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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない
13.危惧から始まる
しおりを挟む一瞬、何を言われているのかナムザにはわからなかった。
『──何?』
『純血の希少魔族だ、角の模様は両方にあった』
『・・・・・・、バカ言うんじゃねぇ。おめぇだって、そいつが滅びたのは知ってるだろ? 見間違いだろうよ』
純血が姿を見せなくなったのは遥か昔の話。もはや御伽噺にもなっているその話は、誰でも知っているものだ。希少の血を持つ者ですら、僅かにしかいないというのに。
それ故に、ナムザは冗談だと笑い飛ばす。よく良く考えれば有り得ない話なのだ。
『・・・・・・むぅ、信じてもらえぬか。まあ、それも仕方の無いことだろうが・・・・・・』
『それに、もしそれが本当だったら相当やべぇ話だ。俺としては冗談として済ませたいねぇ』
言いながら、ちらとエンシャを横目で見る。それでも変わらない真剣な眼差しに、『・・・・・・本当の話、か』とナムザは緩めていた表情を引き締めた。
この話が本当ならば、これからの行動もガラリと変わってくる。同族に思念が漏れていないか、周りを警戒しながら、エンシャの顔を真っ直ぐに見る。
『──いいか、まずこの話は絶対に他にはするな。特に魔族、希少なども論外だ。いくら、可愛さを自慢したいと思っても言うんじゃねぇ』
『・・・・・・わ、わかった』
『それと、希少にもそいつの姿を見られるなよ。どういう訳か、あいつらは魔素が見えるらしいからな・・・・・・幻属性魔法をかけていても無駄かもしれねぇ』
希少魔族とは数度この森を治めるにあたって話をした事があるが、彼らの純血に対する態度は、所謂、一種の信者のソレのような狂気が感じられた。
希少の血を絶対とし、その割合が高ければ高いほど同族内での権力は大きなものとなる。
それを目の当たりにした時などは、しばらく震えが止まらなかった。──戦の最中ですら、それ程までの恐怖は感じられなかったというのに、だ。
見つかってしまえば、間違いなく厄介な事となる。信仰心などとは縁がない竜であるナムザでさえも、それぐらいは簡単に予想がついた。
それに──希少魔族は危険だ。
『おめぇならしねぇだろうが、俺らの力量じゃあ恐らく処分は無理だ。・・・・・・あの話の通りならな』
ナムザが指す〝あの話〟が何なのかはすぐに思い浮かぶ。伝説としても有名な話だ。
『ああ、そうだな。・・・・・・あれが誇張されたものでなければな』
『なら、尚更ここに置いておくのは無茶な話だ。ここはあまりにも魔族領に近すぎる』
『・・・・・・わかっている。いつまでもここに置いておくつもりは無い。頃合を見計らって遠くへ送るつもりだ』
『とにかく早くしておけよ、おめぇは情が移りやすいからなぁ』
わかっている、と再度ナムザに向けて返事をする。自身でもこの件に関しては警戒していた面もあったが、他者から言われるとそれだけ現実味が増した。
魔族と人間族、両族間の均衡を保つ為に一部の竜族が代々担うのが番人である。それは確かに仕事であり、私情を挟む余地はない。下手したらこちら側にも迷惑がかかるかもしれないのだから。
──ナムザが心配するのも無理はない。
ふぅっと一息つくと、エンシャは空を見上げる。日が完全に落ち、あたりは既に暗くなっている。そろそろ交代の時間だろう。
『ナムザ、そろそろ交代の時間じゃないのか?』
『・・・・・・そうだな、ちょっくらあいつらに伝えてくるわ。また明日な』
『ああ、また明日』
いつも通りの別れの挨拶。母親であるエンシャにも家庭がある。もちろん、ナムザにも可愛らしい家族がいる。他の竜だって・・・・・・。
(・・・・・・流石に日常は壊したくない、か。やはり元通りにするのが一番かもしれんな)
悲しそうに顔を歪めたエンシャが大きく翼を動かすと、その姿はあっという間に夜空へと消えていった。
◇◇
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