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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない

10.黒から始まる

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 相も変わらずバーバチカの身体を巡り、空気のように周りに存在する白色。吸っても何も起きないし、触っても害はない。
 ならば、自分にも巡っているのだろうか。そう思って視線を落とす。

 途端、私はその行動を後悔した。


 ──黒。全てを呑み込むかのような漆黒。・・・・・・それなのに、勢いよく巡っているのは分かる。
 自身の身体にあったのは、他の白と一線を画す全く違う存在。

 そこだけが異様に見える。


「ね、ねえ、ちょっと・・・・・・どうしたのさ?」


 自身の身体を見た途端固まった私に、バーバチカが恐る恐る声をかける。先程までは笑っていた少女が突然表情を失ったのだ。それを目の当たりにすれば、誰であっても心配せざるを得ない。

 そんなバーバチカの困惑と心配が混じった雰囲気は私も感じていた。しかし、目の前のソレから目が離せないのである。・・・・・・ほんの少しでも離してしまったら、ソレに呑み込まれてしまう──そんな気がする。

 視線は動かさずに口を開いた。無意識に声が震える。


「ち、チカちゃん・・・・・・」

「うん?」

「空気中にもあって、身体の中も巡っているものって何かわかる?」


 バーバチカは突然の問いかけに、はあ? と一瞬怪訝な顔をしたものの、考える間もなくあっさりと答えを出した。


「空気中にもあって身体の中を巡っているのなら、そりゃあ魔素じゃないの? アンタは希少魔族だし、見えているのが普通だよ」

「魔素?」


 普通と言われ私は顔を上げる。なんだ、ここまで警戒する必要はなかったのか。そう思った途端に張り詰めていた緊張が解けた。ほぅっと息を吐く。

 それにしても初めて聞く言葉だ。魔力だとか魔法だとかの有名な知識は昔に読んだ小説から知っているものもあるが、魔素という言葉は初めて聞いた。

 当然のように聞き返した私に、バーバチカは恐る恐るといった感じでこちらの様子を窺う。


「・・・・・・まさか、こんなことも知らないとか・・・・・・?」

「うんっ」


 これ以上にないほど元気よく答えれば、はあぁーとバーバチカの深い深いため息。それ程までにバーバチカは呆れていた。

 魔素といえば、魔法を扱う上で基本中の基本の言葉。魔素を練ることで魔力が作られ、精霊の補助である詠唱によって魔力が目的のある魔法へと変わっていく。それは、どの種族でも魔法を扱うのならば共通のものである。

 魔素という言葉すら知らないということは、つまり、魔法を行使した事がないということ。もしくは──

 そこでバーバチカは思い出した。


「・・・・・・あーそういや、記憶喪失なんだっけ」


 そういえばそんな事も聞いたなと頬をかく。あまりにも自然に接していたものだから、すっかり忘れていた。程度にもよるが、それならば話は別である。魔法という言葉すら覚えていない可能性もある。

 バーバチカはあわれんだような視線を向けた。記憶喪失だと色々大変そうだと思ったのである。
 その視線を受け、私は微妙に眉をひそめた。


「・・・・・・何だか、今すごく同情された気がする」

「気のせい気のせい。じゃ説明するから・・・・・・──魔素は魔力の前の状態。普通に存在しているし、保有する魔素量が違っても死者以外はみーんな体内で魔素が巡ってんの」


 簡単に説明を終えると、それが魔素だとバーバチカが最後に締めくくる。


「・・・・・・なるほど、魔力の元が魔素か」

「希少種族には見えるらしいよ、魔素のたぐいは。ボクはそこまで詳しくないけど・・・・・・まあ、ただ見えるってだけっぽい」


 ふうん、と自身に巡る黒を見ながら私は生返事を返す。ただ見えるだけでも何か役立つかもしれない。

 本当はこのような情報は同族から聞き出したい所ではある。その方が量も多いだろうし、質も良いだろう。あわよくば支援なども受けたいが、温厚な種族とは限らないので却下だ。

 それに、ここもいつまでいられるか分からない。もし出て行くとなった場合は、同族である人間の国へ向かう。これは、エンシャから魔道具マジックアイテムのネックレスを貰った時点で決めていた。



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