶々しい羽のような物が生えていた。
 巨大な骸は当然だがピクリとも動かなかった。
 静寂が大きな骸を包み腐臭と共に漂う空間、それは永遠に続くようでもあった。
 何も無い空間に一筋の光が溢れでた。その一筋の光は初めは危うくも微かに漏れ出ていたが、大きな音と共に光の筋が幾重にも現れやがて眩いばかりの光りがほとばしった。
 まばゆい光りの中から、緑色の大きな腕がぬうっと現れた。次に大きな顔が覗き出て来た。緑の肌におおわれたその顔は黄色の目を光らせて左右を見回していた。

「バンダースナッチよ、ここが主の言う世界か?」

 緑色の顔はそう言うや、目の前に転がる腐乱している物体に目を留めた。黄色の目を細めたり首の角度を少し変えて物体を観察しているようでもあった。

「ジャバオック、そう恐がらずに早く入ってくれないか。私の召喚したこの扉、そう長くはもたん」
「バンダースナッチよ、ワシは目的の物を見つけたかも知れん」

 ジャバオックと呼ばれる緑色の巨人は、ニタリと笑うと光りの中から身を乗り出して洞窟内に降りたった。そのまま数秒の間、床に転がる物体をジッと見据えていたが、やがて意を決したかのように腐乱した物体の傍まで歩みよるとその場でしゃがみ込んだ。
 遅れて茶色で長い身体を持った大きな蛇が出てきた。蛇はとても大きく、しかも羽根を持っていた。空中を這うように光りから出てきた蛇は、ジャバオックから少し離れてジャバオックの様子を伺っていた。

「ジャバオックよ、何を見つけたと言うのだ。まだ我等はこの世界に降り立って少ししか経っていない。そうやすやすと目的の物を見つけれるわけがなかろうて」

 バンダースナッチと呼ばれる空飛ぶ蛇は、眼を見張った。

「な……まさか、そんな都合良く事が運ぶわけがない」
「バンダースナッチよ、そのまさかが目の前に転がっていたのだ。私はかなり運が良い」

 ジャバオックはバンダースナッチの方をチラリと見てそう吐くと、右手を腐敗した物体にあてがった。
 暫くの沈黙。その直後に横たわっていた物体は不気味に輝きだした。

「バンダースナッチよ、今までご苦労だったな。これからは我が時代が始まる」

 地面に横たわる巨大な物体が光ると共に、ジャバオックの体も輝きだした。ジャバオックの体は、赤から黄色にそして最後は青色になり、直後に細かい霧状になると、やがて横たわる物体の中への消えて行った。

「なっ、我らが体を得るということはどういうことか分かってるのか?」
「如何にも。究極なまでに圧倒的なパワーが得られる」
「しかし、引き換えに精神系を乗っ取ることが出来なくなるんだぞ?」
「ふん、圧倒的なパワーされあれば、精神の乗っ取りなぞ不要だわい」

 床に横たわっていた赤黒い腐乱死体は、やがて漆黒を帯びて赤黒く輝いていた。
 ビクン、ビクンと波打った腐乱死体はさっきまでとは打って変わり活き活きと生気に満ち溢れ、ムクリと起き上がったのである。
 漆黒の悪魔の様な形相をしたジャバウォックは、バンダースナッチを一瞥して言い放つのであった

「スナッチよ!今からワシがこの世界の王だ。わかったな?」

 バンダースナッチは、そんなジャバウォックを見てただただ怪しく笑っていた。
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