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第三部 カナン魔導王国の光と影

幕間の9 ストーム流転

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「たまには休みをとったら?」
 いつものようにサイドチェスト鍛治工房でトンテンカンと最新の武具を作成していたストームに、カレンか声を掛けていた。
「休みは取っているが?」
「そうじゃなくて、全日休暇、それも連休。サムソンが王国になってから、貴方休みは取ったの?」
 と言われると、確かにここ暫くはまともに休みは取っていない。
「あー、ゴールデンウィーク以来連休取っていないか」
「でしょ? そのゴールデンボンバーとかなにか良く判らないけれど、この期に連休を取って自国の領土を旅するのもありと思うけれど?」
「そうだなぁ。そう言えば、うちの領地って他に都市はあるのか?」
 やれやれと頭を抱えるカレン。
「一度王城に戻って確認していらっしゃい……」
 と言うことで、あとの処理をアーシュに任せて、ストームは馴染み亭から王城に転移した。

――シュッ
 と馴染み亭の転移門ゲートから王城にある控えの間に転移すると、イヤリングでストームゴーレム・マークIIに連絡。
「今何してる?」
『執務室ですよ。キャスバルと打ち合わせです』
「俺もいくから待機」
 と真っ直ぐに執務室に向かう。

――ガチャッ
 と中に入ると、そのまま自分の席に座り開口一発。

「うちの領地って、都市は幾つあるんだ?」
「丁度その話をしていました。では説明します。我がサムソン辺境王国は、王都サムソンを中心に6つの都市を抱えています」
 キャスバルも同席し、地図を広げて説明をしていたらしい。
 なのでストームも席について、改めて説明を聞くことにした。
「マチュアのカナンは大都市が二つだぞ?」
「あの王国は小さい小都市の方が数が多いのです。街道沿いに無数にある小都市は、すべて貴族によって運営されていますから、人心掌握はかなり大変でしょう」
 カナン近辺を指さしつつ告げてから、キャスバルが再び説明を続ける。

「サムソンを中心に、海に面している元マクドガル伯爵領、森林地帯にあるクレスト伯爵領と、そこに隣接するイダテン男爵領、山岳部にある元ガリクソン伯爵領、サムソンからすぐにある交易都市を管理しているガイスト伯爵領、そしてサムソンから最も遠くカナン魔導王国と隣接しているニアマイヤー男爵領があります」
 解説どうもありがとう。
 そして話を聞いているうちに、ストームの表情が苦々しくなっていく。
「しっかし、シルヴィーの国内は爆弾だらけだったのか。あちこちに元が付いているぞ」
「ええ。先代ベルナー家はしっかりとした方でしたが、お亡くなりになった後で、貴族院が幅を利かせてこの近辺を好きに食い荒らしていましたから」
「今、名前が上がった貴族の中で信頼できるのは?」
 とまずは核心から突いていく。
「ニアマイヤー様はシルヴィー様の母君の遠縁にあたります。いつもシルヴィー様のことを心配していらっしゃいますし、今でも交流はありますよ。武門の家系であるガイスト家は、代々ベルナー家の近衛騎士団に任命される程、先代からも厚い信頼を得ています」
 一つ一つ地図を指差して説明する。
「逆にクレスト伯爵は貴族院の中でも強い発言権を持っていますので、要注意でしょう。ミスト様のあの改革にも対抗していたぐらいですから」
 トントンと地図のクレスト伯爵領を指で叩くキャスバル。
「つまり危険と?」
「はい。あと問題なのはイダテン男爵ですね。先々代の時に東方から来た家系で、かなり信頼の厚い家系でしたがそれも先代まで。当代のイダテン家は家禄と権力を振りかざすただのボンクラです」
 それでストームは合点がいった。
 皇帝から王に叙任された時に領地を指定した時、普通なら不満の一つぐらいは出るだろうが、シルヴィーは必死に笑いを堪えていたのだ。

