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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

竜魔の章・その9 ベルナー侵攻と幻影騎士

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 ベルナー王国・王都ベルナー。
 ここ数日の間、王都には次々と避難民が訪れていた。

 ベルナーのすぐ近くには衛星都市がいくつもあり、そこに避難民たちにとっての仮宿が常設してある。
 |転移門(ゲート)を通ってきたものは、|魂の護符(プレート)もしくはギルドカードを確認することで都市内部を自由に歩けるのだが、それを持たないものは城塞外縁部にある第ニ区画に自動的に移送されるようになっている。

 なお、都市の外から各門を通ってやって来る者の中には、|魂の護符(プレート)もギルドカードも待たない者もいる。
 そのような者は一旦外で待機して身元が確認できるまでは第二区画に回されるが、|魂の護符(プレート)を持つものが仲間や家族にあるのならば、身元引き受け人としての手続きをとることができれば中に入ることができる。

――ガラガラガラガラッ
 ベネリ達を乗せた二頭の馬車がベルナー正門にやって来る。
 ここは第2区画正門であり、正門で簡単なチェックをすることが出来れば、中に入るのは簡単である。
「何処からだ?」
「旅をしていた冒険者でして。特に定住していた国はありません」
 そう話しながら、ベネリの部下であるマクレガーは冒険者カードを提出する。
 門番はそれを受け取ると、内容を軽く見て確認した。
「Bクラスの騎士か。他にカードを持っている奴はいないか?」
 その言葉で二人がカードを出すが、ベネリは顔を隠すように馬車で眠っているフリをする。
 わざとらしく右腕に血塗れの包帯を巻き、時折苦しそうな声をあげる。
「済まないが急ぎ教会に行きたい。どっちに向かえばいい?」
「そうだな、正面に真っ直ぐ行くといい。第一正門横に教会があるから、手当てが終わったらそいつのカードも持ってきなさい」
「助かるよ。ではまた後でな」
 そう挨拶をすると、馬車を走らせる一行。

――ガラガラガラガラ
「こんな演技をさせられるとは思わなかったが。それにしてもあっさりと入れたものだな?戦時中だというのに、敵国のスパイが入るのを警戒していないのか?」
 ゆっくりと体を起こすベネリ。
「ここは避難民の受け入れ区画のようですね。この奥の正門に入るのはキツそうですが、同じ手を使いますか?」
「いや、あの中に入るのは夜になってからだ。もう少しで俺にも出来そうだからな」
 そう話してから、ベネリは右腕に闘気を集中する。
 すると、なんとなく右手のようなものが形成されている。
 ポイポイの両脚を参考にして、独自の方法で右腕を形成してみたのだが、まだ安定はしていないらしい。
 やがて第一正門近くの宿に馬車を止めると、とりあえずの宿を確保する。
 ベネリは夜まで部屋で休むことにして、部下達は情報収集のために聞き込みに向かった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 同日、ベルナー城
 いつものように円卓の間は騒がしかった。
 魔神竜クロウカシスの出現以来、バイアス連邦からの避難民の報告があちこちから聞こえて来るのである。
 もっとも、それが多くやってきているのはパルテノ領とブリュンヒルデ領であり、少し離れている王都ラグナにはまだ避難民到着の報告はない。
 そして避難民達からの聞き込みにより、クロウカシスの眷属達による一方的な蹂躙が進んでいるとの報告もある。

――トントン
 各国に対する避難民の受け入れに関する連絡を、レックス皇帝から任せられてしまったシルヴィー。
 その為にベルナー城には、各国から連絡員として大勢の貴族や騎士といった面々が集まっていた。
「では、これをラグナの執務官に届けてください。こっちはパルテノ様に、これはブリュンヒルデ様のところに。バイアス連邦からの避難民の受け入れは一時的にカナン魔導王国の衛星都市で行うことになりましたので」
 大量の羊皮紙を次々と使者に手渡すと、仕事が一段落したらしくズブロッカは傍らに置かれているティーポットを手を伸ばす。

