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序章 とある下働きの少女
12.その少年が持つ箱は①_2
しおりを挟む横目で少年を見ると、目を見開き驚いた様子で私たちを見ていた。箱を弄っていた手も止まっている。
幸いにも発動範囲は狭く、メシア以外は入っていなかった為被害は特にない。私は強引にメシアの手を引くと、まだ驚いたまま固まっているロトの元へと向かう。
何故他の人ではなく、メシアを狙ったのか。……その理由はわかっている。そして、私は後悔していた。
(多少無理してでも、魔素隠しの魔道具を用意しとけばよかったな……)
あの中では一番であろう魔素量を持つメシア、そして少年が使った魔法は魔素吸収。
魔素量が見える魔法はこの世界にないと記憶しており、魔道具も必要ないと……しかし、それは間違いだったか。
──あの少年は間違いなく、他人の魔素量が見えている。
魔素吸収は、その名の通り他者の魔素を吸い取る魔法だ。
主に魔法を使う魔術師相手に有効である。魔素を全て吸い取れば対象者は暫くの間気絶するので、魔術師以外にも使える便利な魔法……と思われがちだ。
だが実際に吸い取る量は少なく、上級魔法という事もありこちらが使う魔力量の方が圧倒的に多い為、使い手は殆どいない。
──だが、少年が発動させた魔法には増幅させる補助魔法も、それと併用する形で組み込まれていた。
過度の魔素吸収となると、もしかしたら身体に何か影響が出てしまうかもしれない……まあ、こんな所で発動させるのだ、加減はしているだろうが……無視することは私には出来なかった。
……複数の魔法同時発動はかなり高度な技術な上に、かなりの魔力量を要する。私のような例外を除き、間違っても子供が出来るような代物では無い。
(それに、見た感じ無詠唱っぽいんだよね……何者なんだろあの子)
ますますその正体が気になった。もし敵となったら厄介な相手になる気がする。
ちらと少年を見返すと、僅かに笑ったような気がした。が、すぐに踵を返して去る。その背中を見送りながら、私はため息をついた。
……偶然、としてはこの行動は可笑しかったかな。何だか嫌な予感がする。
繋がれた手に目を落としたまま止まっていると、メシアがそれを解いて『どうしたの?』
『おてあらいいかないの?』
「あ、うん。行こっか……ごめんね、いきなり」
答える代わりに笑みを浮かべるメシア。ぎゅっと手を繋ぐ。……あの少年のことも気になるけど、それは後だ。そう、向こうから何かしてきたら考える事だ。
それを見ていたロトの目が見開かれる。立った耳がヒクヒク動く。視線の先はメシアが。
──そういえば、メシアをちゃんと表に出すのはこれが初めてだったな。
通りで聞かれると思ったらそれだったか。自分自身で納得すると、私はメシアと並んでロトを見上げる。
「あれま、そちらの子って……」
「うん、私の家族。メシアって言うの……あ、でも男の子だよ?」
「へぇ~こりゃまた美少女、いや美少年……羨ましいねぇ。アタイも美少女に生まれりゃ、別の人生を歩んでたかもしれんね」
最後に屈んでメシアの頭を軽く撫でると、「さ、付いてきてくだせぇ」と私たちの前を歩く。……その背中がどことなく寂しげなのは私の気のせいか。
案内をされるがままに個室へと入る。もちろん1人でだ。
……が、元々尿意がない為することがない。少ししたら出ようと思っていると、外から2人の男性の話し声が聞こえてきた。
恐らくは近くのテーブルからだろう。聞き流そうとしたが、話の中から気になる単語が聞こえてきた。
「──最近、城内で異世界人を召喚しようとしてるって話……おめぇ、知ってっか?」
「いーや、しらねーな。むしろ何でお前が知ってんだよ」
「そりゃあ、特別な伝手で……ってんなこたぁどーでもいいんだよ。これ聞いてどう思う?」
「どうって言われてもなぁ……別にいんじゃね? 俺らには関係ないだろーし」
「ばっかおめぇ、もしそれが女だったら……それも──美少女」
その一言にもう1人の男性が反応した。バンッとテーブルを強く叩いた音がする。
「そりゃもうお近づきになるしかねーだろ!!」
「だよなぁ!? ……それでよー、良い情報があるんだが……」
そこで話は途切れた。恐らくは、ひそひそ話になったのだと思われる。仕方なく私はお手洗いから出た。
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