20 / 29
序章 とある下働きの少女
12.その少年が持つ箱は①_1
しおりを挟む──伊達に複数の人生を歩んでいるわけではない。今世こそは何事もなく、平和に、楽しく!! ……寿命を終えたいのだ。
相変わらずの喧騒を保つ店内を見渡しながら、私は思う。その時、今までじっと座っていたメシアが私の袖を引いた。
黙ってある一点を指さす。それを見て私は少し驚いた。
「……あれ? 珍しいね。──こんな時間に子供1人なんて」
私と同年齢くらいか。灰色の髪の隙間から見える蒼い瞳がとても印象的な少年だ。……服装からして、魔術師だろうか。
誰かの連れ添いというわけでもない。迷っている風でもない。普通に客としてテーブルにつき料理を待っているようだ。
明らかに夜の雰囲気とは場違い。チラチラと周りもその少年を見ている。
……が、当の本人は慣れているのか気にしていないようだ。懐から何かを取り出し両手で弄っている。遠目からだとよくわからないが、小さい正方形の箱のようだ。
(玩具かな? ……もしかしたら、この世界にもルービックキューブみたいな物があるのかも)
今度ビアンカさんに聞いてみよう、そう決めて目をそらそうとした時だった。ほんの一瞬、目の端で大きく広がった光を捉える。
私はすぐに視線を戻し、その正体を確かめた。
それは前世でもよく慣れ親しんだもの。
「……魔、法」
ポツリと声を漏らした私に注目が集まる。だが、私は消えた今の光を追うように、少年に釘付けとなっていた。
……彼は何も無かったかのように、箱のような何かを弄っている。
あの魔法陣は確かに魔法発動時特有のものだった。まだ幼さが残る少年が魔法を使用した。……可能性がないわけではない。
だが、あの大きさは間違いなく第5級以上の魔法……少なくとも上級魔法以上に匹敵するものだ。そして、私くらいの子供が扱える魔法といえば第1級魔法程度。初級魔法が使えたら良い方である。
もし、素の状態でこの世界の上級魔法を使え、と言われたら私の場合すぐさま横に首を振る。私がまともに魔法が使えているのは、身体強化と他世界の魔法のお陰だ。
(もしかしてあれは魔道具……? あの箱に何か秘密がありそう……)
いずれにせよ、近づいてみないことには確認しようがない。私は客と談笑するビアンカに近寄りこっそりと囁く。
「あの……ビアンカさん、お手洗いに行ってきてもいいですか?」
「ああ、別に構わんぞ。──ロト、リィンをお手洗いまで連れ添いで行ってきてやれ」
ビアンカが料理を運び終わったロトに声をかけると、彼女のネコミミがピクリと動いた。盆を脇に抱え、満開の花が咲く笑みで敬礼をする。
「あいあーい、アタイにとっちゃあそれくらいお易い御用でさぁ。さ、行きやしょーぜ」
「うんっ、ありがとう」
カウンターから出るなという約束なので、やむを得なくお手洗いに行くフリをするだけだ。ロトには申し訳ないが、本当に行きたいわけではない。
偶然にもトイレに続くドアの近くには、少年が座るテーブルがある。ほんの少しの間でも近づく事ができるのだ。
「……《身体強化Ⅰ》」
ロトの後ろをついて行きつつ小声で呟く。これで何かあってもすぐに対処できる。
私は少年の手元をちらりと盗み見た。……見た目は何の変哲もない箱だ。それを少年は両手で包み込む。
そして、真横で光が弾けた。
一瞬ではあるが、今度はしっかりとその模様が目に入り──すぐにその効果と範囲、そして発動時間が頭に浮かぶ。その範囲にいる人物を確認した瞬間、私の足が動いた。
突然私が反対方向に向かったのを見て、ロトは焦り顔で振り返り、
「ちょっ、キミっ……どこ行くのさ!?」
「ビアンカさんのとこっ!!」
それだけを言い残すと、解除、と一言。発動していたのは僅かな時間だった為、疲労もほとんど無い。
発動する数秒前、私は狙われているその人物の手を引いた。手を引かれながらも、唐突な誘いに不思議そうな表情をするのは。
「──メシアっ! やっぱ一緒にいこ?」
発動魔法の範囲。それは──メシアを中心としていた。
0
お気に入りに追加
698
あなたにおすすめの小説
アイテムボックスだけで異世界生活
shinko
ファンタジー
いきなり異世界で目覚めた主人公、起きるとなぜか記憶が無い。
あるのはアイテムボックスだけ……。
なぜ、俺はここにいるのか。そして俺は誰なのか。
説明してくれる神も、女神もできてやしない。
よくあるファンタジーの世界の中で、
生きていくため、努力していく。
そしてついに気がつく主人公。
アイテムボックスってすごいんじゃね?
お気楽に読めるハッピーファンタジーです。
よろしくお願いします。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
女A(モブ)として転生したら、隠れキャラルートが開いてしまいました
瀬川秘奈
ファンタジー
乙女ゲームを中古ショップへ売り払ったすぐあとに、ベタな死に方をした私が次に目覚めたら、死ぬ直前に売ったゲームの世界に転生してました!
生前決して叶わなかっためくるめく恋愛ファンタジーが始まると胸を踊らせて覗いた水面、私の顔には鼻と口しかありません……。
残念ながら私、モブの中のモブ【女A】に転生した模様です。
更に、何故か劇中に出てくる隠れキャラクターに気に入られ、付き纏われているからたまったもんじゃありません。
モブだからこそ出来ることを駆使して、多少卑怯な手を使ってでも、モブからせめて脇キャラくらいにはなれるよう、目指せちゃんとした顔面!目指せ個人名!目指せCv!
今日から私異世界で、のし上がり生活はじめます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
愛されない王妃は王宮生活を謳歌する
Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。
政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。
まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。
私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡
【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】
恋愛要素の強いファンタジーです。
初投稿です。
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる