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第四部 和国漫遊記

和国の章・その壱 先生、出番です

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 大隅の白浜に漂着したストームは、漁師から次の街へと向かう街道を教えてもらうと、侍の旅支度に換装してのんびりと歩いているた。

「いい所だなぁ。やっぱりこの見慣れた光景を見ていると落ち着くわ~」
 昔よく見た時代劇の世界を旅している。
 それだけでもう感動ものである。
 時折すれ違う旅人の中に、ウィル大陸で見たような冒険者や商人の姿もあったが、数は圧倒的に少ない。
 夕方になると、パラパラと人の姿も増え始め、遠くに宿場町の門が見えてくる。
「取り敢えず、まずは冒険者ギルドがあるかどうかだな‥‥」 
 ということで、街に向かって足を早めることにした。

――ガヤガヤガヤガヤ
 やがて大勢の人達が行き交う宿場町に到着する。
「さて、全くわからないぞ。すいませーん」
 と、近くにいた丁稚らしい子供に話しかけてみる。
 年恰好から、大体13歳と行った所だろう。
「お、お侍さん、一体何の用ですか?」
 畏まりながら、子供もオズオズと返事を返してきた。
「この辺りに商人ギルドか冒険者ギルドはあるかい?」
 懐から銀貨を一枚取り出して手渡しながら、ストームは問いかけてみた。
「この道を真っ直ぐ行って、角にあるのが異国の冒険者ギルドとかいう建物だよ。その斜向かいが商人の大問屋で、ギルドとかいうやつだよ」
「ありがとうよ。じゃあな」
 頭をポンポンと叩きながら、真っ直ぐにそちらに向かう。
 夕刻ということもあり、中々に道が混雑してきた時。

――ドン!!
「気をつけやがれ!!」
 と、チンピラがぶつかって文句を吐き捨てながら立ち去っていく。
「あらあれがスリかよ。全く油断も隙もないな」
 盗まれるようなものはもっていないし、騒ぎ立てて目立つのも嫌だったので、スリの存在は無視してギルドに向かう。

 マチュアのように堂々と目の前の空間から物を出し入れしないストーム。
 やるときは人気の無いところか知り合いの前で、さっきみたいにお金を出すときは懐に手を突っ込んで、そこから空間に入っているバックから取り出している。
 面倒臭いように見えるが、空間から出すのは何処でも同じなのでこうしていると目立たない。
 当然ながら、さっきのスリもストームの懐を狙ったらしいが全くの無駄である。

 やがて商人ギルドが見えてきたので、一先ずはそっちから話を通すことにした。
「おお、小上がりが畳敷きだ」
 感動に身を打ちふるわせている場合では無い。
 奥から着物姿の恰幅の良いドワーフが出てきたときは、思わず笑いそうになるが。
「いらっしゃいませ。お侍様、本日はどの様に?」
「あ、今日は商人としてやって来たんだ。両替と、あとウィル大陸に向かいたいのだが、そういう船はあるのか?」
 ウィル大陸で発行して貰った商人ギルドカードを提出すると、ドワーフの親父はホウ、という顔をした。
「サムソン鍛治組合発行のやつか。名前は‥‥ストームさんだね。ウィル大陸に戻りたいと行っても、一体どうやって此処に?」
「船釣りをしていたら流されちまってな。あれよあれよと気づいたらこの先の浜辺に辿り着いていたのさ」

――ガッハッハッ
 と、豪快に笑われる。
「さて、それじゃまずは両替からだ。金貨十枚で一両、銀貨一枚が1もんめ銀二枚になる。銅貨はここにはない。その代わり鉄貨一枚がこの一文銭に相当する。銀1匁が50文てとこだな」
 貨幣を並べながら説明する。

