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忘却の朝、再び
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翌朝……マリオンは昨夜の事を、なんにも覚えていなかった。
本人が嫌がって、寝る前にいつもやってた『記憶の許可』を拒否したからだ。
あの後、マリオンは「一人で寝ると、ダリアが来そうで怖いよう!」と訴え、俺と同じ部屋で寝ることを希望した。俺はマリオンをベッドに寝かせ、床に寝具を敷くと横になった。
ランプの火を消すと、毛布を被ったマリオンは震えた声で「来る……きっと来る! 闇の中、あいつがやって来るんだ!」と呟き続けた。いや……マジで、どんな目に会わされたんだ……?
マリオンはひたすら怖がっていたが、旅の疲れもあって深夜には、2人とも眠りに落ちたのだった。
そして目が覚めるとマリオンは、「あれ? オレ、いつの間にうちに帰ったんだ? つーかなんで、お前の部屋で寝てんの? ……え。一体、なにがあったんだよ?」なんてキョトンとした。
俺は長い長い沈黙の末、昨夜は『銀の三角亭』に二人で行った事、そこで『次元魔女ダリア』を見つけた事、ダリアはマリオンに過酷な試練を課す事を条件に協力を申し出た事、マリオンは見事にそれをクリアーして協力を取り付けた事、その試練が精神的にキツ過ぎたので記憶を希望しなかった事を告げた。
俺は、マリオンの決意や思いを『無』にするのが嫌だったのだ。
マリオンは頑張った。かつての仲間のため、自らを顧みず、勇気を持って苦難に立ち向かった……その事実だけは、マリオン自身に知っておいて欲しかった!
まあ一応、『試練』の詳しい内容は巧妙に伏せておき、いかにもハードでファンタジーっぽいカッコいい感じに聞こえるよう、工作はさせてもらったが。
話を聞き終えたマリオンは、俺の目をじっと見つめて、
「そっか……よかった。オレ、少しはお前の役に立てたんだな……全っ然覚えてねーけどさ! えへへっ」
と、嬉しそうにニッコリと笑った。それは、デュラハンと対峙したあの日からすっかり消えていて、ようやく見れたマリオンの笑顔だった。
うわ……なんだこれ、中身おっさんのくせにめっちゃかわええ……俺、やっぱマリオンの笑顔が超好きだ。本当にお疲れ様、マリオンっ!
そして午後も遅い時間に、2人分の荷物を積んだ馬を引きながら、俺とマリオンはダリアに指定された場所に向かう。そこではダリアが、地面に魔方陣を描いて待っていた。
マリオンは何も覚えてないはずだが、ダリアの顔を見ると「な、なんか身体がムズムズする……オレ、あいつが苦手かも……」なんて呟いた。
俺は、ダリアに言う。
「なあ。今日はもう、旅に出るには遅すぎる。やっぱり、出発は明日にしないか?」
するとダリアは、杖で地面を叩いて胸を張った。
「何を言ってるのぉ! これから、すぐ倒しに行くわぁ。アタシだって暇じゃないのよぉ? ……悪魔は日が落ちる前ぇ、天使の場合は夜明け前ぇ……それが奴らの異次元に干渉しやすい時間帯なのよぉ。これって、次元魔術の基本なんだからねぇ!」
ダリアは呪文を唱えながら、その場でタンタンとステップを踏み始める。すると、魔方陣から光が迸った。光の中で、ダリアは手招きする。
「ほらぁ、早く乗ってぇ!」
俺とマリオンは、顔を見合わせた。
「乗ってって……えっ、何に?」
マリオンの疑問に、ダリアはニヤリと笑って答える。
「光にぃ! これは、『ゲート』よぉ。空間同士をくっつけて、指定の場所までひとっ飛びぃ……飲み友達が、ユーフィンの浴場が大好きなのよねぇ。だから、そこへは直接飛べるようにしてあるのぉ!」
言いつつ、ダリアは俺とマリオンの腕を引っ張って、光の中へと引き入れた。
景色が歪む。上下の感覚がなくなる。
それは空気が水に変わって、それからゼリーに変わったように、ねっとりと身体にまとわり付く感覚だった。
……ふと気づくと、俺たちは暗い路地裏にいた。通りからは街の喧騒が聞こえる。歩み出ると、そこはユーフィンの街中であった。
ダリアが杖で、地面をトンと叩いて言う。
「ほらほらぁ、戦う前に準備とかあるでしょう? 時間あげるから、さっさと動くぅ! 早くしないと、完全に日が落ちちゃうわよぉ?」
呆然とする俺の視界の端に、ウラギール達が泊まっている宿が見える。馬を使って1週間掛かる道程が、たったの数秒かよ……すげえーっ!?
