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一章 云わば、慣れるまでの時間

番外 その頃の創造神①

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◇◇

 綺麗に磨かれた床を踏み荒らすように走る少年。その表情は何か思いつめたようで、そこには焦りも混じっている。


(ああもうっ!! アミアのやつ・・・・・・まただ!)


 紫紺色の瞳で必死に探すのは自身の片割れ。テオーリアと別れた後、真っ先に少年──デミアはアミアの元へ向かったのだが、いつもいるそこに彼はいなかった。
 ・・・・・・雲隠れしたのである。

 過去にも何度か行方をくらますことはあった。それは決まって何かやらかした時。そして、全て解決した頃に笑いながら戻ってくるのだ。

 その居場所は片割れであるデミアでも分からない。他の神や天使もそれは同じだ。
 ──つまりはお手上げ状態。こうして探してみてもあの白髪はくはつ野郎は見つからない。


「彼らを他世界に移動させたテオーリアがそもそも悪いけど、それにアミアが便乗したとなると・・・・・・」


 考えただけでもまた頭が痛くなってくる。要するにこれは悪事が数百倍にも悪化したようなものだ。探すのを一旦中断した彼の足は、自然と元々の張本人の元へと向かっていた。


「──テオーリア」


 彼女のいる部屋の扉をノックなしに開ける。真っ暗な部屋の奥で蹲っていた女性が顔を上げたのを見て、デミアは僅かに目を見開く。

 ──彼女の風貌はすっかり変わってしまっていた。

 無邪気な輝きを放っていた双眸は落ち窪み、頬は痩せこけ、手足も枯れ木のように細い。白く透き通っていた肌もくすみ荒れている。

 ……かなりキツいお仕置きだったようだ。


「……なぁに?」


 その変わりように一瞬声が出なくなっていた。はっと我に返ると本題に移る。


「いや、ちょっと聞きたいことがあって」

「手短にお願いするわぁ。私もう疲れてんのよぅ……」

「う、うん……善処するよ」


 テオーリアはだいぶ参っているようだ。いつもの憎まれ口はどこへ行ったのやら。
 普段はお互いに犬猿の仲だが、流石のデミアンもこれには同情した。いつもなら何か言う彼であるが、何も言わずに話を進める。


「──あの4名ってそっちの世界では要注意人物だったんでしょ? 監視とかつけてなかったの?」


 もし、その存在が世界に影響を与えるものであれば、それは規約によって監視をつけるように決められている。世界に対しどのように影響したか──それを記録しておく為だ。

 その監視は付けた神以外では外すことが出来ない。それは創造神であっても、だ。

 それさえ残っていれば、彼らの目を通して世界を見ることが出来る。たとえ鍵付きであっても、世界に対して何らかの働きかけが出来るかもしれない。……アミアがそれに気づいて、干渉されることに我慢出来ず出てくるかもしれない。

 しかし、その問いにテオーリアは首を振った。膝に顔を埋め、目だけチラとデミアを見上げる。


「……、やらなかったのよぅ。面倒だったのぉ」

「……4人の存在番号は?」


 ここまで来ると怒ることもできない。僅かに残っていた同情心も完全に無くなる。

 存在番号というのはあらゆるものに個々に決められている番号だ。この番号があって初めて存在することが出来る。それは別の世界へ飛ばされていても残されているものだ……消されていなければ。そう、消されていなければ存在記録として残っている……はず。

 が、またしてもテオーリアは首を振る。更なる爆弾を投下した。


「──消しちゃったのぅ」

「でも記録として残って……」


 言いかけたデミアの言葉を、テオーリアが「そうじゃなくて」と遮る。この一言で嫌な予感がした。


「消しちゃったのよぅ……その世界の記録ごと」


 一泊置いてその言葉の意味を理解する。驚きで思わず大きな声を出してしまう。


「はああ!?」

「だって!! ……だって、完全に消さなきゃ何か影響があるかもしれないじゃないの」

「だからって……そんな」


 記録を消すこと自体は罪ではない。……が、現状を考えるとやるせない気持ちでいっぱいになる。はあ、とため息を吐いて蹲る彼女を見下げる。


「──アミアはわざわざスキルを変えてあの人間に与えたんだ、それも一人だけね。……そこまでして彼が世界を放置するとは思えない。絶対どこかで見ているはずなんだ」


 全く反応しないテオーリアだが、デミアは続ける。


「彼は楽しいことは一緒に参加しつつ、傍観者を気取るタイプだ。……天界は探すだけ探したけど、まだ見ていない場所があるかもしれない。その可能性もある……けど」

「……ねぇ、貴方は何が言いたいのかしらぁ」

「もしかしたら……本当にもしかしたら、いるかもしれない。──〝中〟に」


 テオーリアの瞳がゆっくりと見開かれた。「それって……」と頭を上げる。


「普通の神ならしない行動だけど。でも、アミアはするのかもしれない」

「中に……中に入るですってぇ!? それって、あの生物らと同じ空間にいるってことよぅ? ……ありえない、ありえないわぁ」

「まあ、普通はそうだよね。だから、天界のどこかにいる可能性の方が高いと思うんだけど……」


 それでもデミアにとっては、スキルという大きな力を変えて与えてまでして、彼がこの天界でじっとしているのも考えにくい話である。
 この推測だってテオーリアと話している間に、ふっと浮かんだものだ。

 神が下界に降りる──その常識外れの行動は、普段だったら考えつきもしないだろう。入った所で何のメリットもない、ただただ自分の創作物がそこにあるだけである。

 しかも、何か行動起こせばそれが発端となって崩壊に繋がるかもしれないのだ。自然と壊れる分には問題ないが、壊したとなると規則違反となる。それはアミアであっても例外ではない。
 ──あまりにも酷い場合は、下に堕とされる可能性だってあるというのに。
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