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序章 とある下働きの少女

1.前世(※ただし殆どが虫や動物や魔物)

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 ──1000個だ、1ではなく1000。何のことだと聞かれるだろうが、こんな馬鹿げた話言えるはずがない。


 まだ12歳の少女に1000の人生が既に詰め込まれているなんてこと、誰が信じるだろうか。中身は豊富な経験による知識が詰まっていると誰が考えるだろうか。
 ……ほんっっとうに馬鹿げた話だ。嗚呼、本当に……本当に馬鹿げている。



 ──私に1000の前世の記憶があるだなんて。



◇◇


 〝前世〟という言葉がある。


 当然、その存在を信じない人もいるだろう。何言ってんだこいつ、と呆れる人もいるだろう。以前の私のように、そもそも考えたことすらない人もいるかもしれない。

 しかし、信じざるを得ない出来事が実際私の身に起きた。それは5歳の時、なんの前触れもなく流れ込んだ映像。


 前世、だった。


 地球という世界で、私は1人の少女として生きた。……残念なことに、その命は花の女子高生時代が終わる前に消えてしまったけれど。

 唐突に前世を思い出した私は、当然困惑した。夢だと信じて疑わなかった。この世界とは明らかに違う世界。……それでも、姿は違えどそこで生きていたのは間違いなく私で。

 思い出した途端、脳内に溢れかえる膨大な情報量に身体が悲鳴をあげる。両親や友人の名、培った経験、暖かな思い出、そして酷く残酷な結末──幼い身体には負担が大きかったようで、その日1日は高熱にうなされた。

 前世を思い出したからといってそう長くは引き摺らない。次の日には、「ああこんな人生もあったか」と一つの経験として私は受け入れていた。
 変わったことといえば、私の精神年齢が著しく成長したことくらいか。

 ……よく狂わなかったと褒めてやりたい。普通はトラウマものだが、そこまでグロテスクではなかった為か、幼いながらも精神崩壊とまではいかなかった。

 すぐに日常が戻ってくる──そう思っていた。……が、次の日もソレはやってきた。
 突然起こるブラックアウト、映画のように流れる記憶、最後に終わりの瞬間を見届ける。そうしてベッドの上で目が覚める。

 今回も別の世界だ。この世界とは酷似していたが、何処か違っていた。……その世界で私は男性として魔術師となっていた。

 中年のおっさんの汚い死に様を最後に、悪夢から目覚めた時は流石に応えた。加工無しのグロテスク画像だ。肉体的というよりも精神的に、くる。
 一晩寝てもその死の記憶は焼き付いていた。

 ──……ここまででも既に嫌な予感はしてたのである。案の定その予感は的中していた。そして気づいた。



 私の前世は1つだけではない、ということに。……前世の前世、そのまた前世までもあるということに。



 次の日も気を失った。その次の日も、またその次の日も。
 ようやく終えたのが、8歳になる前。日に日に直接記憶される部分は少なくなっていたものの、少なくとも最期の姿と名前、職業くらいは目覚めた後も覚えていた。

 相変わらず、その度に具合は悪くなった。しかし、何かの折に思い出される経験による知識は役に立つ。我慢した甲斐があったのかもしれない。

 私はいつの間にかグロ画像にも慣れてしまっていた。凄惨な最期も冷静に受け止めることが出来るようになってしまった。中には虫として生きた時もあった。
 ……いやむしろ、虫や動物の方が多かったかもしれない。多分八割方ソレだ。

 それでも共通する部分があった。そう、全ての人生に、だ。


 ──……全て、殺されていた。他人の手によって。


 衰弱死なんてものは無い、病死なんてものは無い。全員が健康体で、全員が変わり果てた姿となって死んでいった。見るも無残な死体だ。

 最期以外は様々だ。幸せだった時もあれば苦難もある。当然ながらそれは十人十色だった。

 が、最期は必ず誰かに殺される。全くの他人だった場合もあったし、知人だった場合もあった。虫や動物だった場合でも、だ。
 ──どんな形であっても、誰かに殺されることに変わりはなかった。

 果たしてこれらは幸せな人生と言って良いのだろうか。前世のお陰で、随分と大人びた思考をするようになった私は考えた。考えて考えて考え抜いた結論は〝否〟──あんな思いは二度としたくない。


 ……誰かに人生の幕引きをされるのはもう、御免だ。


 全てが終わり、待ち望んでいた日常を取り戻した私は誓った。今度こそ殺されずに生きてみせる、と。幸せな人生を送ってみせる、と。

 そう、目標は──天寿の全うだ。



 ……因みにゴキブリだった頃の死因はスリッパでした。

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