上 下
9 / 59
序章 云わば、これからの下準備

8.強欲で良かった

しおりを挟む


「へえ・・・・・・それはまた」

「今の魔王は血も涙もない──それを終わりにしたいんだ」


 ふぅん、と興味なさげに返す私。そもそも話が読めない・・・・・・いや、何となくわかるにはわかるのだが。
 冷血漢な王の支配にいたたまれなくなり、こうして反乱を起こしている──自分でも魔族とバラしていたし、斯く言う内乱というものだろう。

 どちらにしろ、私には関係の無い話である。さっさと望みを叶え、喜んでいるその隙に転移石を使おう。私の手は既に麻袋へと伸びている。


「希望はそれで構わないか?」

「ああ、魔王を超える力を手にすること。それで間違いはない」


 アファールが望みを口にすれば、再び半透明のディスプレイ上に浮かび上がる文字。
 ──それを見て私は驚愕した。その一点を凝視したまま固まる。


《魔族(性別問わず):お代対象全てを10万人分》

《近くに30万程の魔族の反応あり──序列の降順に吸収いたします》

《スキルによって創り出された個体を確認──対象から除外致しました》


「どうした?」


 突然その場で固まった私に、怪訝そうにアファールは問いかける。しかしそれにも応えず、私は口元を手で覆い隠した。

 これは・・・・・・思いもよらぬ〝サプライズプレゼント〟だ。


「・・・・・・わかった、それで決定だな?」

「ああ、何度も言わせるな」


 最後に確認をして同意を得る。──これでスキル発動の準備は整った。これからの素晴らしい未来を思い浮かべ、口元を綻ばすアファールに対し、私は心より微笑んで期待に輝くその瞳を見つめる。


《スキル発動──この者に贈り物ギフトを》


 典型文を小さく呟き、笑った。


「・・・・・・お前が強欲で本当に良かったよ、感謝する」

「は? それはどういうこ──」


 突如としてアファールの言葉が途切れた。瞬きのその一瞬──ほんの一瞬で。

 ──その存在は消え去った。


◇◇



「本当に消えた・・・・・・のか」


 辺りはしんと静まり返る。遠くの方で金属の交わる音が聞こえた。
 何も無くなった荒野でぽつりと一人──いや、二人。跪きこうべを垂れる美女が見える。透き通った声が耳に届く。


「──我が尊き創造主様、勝手な発言をお許しください。何かお困りでしょうか?」


 ハッと息を呑んですぐに理解した。あるじがいなくなったが為に所有権が私へと映ったのか。
 どうしようかと見下ろす。まだこうべは垂れたままだった。


「・・・・・・表を上げろ。名は?」

「──はい。いいえ、私に名はありません」


 黒髪を垂らして女は顔を上げる。見れば見るほほろせどさ美しい。
 ──何かと使えるかもしれない。放っておくのも勿体無・・・・・・いや、可哀想だろう。


「なら、フェデルタと名乗るといい」

「はっ、ありがたき幸せ・・・・・・!!」


 それだけで、フェデルタの顔はキラキラとしたものへと変わる。こちらを見つめる紅色の瞳には、絶対の忠誠心が見え隠れしていた。

 思いがけない形で危機を乗り切った。深く安堵すると、麻袋を開く。中には地図と小さな青い石。その中から地図だけを取り出して広げた。

 書いてあったのは楕円の形をした大陸1つのみ。・・・・・・だが、そこで気がついた。


 文字が読めない。


 あの自称女神はどうやら、読み書きの翻訳はしてくれなかったらしい。大陸のあちこちに何か書いてあるのだが、それ全てが記号を組み合わせた暗号のように見える。


「・・・・・・、フェデルタ」

「はっ」


 文字は読めるか、と聞こうとして留まった。もしかしたら、聞けばフェデルタが私に失望してしまうかもしれない。そうなれば敵対も考えられる。
 ──流石にそれはまずい。私は地図を目の前に差し出した。


「これを持っておいてくれ」

「──はっ、失礼致します」


 うやうやしくフェデルタがそれを取る。ひとつ頷くと私は再び麻袋を開いた。次は転移石を取り出すだけである。
 ゆっくり手を入れ、そっと転移石に触れる。硬い感触を感じた──その時だった。


 パリンッ、と。いつの間にか騒々しくなっていた争いの中で、はっきり音が聞こえた。


「・・・・・・えっ」


 嫌な予感がしてゆっくり覗き込めば、そこには案の定粉々になった欠片ばかり。
 ──ここでようやく私は違和感に気がついたのだった。


 身体がおかしい、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。
ファンタジー
※第12回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。応援ありがとうございました!  勇者に裏切られ、剣士ディックは魔王軍に捕まった。  勇者パーティで劣悪な環境にて酷使された挙句、勇者の保身のために切り捨てられたのだ。  そんな彼の前に現れたのは、亡き母に瓜二つの魔王四天王、炎を操るサキュバス、シラヌイだった。  ディックは母親から深い愛情を受けて育った男である。彼にとって母親は全てであり、一目見た時からシラヌイに母親の影を重ねていた。  シラヌイは愛情を知らないサキュバスである。落ちこぼれ淫魔だった彼女は、死に物狂いの努力によって四天王になったが、反動で自分を傷つける事でしか存在を示せなくなっていた。  スカウトを受け魔王軍に入ったディックは、シラヌイの副官として働く事に。  魔王軍は人間関係良好、福利厚生の整ったホワイトであり、ディックは暖かく迎えられた。  そんな中で彼に支えられ、少しずつ愛情を知るシラヌイ。やがて2人は種族を超えた恋人同士になる。  ただ、一つ問題があるとすれば……  サキュバスなのに、シラヌイは手を触れただけでも狼狽える、ウブな恋愛初心者である事だった。  連載状況 【第一部】いちゃいちゃラブコメ編 完結 【第二部】結ばれる恋人編 完結 【第三部】二人の休息編 完結 【第四部】愛のエルフと力のドラゴン編 完結 【第五部】魔女の監獄編 完結 【第六部】最終章 完結

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん
ファンタジー
元財閥の一人娘だった神無月 英(あずさ)。今は、親戚からも疎まれ孤独な企業研究員・27歳だ。  ある日、帰宅途中に聖女召喚に巻き込まれて異世界へ。人間不信と警戒心から、さっさとその場から逃走。実は、彼女も聖女だった!なんてことはなく、称号の部分に記されていたのは、この世界では異端の『森羅万象の魔女(チート)』―――なんて、よくある異世界巻き込まれ奇譚。  注意:悪役令嬢もダンジョンも冒険者ギルド登録も出てきません!その上、60話くらいまで戦闘シーンはほとんどありません! *不定期更新。話数が進むたびに、文字数激増中。 *R15指定は、戦闘・暴力シーン有ゆえの保険に。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...