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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

バイアスの章・その6 女王と少女と遺蹟と封印

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 その日の早朝。
 ニアマイアー領の飛竜襲撃事件の一報が、ベルナー城でまだ眠りから覚めたばかりのシルヴィーの元に届けられた。
 現在はカナンとサムソンから支援部隊が送り込まれ、僅かずつ復興を開始しているのだが。
 いまだ、攫われてしまったセシールの行方は知れていない。

──カツカツカツカツ
 早足で廊下を駆け抜けるシルヴィー。

「お待ち下さい陛下。ここはサムソンの騎士団に任せて、ベルナーで報告を待っていて下さい」
「それはならぬ。叔母上殿が攫われたのだ。ここでじっとなどしていられぬ」

 執務官にそう叫ぶと、シルヴィーは外で待っているであろう馬車に向かう。
 だが、その手前の廊下でウォルフラムとアンジェラの二人がシルヴィーの手前に立つと、その場に跪いた。

「シルヴィー様、お待ち下さい」
「ここで陛下が動いてはいけません。レックス皇帝からは、シルヴィー陛下は後方で待機するように告げられたと報告は受けています。幻影騎士団として、ここを通すことは出来ません」
「なにを言う。わらわはここでじっとなどしていられぬのぢゃ……頼む。後生ぢゃ……妾は、ニアマイアーに向かいたいのぢゃ……」

 泣き叫びながらその場に崩れるシルヴィー。

「ならばこそです。セシール殿は確かにシルヴィー様にとって大切な方ですわ。だからこそ、私たちは貴方を危険に送ることは出来ません。もし貴方に何かあったら、このベルナーはどうなるのですか?」

 アンジェラが少しきつめに叫ぶ。
 そこでようやくシルヴィーも少し落ち着いた。

「シルヴィー様。どうぞご命令を。幻影騎士団は貴方の騎士団。いかなる命令も遂行して見せましょう」

 ウォルフラムがそう告げると、シルヴィーは立ち上がってウォルフラムに抱きつく。

「叔母上を探して欲しい……頼む……」
「了解しました。マチュア殿は皇帝の勅命のため動けません。ポイポイたちに連絡はしてあります。すぐにでも彼女たちは動いてくれるでしょう」
「うむ……判った……執務室に戻るとしよう……」

 涙で真っ赤な目をこすりながら、シルヴィーはくるりと回るとスタスタと執務室へと戻って行く。

「では、私はシルヴィー様についています。ウォルは皆に通達をお願いします」
「わかった。まあ、無茶はしないと思うが、くれくれも目を離さないでください」
「了解ですわ。それでは」

 アンジェラがシルヴィーの元に向かうと、ウォルフラムは踵を返して最上階の円卓の間へと向かった。

「ウォルフラムより幻影騎士団全員にダイレクト通信。サムソンのニアマイマー領が飛竜と謎の亜竜族に襲撃を受けた。シルヴィー様の叔母であるセシールが捕らわれ、現在は行方不明」

──シュンッ
 突然のダイレクト通信に、マチュアがウォルフラムの横に転移してくる。
 ちょうど講義の合間だったので、こっそりと建物の陰から飛んできたのである。

「ウォルフラム、シルヴィーは何処だ?」
「マチュア様、任務は宜しいのですか?」

 慌ててマチュアに問いかけるが、マチュアは頭を左右に振る。

「状況の確認が終わったら戻るさ」
「そうですか。シルヴィー様は現在執務室です。アンジェラが付いていますのでご安心ください」
「そうか。なら大丈夫だな。敵の所属している国とかは確認できているか?」

 椅子に座りながらマチュアが問いかける。
 が、ウォルフラムは頭を左右に振るだけである。

「バイアス連邦の可能性が高いか。王都で何かあればツヴァイから連絡がくるようになっているが、まだ入らないということは国は関係ないのか?」

 フルパワーで思考するマチュア。
 だが、まだ情報が足りない。

「……ポイポイには連絡を入れてあります。馬車になりますが、カナンからニアマイアー領へは向かうように指示しています」
「わかった。各ギルドに派遣されている幻影騎士団に通達。ニアマイアー領及びセシールについての情報収集を最優先。可能ならば現在の任務を中断して事に当たれと」
「了解しました。マチュア様はどうするのですか?」

