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第5回ユーマチ会議(『……この後始末、どーするよ?』前々回より引き続き、エイリ(略)
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日の出である。
暗い町に、爽やかに朝日が射して行く……ホテルの屋上から『それら』を見下ろし、空那は絶句した。
雪乃も隣で、絶望的な表情をしている。
砂月は空那の背中に抱きついて嬉しそうに顔を擦りつけているが、それは一種の現実逃避だった。
アニスは鮭おにぎりを食べながら、いつも通りのぼうっとした表情で町を見ている。が、その焦点は、どこにも合っていない。
皆、己のやらかした事とその結果について、直視したくなかったのである。
眼下に広がるのは、半壊した街並み……これは誰がどう考えたって……個人で責任が取れる範囲を超えていた。
いやだって、そりゃそうだろう!?
なにせ、町で戦争を起こしちゃったのである!
もう、完璧に滅茶苦茶のしっちゃかめっちゃかなんである!
調子に乗りすぎ、明らかにやりすぎだ!
だって後の事、なーんも考えてなかったんだもの!
雪乃が、かすれ声で呟く。
「ど、どうしよ……?」
青い顔の空那は、無言で首を振った。
(やべえ……やべえよっ! つい、世界が今日で終わるような気分になって、やりすぎちまった!)
これがゲームや映画なら、スタッフロールが始まるなり、朝日の中でヒロインとキスして上空へとパンするなりで、最後に『THE END』だの、『FIN』だのが出て終わるだろう。
だが、これは『現実』だ。
空那達の暮らしは終わらない。ハッピーエンドにしてくれる脚本家は、どこにもいないのだった。
時計を見ると、朝の五時。七時になれば皆が目覚める。
この惨状を見て、間違いなく原因を突き止めるために全員が動く。
おそらく街中の監視カメラには、誰が大暴れしていたかが、はっきり映っているはずだ。それらすべてをどうにかできる方法を、空那達は持ち合わせていない。
朝日が町並みに反射して、キラキラと光る。
傷だらけの栄光である。この街を守るために、空那達は必死で戦った。
しかし今は……その光が、痛いほどに眩しい!
(も、もう……やだっ! こんなの見てたら……目が潰れちまう……っ!)
空那は泣きそうな目を、そっと両手で覆う。もちろん、そんな事したって何も解決しない。
炙山父は、いい。
彼は、そのまま地球を逃げ出すつもりだったのだから。
だが、今日も登校し、明日もこの町で暮らしていく空那達に、一体なにができるだろう?
魔導を統べる異形の王も、一騎当千戦術級の強さを持つ勇者も、物理法則を書き換える神秘の光も、そして、数万の悪魔を蹴散らす神の軍隊でさえも……この場を収める術がない。
震える声で言い訳がましく、空那は呟く。
「あ、あああ……あの……その、変な風にテンションあがって……たぶん、あんまり寝てないから……ほら、そういう事ってさ……あるだろ……!?」
それは一体、誰に聞かせているんだと?
今思うと、自信満々で得意気だった自分が、とっても恥ずかしかった。
両手に武器ををぶら下げた雪乃も、なにか思うところがあるらしく、青くなったり赤くなったりしながらウロウロしていた。
アニスはおにぎりを食べ終わり、包装していたビニールを一生懸命に噛んでいる。もちろん、そんなものは食べられない。表情には出てないが、かなり焦っているのがわかった。
もう一度、空那は絶望的な気持ちで、朝日に照らされる『街』を見回し、青ざめた顔で考えた。
(……なんだろうな……これって? 押入れの中から小さな頃に熱中した『オモチャ』をみつけてしまい、うっわー! なっつかしー! と、夢中になって振り回し、物を壊してしまったような……?)