 取り敢えずストームは、小判型の1両が10万円、四角い一匁銀が500円、穴の空いた丸い一文銭が10円と脳内で変換して見る事にした。

「さらに細かいと、白金貨一枚と同価値の大判や金貨5枚分の二分金、2.5枚分の一分金、1.25枚分の二朱金とかもあるな」
 次々と貨幣を並べていく。
「銀貨だと5枚分の二分銀や銀貨2.5枚の一分銀、1.25枚分の二朱銀てとこだ。このように色々あるが、まあ、そっちはおいおいと慣れてくれ」
 時代劇を参考に、頭の中で色々と置き換えていくストーム。

「宿代とかは、大体幾らなんだ?」
「この街だと、大体が一泊二食ついて400文からだな。8匁銀てとこだが、銀は旅人とか冒険者以外はあんまり使わないな‥‥理解したか?」
 どうにか頭の中で理解し始める。
 まあ、面倒臭いと思ったら全て銭で支払えばいいと考えている。
「まあ、なんとかな」
「で、この看板が外にかかっている店はウィル貨幣やグラシェード貨幣も使える。手数料がわりに少し割高だが、こっちの方が楽なので異国のものは大抵はこっちだ」

――ドタッ
 その場に崩れるストーム。
「さ、先に言ってくれ。まあ、取り敢えずはこれを両替頼む」
 と白金貨を10枚出す。
「使い勝手の良いのにしておくか?」
「任せるよ」
 と頼み込むと、親父は奥から千両箱を持ってくる。
「白金貨一枚が10両だから。これでまずは100両な」
「なら、こっちは銀に、こっちは銭にしてくれ」
 と白金貨を20枚積む。
「ほう。こっちは銀で2万匁、こちらは銭だと‥‥」
「わ、わかった、金額間違えた、どうも感覚が違うな」
 と慌てて白金貨を10枚下げる。
「わっはっは~。そうじゃろうな。初めて和国に来た冒険者は必ず同じことをする。まあ、額が違うのでどうしようか困っていたところだがな」
 困り果てているストームにそう話したのち、更に笑顔で話しを続ける。
「さて、分かりやすく言うと白金貨一枚で10万銭。白金貨十枚で100万銭になるぞ?銀なら2万匁だ」

――パチパチッ
「あら、この白金貨一枚だけ頼む」
「ようやくわかったかな?」 
 と親父は笑っている。
 この金銭感覚の低下は、この国では危険なのである。
「白金貨一枚が銀貨で1000枚、2000匁と。そろそろ意地悪はやめておくか。1600匁銀と、それと20000文銭だ」
「ならそれで‥‥もうそれで良いわ」
 目の前の銭の入った大量の小袋を手にすると、背中のバックに放り込む。

――スポッ
 次々と大袋が小さいバッグに入るのを見て、周囲の商人たちが集まってくる。
 最後には、袋から直接ジャラジャラと放り込むと、バッグを背負い直した。
「ほう、空間拡張型バッグですか、話には聞いたことありますが、凄いですなぁ」
 ドワーフの親父は笑って話している。
「まあな。で、両替の手数料はいくらかかるんだ?」
「白金貨11枚ですから、金貨30枚で結構です。両替手数料は額の100分の3と相場は決まっていますので」
 それを支払うと、ストームはようやく一息ついた。
「で、ようやく本題だが、ここはどこだ?」
「ここは大隅の国ですよ。和国の最南端に位置します。北西が薩摩、北東が日向、北が肥後になります」

 地形はどうなのか分からないが、おおよそ戦国時代の五幾七道の区分に近いと予測した。

「江戸は?」
「えど?それは何処の国ですか?」
「あー、なら天皇は?」
「天皇?あ、朝廷ですな。山城国の愛宕にいるはずですが。ストーム殿はあまりこの国にはお詳しくないようで」
「うむ、さっぱり分からん」
 偉そうに、きっぱりと告げる。
「まあ、流されて来たのでしたらそうでしょうなぁ。今の和国は各国が領地や覇権を争っていまして、まさに戦国の世と呼ぶにふさわしい時代なのです。今最も権力を持っているのが尾張の織田家、続いて甲斐の武田家、相模の北条家がかなり強いですね。あとは三河の松平家のように小さい国も連なっているようです」

