上 下
16 / 29
第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない

13.危惧から始まる

しおりを挟む

 一瞬、何を言われているのかナムザにはわからなかった。


『──何?』

『純血の希少魔族だ、角の模様は両方にあった』

『・・・・・・、バカ言うんじゃねぇ。おめぇだって、そいつが滅びたのは知ってるだろ? 見間違いだろうよ』


 純血が姿を見せなくなったのは遥か昔の話。もはや御伽噺おとぎばなしにもなっているその話は、誰でも知っているものだ。希少の血を持つ者ですら、僅かにしかいないというのに。

 それ故に、ナムザは冗談だと笑い飛ばす。よく良く考えれば有り得ない話なのだ。


『・・・・・・むぅ、信じてもらえぬか。まあ、それも仕方の無いことだろうが・・・・・・』

『それに、もしそれが本当だったら相当やべぇ話だ。俺としては冗談として済ませたいねぇ』


 言いながら、ちらとエンシャを横目で見る。それでも変わらない真剣な眼差しに、『・・・・・・本当の話、か』とナムザは緩めていた表情を引き締めた。

 この話が本当ならば、これからの行動もガラリと変わってくる。同族に思念が漏れていないか、周りを警戒しながら、エンシャの顔を真っ直ぐに見る。


『──いいか、まずこの話は絶対に他にはするな。特に魔族、希少なども論外だ。いくら、可愛さを自慢したいと思っても言うんじゃねぇ』

『・・・・・・わ、わかった』

『それと、希少にもそいつの姿を見られるなよ。どういう訳か、あいつらは魔素が見えるらしいからな・・・・・・幻属性魔法をかけていても無駄かもしれねぇ』


 希少魔族とは数度この森を治めるにあたって話をした事があるが、彼らの純血に対する態度は、所謂いわゆる、一種の信者のソレのような狂気が感じられた。
 希少の血を絶対とし、その割合が高ければ高いほど同族内での権力は大きなものとなる。

 それを目の当たりにした時などは、しばらく震えが止まらなかった。──戦の最中ですら、それ程までの恐怖は感じられなかったというのに、だ。

 見つかってしまえば、間違いなく厄介な事となる。信仰心などとは縁がないドラゴンであるナムザでさえも、それぐらいは簡単に予想がついた。

 それに──希少魔族は危険だ。


『おめぇならしねぇだろうが、俺らの力量じゃあ恐らく処分は無理だ。・・・・・・あの話・・・の通りならな』


 ナムザが指す〝あの話〟が何なのかはすぐに思い浮かぶ。伝説としても有名な話だ。


『ああ、そうだな。・・・・・・あれが誇張されたものでなければな』

『なら、尚更ここに置いておくのは無茶な話だ。ここはあまりにも魔族領に近すぎる』

『・・・・・・わかっている。いつまでもここに置いておくつもりは無い。頃合を見計らって遠くへ送るつもりだ』

『とにかく早くしておけよ、おめぇは情が移りやすいからなぁ』


 わかっている、と再度ナムザに向けて返事をする。自身でもこの件に関しては警戒していた面もあったが、他者から言われるとそれだけ現実味が増した。

 魔族と人間族、両族間の均衡を保つ為に一部の竜族が代々担うのが番人である。それは確かに仕事であり、私情を挟む余地はない。下手したらこちら側にも迷惑がかかるかもしれないのだから。

 ──ナムザが心配するのも無理はない。

 ふぅっと一息つくと、エンシャは空を見上げる。日が完全に落ち、あたりは既に暗くなっている。そろそろ交代の時間だろう。


『ナムザ、そろそろ交代の時間じゃないのか?』

『・・・・・・そうだな、ちょっくらあいつらに伝えてくるわ。また明日な』

『ああ、また明日』


 いつも通りの別れの挨拶。母親であるエンシャにも家庭がある。もちろん、ナムザにも可愛らしい家族がいる。他のドラゴンだって・・・・・・。


(・・・・・・流石に日常は壊したくない、か。やはり元通りにするのが一番かもしれんな)


 悲しそうに顔を歪めたエンシャが大きく翼を動かすと、その姿はあっという間に夜空へと消えていった。


◇◇
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉

ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。 生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。 ………の予定。 見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。 気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです) 気が向いた時に書きます。 語彙不足です。 たまに訳わかんないこと言い出すかもです。 こんなんでも許せる人向けです。 R15は保険です。 語彙力崩壊中です お手柔らかにお願いします。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...