もちろん、皆を助けたいという気持ちもあったし、戦ってる間はなにか、頭の中で耳触りが良くて格好いい理屈をつけてた気もする。
でも、結局の所……ようは、懐かしくて、たまらなくて、つい『やりたかった』だけだ。
熱に浮かされ、郷愁に酔い、それで「町を半壊させちゃいました!」なんて、馬鹿が極まりすぎている。
近所の公園でサッカーボールを蹴っ飛ばし、窓ガラスを割ったのとはわけが違う。
これは、どうやったって、どれだけ謝ったって、絶対に許してもらえるレベルじゃない。
一人、空那の背中にかじりつき、街を見ないで現実逃避を続けていた砂月が、うっとりしながら言う。
「じゃあさ、じゃあさ! あの船を動かしてさ、世界征服でも始めないっ!?」
確かに、あの船があれば世界中のどの場所だろうと、すぐに制圧できる。
なにしろ、今の地球には、別次元に干渉する技術はないのだから、まさに無敵の力と言ってもいい。
また、砂月には人外の魔王、超能力というアピールポイントがあり、多くの信奉者もつくに違いない。
だが、空那は首を振る。
「嫌だよ」
「なんで? 面倒な事は、全部アタシがやったげるから! おにいちゃんは、隣にいるだけでいいよ。そだねー、まず小動物とか飼わないとね。あ、あんたのことじゃないよっ? 本物の小動物だよ! こうね、普段は膝の上で撫でてて、部下から気に入らない報告を受けた時に、片手でムギュッと握りつぶせるようなねえ……」
「うちはペット禁止って父さんが言ってたろ」
「……じゃあ、小動物はいいよ。まず最初に、アメリカの首都を征服してぇ……」
「アメリカの首都って、どこ?」
「え、えっと、にゅ、ニューヨーク?」
「…………はぁ。一応、聞くけど。英語できるの?」
「できないけど……」
空那はもう一度、深く溜め息を吐き、砂月の頭をぺしんと殴った。
「アメリカの首都はワシントンDCだよ。それと……とりあえず、船は消すからな!」
言いつつ、空那は命令を下す。
えー、鎧兵の皆さん、撤収でーす!
自然公園からいくつもの光が軌跡を描き、鎧兵達が船へと戻っていった。
さらに、船を異次元空間に沈めるため、命令を下す。スキーズブラズニルは、ゆっくりと船首を反転させ、空に銀色の海が広がると、そこ目掛けて消えていった。
後には、相変わらず破壊された町並みが、閑散と広がる……いや、船や鎧兵が消えた分、ガランとして、余計に悲惨さが際立っている。
雪乃が真剣な顔で言う。
「ねえ。私達がやりましたって、素直に謝りに行くのはどうかな?」
「……それで、俺達は捕まるわけ?」
「いや……だって。それは、この町の人を守るためでしょ? 仕方ないわ」
「まあ、仕方ないんだけどなぁ……で、それを説明するために、まずは留置所に入って、弁護士さん呼んで……ああ、それと炙山父の事も説明しないとな。ふう、何年かかるんだろう。……家族にも、迷惑がかかるなぁ」
その言葉に、雪乃は「うっ?」と唸って黙り込む。己の正義を主張し、それが道義的に正しかったとしても、何年かかるかわからないのが、この国のシステムなのである。
ましてや、こんな事態だ。
釈放後も間違いなく元の生活には戻れず、下手したら賠償金や前科がつきかねない。
平凡な生活を守るために必死で戦ったのに、結果、勝利しても日常は戻らない。
奇妙なパラドックスに、空那は大きくため息を吐いた。
ふと、隣で立ち尽くすアニスへと視線を向ける。
(……アニス先輩なら、頭がいいから、何かいい解決策を思いつくんじゃないか?)
