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一章 云わば、慣れるまでの時間
22. ひとまずはこれで大丈夫だろう
しおりを挟む「──いえ、私は別に問題児専用とは言ってませんよ。ただ、事情により特別な配慮を行うクラスに入って貰うと・・・・・・」
「隔離された校舎のクラスが、ですか?」
それはもはや問題児と言うべきなのではなかろうか。学園側にとっては厄介な生徒なのだから。
しかし、決定された以上ここで文句を言っても覆されることはないだろう。
転生者と知るのは学園長1人のみ。独断で決められることくらいは予想していた。・・・・・・あくまでも転生者を管理するのは国の意思、逆らえばどうなることか。
息を吐き出し「わかりました」と伝えると、ジェラトーニはほっと安堵の表情を作る。避ける為の一蹴りのみで、施設の一部屋を全壊させてしまう生徒は危険だという認識なのだろう。
やらかした、という自責の念にかられる。
こんな結果になるのならば、寧ろ避けない方が良かったのではないか? あの3人に知られたら何を言われるか、今から不安になってくる。
──お似合いだとでも言われそうだ。
「──ではここにサイン・・・・・・いえ、拇印をお願いできますかな?」
差し出されたのは1枚の羊皮紙と、小さな容器に入った朱色の液体。さあさあ、と急かすジェラトーニに、待ってください、とストップをかける。
見るからに怪しい紙にそう簡単に拇印を押すバカはいない。
私は後ろに控えていたフェデルタに羊皮紙を渡し、「読み上げてみろ」
「はっ」
「いっ、いや、読み上げるのだけは・・・・・・」
ジェラトーニが口ごもる。私は微笑みを見せた。
「私は文字が読めないので、内容を確認したいのです。当然、問題なくできる事ですよね?」
「ま、待ってください!」
「何か?」
やはり慌て出した。懐から別の羊皮紙を取り出すと、それを差し出す。
「すみません、間違えて渡してしまいまして・・・・・・」
つまり、取り替えてくれ、と。
私が読み書き出来ないのをいい事に、自分に有利な条件を書いたことぐらい、誰でも簡単に読み取れる。こうなることは何となく分かっていた。
腹の底にある黒い感情を押し込め、私は微笑みを浮かべて答える。
「ああ、そうでしたか。・・・・・・──フェデルタ」
「はっ」
くるり、と後ろを振り向き、今渡された羊皮紙を手渡す。もう1枚は学園長に返した。
フェデルタが渡された文を読み上げる。スキルの存在を明かさない事、事スキルの使用は可、但し学園側に危害を加えない、学園内では管理下に置かれることに同意する事等々・・・・・・案の定それは至極まともな内容だった。
「──以上です」
「ありがとう」
フェデルタから羊皮紙を受け取る。私は何も言わず素直に拇印を押した。すっとジェラトーニへそれを出す。
「えっ」
「どうぞ? 押しましたので」
どうやら、何の追及も無かったことか意外らしい。
──なにも私はここへ荒波を立てる為に来たのではない。出来ることなら、平和的に過ごしたいのである。
無料で学べることもあるが、今他国へ行き先を変えた所で、そう簡単に抜け出せはしないだろう。
全て承知の上だ。少なくとも転生者である以上、命の保証くらいはしてくれるはず。貴重な戦力源にもなるのだから。
「ありがとうございます。では、腕輪を外しましょうか。・・・・・・腕を出してくださいますかな?」
はい、と腕を出す。ジェラトーニが腕輪に触れると、締め付けていたそれはあっさりと外れた。自由になった手首を動かしていると、転生者の場合は今日から寮で生活するのだと説明される。
「管理下に置くため、ですか?」
「・・・・・・、ええ。制服や教科書等もその部屋に運んであります」
まあ、私としては助かる話ではある。これで費用がかからないのならば、かなりの優遇っぷりだ。残るは食費くらいか。
ちら、とフェデルタを見る。申し訳ない気もするが、それは彼女にお願いするとしよう。
「学園長先生、それともう1つお願いがあるのですが・・・・・・」
「はい、何ですかな?」
「フェデルタの出入りを許可していただけませんか?」
互いに連絡し合う方法はまだない。せめてその方法が見つかるまでは、互いの状況が分かるようにしたいのだ。
暫く考えていたジェラトーニだったが、「いいでしょう」と許可を出す。彼女は怪しくないと判断したのか、それとも単に美人に弱いだけなのか・・・・・・どちらにしろ、好都合である。
ありがとうございます、と笑顔で私は頭を下げた。
女子寮への案内をされる間、こっそりフェデルタに耳打ちをする。それを聞いた彼女は静かに頷いて学園の外へと出た。
──・・・・・・ひとまずはこれで大丈夫だろう。
◇◇
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