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一章 云わば、慣れるまでの時間

20.要は、避ければ良いのである

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 予想通りスキル効果で身体能力が底上げされた私にとって、実技試験程楽なものはなかった。

 肌に感じるのはボールによって乱された空気の流れ。ほんの少し目を凝らせばボールの動きがスローモーションで見える。あまり意識せずとも、ボールに反応した身体が自然と動く。

 はっきり言って楽勝である。身体を捻るだけというようなあくまでも必要最低限の動きで避けつつ、私は内心微笑んでいた。


 〝優秀な人材には優秀な教師を〟


 ほとんどの学園はそうなのだろう。それは当たり前の事だろうし、私も当然だとは思っている。

 だから、筆記試験で最悪な結果を残したままで終わらせるわけにはいかない。せめて、実技試験では優秀な成績を残さなければ──そう、3人以上の成績、だ。

 しかし、この調子ならばあまり心配しなくても良さそうである。死角から飛び込んできたボールも、空気の乱れから動きを読み取り避けて私は微笑む。

 どこから覗いているであろう学園長も驚いている事だろう。

 ──しかし、その流れが変わったのは9個目のボールが投下された時だった。


「・・・・・・狙いに来てる?」


 ランダムなどではない。全てのボールが明らかにこちらへと向かってきているのだ。
 ──それはまるで

 もし、それが推測ではなく事実であったら・・・・・・犯人は1人。


(学園長か・・・・・・しかし、何故急に?)


 8個目までは普通だった。9個目から、あからさまに動きを変えてきたのだ。
 9個目──それはあの3人の最高記録である。まさか、と思った。


「記録を越されないようにしている・・・・・・?」


 学園長──ジェラトーニは、この試験でクラス分けを行うと言っていた。筆記試験では最悪な結果でも、実技試験で優秀だとある程度上のクラスへ入れざるを得なくなる。しかも、転生者という肩書きを持つのだ。

 しかし流石に、文字も読めない生徒を他の優秀な生徒と同等な扱いをしてしまっては、何処からどんなクレームが来るか分からない。

 だから、あの3人以下の成績にさせようと、そう考えたわけだ。

 ──9個目から変えたのは勘づかれないようにする為だろうか? 途中から変えれば難易度が上がったと言い訳もできる。


「まあ、あくまでも憶測だが・・・・・・なっ」


 背後から飛んできたボールを間一髪で避ける。基本的に地を蹴らない動き──身体を捻ったりしゃがんだりすることしか出来ないため、中々きついものがある。

 これも全て学園側への配慮、そして、自身の立場悪化を防ぐための行動だったが・・・・・・仕方ない。

 恐らく、足を少し持ち上げて強く振り下ろすだけでここら一体にクレーターが生み出されるだろう。・・・・・・いや魔法もかけられているだろうし、それ程酷くはないだろうが、破壊されるのは間違いない。


 ──まともなクラスに入る為には、力を見せなければいけないようだ。


 全てのボールが私の元へと集まるその瞬間、私は体勢を低くし、ぐっと足に力を込めた。


 要は、


 すり抜けられるだけの隙間、それができる一瞬を狙い──軽く地を蹴る。せいぜい出来るのはちょっとしたクレーター程度だろう、そう考えながら。
 しかし、それは大きな間違いとなる。


 隙間へと飛び込む──刹那、鳴り響いたのは予想だにしない轟音だった。


◇◇


 国立魔法学園。

 国内最大級の学園であり、優秀な魔導師や剣士等を育てていると有名であるこの学園は、今日、歴代最悪と言っていい程のが起きていた。

 新たに入ってきた転入生4名──内3名は転生者。これはごく稀な事で、普段は1人・・・・・・いや、転生者がいるというだけでも奇跡と呼べる程。
 スキルも申し分なく、学園長であるジェラトーニも歓喜した。喜びのあまり学園長室で踊り回ったくらいである。

 これは最悪ではない。寧ろ、歴代最高に値する事柄だろう。──問題は後から入ってきたもう1人の転生者だ。


『私はアゼリカ、横の女性はフェデルタと申す者です』


 絶世の美女を連れた1人の少女──否、悪魔はそう名乗った。

 最初は特に問題ないだろうと内心舞い上がっていた。これで、強力な転生者が4人もこの国にいることとなるのだ。戦力になるのは間違いない。

 暫くすれば国王の耳にも入るだろう。そうすれば、追加ボーナスも期待できるかもしれない。

 そう、思っていた。

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