――カチャツ
 ズブロッカがポットを掴む前に、ミアがポットを手にズブロッカのカップに紅茶を注いだ。
「はい、お疲れ様です。一休みしてください」
「あら、気がきくじゃない。ありがとうね」
「いえいえ、私にできることはこれぐらいですから」
 そう話しながら、のんびりと窓辺で外を眺めているワイルドターキーとシルヴィーにも紅茶を差し出す。
「それにしても、随分と避難民が増え始めたねぇ」
「南方のバイアス連邦からの避難民が増えているようで。しかし良いのですか?」
 ミアのその問いかけに、ズブロッカが頭を捻る。
「何が?」
「クロウカシスの件ですよ。次にここを狙って来る可能性があるって言っていましたよね?」
「ええ。ですから城塞部分の強化とバリスタの設置、冒険者と騎士団と各区画の警備員の増員、出来得ることはやったわよ。緊急時のシルヴィーのカナンへ送り出す準備も完璧だし、切り札もスタンバイしているから大丈夫よ」
「切り札?」
「ええ。シルヴィー様の護衛がね。今日あたりは中庭で特訓しているのではないかしら?」
「ふぅん。中庭でねぇ」
 丁度部屋の窓から中庭が見える為、ミアは少し身を乗り出して中庭を見る。
 そこでは、全身に真紅の鎧を装備しているロットと、片手剣と盾を構えているシルヴィーの姿があった。

 一方的にシルヴィーに攻め込まれて手も足も出ないロット。
 その姿をクスクスと笑いながら見ていたミア。
――ガチャッ
「ズブロッカよ、避難民の誘導状況はどうぢゃ?」
 すると勢いよく扉を開いて、シルヴィーが部屋に入って来る。
「大体は終わっていますね。これがベルナー領の受け入れ分です。うちからは受け入れるというよりは、次の場所が決まるまでの仮宿のようなものですから」
 いくつかの書面を手に、シルヴィーの元に向かうズブロッカ。
「まあ、ここが狙われてあるのは事実ぢゃからなぁ‥‥どうしたミア?」
 キョトンとした表情でシルヴィーを見るミア。
 慌てて中庭を見ると、やはりシルヴィーがロットの稽古をつけている最中である。
「あ、あれれ?あっちとこっちにシルヴィー様がいる?」
「んんん?ああ、カッツェの事か。ロットの稽古をつけているぢゃろう?」
「カッツェ?」
「うむ。妾の影武者ゴーレムぢゃ。本名はシュバルツカッツェ、もう動けなくなるらしいから、最後にロットの稽古をつけているらしい」

――キィィィン
 ミアの額のティアラが静かに輝くと、カッツェのデータが頭の中に走り出す。
「あ、ああ、マチュア様の作ったゴーレムですね。中期型なので自分で魔障を回収できないのですか‥‥」
「なんじゃミア、カッツェが分かるのか?」
「マチュア様の遺してくれたこのティアラに、カッツェの図面や仕様が入っていました。残念ですが、私ではどうすることもできません‥‥ごめんなさい」
 寂しそうに頭を下げるミアだが、シルヴィーは軽く頭を左右に振る。
「そんなのは気にする必要はないぞ。ミアはこれからぢゃ、これからゆっくりとマチュアに追いつけばいいのぢゃよ」
「は、はい‥‥でも大丈夫ですかねぇ」
「ミアなら大丈夫じゃないかしら? マチュア様みたいな天然ボケがないだけ安心できますよ」
 ズブロッカも笑いながらそう呟いている。
 当面の危機を脱しただけで、まだやらなければならないことがあるのだが。
 皆の心にも少しずつ余裕が出来始めていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 深夜の王都ベルナー。
 その日は偶然にも新月。
 街の各地に設置されている魔法力で灯される街灯の明かりがなければ、かなり暗くなり何も見えなくなってしまう。
 その暗い街の中。
 地下水道から水を汲むために作られた共同の階段から、ベネリたちがそっと姿を現した。
 第ニ区画にも地下水道に水を汲みに行くための階段はある。
 そこから地下に潜り込み、身体を半分ほと沈ませてゆっくりと地下水道を溯ることで、王城のある第一区画城塞内に潜入することができた。
 そこまで細かく調べることができなかったというよりは、おそらくは後回しにされていたのであろう。
 そのようなところから城塞内部に潜入する者がいるとは思っていなかったのである。

