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序章 とある下働きの少女
8.夜に②_2
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◇◇
窓から部屋に戻り、出た時と同じようにそっと布団に潜り込んだ……つもりだったが。
ぎゅっ、と服の裾を握りしめられる感覚に、上半身を軽く起こした。するりと布団が下がる。
「……」
「あ、ごめん。……起こしちゃった?」
眠そうに目を擦りながらも、ゆっくりと起き上がるメシア。まだ焦点の合わない視線でこちらをじっと見つめる。
そして、何やらすんすんと鼻をひくつかせると、無意識に隠していたある一点を指さす。
そこは、血が垂れてしまった場所。
私は、ぱっ、と隠していた腕を退け笑顔を作る。
「え? ああ、これ……散歩してたら、怪我しちゃって。でももう大丈夫だよ。私が治癒魔法を使えること、メシアは知ってるでしょ?」
そう言っても、メシアは何処か納得していないようだった。僅かに目尻を下げてじっと見つめてくる。
彼なりに心配してくれているのだろう。私は再度、大丈夫だよ、と笑いかけて横になる。
「……もう寝よ。私ちょっと疲れちゃった」
身体強化魔法はまだ解除していない。メシアが寝るまでは、と私はぐっと我慢をする。なるべく彼には心配をかけたくないのだ。見せたくないという一心で、解除を先延ばしにする。
くしゃりと頭を撫でると、渋々といった感じでメシアも布団を被った。そのまま撫で続ければ、すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。
ふぅ、と小さく息を吐いて手を離す。メシアの寝つきが良くて本当に良かったと思う瞬間である。
(これでようやく……)
解除、と小さく呟く。──刹那、私の身体は大きく跳ねた。襲いかかって来た衝撃に、私は和らげようと必死に身体を縮こませる。
「ぅ、ぁ……」
神経が焼かれたような鋭い痛みが身体中に走る。声を漏らさないよう口元を手で押さえるが、隙間から呻き声が漏れてしまう。
身体が痛い、熱い。千切れる。
「ふ、ぐっ……ぁ」
身体を引き裂かれるような、そんな感覚。……何度も経験しているが、これは慣れるようなものではない。
生理的に流れた涙が枕を冷たく濡らす。私はぎゅっと自分自身を抱きしめる。
中を暴れ回る痛みは2、3日消えてくれないだろう。もちろん時間が経てば和らぐだろうが……。これは明日の仕事はお休みになるかな、と布団の中で小さく笑った。
だが、後悔はしていない。このギルドに何かあったらあの2人に迷惑がかかってしまうからだ。私は仰向けになって瞳を閉じる。
(……守れてよかったな)
そしてそのまま気絶するように眠りに落ちたのだった。
窓から部屋に戻り、出た時と同じようにそっと布団に潜り込んだ……つもりだったが。
ぎゅっ、と服の裾を握りしめられる感覚に、上半身を軽く起こした。するりと布団が下がる。
「……」
「あ、ごめん。……起こしちゃった?」
眠そうに目を擦りながらも、ゆっくりと起き上がるメシア。まだ焦点の合わない視線でこちらをじっと見つめる。
そして、何やらすんすんと鼻をひくつかせると、無意識に隠していたある一点を指さす。
そこは、血が垂れてしまった場所。
私は、ぱっ、と隠していた腕を退け笑顔を作る。
「え? ああ、これ……散歩してたら、怪我しちゃって。でももう大丈夫だよ。私が治癒魔法を使えること、メシアは知ってるでしょ?」
そう言っても、メシアは何処か納得していないようだった。僅かに目尻を下げてじっと見つめてくる。
彼なりに心配してくれているのだろう。私は再度、大丈夫だよ、と笑いかけて横になる。
「……もう寝よ。私ちょっと疲れちゃった」
身体強化魔法はまだ解除していない。メシアが寝るまでは、と私はぐっと我慢をする。なるべく彼には心配をかけたくないのだ。見せたくないという一心で、解除を先延ばしにする。
くしゃりと頭を撫でると、渋々といった感じでメシアも布団を被った。そのまま撫で続ければ、すぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。
ふぅ、と小さく息を吐いて手を離す。メシアの寝つきが良くて本当に良かったと思う瞬間である。
(これでようやく……)
解除、と小さく呟く。──刹那、私の身体は大きく跳ねた。襲いかかって来た衝撃に、私は和らげようと必死に身体を縮こませる。
「ぅ、ぁ……」
神経が焼かれたような鋭い痛みが身体中に走る。声を漏らさないよう口元を手で押さえるが、隙間から呻き声が漏れてしまう。
身体が痛い、熱い。千切れる。
「ふ、ぐっ……ぁ」
身体を引き裂かれるような、そんな感覚。……何度も経験しているが、これは慣れるようなものではない。
生理的に流れた涙が枕を冷たく濡らす。私はぎゅっと自分自身を抱きしめる。
中を暴れ回る痛みは2、3日消えてくれないだろう。もちろん時間が経てば和らぐだろうが……。これは明日の仕事はお休みになるかな、と布団の中で小さく笑った。
だが、後悔はしていない。このギルドに何かあったらあの2人に迷惑がかかってしまうからだ。私は仰向けになって瞳を閉じる。
(……守れてよかったな)
そしてそのまま気絶するように眠りに落ちたのだった。
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