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奴隷商人ランドルフ
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今、この屋敷にマリオンはいない。
朝メシの後に俺が、「夜まで外で時間を潰して欲しい」とお願いしたからだ。マリオンは何も言わず、俺の渡した銀貨を握って、町へと消えた。
そして、昼過ぎ。
マリオンを売った奴隷商人のランドルフが、俺の屋敷にやってきた。足りなかった金を受け取りに来たのだ。扇情的な服を着た女奴隷を2人、連れている。
俺がにこやかな表情で空いてる部屋に通してやると、奴隷商人は腹を揺らして嬉しそうに入ってきた。
でっぷりと太った身体をソファに埋め、ランドルフは言う。
「いやはや、ご立派なお屋敷ですなぁ! ジュータ殿は倒威爵だそうで?」
「ええ。その通りです」
「素晴らしい! 噂によると、ドラゴンキラーだとか。長きに渡り、この国を脅かしていたドラゴンを、わずか1ヶ月足らずで倒したと聞きましたぞ。ぜひとも、武勇伝をお聞きしたいものです」
「約束の金です。どうぞ」
俺は無視して、ズッシリと金貨の入った袋を差し出す。この金貨一枚で、庶民の月収の数ヶ月分らしい。
「これはこれは……! 頂戴いたします!」
ランドルフは俺の無視を気にせず、いそいそと金貨の入った袋を覗き込む。本当は、武勇伝など聞きたくなかったのだろう。たんなるお世辞で、金にしか興味がないに違いない。
ランドルフはテーブルに金貨を出して、丁寧に数えながら言った。
「で……ジュータ殿。どうですかな? わしが売った奴隷で、しっかりと楽しめてますか? あの奴隷は口調も下品だし、生意気な性格をしてるでしょう? しかし、ああいうバカに立場をわからせ、厳しく躾けてやるのはまた、とても楽しいものですよ」
「なるほど、なるほど。あなたは、そういうお考えをお持ちですか……あっはっは」
俺の作り笑いを見て、ランドルフは大笑いする。
「ウハハハッ! その様子ですと、ご満足いただけてるようですな!?」
「はい、そうですね。マリオンには満足はしてます。とても満足です」
俺が何度も頷くと、ランドルフは満面の笑みを浮かべた。
「それはよかった! わしも一度、マリオンを折檻した事があります。わしは本来、売り物の奴隷には傷をつけない主義なのですがね。……でもあやつ、スキルチェックに掛けてみたら、『カウンター』とかいう伝説級にレアなスキルを持っとるもんですから。これはぜひ見たいと思い、他の奴隷に命令して、袋叩きにさせたのです……グッハハハ!」
俺のこめかみが、ピクピクと震える。
「へえ? そんな事したんですか。へえー、あっははー」
ランドルフは気づかずに、馬鹿笑いを続けた。
「はい、グハハハッ! しかし、マリオンは強情な奴でしてな……結局、気絶するまで一度も『カウンター』を使いませんでした」
それは、使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。腹の底から怒りが湧いてきて、ムカムカで内臓が溶けそうになった。
ランドルフは、大口を開けて話を続ける。
「だけど、マリオンが『カウンター』を所持してるのは間違いない! 決して、高い買い物ではないですぞ! ジュータ殿が頑張って躾ければ、いずれは言うことを聞き、戦士としてもお役に立つはずです!」
俺は、ゆっくりと首を振る。
「生憎、俺はマリオンを戦わせるつもりはありません」
ランドルフは金貨数えに戻りつつ、受け答える。
「おお、左様で? せっかくレアスキル持ちなのに、それはもったいない……。まったくマリオンめ、折檻の日は記憶を許可しなかったんで、なんにも覚えちゃいないでしょうが……。もっとも、知らないうちに傷だらけになっていたのが、よっぽど恐ろしかったらしくてね。翌日はエサも食わず、一日中泣いておりましたよ……いやぁ、あの顔はバカ丸出しで、本当にケッサクでした! ガハッ、ガハハーッ!」
「あははー、そんなに面白かったんだー?」
「はい! グハッ、ガハハハ、いま思い出しても、こうして笑える! ウハウハ!」
