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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
カムイの章・その3 忍びならもっと忍べよ!!
しおりを挟む「逃すかよっ」
神殿裏門から内部に入ったストームとクッコロだが、突然影の中から飛び出した忍者に先を越されてしまった。
慌てて忍者を追いかける二人だが、幅の広い回廊を抜けた先で完全に見失ってしまった。
そこは十字路の交差する広い空間。
昔は裏門から運ばれてくる資材や物資をここで捌いていたのだろう。
「畜生。奴はどこに行ったんだ!!」
そう叫びながらストームはバッグから羊皮紙とペンを取り出すと、何かを書いてクッコロに見せる。
『影に潜んでいるから音は聞こえるが、風景は見えない。うまく合わせろ』
「どうするの? まさかとは思うけれど、もう正殿にある宝物庫に向かったかも知れないわよ」
「可能性はあるか。宝物庫はどっちだ?」
「此処からなら右の回廊の先ね。どうする?」
「決まっている。奴らには渡すわけにはいかない」
必死に笑いを堪えるクッコロと、ハンドサインで右の回廊を指差すストーム。
そのまま右の回廊に進むと、行き止まりの扉の前に二人は立った。
「まだ居ないか。なら好都合だ、カウントダウンしたら一気に中に飛び込んで扉を閉める」
ハンドサインでは、カウントダウンで中央回廊に走れと指示をする。
「いいか?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「3‥‥2‥‥1‥‥0‥‥行くぞ!!」
素早く後方に走りだすと、回廊の入り口に風の結界を施すストーム。
その向こう右の回廊には、瞬時に影から飛び出した忍者が周囲を見渡していた。
全身黒装束で顔も見えない。
だが、その異様な雰囲気からは、少なくともAクラスの冒険者レベルはあると直感で読み取った。
「そんな事だろうさ。悪いがそこで暫くじっとしていろ」
そう告げると、忍者がストームの方に駆け寄ってくる。
――シャキーン
腰に下げていた刀を抜くと、一撃で結界を破壊する。
「この俺を罠にかけるとは流石だな」
「そういうのは俺じゃなくマチュアの方が得意なんだがな。俺はどちらかというと、こっちだ」
――シュンッ
一瞬で侍に姿を変えると、ストームは刀を抜いて身構える。
「貴様は一体何者だ」
忍者が刀を逆手に構えて問いかける。
「ふん。人に名を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀ではないのか?」
そう問いかけて相手を挑発する。
ここで忍者が素早く仕掛けてくるのを、ストームは待っていたのだが。
「拙者はイズモに属する。公儀隠密御庭番衆二の刀、姓は伊方、名を十四郎と申す!!」
「お前馬鹿だろ!!」
慌ててストームが突っ込みを入れると、十四郎は一瞬止まったのち、素早く間合いを詰める。
「何故拙者を馬鹿と申すか!!」
――キンガイィン
激しい剣戟の撃ち合いが始まる。
「隠密が所属や素性を正直に語るなっ。あの場合の返しは『これから死ぬ貴様に語る事はない!!』で充分だろうが」
「成る程、良いことを教えてもらった。今度からそうさせて頂くとしよう」
後方にバク転で飛んで行くと、すかさず手裏剣をストームに向かって飛ばす。
だが、ストームも刀で全て撃ち落とすと、刀を力一杯振り下ろし衝撃波を飛ばす。
――ズドゴォァァァァァ
しかし、十四郎は白亜の床に手を当てると、床板を壁のように持ち上げて衝撃波を全て止めた。
「忍法石版返しでござる。今度はこちらの番でござるよ!!」
「突然ござるを使うなっ。全く調子が狂うわっ」
ストームも後方に飛ぶと、クッコロの立っているところまで走る。
「逃げるとは卑怯なり!!正々堂々と勝負しろっ」
「なんで忍者が正々堂々を語るんだよ!!お前たいがいにしろよ」
