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第4回ユーマチ会議(『選択可能な戦略』引き続き、エイリアンハイブリッドが参列)
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午前2時。四人は、ミモザホテルの屋上にいた。
屋上の中央には人口の池と噴水があり、それを取り囲むよう円状に、ベンチやパラソルが配置されている。周囲には、電気ランタンがいくつも並べられ、煌々と光を投げかける。
ここは普段、夜の10時まで一般人にも開放されており、とくに夏場はビアガーデンで賑わっている。
空那も家族で来た事があり、子供の頃は蒸し暑い夏の夜風の中、砂月と一緒にカキ氷を食べながら、花火見物をした思い出があった。
今、その空には高く満月が浮かび、人が消えた街を静かに照らす……。
三人の服装は、ホテルに来る前と変わっている。先ほど、ホテル内のショッピングセンターで、着替えを調達したからだ。……というか、空那の服はリンゴの汁まみれだったので、流石にそれを着るわけにも、バスローブで外に出るわけにもいかなかった。
空那はアディダスのジャージ。
アニスはアクアブルーのワンピース。
雪乃はジーンズとパーカーに、各種の武器装備。
砂月のマントの下は、なんとゴスロリ衣装だ。
空那、雪乃、アニスの三人の分は、レジに値札通りの現金を置いてきたが、砂月については何処から持ってきたのか不明なので、ちゃんと払ったかもわからない……本当に一体、どこで手に入れたんだろう?
外に行く時間はなかったし、ホテルの貸し衣装室辺りから、持って来たのだろうか。
空那は、女子三人を見つめながら、おずおずと口を開く。最後にもう一度、彼女達の意思を確認しようと思ったのだ。
「……みんな。俺のわがままで連れてきたけど、もしも嫌だったら――」
しかし、その口を雪乃が手で塞ぐ。
「空ちゃん! それはもう、言わないの! 私達、あなたの為にやるって決めたんだから!」
そして、真剣な顔で言った。
「これは、前世のセレーナのためじゃない。今、この時を一緒に生きてる、親友で幼馴染で……そして、大好きな荒走空那のために……戦いたいのよ!」
砂月も牙を見せ、笑いながら言う。
「アタシはさ、おにいちゃんと甘くて幸せな、ラブラブ生活がしたいわけよ! その為に、目障りな奴をやっつける……それだけなんだよねぇ!」
アニスも頷く。
「たすけるよ」
三人の決意は、固い。
空那も覚悟を決めた。
「……わかった! ありがとう!」
雪乃が首をかしげながら、言った。
「……で、どうやって炙山父を止めるかだけど……誰か、いい考えある?」
空那が、ノートを取り出しながら言った。
「それについてなんだけど。俺、早めに目が覚めたから、少し考えてみたんだ」
その声に、全員の視線が彼に集中する。
空那は、咳払いをしながらノートを開き、地下水路の赤地図を指でなぞる。
「みんな、これを見てくれ。地下への入り口は、いくつかあるよな? ……ここから徒歩でいける場所は、全部で15箇所ある。その半分は、まだ奴らの領域内。最短ルートでいけるのは……この4箇所!」
言いつつ、ペンで印をつけた。雪乃が言う。
「うん、そうね。じゃあ、この4つのうち、どれかひとつを全員で突き進む? それとも、私と炙山先輩と、それと砂月ちゃんの三人が、3箇所から入っていく?」
空那は、しばし言葉に詰まる。
そう、三人なのだ。実質的な戦力は、『たったの三人』だけ。
攻撃手段を何一つ持っていない空那は……数のうちに入らない。
逡巡した後で、空那は答えた。
「い、いや……。入るのは、アニス先輩だけだよ。このΩの場所には何があるのか、具体的にどうすればいいのか、全部わかってるアニス先輩に任せるのが、一番いいって思うんだ」
その言葉に、雪乃は頷いた。
「ん……ええ。……うん、確かにそうね。私が行っても、どこを重点的にどう壊せばいいのか、まったくわからないもの」