「あははー……あー。おい、息がくせえよ。もう口を開くな」
「ウハハハッ、……は? え?」
朝メシの後に俺が、「夜まで外で時間を潰して欲しい」とお願いしたからだ。マリオンは何も言わず、俺の渡した銀貨を握って、町へと消えた。
そして、昼過ぎ。
マリオンを売った奴隷商人のランドルフが、俺の屋敷にやってきた。足りなかった金を受け取りに来たのだ。扇情的な服を着た女奴隷を2人、連れている。
俺がにこやかな表情で空いてる部屋に通してやると、奴隷商人は腹を揺らして嬉しそうに入ってきた。
でっぷりと太った身体をソファに埋め、ランドルフは言う。
「いやはや、ご立派なお屋敷ですなぁ! ジュータ殿は倒威爵だそうで?」
「ええ。その通りです」
「素晴らしい! 噂によると、ドラゴンキラーだとか。長きに渡り、この国を脅かしていたドラゴンを、わずか1ヶ月足らずで倒したと聞きましたぞ。ぜひとも、武勇伝をお聞きしたいものです」
「約束の金です。どうぞ」
俺は無視して、ズッシリと金貨の入った袋を差し出す。この金貨一枚で、庶民の月収の数ヶ月分らしい。
「これはこれは……! 頂戴いたします!」
ランドルフは俺の無視を気にせず、いそいそと金貨の入った袋を覗き込む。本当は、武勇伝など聞きたくなかったのだろう。たんなるお世辞で、金にしか興味がないに違いない。
ランドルフはテーブルに金貨を出して、丁寧に数えながら言った。
「で……ジュータ殿。どうですかな? わしが売った奴隷で、しっかりと楽しめてますか? あの奴隷は口調も下品だし、生意気な性格をしてるでしょう? しかし、ああいうバカに立場をわからせ、厳しく躾けてやるのはまた、とても楽しいものですよ」
「なるほど、なるほど。あなたは、そういうお考えをお持ちですか……あっはっは」
俺の作り笑いを見て、ランドルフは大笑いする。
「ウハハハッ! その様子ですと、ご満足いただけてるようですな!?」
「はい、そうですね。マリオンには満足はしてます。とても満足です」
俺が何度も頷くと、ランドルフは満面の笑みを浮かべた。
「それはよかった! わしも一度、マリオンを折檻した事があります。わしは本来、売り物の奴隷には傷をつけない主義なのですがね。……でもあやつ、スキルチェックに掛けてみたら、『カウンター』とかいう伝説級にレアなスキルを持っとるもんですから。これはぜひ見たいと思い、他の奴隷に命令して、袋叩きにさせたのです……グッハハハ!」
俺のこめかみが、ピクピクと震える。
「へえ? そんな事したんですか。へえー、あっははー」
ランドルフは気づかずに、馬鹿笑いを続けた。
「はい、グハハハッ! しかし、マリオンは強情な奴でしてな……結局、気絶するまで一度も『カウンター』を使いませんでした」
それは、使わなかったんじゃない。使えなかったんだ。腹の底から怒りが湧いてきて、ムカムカで内臓が溶けそうになった。
ランドルフは、大口を開けて話を続ける。
「だけど、マリオンが『カウンター』を所持してるのは間違いない! 決して、高い買い物ではないですぞ! ジュータ殿が頑張って躾ければ、いずれは言うことを聞き、戦士としてもお役に立つはずです!」
俺は、ゆっくりと首を振る。
「生憎、俺はマリオンを戦わせるつもりはありません」
ランドルフは金貨数えに戻りつつ、受け答える。
「おお、左様で? せっかくレアスキル持ちなのに、それはもったいない……。まったくマリオンめ、折檻の日は記憶を許可しなかったんで、なんにも覚えちゃいないでしょうが……。もっとも、知らないうちに傷だらけになっていたのが、よっぽど恐ろしかったらしくてね。翌日はエサも食わず、一日中泣いておりましたよ……いやぁ、あの顔はバカ丸出しで、本当にケッサクでした! ガハッ、ガハハーッ!」
「あははー、そんなに面白かったんだー?」
「はい! グハッ、ガハハハ、いま思い出しても、こうして笑える! ウハウハ!」
「あははー……あー。おい、息がくせえよ。もう口を開くな」
「ウハハハッ、……は? え?」
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