「あれ? 俺ってひょっとして不良物件を摑まされたのか?」
「いえいえ、やり甲斐のある仕事ですよ。ですからまずは、元の付いている伯爵領に新しい統治者を任命しなくてはなりません。信頼の置ける人物はこちらである程度は選別しておきますので」
「わかった任せる」

 実際に施政官のキャスバルはすごい人物である。
 元々はラグナ王家に仕えていた貴族で、かなり政治に対して高い知識を持っている。
 求心力も高く、何故キャスバルが領地を持たないのか理解不明である。
 加えて、偶然とは言えあの『赤い彗星の人』と声も姿もそっくりなのである。
 果たしてこのまま近くに置いておくのがいいのか?
 と言う心配もあったが、野心さえなければ最高の人材なのである。

「それよりも心配なのはカナン魔導王国です」
 ふと表情が険しくなる。
「何故故に?」
「あの地域は、古くからあの地を統治していた貴族が強い発言権を持っています。加えて、今回の分領によって、隣国との摩擦が強くなっているのではないかと?」
 地図を眺めながら、ストームでも腕を組む。
「このカナン魔導王国と隣接するククルカン王国とラマダ公国は、ラグナ・マリア帝国に属していない独立国家です。ファナ・スタシア王国のあちこちの領地に対して所有権を主張しては、小さな小競り合いが起きています。特にカナン魔導王国のあたりはそれが顕著に表れていましたから」

――プッ
 と思わず吹くストーム。
「すまん。まあ、マチュアならなんとかするさ。では、俺は元マクドガル領に行ってくる」
 と立ち上がる。
「視察ですか?では私も同行しますが」
「休暇だ。釣りでもして一週間ほど、七日ほどのんびりしてくる」
「確かに。少しは他領を見物するのも宜しいかと」
 頭を下げているキャスバルとストーム・マークIIに後を任せると、ストームはそのままマチュアから借りっぱなしの空飛ぶ絨毯で一路マクドガル領へと向かう事にした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 サムソンからマクドガル領へは、以前使ったことのある街道沿いに向かうだけなので、それほど難しくはない。
「あー、ボルケイノ戦以来だなぁ。そろそろあの島のドラゴンもかなり活性化しているなぁ…………って、それも俺の仕事か!!」
 ガッチリとシルヴィーに嵌められた。
 幻影騎士団としての命令だったらマチュアやウォルフラム、アンジェラといった団員に協力を頼む事も可能だが、今は自国領内でのトラブルである。
「まあ、シルヴィーなら簡単に貸してくれると思うが、対外的には、自国領内で全て終わらさないとか。参ったわ」
 そんな事を考えて旅をしていると、あと半日で元マクドガル領と言うところで、突然停止している大量の馬車に出くわしてしまった。
「何だ? すいません、何かあったのですか?」
 と近くで立ち止まっている四人連れの冒険者に問いかける。
「フ、フォンゼーン陛下。何故このような場所に」
「ワッハッハッ。貴様も蝋人形に、って違うわ、すまん、これは閣下だ、ただの一人ツッコミだ。と言う事で陛下はやめてくれストームでいい」
 と一人ボケツッコミをかます。
 しかしマチュアと違い、以外と正体がバレているストームである。
 サイドチェスト鍛冶工房と、サムソンでの鍛冶技術認定審査で、すっかり顔が知れてしまっている。
 それでもストームゴーレム・マークIIと一緒の時もあるので、意外とそっくりさんと思っているものもいるのだが。

「は、はい。ちょっと今、聞いて来ますので」
 と軽装な女性が前に向かって走る。
  暫くして女性が戻って来た時の第一声が
「クーデターです。元マクドガル伯爵家の長男が都市内で武装蜂起しました。全ての門が閉じられているようです」
「勘弁してくれよ。キャスバル、まさかこの事を知ってて送り出したんじゃないだろうな」
 確かにあっさりと許可が出た。
 その代償がこれである。
「仕方ないか。ちょっと納めてくるわ」
 と空飛ぶ絨毯に魔力を注いだ時。
「ストーム様、私達もお伴します」
「よし、四人とも乗れ。しっかりとバランスを取ってろ」
 と高速で街道の最前列に向かう。
 途中で聖騎士の姿に換装し、新しく作った幻影騎士団とサムソン辺境王国の国章の入ったマントを翻す。
 飛んでいる時も彼方此方がらフォンゼーン陛下だと声が上がり、皆が膝をつくが。
「気にしないでくれ、お忍びで遊びに来ているんだ、無礼講で頼む」
 とストームが叫んだので、見ていた者達はその通りに従う事にしたようである。