クッコロの周囲に影の結界を施すと、『|影精霊使役(シャドゥサーパント)』でクッコロを守るガードを生み出す。
「その結界の中にいろ!!シャドウサーバントはクッコロを守れ」
「は、はいっ」
慌てて返事をするクッコロのまわりに、屈強な肉体美を持つ人型の影が四体現れた。
「口寄せとは中々やりますな。ならば此方も容赦しません」
素早く懐から巻物を引っ張り出すと、それを広げて右手で印を組む十四郎。
「ちっ。忍術の高等なやつか。ほんとに厄介だな!!」
ストームは吐き捨てるように告げるのだが。
『お待たせしました、我が主人よ』
十四郎の目の前に魔術印が広がると、そこから巨大な戦斧を構えたミノタウロスが姿をあらわす。
「お、お前ふざけるなよ!!忍者で口寄せと言ったら蝦蟇とか蛇とかだろうが。なんでミノタウロスなんだよっ」
――ガギィィィィン
すかさずミノタウロスに斬りかかるストームだが、その一撃は戦斧で受け止められてしまう。
さらに後ろからは十四郎が斬りかかってくるので始末が悪い。
「死ねぇぇぇぇぇ。貴様を殺せば、神槍は俺のものだぁぁぁぁぁぁっ」
――ドガァァァッ
その太刀筋にタイミングを合わせて、ストームは刀の峰に向かって回し蹴りを入れる。
その衝撃で十四郎の手から刀が吹っ飛ぶと、まずは目の前のミノタウロスを膾のように細かく切り刻んだ。
――ズバシヤァァォォァァ
突然の惨殺モードに、十四郎も顔を引き攣らせながら後ずさりする。
「さて。次はお前の番だが、どうす‥‥うはぁ」
いつのまにか間合いを詰めて乱撃を叩き込んでくる十四郎。
だが、そのことごとくを躱して、ストームは十四郎の胴体を横に薙ぐ。
――ズバァァァァア
手応えあり。
確実に十四郎の胴体を真っ二つにしたのだが。
――ボウゥ
背後で真っ二つになった筈の死体が瞬時に布団に変化する。
「うぉっ!!空蝉の術か‥‥本体は一体どこに消えた?」
周囲を探すと、布団から点々と血が続いている。
「擦り傷程度か、この先の角まで続いているが、これは囮だな」
さらに周囲を見渡すが、何処にも十四郎の姿は見えない。
絶妙なまでに姿を消しているらしい。
「‥‥こうなると影の中に忍び込んだとしか思えないが。そうなると厄介だな」
ふと、魔法陣の中のクッコロを見る。
どうやらクッコロの方には十四郎は向かわなかったらしいが、クッコロが通路の角を指差している。
「ははぁ。囮と思わせて本当に角の向こうか。かなり心理戦にも強い奴と見た」
素早く走り出して角を曲がるストーム。
すると、壁にもたれかかって座っている十四郎の姿があった。
腕をザックリと切ったらしく、布を当てて止血をしていた。
「‥‥普通に斬れていたのかよ!!」
「ハァハァハァハァ‥‥まさかこの肉体に傷をつけられるものがいたとは」
息を荒くしながら呟く十四郎。
「肉体に傷だと?まさかお前は魔‥‥」
「さよう。我こそは亜神。そこの女性から神槍を奪うために忍び込んだものなり‥‥魔ってなんだ?」
突然の気まずい空気。
「お、お前本当に馬鹿なのか?天然なのか?一体どっちなんだ?」
行き場のない感情をどうしていいかわからないストーム。
ここまでペースを崩されるのは中々ない。
「あーっ、なんだこのやりきれない感覚は。忍者なら忍者らしくこう、あるだろうが!!」
「我が肉体は亜神であるがゆえ、強力無比な魔道具やマジックウェポン、強度A以上の魔術でなくては傷つくことはない。その我にここまで手傷を負わせるとは見事だ‥‥」
全く話を聞かない十四郎。
ならばとストームも話を始めることにした。
「なら、本題に入ろう。俺たちと敵対するならば、此処でお前も塩の塊にする。が、敵対意思がないのなら、見逃してやる」
そのストームの言葉にハッとすると、十四郎は深々と頭を下げた。
「それはつまり。我を許すということか?」
「敵対しないならな」
「よかろう。拙者は貴公たちとは敵対はしない。これで安全に神槍が手に入るというものだ」
腕を組んで頷く十四郎。
だが、ストームは聞き逃してはいない。
「待て。神槍を取るのなら敵対するとみなすぞ?」