 そう問われると、マチュアも頭を悩ませる。

「ツヴァイからの連絡待ち。私自身はバイアス連邦に潜入して情報を集める」

 真剣な表情でウォルフラムに告げると、ウォルの肩をトントンと叩く。

「一時的にウォルフラムに指揮権を譲渡する。私が戻るまではウォルが幻影騎士団の指揮統率をしてください」
「そ、それはどういう事ですか?」

「こっから先は幻影騎士団参謀ではなく、白銀の賢者として行動する。シルヴィーにはこう伝えてくれ。『大丈夫、何とかするから』とね。ストーム、今何しているんだ!!」

 耳につけているイヤリングに指を当てると、マチュアはストームを呼びつける。

『……』

 だが、ストームからの連絡はない。

「……いやな予感しかしないぞ?|深淵の書庫(アーカイブ)発動。GPSコマンドでストームのイヤリングの座標を確認……」

 魔法陣が高速回転し、ストームの居場所を検索する。
 だが、深淵の書庫アーカイブに映し出された表示は悲痛なものであった。

『ターゲット消失《ロスト》』

「……」

 心配そうにマチュアの方を向いているウォルフラム。
 彼にはこの文字がなんであるかまだ理解できていない。
 だから、マチュアはニィッと笑った。

「まったく。まだ亜神と喧嘩中らしいな。こっちは私たちに任せるとさ」

 ドン! とウォルフラムの胸を拳で叩くと、マチュアはウォルフラムを見る。

「という事で団長副団長共に動けない。幻影騎士団は預けたからな?あとで返せよ」
「分かりました。一人も欠ける事なくお返ししますよ」
「あ~、欠けたら蘇生して8時間正座と伝えておけ。では」

──シュンッ
 そう告げると、マチュアは再びバイアス連邦の魔導学院へと戻っていった。

「幻影騎士団全員に通達。マチュア様からの作戦指示を伝えます……」

 そしてウォルフラムは、すぐさま幻影騎士団に連絡を取ると、早速行動を開始した。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ようやく火災の収まった建物の解体作業が始まる。
 ニアマイアー領に到着したゼクスとファイズは、他のカナン魔導騎士団や雇われた冒険者と共に、ケガ人の手当てや建物の復旧作業などを行なっている。
 無念にも焼死した者達や亜竜族に殺されたものたちは、身分や名前などを確認してから城外の墓地へと運び出されている。

「ゼクス殿、報告があります」

 一人の騎士が、セシールの屋敷で指揮をしていたゼクスの元にやってくる。

「何ですか?」

「ニアマイアーの自警団と騎士に問い合わせても、身分のわからない死体が一つあります」

──ピクッ
 一瞬眉が動くゼクス。

「その者について、目撃者は?」

 そう問いかけると、報告した騎士の背後に立っている負傷して騎士が敬礼する。

「火災のあった日、その男は飛んでいた飛竜に何か命令をしていました。まるで自在に操れるかのように。そこで問いかけようとしたところ、男が笑いながらナイフを片手に襲いかかってきて」
「それで斬り捨てたと?」
「はい。ですが私が斬り捨てたあと、突然倒れていた男の体がズタズタに引き裂かれまして。まるで魔法か何かで切断したかのように」
「‥‥その男の死体は?」
「死者に罪はなし。馬車で外に運ぶ準備をしています」
「そうか。ファイズ、ここを任せて宜しいですか?」

 傍で町の地図を眺めつつ指示をしているファイズ。

「???」
「ですから、ここの指示をお願いしたいと」
「あ、了解。何かあったの?」
「あったからお願いしているのですよ。では」

 それだけを告げて、ゼクスは不審者の死体が安置されている倉庫へと向かう。

 数多くの死体が、そこには並べられている。
 あちこちで遺族のすすり泣く声も聞こえてくる一角に、騎士や護衛士の遺体だけが並べられている場所がある。
 その奥に、男の死体が置かれていた。

 人目につかないように毛布で覆われており、周囲には人の気配もない。

「これか?」
「はい。先ほど報告した者の死体です。身につけているものから何処かの下級貴族かと思われますが、紋章鑑定を行えるものがこの都市にはいないもので」
「わかった。少し外してくれないですか?」