――フォン
 と絨毯が最前列正門前に止まると、近くで立ち止まっていた商人達が足元に跪く。
「フォンゼーン陛下、このような所に」
「話は全て聞いた。お忍びで無礼講だ。今からここを開けるから待っていろ」
 と笑いながら告げると、正門に向かって叫ぶ。
「ストーム・フォンゼーンだ。半刻だけ待つ、それまでに開門しなかった場合、今回のクーデターの首謀者はドラゴンの餌となって貰うが依存はないな」

――ザシュツ
 と大地にカリバーンを突き刺し、両手をその柄頭に添えてじっと動きを待つ。
 だが、一向に中で動きがない。
「よし、突撃する」
「へ、陛下、まだ半刻経っていません」
「そうか? そろそろじゃないか?」
 と笑いながら叫ぶ。

『私はクリストファー・マクドガルだ。隣国のストームとやらに告げる。この国は独立した。勝手に入ると侵入者として処罰する。以上だ』

 と中から宣誓文らしきものを読み上げる声が聞こえた。
「そ、そうか。独立したと言うのなら仕方がない」
 とあっさりと告げる。
 これには近くにいた領民たちも絶句してしまうが。
「フォンゼーン陛下、それで宜しいのですか?」
「ああ、宣誓文を読み上げて、前統治者に向かって独立を宣言したのだ。ならば、やる事は一つぐらいだろう?」
 と地面からカリバーンを引き抜く。
「その心意気や良し。ならば我、サムソン辺境王国ストーム・フォンゼーンの名において、貴国を武力にて制圧するものとする」
 と叫びながら、後ろにいる者達に力一杯後ろに下がるよう手で合図を送る。

『この城塞は蛮族からの脅威すら防ぐ堅固な城塞。破れるものならば破ってみるがよい』

 と挑発にも似た声が聞こえる。
「さてみなさん、あのように相手の実力も計らずに自分が強いと信じて相手を挑発する行為を『死亡フラグが立つ』と言います」
 後ろを向いて集まって来ている冒険者達に説明するストーム。
「陛下、その」
「ストームさんで」
「ストーム様で許してください。この場合、相手は死にますか?」
「うん、いい質問だ。大体の場合は、死ぬかそれに近い状況になる。ギブアップもありだが、あのような事を叫ぶ者が大体負ける。では実証してみようう」
 と振り向いて、カリバーンを構える。

――キィィィィイン
 と、刀身が光り輝くと、素早くカリバーンを振り下ろした!!
「バースト無限刃っっっっ」
 騎士の対物破壊技であるバーストアタックと、侍の範囲攻撃・無限刃を組み合わせたストームオリジナル。

――ドッゴォォォォォォォ
 轟音をあげて、城塞が粉々になる。
 城門から左右に20mは、その形を完全に失ったのである。
「デーンデーンデーン、デッデデデーン」
 とベイダー卿のテーマを口ずさみながら、破壊された正門にゆっくりと入っていくストーム。
 内部には人を通さないように攻城戦で用いられるバリケードがあったが。

――ドッゴォォォォォ
 と2回目のバースト無限刃で、それも木っ端微塵になる。
 その後ろに隠れて攻撃するタイミングを待っていたのであろう自警団も、その衝撃波で吹き飛んでいった。

