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第1章 異世界に来たのなら、楽しむしかない

9.困惑から始まる

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「・・・・・・大丈夫か?」


 はっと目覚めた私の目に入ってきたのは、何やら神妙な面持ちで座るバーバチカの姿だった。八の字に眉をひそめて、私の顔を覗き込んでいる。

 バーバチカがこんな表情になるなんて、一体何があったのだろう。一億年に一度の天変地異でも起きたのだろうか──そんな馬鹿馬鹿しい事を考えながら私は身体を起こす。

 そこで、初めて自身の身体の変化に気づいた。


(──おかしい)


 頭が酷く重い。その上何故か、身体の節々にも痛みがあるようだ。

 ・・・・・・それだけではない。

 おまけだと言わんばかりに、白い霧のような何かが視界を覆っているではないか。──だが、濃霧のように見えにくくなるというわけではない。
 意識して見た時にソレは認識されるらしく、サッと見た光景は至ってクリアなままだ。

 こんなものは初めて見た。


(・・・・・・何だこれ?)


 よくよく見ると、バーバチカの身体にも白いモヤが血液と同じように全身を巡っている。
 何だろうとじっと見つめていると、それを不審に思ったバーバチカが不機嫌そうな顔をする。コウに真剣な顔で凝視され、彼はなんとも言えない気持ちになっていた。


「・・・・・・何マジマジと見てんの」

「えっ、あ。ううん、ごめん・・・・・・」


 慌てて素直に謝れば、別にいいけど、とバーバチカからの許しの言葉。
 彼の態度も初めて会った時よりは軟化している。それが少し嬉しくてクスリと笑ってしまった。それを見たバーバチカが、声を荒げて反応する。


「な、何笑ってんの!!」


 精一杯そう吠えるも、赤い耳の端と頬がその勢いを無くしていた。誰の目にも彼が照れていることは明白だ。当然、それは私でも分かっている。
 ニコニコと満面の笑みで言った。


「──いやぁ、相変わらず可愛いなって」

「ふ、ふん!! ボクが可愛いなんて当たり前の事でしょ?」


 普通ならばナルシスト発言に取られる言葉も、バーバチカが言えばとても自然な発言に聞こえるのだから不思議だ。うんうん、と私もその台詞に賛同する。


「チカちゃんは本当に女の子みたいだね」

「・・・・・・チカ、ちゃん・・・・・・?」


 途端、得意気だったバーバチカが困惑した表情を作った。
 これまではフルネームでしか呼ばれなかった為、このような呼び方には慣れておらず、戸惑ってしまったのである。しきりに目を泳がし、どう反応すればいいか迷っているようだった。

 私はその困り顔を、これは珍しいと眺める。出会ってから今まで偉そうな態度ばかりを見てきたので、何だか新鮮である。
 ずっと見ていたい気もするが、バーバチカの眉が上がり始めたのを見て、危ないと目を逸らす。これだからバーバチカの機嫌をとるのは難しい。

 彼の機嫌直しも兼ね、可愛らしい子供特有のにっこりスマイルで説明した。


「うん、呼びにくいから省略したの。可愛いでしょ?」


 『バーバチカ』の『チカ』を取って『チカちゃん』だ。『バー』の方を取るよりはマシだろう・・・・・・絶対。
 当の本人も満更でもなさそうで、「チカちゃん・・・・・・チカちゃんか・・・・・・」と繰り返し呟いている。

 その顔を下から覗き込んだ。ビクリとバーバチカが僅かに身を引く。


「気に入った?」

「・・・・・・っボクはアンタと仲良くする気は無い!! 気安く名前を呼ぶな!!」


 激しく拒否をする声を聞いて、あらら、と私は寄せた身を戻す。気に入ってくれたかと思ったが、見当違いだったのかもしれない。
 ・・・・・・では、そのほんのりと赤い頬は何なのだろうか。


「呼んじゃだめ? どーしてもだめ?」

「ど、どうしてもってわけじゃ・・・・・・ない、けど・・・・・・」


 尚もしつこく聞くと、バーバチカはモゴモゴと語尾を濁す。やはり満更でもなかったらしい。あと一押しと私はさらに声を強めた。


「じゃあ、ほんとに呼んでいい?」

「・・・・・・、好きにすれば」


 不服そうでもあるが、告げられたのは了承の言葉。私は心の中でガッツポーズを取る──勝った。

 別にだから何なのだという話だが・・・・・・何だろうこの達成感は。とにかく、本人公認の呼び名が決まったのである。嬉しいかと聞かれれば、素直に嬉しい。

 謎の幸福感を味わっていると、ふと白いモヤの存在を思い出し、ニヤけた顔が真顔に戻る。そうだ、結局本題は何も進んでいないじゃないか。


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