 地球で聞いた名前や地名があると、日本史に強いストームの独壇場である。
 もっとも、同じ歴史や同じ人物史であるとは限らないのでそこは慎重に。

「この大隅は平和なのか?」
「北の霧島家が周辺の島津家と懇意にしていますから。まあ、こんな南方の辺鄙なところまで織田が侵攻してくるとは思えませんし、途中の毛利や大伴と言った反織田勢力を突破してくるとも思えません」
 大隅の霧島家か。
 ストームも聞いたことがない。
「大隅というから、てっきり島津が治めているのかと思ったわ」
「大隅の殿様の奥方は、島津から嫁いできた方ですよ?」
 ほら、歴史が違う。
 と脳内で納得する。
「そうか。まあ、おいおいと覚えながら向かうよ。で、ウィル大陸に向かう船は何処から?」
「尾張と武蔵から出ていますよ。正確には尾張から武蔵へ向かい、武蔵からはグラシェード大陸を経由してウィル大陸に向かいます。大体300日ってとこですね」
「ほぼ一年か。まあ、なんとかなるか。いろいろとありがとうな」
 と礼を告げて、ストームは一先ずは宿を探す事にした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 既に日が暮れたのか、街のあちこちで建物の前に提灯や大型のランタンが下げられ、大勢の人が行き交っている。
 宿に向かう酔っ払いやこれから飲みにいく冒険者など、様々な光景が見える。
「ギルドの看板を下げている宿…と、あれか?」
 と手ごろな宿に向かうと、ストームは軒下から声をかける。
「旅のものだか、一人良いかな?」
「はいはい大丈夫ですよ。一晩550文で」
「銀貨だと?」
「六枚で結構ですよ。先払いで、どうぞ」
 と支払いを済ませて部屋に案内された。
 和室なのは当然として、二階の景色の良い部屋に通されたのは嬉しかった。窓から外を眺めることが出来ると、ストームは内心喜んでいた。。
「外には露天風呂もありますので、お先にゆっくりとしてくださいな。その後で食事をお持ちしますから」
 と中居が説明してくれたので。
「では、世話になるとするかな」
 と中居がいなくなるのを確認して、バックから冒険者セットにあったタオルなどを取り出してバッグは空間に放り込む。

――カランカラン
 と下駄に履き替えると、ストームは一目散に露天風呂へと向かった。
 モウモウと煙る湯けむり。
 脱衣所で着替えをすると、流し場で軽く汗を流す。
 そしてゆっくりと風呂に身体を沈めていくと

――ハァ~ッ
 と声が広がる。
 実に久しぶりの風呂である。
「しっかし良いなあ。サムソンにも風呂作るかな?  となるとマチュアに作ってもらうか。魔導器なら作れそうだなぁ」
 などと呟くと。
「フッフッ‥‥」
 どうやら先客がいたらしく、ストームの言葉に笑いを浮かべている。
「あ、これは失礼。まさか先客が居たとは」
「いえいえ。古今東西、風呂は天下御免の無礼講。裸の付き合いに上下なしと言うではないですか」
 湯気が晴れると、奥の湯船には女性が二人、此方は男性が二人、ゆっくりと使っている。

(あ、この時代は普通に混浴か。これは失礼した)

 とそちらには近づかないようにして、しばしそこでじっくりと身体を芯まで温まる。
 近くにいる男性はかなりガタイの良いお坊さんらしき人と、その連れであろう浪人のような人物の二人連れのようである。