 案内してくれた騎士にそう告げると、騎士は一礼してその場から離れる。

「さて。私たちマチュア・ゴーレムシスターズは死者を蘇生する魔術は理解してても、秩序神ミスティの加護がないので蘇生は必ず失敗します。ですが……」

 ゼクスの足元に魔法陣が広がると、ゼクスの体を帯状の術式が包み始める。

「我に、悲しきものとの意思を疎通する力を与え給え‥‥死者会話デッドリースピーク

 ゼクスが用いたのは死者の魂と会話をする魔術。
 もし、対象となる死体の近くに魂が残っていたら、意思をつなげて会話をすることができる。
 とは言え、簡単な質問と『はい、いいえ』を表す頭の動きしか理解はできない。
 マチュアならベラベラと話をした上で、井戸端会議ぐらいはやらかすのだが、ゼクス達ゴーレムには神の加護がないのでここが限界。

 周りには見えない。
 だが、死体の上に、透き通った人の姿が現れた。

「幽霊の残存思念から察するに、できる質問は二つですか。『 あなたはバイアス連邦のものですか?』」

 その問いに、幽霊はゆっくりと頭を縦に振る。
 残る質問はあと一つ。
 それで魂は冥府へと旅立ってしまう。

「バイアス連邦は、ラグナ・マリアに侵攻しようと考えているのですか?」

 その問いには、幽霊は頭を動かさない。
 やがて幽霊はスッと消えてしまう。

「失敗した。あの幽霊の知らない情報でしたか……」

 わかったのは、この男がバイアス連邦から来たという事実だけ。
 そこでゼクスは男の持ち物を全て回収し、死体は丁寧に弔うように騎士に伝えると、ファイズ達の元に戻っていく。

「おう、早かったな。何かわかったのか?」
「侵攻したのがバイアス連邦という事だけですね。密偵が潜入して手引きしたのでしょう。ですが、セシール殿がさらわれた理由がわからないのですよ?」

 その報告を聞いて、ファイズは頭を傾ける。

「街の人と巡回騎士の報告では、飛竜が二つと亜竜族が二人、多分ゼクスが見て来た死体の男と、銀の甲冑を身に付けた騎士がいたらしい。亜竜族の一人は死体で燃えてしまったらしいけどな」

 少人数による襲撃。
 それで、このニアマイアー領は大半の機能を失い、領主が拐われてしまったのである。

「手際が良いと言えばそれまでだけど、亜竜族というのが此処までの戦力を保有しているとは知らなかった。今後のことも考えると、色々と考えないとならないな」

 ファイズがそう話すと、ゼクスは現在の状況をミナセ女王にも報告する。
 そして現状維持のまま、復興支援と調査を命じられたのである。

「空から炎の息を吐き出されるとお手上げかぁ。この街は水の結界で守られていたんだろう? どうしてそれが機能しなかったんだ?」
「セシール殿の魔力で結界は維持していたんでしょうね。けれど、竜族の息はその結界の強度をうわまったのでしょう。記憶では、マチュア様がボルケイドと戦った時も、あのブレスだけはまずいと言っていましたから」

 それだけを告げると、ゼクスとファイズは再び地図を眺めて色々と考え込んでいた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「しっかし、予想外の事ばかりだなぁ。こうなると、あまり此処に長居することもできないかぁ」

 ボソッと講義を最中に呟いているマチュア。
 ベルナー城から戻ってきてすぐに、マチュアは午後の講義のために講義室に飛び込んだ。
 偶然ではあるが、講義内容は古代魔法王国の歴史について。

 ウィル大陸の古代魔法王国といえばスタイファーとクルーラーの二つが有名なである。
 どちらも遥か過去に滅んでおり、二つの王国の血筋も長い時間の間で薄れてしまっている。
 その血にはかなり高い魔力が含まれており、現在、魔導師と呼ばれているものの中には、スタイファーの血がわずかに残っているものが多いらしい。
 スタイファーの遺跡などに存在する魔術結界や魔導器などは、ごく僅かの魔道士の血の中に眠る『スタイファーの記憶』に反応するらしい。

「現在もこのスタイファーの血を残しているものの中には、エルフと交わり長い間、貴重な血を代々伝えているものや、隠れ里に住んで外界と交わらずに隠していた者もいたらしいですね」

