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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
14.朝から始まる
しおりを挟む外からの強い日差しにより私は目覚めた。まだ眠気を感じる瞳を擦り、枕元に置いてあるはずのスマホを取ろうと手を伸ばしたが──その手は空を切る。代わりに触れたのはザラりとした土の感触。
寝覚めのぼんやりとした意識がようやくハッキリしてくる。そういえばここは地球ではなかったか、と重く感じる身体をゆっくり起こした。
「ふわぁ」
小さな欠伸をひとつ。眠気を感じるその仕草に反応したのはバーバチカだった。何やら忙しそうに身支度をしながら、エンシャの元へと駆け寄る。
「なーに、アンタは朝からのんびりしてんの!! ほら、朝ごはん出来てるから早く食べなよ」
そう言われて目の前を見れば、ダイレクトに目の前──土の上に生肉が置いてある。ここは原始時代かと大声でツッコミたい所だが、残念ながら竜の間ではこれが普通らしい。
前日の夕食──つまり、この世界においての初のちゃんとした食事もコレだった。初の食事が鮮度抜群の生肉である。しかも、凝視してみれば濃い乳白色の魔素も多く含まれている。
最初はもちろん抵抗があった。噛み切れないという心配もあったし、何よりも衛生面に大きく不安が残っていた。
しかし、出されたものを手をつけずに残すのは失礼。しかも、それはエンシャがわざわざ私の為にと狩ってきた獲物なのだ。
豪華な食事に目をキラキラさせる2人を前にして、断ることができるようか。・・・・・・いや、できない。
結局、恐る恐る一口齧った。その瞬間私に衝撃が走る。
有り得ない程の旨みが口いっぱいに拡がったのだ。
焼いた時の香ばしさなどはないものの、蕩けるような柔らかさで、直ぐに口の中で溶けてしまう。それでいて食べ応えは十分にあり、噛む度に肉汁が溢れ出す。
エンシャが言うには、魔素を多く含めば含む程、肉は美味しいらしい。
因みに、フェンリルの肉だそうだ。・・・・・・私は聞かなかったことにして食べることにした。
慣れというのは不思議なもので、それからはあれよあれよという間に、両手いっぱいだった巨大な生肉は口の中へと消えていった。・・・・・・もちろん、土はしっかりと落とした。
私はゴクリと唾を飲み込む。──目の前には昨日と同じ生肉。思い出すだけでも口内に唾が溢れてきた。
「い、いただきます」
両手で掴めば、べちょっとした生ぬるい血の感触。今回は躊躇せずに口に運ぶ。
まずは一齧り。・・・・・・途端に、昨日と同じ衝撃が再び私を襲う。変わらない美味しさだ。感動すら覚える。
もきゅもきゅと幸せに生肉を頬張っていると、身支度を終えたバーバチカが声をかける。隣には人間姿のエンシャもいた。今日はしっかりと服を着ている。
「ボクと母上様は少し出かけるから。いい? ぜーったいに外に出ないでよね!!」
腰に手を当てて念を押すバーバチカの言葉に、同意したエンシャも重ねて念を押す。
「この森は特に迷いやすいからな。死にたくないのなら、なるべくこの洞窟から離れないでくれ」
「・・・・・・わかりました」
やけにしつこい二人だ。そう思いながらも、私は素直にこくりと頷く。私としても、未知の領域である外には警戒している。何も無い限りは絶対に出ないだろう。・・・・・・何も無い限りは。
私がしっかり頷くのを見て、二人はどこかへと消える。一人となった洞窟で、私は土壁に寄りかかる。
どうしよう、本当にすることがない。この、しんと静まり返った洞窟内で一体何をすればいいのだろうか。
ここは本当に何もないようで、ぐるりと見渡しても土、土、土。
ちょっとした丘にちょっとした穴が空いてちょっとした洞窟が出来ちゃいましたよ、とそんなノリで作られたようなものである。
・・・・・・よし。
私は注意深く周りを確認し──洞窟の入口に立った。少し離れてはいるが、遠いという程ではない。遠く離れなければいいとエンシャも言っていたことだし。
今日は泉の前で日向ぼっこをしよう。
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