「私はストームと言います。ウィル大陸から来た商人です」
「これは丁寧に。わたしは梅喧という針医者です。こちらは友人の彦太郎さん。武蔵国からいい温泉があると聞いてやって来ました」 
「どうも、彦太郎です」
 と丁寧に挨拶をする二人。
「武蔵からとは、随分と長旅ですねぇ。歩きで?」
「幾つかの船を使ってね。歩きも良いですが、たまには船旅も良いものです」
「そうそう。中々オツなものでしたよ。まあ、梅喧先生は船の上でも仕事三昧でしたから」
「仕事ですか?」
 とストームは敢えて問いかける。
「ええ。先ほどもお話ししましたが、針医者をやっているもので。宜しかったら見てあげましょうか?」
 笑いながら話してくる梅喧。
 これは渡りに船と、ストームは即座に頭を下げる。
「実は俺もそっちの知識がありまして。鍛治師と整体師を生業としているのですよ」
「ほう。では私は貴方を鍼治療しますから、ストームさんも私を見ていただけますか?」
 と話はついたので、暫くして風呂から上がると、ストームは、自室で梅喧を待つ事にした。

――カラッ
 部屋に戻ると、ふと何か違和感があるのに気がついた。
「何だろう?中居さんでも入ったかな?」
 室内をぐるりと見て回る。
 が、特に何も取られたものはない。
 そもそも荷物を置いてないので、取られるも何もないのであるが。
「ストームさん、良いかな?」
 梅喧の声が襖の外から聞こえて来たので、一旦調べるのをやめる事にした。
「ええ、どうぞ」
 スッ、と梅喧先生が室内に入ってくる。
「ではまず、ストームさんから見て見ますか」
「ではお願いします」
 と上着を脱いで梅喧に身体を見てもらう。
「ふむふむ。かなりコリが溜まったいるようで」
「腕や脚なら自分で見れますけれど、背中や首の後ろなどは、どうしても見てもらわないといけませんし。サムソンの医者はこういうのは理解してくれなくて」
「でしょうねぇ。では‥‥」

――プツッ、プツッ
 と布団に横になっているストームの背中に鍼を刺していく。
 やがて疲れが溜まっていたのか、ストームはスッとその場で眠ってしまった。

――ユサッユサッ
 と梅喧がストームを揺さぶる。
「は、はぁぁぁあっ。楽になった。これは凄いですね」
「はっはっ。有難うございます。では、今後は私がお願いして良いですか?」
 と梅喧が横になったので、ストームがゴキゴキと拳を鳴らす。

(久しぶりだなぁ。うん、鍛治師も良いがこっちの方が悪くない)


 と、梅喧の身体を触診すると、腰と肩が少し悪くなっているのに気がついた。
「腰をぶつけましたか?それと肩も悪くしてますね」
「わかりますか。先日ちょっと無理をしまして。ここの湯はかなり効くと聞いて来たので、遠路遥々やって来たのですよ」
 小一時間ほどかけてじっくりと施術すると、梅喧も気持ちよくなったのかそのまま眠ってしまった。
「まあ、気持ちはわかるなぁ。ついでだ」
 丁度隣の部屋にいるはずの彦太郎も施術する事にした。
「彦太郎さん‥‥彦さん、あなたも揉んであげますよ」

――シーン
 と返事が返ってこない。
「さて、散歩にでも?いやいや、こんな夜更けに散歩はないな‥‥」
 頭を捻っていたら、ストームの声で梅喧も目が覚めてしまったらしくゆっくりと布団から起き上がった。
「おお、腰がかなり楽になりましたよ」
「肩の方は湿布とテーピングしたいのですが道具がなくてね。取り敢えずは楽にはなったと思いますよ」
 肩と腰を触りながら、梅喧は頷いている。
「私の知らない施術ですな。大したものです‥‥では、私どもは朝か早いので」
 と満足そうに告げる梅喧は、ストームに礼を告げると、部屋から出て行った。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


「ファァァァアッ。これだよ、朝一の風呂だよ」
 早朝から朝風呂を堪能するストーム。
 昨日鍼治療してもらった所も軽くなっており、とにかく心地よい。
「やっぱり風呂は作ろう。それもでかいやつな‥‥馴染み亭を増築して接骨院作るのも良いなぁ」
 しばしのんびりしてから、風呂から上がり朝食をとる。
 宿場町の朝は慌ただしく、朝一で宿を後にするものたちが大勢いる。
「米だよ米。大量に買い込んで持って帰ろう。いや、種籾も買って栽培するのもありだ。やっぱり日本人は米食べないと駄目だ」
 といつの間にかお櫃を空にしてしまうと、弁当がわりに握り飯をたのむ。
 暫くして握り飯を持って来てもらったら、ストームも宿を後にした。