アニスはしばし黙っていたが、やがて口を開く。だが、なにも言わずに口を閉じて、また開いて……閉じて、頷く。きっと、何をどのように壊せばよいのか、説明しようとして、上手くいかなかったのだろう。
……すべてを壊してしまえれば一番よい。だが、それは不可能に近い。
なので、アニスが行くしかない。
これもまた、単純な理屈だ。
雪乃が首をかしげ、空那に尋ねた。
「じゃあ私は、どうしたらいいかな?」
空那は、地図の一点を指差す。
「雪乃は陽動。ここから一番近い、地下水路の入り口。この辺りで、敵をひきつけて欲しい。……でもこれって、すごく危険だ」
敵の大部分を一人が引き受けて立ち回るなど、作戦もへったくれもあったものではない。
だが、他に思いつかなかった。
しかし、雪乃はあっさり頷く。
「わかったわ。私はこの辺りで、とにかく暴れてればいいのね。それに見通しの悪い街中じゃ、誰かを守りながら戦うのも限界あるしね」
空那は、確かめるように雪乃に言う。
「……いいのか? 雪乃、頑張ってくれるか?」
「いいに、決まってるじゃない!」
それから空那の耳に口を近づけて、囁くように言う。
「いつかの保健室で……言ったでしょ? 私は空ちゃんのためなら、なんだってしてあげたいって思ってるんだからね!」
空那が彼女の顔を見ると、いつものように人懐っこい笑顔で笑っていた。
アニスの指が、ノートの一箇所を指し示す。
「ここ?」
それは、自分はここから入ればいいのか? の意味だ。
空那は頭を振る。
「あ。いいえ、アニス先輩は、そこではありません。確かに、そこは最短ルートなんですけど……雪乃が反対側で暴れてたら、さすがに怪しすぎますよね? だからあえて、こっちの道を進んでください」
空那の指し示すルートをアニスは見つめ、しばし黙った後で言う。
「いいとおもう」
「あの……アニス先輩。地下は見つかった時点で、外よりも遥かに危険です。その点、このルートは、いくつか道が分岐してます。危険だと思ったら、すぐに外まで逃げてくださいね?」
その言葉に、アニスは頷いた。
「わかった」
最後に、砂月が腕を組んで言う。
「じゃ、アタシは?」
「……砂月の役割は、悩んだんだけどな。現実問題、万が一にお前がやられたら、あのハリガネが細かくなって、町中に散らばることになるだろ?」
「うん、そうだね。アタシが気絶でもしたら、町にいる動物や虫は、好き放題に動きだして、統制取れなくなると思う」
砂月が同意した。空那は彼女に言う。
「だろ? で、そうなったら、もう……アウトなんだよ。Ωに向かうアニス先輩の居場所も即座にばれるし、敵の位置もわからなくなる。最悪、町の外にまで、ハリガネが広がっちまう! もしも突入に失敗して、雪乃やアニス先輩が逃げるって事になっても、絶対に逃げ切れない。だから、砂月には町中で奴らを、広く浅く牽制して、なおかつ、監視する役目をしてほしいんだ」
砂月は頷くと胸を張り、屋上のフェンス越しに町を見下ろし、言った。
「いいよーっ! ……すっごくいい! アタシ、そういうの、大得意だから!」
これで、戦略は決まった。
ついに、開戦である。
街の人々を救うため、明日の朝7時までに、Ωを壊すのだ!
屋上のフェンスに張り付いて、ホテルの入り口を飛び出す二人の頭を見下ろし、空那は泣きたくなった。
あまりに小さな人影は、すぐに闇に紛れて見えなくなる。
やはり、四人で逃げるべきだったのではないか?
24人ならば、自分と雪乃の家族に、さらに友達何人かを連れて行ける。
そうすれば逃げた先で、新しく生活が始められたのではないか?
いいや、そんな選択をしても、一生後悔するだけだ!
だけど、もしかしたら……雪乃もアニスも……今夜、失うことになるかもしれない。
不安な心は、取り留めのないことばかり考える。
空那は、慌てて頭を振って……思わず考えそうになる『もしも』の未来を、振り払った。
二人はこれから死地に向かうというのに、自分はこんな所から見下ろすだけなのだ。
死地に送り込んだのは、他ならぬ自分なのに。
だったら、信じて進んでくれた彼女たちのためにも、自分の選択を信じなくて、どうするのだ!
