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序章 全てはここから始まった

0.裸から始まる

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──それは本当に突然だった。



「・・・・・・はい?」


上を見れば緑、下を見ても緑、横を向いても緑。ここにいれば視力が良くなるのではないか、と思う程の新緑である。

・・・・・・そう、正しく言うとここは──俗に言う森だった。

再度、私は周りを見渡す。──いまいち頭がこの状況に追いついていない。


「・・・・・・はい?」


沢山の木々に囲まれ、鬱蒼とした草の上。どうやら私はそこに座っているようだ。

たっぷりと時間をかけてソレを認識した後、


「・・・・・・はぁああああ!?」


思わず叫んでしまってから、慌てて口元を手で抑える。森の中であれば、野生動物もいるはずだ。見つかると危険である。

・・・・・・とりあえず深呼吸をして、暴れる心を落ち着かせると、次第に冷静な判断が出来るようになった。

よし、まずは状況を整理しようじゃないか。

頭の中で、自身の行動を振り返ってみようとした──が。


(あれ?  思い出せない?)


そこだけ靄がかかったように、行動どころか名前すら思い出せない。

唯一覚えていることといえば、自分はアラサーの独身女という何とも悲しい記憶だけだ。それと、都内に住む親から結婚の催促をされた記憶も・・・・・・。

・・・・・・なんだろう、何だか悲しい気持ちになってきた。

はあ、とついたため息が虚しく消える。

──これじゃあ、何も進まないじゃないか。

こんな森の中へ来た経緯すら分からず、現在は記憶障害が起きている真っ最中──私は途方に暮れた。記憶がないことによるショックよりも、命の危機に対する恐怖の方が大きい。

ひとまず、自分はアラサー独身女だったという記憶さえあればいいだろう。名前云々はゆっくり思い出せばいい。

──それよりも今はこの状況を何とかしないと。

思いの外冷静な頭をフル回転させて、私は考え込んだ。

連絡手段であるスマホは、常に鞄の中に入っている。そして、鞄が見当たらないということはつまり・・・・・・。


「あ、死んだわ私」


そういう事である。丸腰の一般人がこんな所で一生サバイバル生活など笑えない冗談だ。

その上、だ。今まで〝何故か森へと移動していた〟という状況に脳が追いつかなかった為に気がつかなかった・・・・・・が。

──何故だか身体がスースーする。

服が薄着だとかそういうレベルの話ではない。


「・・・・・・」


・・・・・・そもそも何も着ていなかった。

絶句した私の耳に響くのは、ギャーだとかよく分からない鳥の鳴き声。鳴き声というよりも悪魔の悲鳴の方が正しい気もする。
──いや、不気味な鳥のことはどうでもいい

念の為、私はもう一度自身の身体を見る。


「・・・・・・」


膨らみかけの胸。つるんとしてキメ細やかな肌にはシミなど一切なく、吸い付くような弾力もある。ムダ毛なんて無縁の世界の話だ。舐め回したいとさえ思えるものだろう。

間違いない、生まれたままの姿である──少女の。

・・・・・・少女の・・・


「・・・・・・え」


そう、幼さが残る少女の、だ。決して胸の垂れたヨボヨボの身体ではない。

・・・・・・一応確認するが、私は名前こそ思い出せないものの、自分がアラサー独身女というくらいは覚えている。それは間違いない。

が、視線を落とした先に見えたのは少女の裸。これはどういう事なのか。──私はどこかに移動したのではなかったのか?

頬をつねってみると、そこだけに小さな刺激が走る。ということは、夢ではなく現実ということ。

──・・・・・・願わくば夢であって欲しかった。そんなファンタジックな話あるわけが無い。

確かに読んだことはある。学生の頃は結構ハマっていた記憶もある。だが、それは現実世界から遠く離れた世界だったからだ。体験するなど誰が思いつくものか。

そうだそうだあるわけが無い、と私は強気に空を見上げる。葉のの隙間から見えた空、そこで強い光を放っていたのは──


雪だるまのように二つに重なった太陽だった。


・・・・・・完全に地球ではない何処かですありがとうございました。


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