「いやいや、拙者はここに主命を帯びてやってきている。神殺しの神槍を持ち帰れとな。なので、その邪魔をするものは斬り捨てるだけ」
「だからな。俺たちは神槍を回収しに来たんだ。その俺たちの邪魔をするのなら、敵対するとみなすというんだ」
‥‥‥
‥‥
‥
一瞬の間ののち。
ストームと十四郎は素早く間合いを取って身構える。
「どうやら分かってはもらえぬか」
「ふざけるなよ。その口調や間合いも全て油断を誘うものなのだろう?」
「‥‥そ、その通りだ。よくぞ見破ったな」
どうやら天然だったらしい。
すると。
――ドゴォオォォォォォッ
突然の爆音と同時に、裏門が破壊された。
そしてあちこちの騎士たちが我先にと神殿に突入して来たのである。
「チッ。時間がないか、クッコロどっちだ!!」
「正面です」
クッコロに向かって走りながら問いかけると、ストームはクッコロを肩に担いで正面扉まで縮地で間合いを詰める。
「開けます!!」
胸元の飾りを握りしめると、突然扉が開く。
「すぐ閉じろぉっ」
素早くストームが飛び込むと、クッコロは素早く扉を閉じてまた封印した。
やがて外では扉に向かって攻撃している音が響くが、おいそれと破壊できるものではない。
「しかし、油断も隙もないでござるなぁ」
額から流れる汗を拭いながら、十四郎がストームたちに話しかける。
「‥‥それはお前もだ。やるのか?」
「それは神槍を手にしてからで構わんでござるよ。さあ、先を急ぎましょう。やばい奴らがいつ入ってくるか分からないでござるよ」
「それはお前もだ。全く‥‥」
そんな側から見るとお笑い芸人のようなやり取りを見て、クッコロは笑いをこらえている。
「なんだか可笑しいですね。敵味方なのに、何故か十四郎さんが悪人には見えませんよ」
「善悪の区別をどこで見るかですなぁ。私は元々善人なのです」
「どうだか。取り敢えずは急ぐぞ。この先のルートはどうなっているんだ?」
「こっちです。ここの先の床には、空間を超える魔法陣がありますので、それに飛び込むと」
クッコロの話と同時に、十四郎が我先にと魔法陣に向かう。
「すまぬなストーム殿クッコロ殿。神槍は我が手に!!」
――ダン
と魔法陣を踏むが、何も起こらない。
「は、はてさて?」
何度も魔法陣を踏んでいる十四郎の元にストームも到着する。
「起動コマンドが必要なのですよ。行きます!!」
クッコロがカムイの言葉で祝詞を語り始める。
やがて、魔法陣がゆっくりと輝くと、ストームたちはその場から姿を消した‥‥。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
目の前には巨大な神殿。
周囲は緑生い茂った深き森。
暑くもなく寒くもなく。
そんな場所に、ストームたちは立っていた。
「‥‥ここは何処なんだ?」
「此処が神殿の中心です。インカルシペの神殿は、外界と閉ざされた|隔離世(かくりよ)のようなものです」
クッコロは周囲を見渡しながら、何かを懐かしむように笑っている。
「暴風壁を超えて氷壁を抜けた先。いまは永久氷壁は溶けてしまい、表の神殿には誰でも入ることができます。けれど、その奥にあるここ、本殿にはカムイの民でなければ来ることができません」
神殿の正面階段の前に立つストーム。
「なら、他国の連中はここには来ることができないのか?」
「本来ならばそうなのですが。亜神もまた、ここに来ることができるのですよ。彼らも魂はカムイの民の生まれ変わりゆえ」
クッコロがそう話すと、十四郎もウンウンと頷く。
「ほう。十四郎は色々と知っているようだな、話してくれるか?」
「馴れ合うな。拙者と貴公は本来ならば敵同士。おいそれと国家の機密を告げたりはせんぞ」
「‥‥まあそうだよな」
「何れにしてもだ、亜神はあの魔法陣の使い方を知っている。それさえ起動できれば、自分達の兵をここに連れて来ることはできる。つまりは、亜神をどうにかしないとならないという事だ!!」
ウンウンと頷いている十四郎。
だが、ストームはすぐに解決策に気がつく。