「陛下、腕の調子はどうですか?」
「ああ、闘気でなんとか形は維持しているが、指を自在にというのはかなり熟練した技術がいるのか。あの女、よくもそこまで鍛え上げたものだ」
 ベネリの右手は闘気によってミトンのような形状になっている。
 普通に武器を握ったり振り回す程度には出来るようになっているので、今のところはこれで問題ない。
「それで、王城に潜入する道は確認できているのか?」
「はい。先程の地下水道をさらに遡ると城塞に繋がります。現在はしっかりと柵が固定されており、それを破壊しなくては内部には潜入できませんが‥‥ランディが一人連れて柵を破壊しに向かっています」
 その報告で、ベネリはニィッと笑う。
「それで、合流地点は?」
「王城西通用門。そこは侍女たちが使う門でして、内部からしっかりと鍵が掛けられています。そこで待機していれば」
「そこの門は門番はいないのか?」
「夜間に二人、ですが大したことはありません。すぐさま始末してくれることでしょう」
「そうか。流石精鋭と言ったところだな」
「ええ。この作戦の失敗はすなわちバイアスの滅亡。各騎士団から腕利きを集めています」
「それでいい。では行くぞ」
 ベネリの掛け声で、一行はソーッと王城に近づいていく。
 貴族区正門は死角から乗り越え、そのまま建物の影を縫うように走っていく。
 やがて王城前の堀に辿り着くと、閉じられている跳ね橋を確認してから、ベネリが『|精霊の旅路(エレメンタルステップ)』で跳ね橋の付け根に全員を飛ばした。
 あとは横を抜けて侍女たちの使う通用口に辿り着くと、すでに扉が少しだけ開いている。
『ランディです。二人始末しました、あとはご自由に』
 扉の影からランディの声が聞こえてくると、ベネリは軽く頷いて扉の中に入っていく。
『この手の城の内部構造など、どこも似たり寄ったりだ‥‥幻影騎士団を燻り出す必要がある、二人囮で騒いでこい‥‥何処でもいいから火をつけろ』
 コクリと頷いて二人が何処かに走っていく。
『残りは私についてこい。騎士団が来たら兎に角派手に戦え、殺しても構わん』 
 そうつげてから、ベネリはシルヴィーの居るであろう部屋の当たりをつけると、まっすぐにそこに向かい始める。

――カーーーンカーーーンカーーーン
 やがて城内で大きな鐘が鳴り始めた。
 ベネリの部下の二人が馬小屋と倉庫に火を放ったらしく、彼方此方から煙と炎、そして逃げ惑う人々の悲鳴も聞こえてきた。

