上 下
19 / 29
序章 とある下働きの少女

11.昨日の約束を②_2

しおりを挟む

 女性の台詞の中に引っかかる言葉があった。

 真珠魚パールフィッシュ自体かなりレアな高級魚で、生息地は特定の海の奥底。数が少ないこともあって、見つけるのはかなり困難だ。しかし、真珠に似た美しい鱗は世の貴族や女性を虜にし、相当な高値で取引されている。
 そして、決まってそれは生きたまま売られているのだ。主な用途は観賞用として。買い手は真珠魚パールフィッシュの泳ぐ優美な姿を楽しむ。

 そう、生きたまま売られる理由が、今女性が憤慨している内容そのものである。


 ──真珠魚パールフィッシュの鱗の保存方法は未だ判明していない。


 普通に剥ぎ取り袋か何かに入れっぱなしだと、鱗の艶は失われ厚みは無くなり、すぐにボロボロと崩れてしまう。
 あの女性のように泣く羽目になるのだ。

 彼女が指す本に書いてあった方法というのは確実に嘘。女性には気の毒だが、鵜呑みにしたのもよくないと思う。

 私は脳内にある引き出しの中を漁り、目的の情報を見つけ出した。

 ──それは、かつての記憶。


(……鱗の輝きが失われるのは、死んだ事によって細胞組織が破壊されるせい。または、剥がされる事で身体から離れたせい。それらを防ぐ為には、瞬間冷凍をしそれを永続させてからの剥ぎ取りが最も効果的……かな)


 まさかこんな事に役立つとは思わなかった。……自分が
 些かピンポイント過ぎるかもしれないが、途切れ途切れに思い出すのは確かに自分の身体の仕組みだ。本人だったからこそわかる情報である。


(1000の内の殆どが動物とか魔物だったからね……他にも何か前世になっていたのかも)


 ほとんど忘れていたも同然だった。真珠魚パールフィッシュというキーワードがなければ、思い出せなかっただろう。


 瞬間冷凍の後、氷属性の永続魔法を使った後の剥ぎ取りで鱗のみの保存が可能──非常に価値のある情報で、それが本当だと証明したならば高額となるのは間違いないだろう。一躍有名人である。

 だが、それは無理だ。……なぜなら、氷属性魔法自体存在していないから。
 それに永続魔法なんて、この世界の魔法技術では無理な話だろう。ずっと一定量の魔力を供給しなければならない為、使い手が限られるという問題もある。

 発表してみたらしてみたで、魔法学界に様々な衝撃を与えること間違いなしだ。

 ……まあ、これらの問題はあくまでもこの世界に限った話で、使い手が限られる永続魔法という点以外──瞬間冷凍ならば容易に出来ると思われる。


(……でも誰にも教えないし、やらないけどね)


 自分の中のルールとして、前世で学んだ技術等は公に広めたり見せたりしないようにはしている。──魔法関係は特に。

 やむを得なく使う場合は、短時間に収め記憶を消去する……が、記憶操作系の魔法を使う分負担も大きい為、魔法自体極力使わないのが1番だ。……こっそり使うという手もあるが。

 前世を利用して俺TUEEEE……そこから幸せな人生を送れると思ったら大間違いである。そう簡単に行くものか。


「ん、美味しい」


 遂には男を置いて出ていった女性客を横目に、私は最後の一切れを頬張ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とりあえず天使な義弟に癒されることにした。

三谷朱花
恋愛
彼氏が浮気していた。 そして気が付けば、遊んでいた乙女ゲームの世界に悪役のモブ(つまり出番はない)として異世界転生していた。 ついでに、不要なチートな能力を付加されて、楽しむどころじゃなく、気分は最悪。 これは……天使な義弟に癒されるしかないでしょ! ※アルファポリスのみの公開です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】山猿姫の婚約〜領民にも山猿と呼ばれる私は筆頭公爵様にだけ天使と呼ばれます〜

葉桜鹿乃
恋愛
小さい頃から山猿姫と呼ばれて、領民の子供たちと野山を駆け回り木登りと釣りをしていた、リナ・イーリス子爵令嬢。 成人して社交界にも出たし、今では無闇に外を走り回ったりしないのだが、元来の運動神経のよさを持て余して発揮しまった結果、王都でも山猿姫の名前で通るようになってしまった。 もうこのまま、お父様が苦労してもってくるお見合いで結婚するしか無いと思っていたが、ひょんな事から、木の上から落ちてしまった私を受け止めた公爵様に婚約を申し込まれてしまう。 しかも、公爵様は「私の天使」と私のことを呼んで非常に、それはもう大層に、大袈裟なほどに、大事にしてくれて……、一体なぜ?! 両親は喜んで私を売りわ……婚約させ、領地の屋敷から王都の屋敷に一人移り住み、公爵様との交流を深めていく。 一体、この人はなんで私を「私の天使」などと呼ぶのだろう? 私の中の疑問と不安は、日々大きくなっていく。 ずっと過去を忘れなかった公爵様と、山猿姫と呼ばれた子爵令嬢の幸せ婚約物語。 ※小説家になろう様でも別名義にて連載しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...