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一章 云わば、慣れるまでの時間
11.まあ、相手が悪かったという事だな
しおりを挟む「──これでいかがでしょうか?」
書き終えたフェデルタがその用紙を見せたのは、門番の男性ではなく私だった。
・・・・・・おい、見せる相手が違うだろ、相手が。
見せられたやつを見ても、そもそも文字が読めない。翻訳機能とか付けなかったのかあの自称女神は。
じっと暫く見つめて無言で頷いた。もちろん内容は分かっていない。
・・・・・・早く読み書きを何とかしなければ。
「身分証は?」
「えっ・・・・・・」
「もしかしてこの国で作るつもりだったか?」
「──あ、ああ。ここで作るつもりだ」
用紙を受け取った男性が聞く。手慣れているのか、本当に助かる聞き方だ。そもそも身分証があるということを知らなかった為、返答に困っていた。
すんなり通れてよかったと安堵する。指された扉を潜ろうとすると、ああそうだ、と門番が引き止めた。
「入国するならこれを持っていけ」
渡されたのは細かな模様が描かれた腕輪のようなもの。
「なんだ、これは?」
「身分証無しで入国を認めた証拠みたいなものだ。腕につけておけ」
「・・・・・・わかった」
差し出された腕輪をフェデルタが受け取り、それに腕を通す。
付けてみると不思議と腕にぴったりだった。これも魔法道具の類いだろうか。
「アゼリカ様──この腕輪」横からフェデルタの声が聞こえてきたが、再び視線で制した。
今はまずい。
「行くぞ、フェデルタ」
「はっ」
──・・・・・・奥の扉から2人が出ていく。
それを見届け、2つの気配が離れるのを確認してから、門番──バローダ=エイダムは周囲を見回した。
盗聴魔法がかけられている気配はない。魔法で見られている様子もないようだ。
彼は急いで《会話》の魔法を展開した。──簡単に取得可能な第2位魔法であるこれは、お手軽に遠くにいる人物と連絡が取れることで有名だ。距離に応じて消費魔力が違うが、それでも便利なことに変わりはない。
その相手はこの街のギルドマスター。・・・・・・伝える内容は、勿論あの2人組の事である。
「聞こえますか、ギルドマスター」
『ああ。急な連絡だな・・・・・・どうした?』
国内でも屈指の実力を持つギルドマスターへの連絡は緊急を要する時のみ。逆に言えば、緊急の時以外での連絡はあまり無いと言える。
「今、身分証なしの女性1人と連れの少女1人を通しました。少女の方は問題なさそうなのですが、女性の方は危険です。
──最初は気配すら感じられず、視界にも入りませんでした」
『ほう・・・・・・門番であるお前がか』
「ええ、お恥ずかしい話ですが。気づいた時には首元にナイフを突きつけられていました。ただ、それだけでは追い返す理由もなく・・・・・・それに親子と名乗っておりましたが、明らかに主従関係が見られました」
だからこそ、と男性は語尾を強める。
「お願いしたいのです、監視を。──2人には既に〝腕輪〟を渡しております。現在地などもすぐに分かるかと・・・・・・」
魔法道具。それは魔法陣などの術式が組み込まれているアイテムである。あの腕輪には特定のアイテムへと現在地を常に伝える術式が掘られていた。
うむ、と脳内にギルドマスターの声が響くと同時に、自然と男性の頭が下がる。
ありがとうございます、と一言言ってから魔法を切った。まるでひと仕事を終えたような感じである。息を少し吐くと乱暴に椅子へと腰掛けた。
──これでひとまずは安心である。続けて自分の役割を果たさなければ。
◇◇
「・・・・・・だ、そうだ」
聞いた内容を一通り話終えると、フェデルタの顔から表情が消え去った。憎々しげに下唇を噛むと「下等生物如きがよくも・・・・・・」と恐ろしく低い声がきこえてくる。
まあ、何となく予想はしていたことだ。驚きはしない。
無事入国を果たした後、私たちが座ったのはすぐ側の広場のベンチ。もしかしたら、と思ってやってみたことだが、思いの外聴力が良く、扉の中の音でも難なく聞くことが出来た。
私たちが疑われていること、この腕輪が位置を伝える魔法道具だということ、言動から親子に見えないこと──とまあ、殆どの内容が本人にダダ漏れだ。
「まあ、相手が悪かったという事だな──おい、間違っても殺すなよフェデルタ」
「・・・・・・了承しております、アゼリカ様」
今にも人を殺しそうな雰囲気を醸し出すフェデルタを止める。放っておいたら本当に殺しそうである。
腕輪は外すな、とだけ言うと身振りだけでもう行くことを伝えた。
まずは身分証とやらを作った方がいいな。
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