背後で砂月が、ノートにサインペンで、印を書き加えている。
「んーっと。今んとこ、この辺までハリガネいないね……まっすぐ進めば、危険はなさそう!」
妹の砂月は、空那が見失った後も、しっかりと二人の居場所を把握しているようだった。
魔術によって、命令を下した生き物の視覚や聴覚を、覗くことができるんだとか。
自分の目で見れなくても、砂月を通せば、安否は知れる……空那にはそれが、せめてもの救いだった。
屋上の中央には人口の池と噴水があり、それを取り囲むよう円状に、ベンチやパラソルが配置されている。周囲には、電気ランタンがいくつも並べられ、煌々と光を投げかける。
ここは普段、夜の10時まで一般人にも開放されており、とくに夏場はビアガーデンで賑わっている。
空那も家族で来た事があり、子供の頃は蒸し暑い夏の夜風の中、砂月と一緒にカキ氷を食べながら、花火見物をした思い出があった。
今、その空には高く満月が浮かび、人が消えた街を静かに照らす……。
三人の服装は、ホテルに来る前と変わっている。先ほど、ホテル内のショッピングセンターで、着替えを調達したからだ。……というか、空那の服はリンゴの汁まみれだったので、流石にそれを着るわけにも、バスローブで外に出るわけにもいかなかった。
空那はアディダスのジャージ。
アニスはアクアブルーのワンピース。
雪乃はジーンズとパーカーに、各種の武器装備。
砂月のマントの下は、なんとゴスロリ衣装だ。
空那、雪乃、アニスの三人の分は、レジに値札通りの現金を置いてきたが、砂月については何処から持ってきたのか不明なので、ちゃんと払ったかもわからない……本当に一体、どこで手に入れたんだろう?
外に行く時間はなかったし、ホテルの貸し衣装室辺りから、持って来たのだろうか。
空那は、女子三人を見つめながら、おずおずと口を開く。最後にもう一度、彼女達の意思を確認しようと思ったのだ。
「……みんな。俺のわがままで連れてきたけど、もしも嫌だったら――」
しかし、その口を雪乃が手で塞ぐ。
「空ちゃん! それはもう、言わないの! 私達、あなたの為にやるって決めたんだから!」
そして、真剣な顔で言った。
「これは、前世のセレーナのためじゃない。今、この時を一緒に生きてる、親友で幼馴染で……そして、大好きな荒走空那のために……戦いたいのよ!」
砂月も牙を見せ、笑いながら言う。
「アタシはさ、おにいちゃんと甘くて幸せな、ラブラブ生活がしたいわけよ! その為に、目障りな奴をやっつける……それだけなんだよねぇ!」
アニスも頷く。
「たすけるよ」
三人の決意は、固い。
空那も覚悟を決めた。
「……わかった! ありがとう!」
雪乃が首をかしげながら、言った。
「……で、どうやって炙山父を止めるかだけど……誰か、いい考えある?」
空那が、ノートを取り出しながら言った。
「それについてなんだけど。俺、早めに目が覚めたから、少し考えてみたんだ」
その声に、全員の視線が彼に集中する。
空那は、咳払いをしながらノートを開き、地下水路の赤地図を指でなぞる。
「みんな、これを見てくれ。地下への入り口は、いくつかあるよな? ……ここから徒歩でいける場所は、全部で15箇所ある。その半分は、まだ奴らの領域内。最短ルートでいけるのは……この4箇所!」
言いつつ、ペンで印をつけた。雪乃が言う。
「うん、そうね。じゃあ、この4つのうち、どれかひとつを全員で突き進む? それとも、私と炙山先輩と、それと砂月ちゃんの三人が、3箇所から入っていく?」
空那は、しばし言葉に詰まる。
そう、三人なのだ。実質的な戦力は、『たったの三人』だけ。
攻撃手段を何一つ持っていない空那は……数のうちに入らない。
逡巡した後で、空那は答えた。
「い、いや……。入るのは、アニス先輩だけだよ。このΩの場所には何があるのか、具体的にどうすればいいのか、全部わかってるアニス先輩に任せるのが、一番いいって思うんだ」
その言葉に、雪乃は頷いた。
「ん……ええ。……うん、確かにそうね。私が行っても、どこを重点的にどう壊せばいいのか、まったくわからないもの」
アニスはしばし黙っていたが、やがて口を開く。だが、なにも言わずに口を閉じて、また開いて……閉じて、頷く。きっと、何をどのように壊せばよいのか、説明しようとして、上手くいかなかったのだろう。
……すべてを壊してしまえれば一番よい。だが、それは不可能に近い。