 馬小屋に駆けつけたワイルドターキーは、すぐ近くで燃え盛る小屋を見て走り去る人物に気がついた。
 そして素早く追いかけると、その足元に両手斧を投げつけた。
――ガギイッ
 その一撃で足を止めると、ゆっくりとワイルドターキーに向き直ってロングソードを引き抜く。
「‥‥さて、どこの誰かは知らぬが、このベルナー城に潜入して火を放つとは大したものだのう」
 ジャラッと両手斧の柄から伸びる鎖を引いて両手斧を回収すると、ワイルドターキーもゆっくりと身構えた。
「我はバイアス連邦魔導騎士団・疾風のギャラック‥‥陛下の命である。幻影騎士団のワイルドターキー殿とお見受けした‥‥参る!!」
 素早く走り出すと、一気にワイルドターキーに向かって乱撃を叩き込んでいくギャラック。
 だが、ワイルドターキーも鎖と斧を巧みに使い、その攻撃を次々と無力化していった。
「おおうおうおう。これはこれは。乱撃が素早すぎて追いつかんぞ!!」
 徐々にギャラックの攻撃がワイルドターキーの鎧を削り始める。
「ご冗談を‥‥」
 そう呟くと同時に、ギャラックは背後に跳んだ。
 そのタイミングで、ワイルドターキーも両手斧を横一閃に薙ぐ。
 少しでも遅かったら、ギャラックの胴体もまっぷたつであっただろう。
――トン
 まるで重力を感じないかのような優雅な着地。
 それを見て、ワイルドターキーも口元に笑みを浮かべ始めた。
「楽しいぞ。こんなに強い男が居たとはなぁ」
「私もです。ワイルドターキーの名はバイアスでも有名。それゆえ、このような場所で手合わせしていただくことになるとはね」
 すかさずソードを振り回し中距離から衝撃波を飛ばしてくるギャラック。
「この程度の衝撃波など!!」
 力いっぱい振りかぶり、一気に斧を振り落として衝撃波を叩き込む。
――ドッゴォォォォォォッ
 二つの衝撃波がぶつかりあい、床と壁が彼方此方で吹き飛び始めた。
「これは時間がかかりそうだのう‥‥」
「そうですね。ですが、私も貴方を止めて置かなくてはなりませんからね」 
「つまりは陽動か囮ということか。勿体ないのう‥‥」
 やや腰を低く構えるワイルドターキー。
 それに合わせて、ギャラックも背中に背負っていたスモールシールドを取り出すと、左腕でそれを構えた。


 一方、倉庫にて。
 燃え盛る炎。
 巨大な|炎のトカゲ(フレイムサラマンダー)が倉庫で暴れている。
 燃やせるものを全て燃やし尽くし、近寄るものには口から灼熱の溶岩を浴びせている。
「はーーーーっはっはっはっ。さあ、全て燃やし尽くしてしまいなさーーーい」
 真っ赤なローブを身に纏った女性が、自ら召喚したサラマンダーを自在に操っている。
――ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 だが、暴れているサラマンダーの皮膚に数本の氷柱が突き刺さり、その動きを鈍くしている。
 人々が避難している廊下から、ズブロッカが『|氷の蜥蜴(アイスリザード)』を召喚してフレイムサラマンダーを攻撃していた。
「申し訳ありませんけれど、そろそろご退場願いたいのですが」
 こういうときのズブロッカは、口元に笑みを浮かべるとかそういうことは一切しない。
 ただ真剣に、目の前の敵を排除しようとしている。
「あらあら、幻影騎士団のエレメンタルマスター、ズブロッカ女史でしたか」
「私の事を知っているとはありがたいわ。けれどごめんなさい。私は貴方のことはしらないのよ」
「そうですか。バイアス連邦魔導騎士団・第三騎士団長のティターナといいます。これはほんのお近づきの印で」
 素早く空中に魔法陣を起動するティターナ。
 それに合わせて、ズブロッカも全く同じ魔法陣を起動する。

「「光と影‥‥海と大地、荒ぶる焔よ逆巻く風よ。いまわが元に集いて、かの敵を滅ぼせ‥‥彼は汝の敵ならば、全ての精霊よ、我が力となって顕現せよ!!」」

 全く同じ精霊魔術。
 速度も魔力も全く同じ。
「焼き尽くせ!! |魔導精霊砲(エレメンタルキャノン)っ」
「瓦解せよ!! |魔導精霊砲(エレメンタルキャノン)っっ」 
 二つの |魔導精霊砲(エレメンタルキャノン)がぶつかり合う。
 激しいまでに荒ぶる精霊の力。
 二人の横では、フレイムサラマンダーとアイスリザードが噛み付き合いひっかき合っている。
 やがて二人の中間で、精霊力がフッと消滅する。
「‥‥大したものね。精霊魔法の理を此処まで理解しているとは」
 驚いた表情で呟くズブロッカだが。
「精霊魔術が貴方だけの魔術と思わないでほしいわ‥‥私はイフリートとの契約を終わらせてあるのよ」
 炎系精霊の上位であるイフリート。
 それを従わせるには、かなりの魔力と精神力が必要である。
「あら。それは大したものねぇ。つくづく私とは相性が悪いみたい」
 ズブロッカはすかさず水の上位精霊であるクラーケンを呼び出す。
――ヒュゥゥゥゥゥゥゥッ
 下半身が大量の触手、そして上半身は裸の女性の姿のクラーケンが、ズブロッカの前に現れる。
 それと同時に、ティターナの前にも、炎の魔人イフリートが姿を表した。
「それじゃあ、ここで暫く遊ばせて貰うわよ」
「‥‥そう。目的はシルヴィー様なのね。だったら、とっとと終わらせて貰うわよ」 
 ズブロッカとティターナの魔力が高まると同時に、イフリートとクラーケンの戦いも始まった‥‥。