 講師が黒板に様々なら名前を書き記す。
 全て歴史に出てくる魔導師であり、かなり強い力を保有している。
 その中にマチュア・ミナセの名前があった時に、マチュアは力一杯吹き出した。

──プッ

「ん?どうしたマチュア君。確かに君の保有魔力は導師級だが、ここに羅列されているもの達には遥かに及ばないぞ」
「ふぁい。マチュアという名前があったので、よしんば私かなと?」

 その言葉には、他の生徒達も大爆笑。

「ラグナ・マリアのカナン魔導女王マチュア。ハイエルフの種族で、スタイファー王家の血を残しているものという噂も流れている」

──カツカツカツカツ
 黒板にマチュアの情報が次々と書き込まれていく。

「希代の錬金術師であり、ゴーレムを始めとする様々な『失われた魔術ロストマジック』を使う魔術師。その功績で帝都からは白銀の賢者の称号も受けたらしい」

 生徒たちの中からオオーーッという声が聞こえる。
 魔法を学ぶものにとっての最高位、世界最強の称号である。

「そういえば、マチュア君は魔導女王の住んでいる国の出身だったね。魔道具はなにか所持しているのかね?」
「ええ。カナンは暫く帰っていませんけれど、国を出るときに幾つか買い込んでいますので」

 今度はそのマチュアの言葉に生徒たちが驚く。
 外見種族が違うだけで、同じ名前でも別人と思ってくれるのは実にありがたい。
「ほほう。たとえば? もしよろしければ壇上で色々と見せてもらえるかな?」
 そう講師に促されると、マチュアはポリポリと頬を掻きながら前にでた。

「そうですねぇ~」

 ズルッと絨毯やら箒やらランタンやら色々と取り出す。
 それを一つ一つ並べてから、手に取って説明を開始する。

「えーっと。まずこのバッグが空間拡張と時間停止の処置が施してありますので」

 チラッとモーゼルの方を見ると、魔道具には興味津々らしく食いつくように見ている。

「……つまり?」

 講師が問いかけたので、マチュアはバッグを手にして講師のもとに歩いていった。

「こうですね」

 バックの中から熱々のティーポットを取り出すと、ついでにカップも出してハーブティーを注ぐと講師に差し出す。

「いつでも何処でも温かい食事ができます」

 これには殆んどの生徒が食いついたが。

「こっちのランタンは魔力を注ぐだけで明かりが灯ります。中には『光球』の魔術が封じられているようですね。こっちはインクが無くても書ける魔法の羽ペンです」

 そう説明していると、ふとグースがニヤニヤと笑いながらこっちを見る。

「そ、その手のものなら俺の家にもあるぜ。もっとこう、魔導王国の遺産のようなものはもっていねーのかよ?」
「はぁ。ならこの魔法の箒は?」

 箒を手に取ると、女生徒たちの瞳が期待に輝く。
 だが、男子生徒は野次を飛ばしてきた。

「まさか勝手に掃除してくれる箒とかいわないよなぁ?」

 ニヤニヤと笑っているグースとその取り巻き。
 ならばと、マチュアは箒を空中に固定してそこに横座りすると、フワッと飛び上がって講義室の中をゆっくりと飛んでいく。
 これには女子生徒が大喜びである。
 男子生徒たちは逆に言葉を失い、その場で硬直している。
 フワッと壇上に戻ると、講師がマチュアに近づいて一言。

「ちょっと見せてもらっていいかな?」
「ええ、どうぞ」

  講師に箒を手渡してみると、ふむふむと何か納得していたようである。

「古代の飛翔の魔術が施されているねぇ。それと永続化、魔力制御というところか。殆んど失われている魔術のうえに、それらを付与して調整する魔術などいまは存在していない」

 ふぁっ
 どうしてそこまで解析できるのかとマチュアは問いたい。

「ホーリック講師、それはいまは作ることが出来ないのですか?」
「私には無理だねぇ。付与魔術師がいたとしても、飛翔魔術自体が失われているのでできないねぇ。マチュアくんは、これをどこで?」
「父がマチュア様から直接賜りました」