なので、アニスが行くしかない。
これもまた、単純な理屈だ。
雪乃が首をかしげ、空那に尋ねた。
「じゃあ私は、どうしたらいいかな?」
空那は、地図の一点を指差す。
「雪乃は陽動。ここから一番近い、地下水路の入り口。この辺りで、敵をひきつけて欲しい。……でもこれって、すごく危険だ」
敵の大部分を一人が引き受けて立ち回るなど、作戦もへったくれもあったものではない。
だが、他に思いつかなかった。
しかし、雪乃はあっさり頷く。
「わかったわ。私はこの辺りで、とにかく暴れてればいいのね。それに見通しの悪い街中じゃ、誰かを守りながら戦うのも限界あるしね」
空那は、確かめるように雪乃に言う。
「……いいのか? 雪乃、頑張ってくれるか?」
「いいに、決まってるじゃない!」
それから空那の耳に口を近づけて、囁くように言う。
「いつかの保健室で……言ったでしょ? 私は空ちゃんのためなら、なんだってしてあげたいって思ってるんだからね!」
空那が彼女の顔を見ると、いつものように人懐っこい笑顔で笑っていた。
アニスの指が、ノートの一箇所を指し示す。
「ここ?」
それは、自分はここから入ればいいのか? の意味だ。
空那は頭を振る。
「あ。いいえ、アニス先輩は、そこではありません。確かに、そこは最短ルートなんですけど……雪乃が反対側で暴れてたら、さすがに怪しすぎますよね? だからあえて、こっちの道を進んでください」
空那の指し示すルートをアニスは見つめ、しばし黙った後で言う。
「いいとおもう」
「あの……アニス先輩。地下は見つかった時点で、外よりも遥かに危険です。その点、このルートは、いくつか道が分岐してます。危険だと思ったら、すぐに外まで逃げてくださいね?」
その言葉に、アニスは頷いた。
「わかった」
最後に、砂月が腕を組んで言う。
「じゃ、アタシは?」
「……砂月の役割は、悩んだんだけどな。現実問題、万が一にお前がやられたら、あのハリガネが細かくなって、町中に散らばることになるだろ?」
「うん、そうだね。アタシが気絶でもしたら、町にいる動物や虫は、好き放題に動きだして、統制取れなくなると思う」
砂月が同意した。空那は彼女に言う。
「だろ? で、そうなったら、もう……アウトなんだよ。Ωに向かうアニス先輩の居場所も即座にばれるし、敵の位置もわからなくなる。最悪、町の外にまで、ハリガネが広がっちまう! もしも突入に失敗して、雪乃やアニス先輩が逃げるって事になっても、絶対に逃げ切れない。だから、砂月には町中で奴らを、広く浅く牽制して、なおかつ、監視する役目をしてほしいんだ」
砂月は頷くと胸を張り、屋上のフェンス越しに町を見下ろし、言った。
「いいよーっ! ……すっごくいい! アタシ、そういうの、大得意だから!」
これで、戦略は決まった。
ついに、開戦である。
街の人々を救うため、明日の朝7時までに、Ωを壊すのだ!
屋上のフェンスに張り付いて、ホテルの入り口を飛び出す二人の頭を見下ろし、空那は泣きたくなった。
あまりに小さな人影は、すぐに闇に紛れて見えなくなる。
やはり、四人で逃げるべきだったのではないか?
24人ならば、自分と雪乃の家族に、さらに友達何人かを連れて行ける。
そうすれば逃げた先で、新しく生活が始められたのではないか?
いいや、そんな選択をしても、一生後悔するだけだ!
だけど、もしかしたら……雪乃もアニスも……今夜、失うことになるかもしれない。
不安な心は、取り留めのないことばかり考える。
空那は、慌てて頭を振って……思わず考えそうになる『もしも』の未来を、振り払った。
二人はこれから死地に向かうというのに、自分はこんな所から見下ろすだけなのだ。
死地に送り込んだのは、他ならぬ自分なのに。
だったら、信じて進んでくれた彼女たちのためにも、自分の選択を信じなくて、どうするのだ!
背後で砂月が、ノートにサインペンで、印を書き加えている。
「んーっと。今んとこ、この辺までハリガネいないね……まっすぐ進めば、危険はなさそう!」
妹の砂月は、空那が見失った後も、しっかりと二人の居場所を把握しているようだった。
魔術によって、命令を下した生き物の視覚や聴覚を、覗くことができるんだとか。
自分の目で見れなくても、砂月を通せば、安否は知れる……空那にはそれが、せめてもの救いだった。
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