――ドン
 通りを歩いていると、人混みの中をぶつかる人たちがいる。
 それも、昨日よりも人数が多い。
 朝から荷馬車が彼方此方にやって来ているので、確かに大勢の人が行き交っている。
 が、それにしても多すぎないか?
 と考えていても仕方ないので、一旦冒険者ギルドに向かう事にする。

 大勢の人がごった返している冒険者ギルド。
 石造りではなく木と漆喰に寄った作られた綺麗な建物である。
 その一階に入ると、ストームは受付で一言。
「先導者のストームだ。ウィル大陸に向かいたいのだが」
 と冒険者ギルドカードを提示する。
「ば、先導者ですか!!少々お待ちください」
 と慌てて奥にあるギルドマスターの執務室に走る。
 その後少ししてから、ギルドマスターがカウンターにやって来た。
「Bクラスのバンガード殿が、わざわざどのようなご用件で?」
「ウィル大陸に向かいたいのだが、何かいい方法は無いものかと思ってな」
「ならば日向‥‥いえ、豊後から出ている船が宜しいでしょう。貿易船ですが豊後から土佐、摂津、尾張、駿河を経て武蔵国に向かいます。武蔵国からは外国航路をなぞる大型船がありますから、それで向かえばよろしいかと」
 と海路を進めるギルダマスター。
「そうか。わかった、ありがとうございます」
 と丁寧に頭ををさげると、ストームは窓際に置かれているテーブルに移動してからサムソンに連絡を入れた。

――ピッピッ
「マークII、こちらストーム。キャスバルも聞こえるか?」
『はい。しっかりと聞こえていますよ国王』
「今現在は和国の大隅国にいる。これから豊後に向かい、いくつかの国を海路で経由してからウィル大陸に戻る。それまでは頼むな」
『了解しました。そらではごゆっくりと旅をお楽しみください』
「何か困った事があったらマチュアに連絡を取ってくれ。以上だ」
――ピッピッ

「さて。それじゃあまずは日向まで向かうとしますか」
 一先ず雑貨屋に向かい、野営道具の補充を行う。
 本当なら馬か駕籠かごを手配したい所だが、トレーニングにもなるので取り敢えずは歩く。
「確かこの時代の街道は‥‥彼方此方に旅籠はたごがあるはずだから、よほどのことがない限りは野営なんてしないよなぁ~」
 と呑気に歩いている。

 午後もかなり過ぎた頃、街道が深い森に差し掛かった。
 ストーム以外には人気も無くなり、時間も夕暮れ。
 野盗追い剥ぎの類が出るのに格好の時間であろう。

――ガサガサっ
 と草木をかき分けて、ストームの前後に野盗が姿をあらわす。
 前に三名後ろに五名。
 皮か何かで補強したような着物を身に付け、刀を抜いて構えている。
「さて、冒険者の兄さんよ。身ぐるみ置いて行ってもらおうか?」
「ギルドでかなりの銭を両替してたのを見てしまったのでねぇ。悪いがあんたには有り金全て置いて行って貰うぜ」
 と、よく見ると昨日あたりからストームにぶつかっていた男の姿もある。
 ゆっくりと刀の柄に手を当てる。

(構えが甘すぎるなー、それに隙だらけだ。冒険者レベルでDって所か‥‥よく野盗が成立するな?)