次元魔女の二つ名は、伊達じゃない! こいつ、俺が見た中でも極めつけのヘンタイのくせに、本当にすごいぞっ!
あ! ……そういや、馬と荷物を置いてきちまった。まあ、王都の近くだし、倒威爵の焼印も押してる。誰かが見つけて、兵士に届けてくれるだろう。
本人が嫌がって、寝る前にいつもやってた『記憶の許可』を拒否したからだ。
あの後、マリオンは「一人で寝ると、ダリアが来そうで怖いよう!」と訴え、俺と同じ部屋で寝ることを希望した。俺はマリオンをベッドに寝かせ、床に寝具を敷くと横になった。
ランプの火を消すと、毛布を被ったマリオンは震えた声で「来る……きっと来る! 闇の中、あいつがやって来るんだ!」と呟き続けた。いや……マジで、どんな目に会わされたんだ……?
マリオンはひたすら怖がっていたが、旅の疲れもあって深夜には、2人とも眠りに落ちたのだった。
そして目が覚めるとマリオンは、「あれ? オレ、いつの間にうちに帰ったんだ? つーかなんで、お前の部屋で寝てんの? ……え。一体、なにがあったんだよ?」なんてキョトンとした。
俺は長い長い沈黙の末、昨夜は『銀の三角亭』に二人で行った事、そこで『次元魔女ダリア』を見つけた事、ダリアはマリオンに過酷な試練を課す事を条件に協力を申し出た事、マリオンは見事にそれをクリアーして協力を取り付けた事、その試練が精神的にキツ過ぎたので記憶を希望しなかった事を告げた。
俺は、マリオンの決意や思いを『無』にするのが嫌だったのだ。
マリオンは頑張った。かつての仲間のため、自らを顧みず、勇気を持って苦難に立ち向かった……その事実だけは、マリオン自身に知っておいて欲しかった!
まあ一応、『試練』の詳しい内容は巧妙に伏せておき、いかにもハードでファンタジーっぽいカッコいい感じに聞こえるよう、工作はさせてもらったが。
話を聞き終えたマリオンは、俺の目をじっと見つめて、
「そっか……よかった。オレ、少しはお前の役に立てたんだな……全っ然覚えてねーけどさ! えへへっ」
と、嬉しそうにニッコリと笑った。それは、デュラハンと対峙したあの日からすっかり消えていて、ようやく見れたマリオンの笑顔だった。
うわ……なんだこれ、中身おっさんのくせにめっちゃかわええ……俺、やっぱマリオンの笑顔が超好きだ。本当にお疲れ様、マリオンっ!
そして午後も遅い時間に、2人分の荷物を積んだ馬を引きながら、俺とマリオンはダリアに指定された場所に向かう。そこではダリアが、地面に魔方陣を描いて待っていた。
マリオンは何も覚えてないはずだが、ダリアの顔を見ると「な、なんか身体がムズムズする……オレ、あいつが苦手かも……」なんて呟いた。
俺は、ダリアに言う。
「なあ。今日はもう、旅に出るには遅すぎる。やっぱり、出発は明日にしないか?」
するとダリアは、杖で地面を叩いて胸を張った。
「何を言ってるのぉ! これから、すぐ倒しに行くわぁ。アタシだって暇じゃないのよぉ? ……悪魔は日が落ちる前ぇ、天使の場合は夜明け前ぇ……それが奴らの異次元に干渉しやすい時間帯なのよぉ。これって、次元魔術の基本なんだからねぇ!」
ダリアは呪文を唱えながら、その場でタンタンとステップを踏み始める。すると、魔方陣から光が迸った。光の中で、ダリアは手招きする。
「ほらぁ、早く乗ってぇ!」
俺とマリオンは、顔を見合わせた。
「乗ってって……えっ、何に?」
マリオンの疑問に、ダリアはニヤリと笑って答える。
「光にぃ! これは、『ゲート』よぉ。空間同士をくっつけて、指定の場所までひとっ飛びぃ……飲み友達が、ユーフィンの浴場が大好きなのよねぇ。だから、そこへは直接飛べるようにしてあるのぉ!」
言いつつ、ダリアは俺とマリオンの腕を引っ張って、光の中へと引き入れた。
景色が歪む。上下の感覚がなくなる。
それは空気が水に変わって、それからゼリーに変わったように、ねっとりと身体にまとわり付く感覚だった。
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