「なら、先に神槍を回収すればいいだけじゃないか?」
「そうですね。神槍の所持者はいわば神殿の守護を務めるもの。手にする事で、全ての人々を神殿の外に追い出すことも可能です」
そう話すと、クッコロは神殿に向かって歩き始める。
「神殿の中は危険ではないのか?」
「はい。そもそもカムイの様々な儀式を執り行う場所です。危険な罠なんてありませんよ」
――ヒュン
そのクッコロの言葉を聞いて、十四郎は素早く神殿の階段を駆け上る。
「此処までの道案内ご苦労であった!!ではさらバァァァァォァァォオ」
――ビシィィィィッ
階段の途中にある結界に阻まれた十四郎。
その全身に強烈な雷撃が降り注いだのである。
「あれは、普通なら即死だよなぁ」
結界から剥がれてフラフラとしている十四郎を見ながら、ストームが呟く。
「良き魂を持つものならば、結界を通り抜ける事ができます‥‥」
クッコロはそう告げると、結界に手を当てる。
ホワーンとほのかに結界が輝くと、クッコロはそのまま結界の中に入っていった。
「俺はどうなんだ?人を殺めた俺の魂は、良き魂なのか?」
結界の前で問いかけるストームだが。
「全てはカムイのお心です。でも、ストームさんなら大丈夫ですよ」
そのクッコロの言葉に、ストームは覚悟を決めて結界に触れる。
すると、クッコロの時のように、ホワーンと輝くと、結界の中に入ることができた。
「きっ、貴様ずるいではないか!!拙者が入らなくてどうして貴様が入れるのだ?」
「あ、俺は神様の加護あるから。それじゃあ、後ろの連中の相手を頼むぞ」
そのストームの言葉に、そーっと後ろを振り向く十四郎。
――ヒュヒュヒュッ
次々と騎士たちが階段下の広場に転移してきた。
そしてまっすぐに十四郎に向かって走って来ると、素早く戦闘態勢を取っていた。
「良かろう。この者たちを倒してすぐに追いつこうではないか!!」
ガチャッと刀を逆手に握ると、十四郎もまた騎士に向かって走り始めた。
――カツーンカツーン
クッコロとストームの足音のみが、神殿の中に響く。
「神殺しの神槍か。台座に突き刺さっていて、抜けたものが真の所有者とかそんな話はないだろうな?」
笑いながらそう呟くストームだが、クッコロは慌ててストーム方を見た。
「な。何故知っているのですか?」
「マジ?」
ストームの頬に冷たい汗が流れる。
「あ、あはははは。台座がいわば、神槍を掴んだものの魂の質を計るものであり、条件を満たしていないものは抜くことができないとか?」
その言葉に、クッコロは真剣な顔でストームを見る。
「ま、マジなのか?」
「ストームさんのいうマジという言葉の意味はわかりませんが、今ストームさんの告げた通りです。そしてこれが」
神殿の奥。
祭事場でもある空間に、ストームたちは辿り着いた。
目の前には白亜の台座、そしてそこに突き刺さっている一振りの槍。
クッコロは槍の前に立つと、言葉を続ける。
「神殺しの神槍、ルーンギニスです」
じっくりと観察するストーム。
「材質は神鉄とクルーラーの複合か。形状は槍と言うよりはハルバード。魔道具と言うよりは分類は神具、神殿の全てを知ることができると‥‥あと三つがわかんねーな」
近寄って見ているストームの言葉に、クッコロも驚いている。
「ど、どうして分かるのですか?」
「俺は鍛治師だからな。では、クッコロが抜くのを見ているわ」
万が一を考えて、全身をアダマンタイトのフルプレートに換装。
カリバーンと力の盾を装備すると、いつでも臨戦態勢を取れるように構えている。
「では‥‥」
台座の後ろが階段状になっているらしい。
そこから台座に上がると、クッコロは神槍の柄を両手でしっかりと掴む。
「我はクッコロ。神殿を守る月の民の巫女‥‥槍よ、我に力を授けたまえ!!」
――グンッ
力一杯槍を引き抜く‥‥抜けない。
ピクリともしない。
全く動く様子もない。
「そ、そんな。私です、クッコロです。抜けてください!!」
ガツガツと引っ張るがピクリともしない。
「駄目です‥‥どうして抜けないのですか‥‥」