そう思って、顔を近づける。
「アニス先輩は、どう思います?」
アニスは、しばしボーっとした後で言う。
「にげる」
「……どこへですか?」
空を見上げてから、言った。
「くさつ」
「……なんでですか?」
しばしの沈黙。また、アニスは言う。
「のぼりべつ」
「……もしかして、温泉に入りたいだけなんじゃないですか?」
こくり、頷いた。
…………結局、なんにも決まらない。
開き直るか、名乗り出るか、逃げるか。
どれをとっても……二度と、日常には戻れない。
人生には、都合のいい選択肢はないのである。
暗い町に、爽やかに朝日が射して行く……ホテルの屋上から『それら』を見下ろし、空那は絶句した。
雪乃も隣で、絶望的な表情をしている。
砂月は空那の背中に抱きついて嬉しそうに顔を擦りつけているが、それは一種の現実逃避だった。
アニスは鮭おにぎりを食べながら、いつも通りのぼうっとした表情で町を見ている。が、その焦点は、どこにも合っていない。
皆、己のやらかした事とその結果について、直視したくなかったのである。
眼下に広がるのは、半壊した街並み……これは誰がどう考えたって……個人で責任が取れる範囲を超えていた。
いやだって、そりゃそうだろう!?
なにせ、町で戦争を起こしちゃったのである!
もう、完璧に滅茶苦茶のしっちゃかめっちゃかなんである!
調子に乗りすぎ、明らかにやりすぎだ!
だって後の事、なーんも考えてなかったんだもの!
雪乃が、かすれ声で呟く。
「ど、どうしよ……?」
青い顔の空那は、無言で首を振った。
(やべえ……やべえよっ! つい、世界が今日で終わるような気分になって、やりすぎちまった!)
これがゲームや映画なら、スタッフロールが始まるなり、朝日の中でヒロインとキスして上空へとパンするなりで、最後に『THE END』だの、『FIN』だのが出て終わるだろう。
だが、これは『現実』だ。
空那達の暮らしは終わらない。ハッピーエンドにしてくれる脚本家は、どこにもいないのだった。
時計を見ると、朝の五時。七時になれば皆が目覚める。
この惨状を見て、間違いなく原因を突き止めるために全員が動く。
おそらく街中の監視カメラには、誰が大暴れしていたかが、はっきり映っているはずだ。それらすべてをどうにかできる方法を、空那達は持ち合わせていない。
朝日が町並みに反射して、キラキラと光る。
傷だらけの栄光である。この街を守るために、空那達は必死で戦った。
しかし今は……その光が、痛いほどに眩しい!
(も、もう……やだっ! こんなの見てたら……目が潰れちまう……っ!)
空那は泣きそうな目を、そっと両手で覆う。もちろん、そんな事したって何も解決しない。
炙山父は、いい。
彼は、そのまま地球を逃げ出すつもりだったのだから。
だが、今日も登校し、明日もこの町で暮らしていく空那達に、一体なにができるだろう?
魔導を統べる異形の王も、一騎当千戦術級の強さを持つ勇者も、物理法則を書き換える神秘の光も、そして、数万の悪魔を蹴散らす神の軍隊でさえも……この場を収める術がない。
震える声で言い訳がましく、空那は呟く。
「あ、あああ……あの……その、変な風にテンションあがって……たぶん、あんまり寝てないから……ほら、そういう事ってさ……あるだろ……!?」
それは一体、誰に聞かせているんだと?
今思うと、自信満々で得意気だった自分が、とっても恥ずかしかった。
両手に武器ををぶら下げた雪乃も、なにか思うところがあるらしく、青くなったり赤くなったりしながらウロウロしていた。
アニスはおにぎりを食べ終わり、包装していたビニールを一生懸命に噛んでいる。もちろん、そんなものは食べられない。表情には出てないが、かなり焦っているのがわかった。
もう一度、空那は絶望的な気持ちで、朝日に照らされる『街』を見回し、青ざめた顔で考えた。
(……なんだろうな……これって? 押入れの中から小さな頃に熱中した『オモチャ』をみつけてしまい、うっわー! なっつかしー! と、夢中になって振り回し、物を壊してしまったような……?)