 ベルナー城・中層
 ベネリが目指している部屋はこの奥。
 そこに目的であるシルヴィーがいる筈。
「‥‥とおせんぼっぽい!!」
「うむ。どうせ、こういう事だと思ったわ」
 ベネリたちの前に、ポイポイと斑目の姿が現れた。
 だが、ベネリはゆっくりと立ち止まると躊躇する事無く二人を睨みつける。
「あのときのポイポイ娘か。本来ならば俺が相手をしてやってもかまわないのだが‥‥」
 素早く影の中から黒装束の忍びが飛び出してくる。
「月影、お前はあのポイポイ娘を殺せ。クゥェイサーはあの侍だっ」
 ベネリが叫ぶと、背後から全身をブルーメタルの鎧に身を包んだ騎士が姿を表した。
「バイアス連邦第七魔導騎士団・冥王クウェイサー、参ります!!」
 素早く腰に下げていた魔剣ダンピールを引き抜くと、クゥェイサーは斑目に向かって斬りかかる。
「同じく第七魔導騎士団・朔の月影‥‥推して参る」
 縮地でポイポイに向かつて斬りかかる月影と、斑目と激しく剣戟を続けているクゥェイサー。
 ダンピールの攻撃を受け止め、流しているが、斑目は徐々に魔剣に力を奪われていく。
「これだ。これが本来の姿だ。あの北方大陸の侍が別物なのだよ!!」
 楽しそうに告げるクゥェイサー。 
 だが、斑目はその言葉にふと疑問を感じだ。
「北方大陸の化物‥‥ほほう、貴殿はまさかストームと?」
「その名前を出すなっ!! 剣聖ストーム‥‥この私が初めて負けた男。いつか必ず殺す‥‥だが、その前に貴様の命を頂くとしよう」
 クゥェイサーの握っているダンピールが更に輝きを増す。
 それに比例して、斑目の全身からも徐々に力が奪われ始めた。

――ヒュンッカキィッギィッ
 高速で走りながら、お互いの攻撃をクナイで受け流すポイポイと月影。
 大抵の敵に対処できるポイポイでも、この月影は全く異質である。
「こんな敵、初めてっぽい」
「拙者もですなぁ。イズモの里から出てきてこのように強い敵と渡り合えるとは‥‥」
「あ、貴方は本物の忍者っぽい?」
「ぽいではないですよ。本当の忍者ですから‥‥」
――ブゥン
 お互いに間合いを取ると、月影はすかさず韻を組んで大地に魔法陣を築く。
 そこから双頭の大蛇が姿を表わすと、素早くポイポイに襲いかかった!!
「く、くちよせっ!!」
 ガシガシと噛み付いてくる大蛇。
 その牙から黄色く透き通った毒が吹き出しているのに気がついて、ポイポイはゴクリと喉を鳴らす。
「あ、あれは噛みつかれるとまずいっぽいよ!!」
「そうですなぁ。でも、お喋りしている暇はないのでは?」
――ブゥン
 他の中に透き通った闘気の手裏剣を生み出すと、月影はそれをポイポイに投げてくる。
「避けると、とってもへびぃぃぃぃっ」
――ガキィィィン
 すかさずクナイに闘気を流すと、それで手裏剣を弾き飛ばす。
 そして大蛇の攻撃も縮地で躱すと、ポイポイは通路の逆側に誘導されていた。
「あとは任せた!!」
 ベネリとカルネアデスは、楯として立ちはだかっていた斑目とポイポイが後に回っていたのに気がついて、一気にシルヴィーの部屋に向かって走り始めた。