「悪いが無理だ。もし手を出すなら問答無用で叩き斬るからな」
 と忠告だけすると、スタスタとストームは再び歩き出す。
 目の前に野盗がいるのも御構い無しに進むと、数歩手前で立ち止まる。

――ピタッ
「悪いが道を開けてくれないか?」
「ぬかせっ!!」
 と野盗が上段から刀を振り下ろすが

――キインッ
 と素早く抜刀し、刀身を真っ二つに切り落とす。
 一瞬の出来事だったので、野盗は何が起こったのか理解していない。
 振り下ろした刀でストームの体が真っ二つになっている筈であった。
「へ、ヘッヘッヘッ‥‥」
 と薄ら笑いを浮かべて、ようやく目の前の男が無傷で立っているのに気がついた。
「や、野郎、何しやがった?」
「あんたの刀を切断しただけだよ。ほら、邪魔だから退いてくれ」
 と、手で蝿を追い払うような仕草をする。
「ふ、ふざけるな、斬れ、斬り捨てろ!!」

――ザザザッ
 周囲を取り囲むように回り込むと、野盗は次々と斬りかかる。
 だか、あまりにも相手が悪過ぎた。

――キインッ、ガアッン、ボクッ、ドカドカッ
 斬属性を打属性に切り替えると、ストームは全ての野盗を峰打ちで気絶させる。
「しっかし、どうしたものかなぁ」
 ポリポリと頬をかきながら、困り果てる。
 取り敢えずはロープで後ろ手に縛り上げると、誰か人が通るのを待つ事にした。


――半刻後
 街道の先からやってくる、馬に乗った人影に気づいたストーム。
「ふう。やっと先に進めるか。おーい!!」
 と大声で人影に声を掛けると、相手も気がついたのか馬の脚を早めて駆けてきた。
 大きめの笠を被り、身なりの良い羽織をつけた侍らしき人物が三人。
「どうした?一体何が‥‥これは?」
 木陰に放り込んで置いた野盗達を見て、侍が動揺する。 
「此処でさっき襲われたものでね。見た所同心さんのようだけど、引き渡して良い?」
「‥‥後藤様、こいつらは報告にあった『蝮の叉左』の一味に間違いありません」
「そうか。それはたいそうな手柄だな。これは貴方が一人で?」
 と後藤と呼ばれた侍が話しかけてきたので、取り敢えず頭を下げる。
「ああ。あっちの宿場町からずっと後をつけてきたのでね。峰打ちで殺してはいないよ」
「それはすごい腕だなぁ。どちらの侍だ?」
「何処にも所属はしていない、冒険者だ。これから武蔵国に向かう所だが」
 と説明すると、侍達は顔を見合わせて一言。
「済まないが『ぎるどかあど』を見せて頂けないか?一般市民の帯刀は禁じられているのでね?」
「あ、ギルドカードな。ほらよ」

――スッ
 冒険者ギルドカードを提示すると、それを見てウンウンと頷く。
「ストームと言うのか。これは失礼した」
「私達はこの先の霧島奉行所に勤めているものだ。この先の宿場町で逗留していた商人が殺されたと言う報告があって向かっていた所だ」
「それにしても蝮の一味とはねぇ。大したものだよ」
 一人の侍が倒れている野盗達を気付かせると、縛りあげているロープを馬の鞍に結びつける。
「こいつらには懸賞金が掛けられているから、あとで奉行所まで取りに来たまえ。では、私は一度こいつらを連れて戻ります」
「うむ。そちらは頼む」
 と後藤が侍に頷くと、ストームを見る。
「野盗捕縛の協力感謝する。では急ぐ故御免」 

――パカラッパカラッ
 と二人の侍は急ぎ宿場町へと駆けて行った。
「では私もこれで」
 そう告げると、野盗を連れた侍は来た道を少し早めに駆けて行く。
 繋がれた野盗はなんとか馬の速度に合わせてついて行っている。 
「しかし。本物の同心って‥‥怖いわ」
 いつもの調子で話をしようと思ったが、そのあまりにも強烈な迫力に圧倒されたストーム。
 しかも、剣の腕前もかなりのものだろう。
「上には上がいる‥‥か。さて、それじゃあ俺も霧島に向かいますか」
 少し遅れて歩き出すと、ストームも霧島へと向かって歩き始めた。

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