その言葉に、ストームはポリポリと頭を掻く。
「クッコロ、マルムの実と言うのを知っているか?」
「はい。奇跡の実と呼ばれている神代の果実です。食べたものに神に等しい力を授けるとも伝えられています」
「うちの相棒が、それ食って選ばれたらしいんだよ。つまり抜けるのは相棒だけなんじゃないかな」
その言葉にはクッコロは全身の力が抜けて座り込んでしまう。
「ス、ストームさん、その方は今どこに?すぐにその方を連れてこないと‥‥」
「まあ待て。本来ならばこうなった時にすぐに呼び出すこともできたのだが‥‥連絡するための魔道具が破壊されたので、俺もどうするか考えていたんだ」
そう話をしていた時。
――ダダダッ
神殿の中に何者かが侵入してくる。
素早くクッコロを台座から下げると、ストームは神槍とクッコロを守るように前に出る。
「ほう。それが神殺しの神槍か。素直に渡して頂けるかな?」
全身をメタリックブルーの甲冑に包んだ騎士が、ストーム達の前にやってくる。
その背後には、軽装鎧の騎士達が6名待機している。
「断る。そもそも貴様は何者だ?」
「私か?そうだな‥‥クウェイサーとでも名乗っておくか。さあ、早く神槍を寄越したまえ」
ゆっくりと背後の騎士達が台座に向かって近づいていく。
だが、ストームは全くひるむことはない。
――ヒュッ
素早くカリバーンを振ると、台座を中心に半径5mの円状の亀裂を作り出す。
「その傷がお前達の命の境界だ。一歩でも越えたら死ぬと思え!!」
怒気をはらんだ声で叫ぶ。
その迫力には、近寄ってきた騎士達の足も止まったが。
「チッ、何をしている?相手はたった一人。まとめてかかれば怖くないだろうが!!」
クウェイサーの声に騎士達も全員で台座を取り囲み始める。
そしてジリジリと間合いを詰めていくと、一斉に台座に向かって走り出した。
「俺は忠告したよな!!」
――ズバァァァァア
ほんの一瞬。
またたく間に、騎士達は全て円の外に叩き出された。
騎士達は自分に何が起こったのか理解していないであろう。
ストームはただ素早く移動して騎士を斬り飛ばしただけ。
神速で円の中に六角形を描く軌跡で走りながら、|強撃(スマッシュ)・無限刃で二人ずつ仕留めただけである。
生きてはいるが、激痛で身動きが取れない。
「さて、次はあんたの番だ。外にいた連中はどうした?」
ガチャッとクウェイサーにカリバーンを向けるストーム。
「全て斬り捨てたよ‥‥あの程度の雑魚なんて、敵でもないわ」
ゆっくりと盾とロングソードを身構えるクウェイサー。
ストームもその動きに合わせて、ゆっくりと身構える。
「亜神をあっさりと切り捨てるか。何処の国だ?」
「我々はこの大陸のものではなくてね。世界各地にある遺跡の武具を集めるのが使命‥‥我らバイアス連邦が世界に台頭するためにはな!!」
クッコロも知らない鎧の国章。
それはウィル大陸南方の連邦国家のものである。
「ラグナ・マリア南方の国か。こんな北方までわざわざご苦労な事だ」
「我々の任務はこの大陸の調査だからな。バイアス連邦第七魔導騎士団、それが我々の正式な名前だ」
「まあ、全く知らないのだが。なら、お前は俺を知っているか?」
ストームがクウェイサーの背後、彼の影をちらっと見ながら問いかける。
影の中からは、一瞬だけ十四郎の姿が見えた。
「さあな。カムイの娘を護衛している凄腕の侍があるとは聞いていたが、さっき斬り捨てた忍者のような奴がそうなのだろう?さしずめもう一人の護衛らしいが、腕は確かだな」
クックックッと笑うクウェイサー。
「そうか、なら覚えておいてくれ。サムソン辺境王国所属、剣聖ストームだ」
その名乗りには、クウェイサーも数歩下がる。
ウィル大陸では、剣聖ストームも賢者マチュアもすっかり有名になっている。
「そうか、貴方が剣聖ストームか‥‥相手にとって不足はない!!いざ参る!!」
素早く大地を蹴ると、クウェイサーはストームに向かって間合いを詰め、ロングソードで乱撃を叩き込む。
――ガキガチャッ‥‥ボゴォッ!!