 ドタタタタタタタッ
 目的は目の前。
 もうすぐそれが手に入る。
 口元に薄ら笑いを浮かべているベネリだが、部屋の前の二人の人物に気がついた。
「さて、まさかバイアスのカルネアデス卿が直接来るとは」
「ここから先には通さないよっ!!」
 幻影騎士団最後の砦であるウォルフラムとロットが、ベネリたちの前に立ちはだかる。
 だが、ベネリもカルネアデスも驚くことはなかった。
「まあ、そうなるよなぁ。カルネアデス、二人相手に行けるか?」
「それが命令とあらば」
――カチャィィィン
 素早く抜刀したかと思うと、縮地でロットの正面に飛んできて一撃を肩口に叩き込む。
 軽い金属音と同時に、ロットの右肩にざっくりとカルネアデスの剣が突き刺さっていた。
「そ、そんな馬鹿な‥‥この鎧はマチュアさんから貰った‥‥」
「真紅の鎧ですか‥‥噂はきいたことがありますが、所有者の実力に合わせて強度を増す鎧でしたか? それがこのようにあっさりと‥‥」
 素早く剣を引き抜くと、カルネアデスはロットを蹴り飛ばしてウォルフラムに向き直る。
「出来ることなら会いたくはなかった。が、そうも言っていられないか」
 ウォルフラムが手にしたミスリルソードの刀身に闘気を流し込む。
「この剣のことはご存知でしたか」
「あんまり知りたくはありませんでしたけどね。スタイファーの宝具の一つ、メタルスレイヤーと呼ばれる『金属殺しの剣・ザンバスター』でしたか」
「ご名答!!」
 すかさずウォルフラムに向かって間合いを詰めると、カルネアデスは手にしたザンバスターでウォルフラムを斬りつける。
――ギィィィィン
 その一撃を闘気の乗っているミスリルソードで受け止めたが、すぐさま刀身が真っ二つに切断されてしまった。
「‥‥相手が悪すぎますね‥‥ロット、動けますか!!」
「ど、どう‥‥に‥‥か‥‥」
 肩口を抑えてゆっくりと立ちあがると、左腕で剣を構え、ベネリに向き直る。
 だが、最初の一撃で意識が朦朧としてしまい、焦点が定まらない。
「こんな小僧に何が出来るというのだ?」
 ベネリはマントから槍を引き抜くと、それでロットに突き掛かる。
――ヒュヒュヒュッ‥‥ガバァァァァッ
 幾条もの鋭い突きを躱していたものの、最後の方では突きを受けきれずに吹き飛ばされる。
「ロットっ!!」
 慌ててロットに向かって駆けつけようとするが、カルネアデスがウォルフラムの前に立ちはだかる。
「ここから先は行かせませんよ‥‥我がバイアスの悲願、その全てが陛下にかかっているのです」

――スッ
 すると突然、空間からカーマインが姿を現した。
「そのとおりよ。ベネリ、この子は私が貰うわ‥‥貴方は早く奥に‥‥」
 カーマインがクスクスと笑いながらロットに近寄っていく。
 そしてハイヒールの踵でロットの右肩を力いっぱい踏み抜いた!!
――ザシュッ
「ぐうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 絶叫に似た悲鳴をするロット。
 そのまま傷口を押さえているが、痛みで何もすることが出来ない。
「ああ、では早速シルヴィーを捕まえるとしよう」

――ドッゴォォォォッ
 マントの中に槍を収めと、今度は両手剣を引き抜いて一撃で扉を破壊した。
 広い寝室。
 綺麗な調度品に囲まれた部屋の中央で、全身を鎧で包み銀色に輝く剣を構えているシルヴィーが立っていた。
「バイアス王よ、妾も只ではやられぬぞ!!」
 それはウォルフラムを始め、全ての幻影騎士たちも見た事のない鎧と剣である。
「ほう。それはそれは威勢のいい事で‥‥では改めてお相手いたしましょう!!」
 そう告げると、ベネリは舌なめずりをしてからシルヴィーに向かって斬り掛かった。
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はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

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