 コクコクと頷くホーリック。

「ということだ。欲しいならカナンにいって手柄を上げると良いでしょう」

 箒を戻されたので、これは急いでバッグにしまう。

「そ、そんなものなら、俺達だって簡単に手に入れられるぜ、なあ!!」

 まだグースたちは野次を飛ばしているので。

「ではぁ。この絨毯も大体なにか想像つきますよねぇー」

 と教室を見渡す。
 よく見ると、シャルロッテや取り巻きのアンナ、ステファニーも興味津々で覗き込むように見ていた。

「では。そこの貴方とホーリック講師、ちょっとよろしいですか?」

 目の前の席にいた女子生徒とホーリックを呼ぶと、広げた絨毯の上に座ってもらう。
 そこにマチュアも座ると、ゆっくりと魔力を注いだ。

──フワッ
 絨毯が空中に浮かび上がると、教室を自在に飛び回る。
 女子生徒は言葉を失い、ホーリックは絨毯に触れて何かを感じ取っている。
 3分ほど飛び回ると、壇上に戻って生徒と講師を降ろした。

「ふむふむ。さっきの箒と同じ付与をしているねぇ。流石は魔導女王というところだろう。これで全てかな?」
「ええ。私も導師の元で魔法学と錬金術の勉強をしていましたから。ですがまだまだ知識だけで、本格的にこれらを作るためにはカナンの魔導工房に入らなくてはならなくて」

 一つひとつをしまいこんでから、マチュアはホーリックに頭を下げると席に戻った。

「マチュア君に見せてもらった魔道具は、古代の魔術を用いて作られている。現在のバイアスでも、足元にはスタイファーの遺跡群が眠っているが、そこに向かうためには大量の魔力で封じの扉を越えなくてはならない」

──カツカツカツカツ
 黒板に次々と遺蹟の入り口がある場所を書き記していく。

「これらの場所は冒険者たちにも一般開放されているが、扉を越えた冒険者も魔導士も存在しない。これらを開くためにはいくつかの要因があるからです」

 ほほう。
 少しは興味がある。
 というか、ここでもモーゼルは真剣に話を聞いている。

「例えば鍵。古代の魔道具には、結界を越えるための鍵となっている場合もあります。それらのものは遺蹟ではなく、古い旧家や貴族の屋敷が所持している場合があります」

 あるある。

「例えば魔術。入り口に古代魔法語や神代文字が描かれており、そこに記されている文字を解析することで、未知の開き方が記されている場合もあります」

 モーゼルが必死に話を聞いているのも、このためであろう。

「そして最後に血ですね。これには広義で血筋と生贄の二つに分類されます。先程も説明しましたが、スタイファーやクルーラーの王族の血は殆んど存在していないため、この手段は適切ではありません。ですが、遺蹟の主人が王族であり、子孫たちに重要な魔道具を残す場合などにはこの技法を使うこともあります……」

 ん?
 なにか引っかかる。

「血は魔力で代替することは出来ないのですか?」 

 マチュアは手を上げて問いかけてみる。

「いい質問だね。最初に説明したが、導師級の魔術を使えるものの血には、スタイファーの血が色濃く残っている事もある。つまり『高魔力を保有している者=スタイファーの血が残っている者』という認識をする研究家もいる」
「ということは、私でも開けることが出来るのかもしれませんね?」

 またしても大爆笑となったが、ホーリックは真剣に話を続ける。

「白衣のローブに金刺繍。実は不可能ではないのですよ」 

──ブッ!!
 思わず吹き出す。

「そ、そそそ、そうなのですか?」
「ええ。その為には冒険者として誰でもいける遺蹟に向かうか、王都の遺蹟調査隊に志願するしかありませんね。もしその気があるのでしたら紹介状は書きますよ?」

「はっはっはー。まだ勉強したいので考えさせて下さい」
 
──カラーンカラーン
 終業を告げる鐘が鳴り響くと、ホーリックは頭を下げて講義室から出ていく。
 その途端、大勢の生徒たちがマチュアの方に走ってきたので、マチュアは慌ててホーリックの後ろについて講義室を飛び出すと、箒を取り出して一目散に飛んで逃げることにした。

 追いかけてくる中にモーゼルの姿があったのも、マチュアは見逃していなかった‥‥。
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