だが、全てを力の盾で受け流すと、カリバーンでクゥェイサーの盾を破壊した。
その破壊力に、クウェイサーも慌てて間合いを外すと、両手でロングソードを構える。
「ま、まさか盾が破壊されるとは‥‥なら、こんどはこれで!!」
再び間合いを詰めてくると、またしても乱撃を入れてくるクウェイサー。
――ガキガキガキガキィッ
またしても盾で受け止めていたが、突然ストームの全身から力が抜け始める。
打ち込みを受け止めきれず、膝から崩れそうになる。
「なっ!突然力が‥‥どういう事だ」
すかさず間合いを外すストームだが、さらにクウェイサーは乱撃を入れてくる。
――ガキガキガキガキィッ
どうにかカリバーンで受け止めていると、再びズルッと力が抜ける。
「このロングソードの名前はダンピール。斬りつけた相手の命を吸う剣だ。久しぶりに歯ごたえのある相手に出会えて光栄だよ‥」
「馬鹿な。俺は傷一つつけられていないぞ」
倒れそうになるのをぐっと堪えつつ、真横にウィンドゥを表示してステータスを確認する。
「ああ。普段は雑魚相手なので、斬り合っても吸い取れないのだよ。だが、その武器や盾は、魔力伝導率が高そうだからなぁ」
そこまで説明してくれるとありがたい。
ステータスウィンドゥでは、『心力』が一桁まで下がっている。
武器系スキルを使うときにはここが消費されるが、下がりすぎると体に負荷がかかるのは知らなかった。
そもそも、そんなに下がるまで技を使ったのはボルケイド戦ぐらいである。
「そうかい。なら、見て驚くなよ」
すかさず空間に手を突っ込むと、マチュアから貰ったジャックオーランタンのシャッターを開く。
淡い光がストームを包むと、心力がMAXまで回復した。
「さて、第二ラウンドだ。今度はこっちも色々とやらせてもらうぞ」
「な、なに?どうやって回復した?」
「それは秘密だ、そらよ」
間合いを取ってからカリバーンを振る。
――ズバァァァァア
その衝撃波をクウェイサーもロングソードの衝撃波で相殺するが、さらにストームが踏み込んでバースト無限刃を叩き込んだ。
――ドッゴォォ
バースト無限刃は広範囲物体破壊技。
床や近くの壁も全て衝撃波で破壊する。
クウェイサーの鎧もあちこちが吹き飛び、満身創痍に見えた。
「まだだ、この程度で俺がやられるはずが無い」
クウェイサーの鎧が輝くと、見る見るうちに修復されていく。
それはクウェイサー自身の怪我すら一瞬で治してみせた。
「ふぅ~ん。ダンピールの回復能力かよ、なら、回復不能になるまで破壊し続けてやるさ」
再度カリバーンを身構えると、ストームは再びクウェイサーに向かって力一杯振り下ろした!!
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だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
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