もちろん、皆を助けたいという気持ちもあったし、戦ってる間はなにか、頭の中で耳触りが良くて格好いい理屈をつけてた気もする。
でも、結局の所……ようは、懐かしくて、たまらなくて、つい『やりたかった』だけだ。
熱に浮かされ、郷愁に酔い、それで「町を半壊させちゃいました!」なんて、馬鹿が極まりすぎている。
近所の公園でサッカーボールを蹴っ飛ばし、窓ガラスを割ったのとはわけが違う。
これは、どうやったって、どれだけ謝ったって、絶対に許してもらえるレベルじゃない。
一人、空那の背中にかじりつき、街を見ないで現実逃避を続けていた砂月が、うっとりしながら言う。
「じゃあさ、じゃあさ! あの船を動かしてさ、世界征服でも始めないっ!?」
確かに、あの船があれば世界中のどの場所だろうと、すぐに制圧できる。
なにしろ、今の地球には、別次元に干渉する技術はないのだから、まさに無敵の力と言ってもいい。
また、砂月には人外の魔王、超能力というアピールポイントがあり、多くの信奉者もつくに違いない。
だが、空那は首を振る。
「嫌だよ」
「なんで? 面倒な事は、全部アタシがやったげるから! おにいちゃんは、隣にいるだけでいいよ。そだねー、まず小動物とか飼わないとね。あ、あんたのことじゃないよっ? 本物の小動物だよ! こうね、普段は膝の上で撫でてて、部下から気に入らない報告を受けた時に、片手でムギュッと握りつぶせるようなねえ……」
「うちはペット禁止って父さんが言ってたろ」
「……じゃあ、小動物はいいよ。まず最初に、アメリカの首都を征服してぇ……」
「アメリカの首都って、どこ?」
「え、えっと、にゅ、ニューヨーク?」
「…………はぁ。一応、聞くけど。英語できるの?」
「できないけど……」
空那はもう一度、深く溜め息を吐き、砂月の頭をぺしんと殴った。
「アメリカの首都はワシントンDCだよ。それと……とりあえず、船は消すからな!」
言いつつ、空那は命令を下す。
えー、鎧兵の皆さん、撤収でーす!
自然公園からいくつもの光が軌跡を描き、鎧兵達が船へと戻っていった。
さらに、船を異次元空間に沈めるため、命令を下す。スキーズブラズニルは、ゆっくりと船首を反転させ、空に銀色の海が広がると、そこ目掛けて消えていった。
後には、相変わらず破壊された町並みが、閑散と広がる……いや、船や鎧兵が消えた分、ガランとして、余計に悲惨さが際立っている。
雪乃が真剣な顔で言う。
「ねえ。私達がやりましたって、素直に謝りに行くのはどうかな?」
「……それで、俺達は捕まるわけ?」
「いや……だって。それは、この町の人を守るためでしょ? 仕方ないわ」
「まあ、仕方ないんだけどなぁ……で、それを説明するために、まずは留置所に入って、弁護士さん呼んで……ああ、それと炙山父の事も説明しないとな。ふう、何年かかるんだろう。……家族にも、迷惑がかかるなぁ」
その言葉に、雪乃は「うっ?」と唸って黙り込む。己の正義を主張し、それが道義的に正しかったとしても、何年かかるかわからないのが、この国のシステムなのである。
ましてや、こんな事態だ。
釈放後も間違いなく元の生活には戻れず、下手したら賠償金や前科がつきかねない。
平凡な生活を守るために必死で戦ったのに、結果、勝利しても日常は戻らない。
奇妙なパラドックスに、空那は大きくため息を吐いた。
ふと、隣で立ち尽くすアニスへと視線を向ける。
(……アニス先輩なら、頭がいいから、何かいい解決策を思いつくんじゃないか?)
そう思って、顔を近づける。
「アニス先輩は、どう思います?」
アニスは、しばしボーっとした後で言う。
「にげる」
「……どこへですか?」
空を見上げてから、言った。
「くさつ」
「……なんでですか?」
しばしの沈黙。また、アニスは言う。
「のぼりべつ」
「……もしかして、温泉に入りたいだけなんじゃないですか?」
こくり、頷いた。
…………結局、なんにも決まらない。
開き直るか、名乗り出るか、逃げるか。
どれをとっても……二度と、日常には戻れない。
人生には、都合のいい選択肢はないのである。
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