「我が後方の冒険者に告げる、諸君はこの周辺の制圧を頼む」
 そのストームの言葉と同時に、わーっと一斉に冒険者たちが都市内部に突入すると、倒れている自警団を取り押さえる。
 そしてストームは倒れている自警団に近づくと一言。
「さあ、首謀者の所に連れていくか、此処で死ぬかどっちを選ぶ?」
「陛下、ご勘弁を。私達も脅されて仕方なく」
「よし。貴君も被害者だ。案内してくれ」
 と騎士に案内してもらい、ストームは真っ直ぐにマクドガルの屋敷へと向かう。
 途中で次々と自警団やこの都市の巡回騎士が姿を現したが、ストームの姿を見て皆降参していった。

 いくら勇猛な騎士であっても、幻影騎士団の団長相手に刃を向けようというものはいない。
 もしいるとすれば、それはストームを知らないか、ストームより上の者か馬鹿である。

  やがて屋敷の入り口に辿り着くと、二階の窓からクリストファーらしき男が姿を現した。
「逆賊ストーム、武器を全て放棄しろ。さもなくばこの屋敷にいる者達を皆殺しにする」
 ポリポリと頭を掻くストーム。
 こいつは先程説明にあった、バカである。
「そこはそうじゃないだろう……全ての人質を解放するから、許してくださいじゃないのか?」
 と笑いながら叫ぶ。
「き、貴様っっっっぅ」
 とクリストファーが叫んだ時、ストームの姿が見えなくなった。
 瞬時に侍のスキル『縮地』で、クリストファーの背後に回り込んでいたのである。
「何処にいった!ストォォォォォム」
「叫ばなくても、すぐ後ろにいるが」
 といきなり後ろからストームの声がしたので、クリストファーは慌てて振り向くが。

――ドッゴォォォォォ
 とクリストファーの目の前の床が吹き飛ぶ。
 軽く剣圧をかけてカリバーンを床に向かって振り下ろしたのだが、その衝撃波だけで床は破壊された。

――ジョバッ
 股間から何かを漏らして、その場に崩れるクリストファー。
 その首筋にカリバーンを突きつけると、ストームは一言。
「ちょっと待っててな。ストームゴーレム・マークII、キャスバルに変わって……おう、俺だ。クーデターの首謀者の処分はどうすれば良い?」

『やっぱりそうなりましたか。まあ、基本処刑ですので捕らえて牢にでも繋いでください。後日騎士団を数名派遣します』

「はい宜しく。という事で、クリストファー・マクドガル。先代領主の血を引きながら、領民を誑かし危険に晒した罪は大きい。断罪は間逃れないと思え」
 やがてドタタタッ、と、冒険者達も突入してくると、そのうちの一人にクリストファーの身柄を拘束するように伝える。
 そして屋敷内で囚われている者達の解放を指示すると、ストームは高らかに笑った。
 この、国王が単騎でクーデターを阻止したという情報は周辺諸国にも伝わる事となり、ストームには『騎士王』と言う二つ名が付けられる事となった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 クリストファーのクーデターから一週間。
 クーデターの首謀者達は全て騎士団詰所地下にある牢獄に閉じ込められた。
 万が一にも内通者がいることも考え、牢にかけてある鍵はストームが念入りに『練りこんだ』ので、物理的に破壊しない限りは脱獄不可能となった。
 この地に滞在している間。毎日のようにギルドの偉い人や商会の党首などが謁見を求めてやって来たので、ストームは体が休まる暇もなかった。

 その忙しさも昨日まで。
 本日は何もないので、ストームは小舟に乗って港から出ると、沖合で長閑のどかに釣り糸を垂らしていた。
「釣りなんて、久しぶりだなぁ。偶にはこういうのも、いい……よ……なぁ……グゥー」
 と、そのまま船に揺られて目の前眠ってしまった。

‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥


――ガバッ
 空気が冷たく感じ、ストームはようやく目を覚ました。
「ありゃ、しまった。すっかり寝過ごしたが、ここは何処だ?」
 と周囲を見渡す。
 濃い霧の中に入ってしまったらしく、何も見えない。
「朝から釣りにでてたからなぁ、今の日の高さから夕方か。まあ錨も降ろしてあったから、流されたということは‥‥あれ?」
 錨を繋いでいたロープの先がない。
 しっかりと船体に結んであったと思ったが、どうやら解けてしまったらしい。
 櫂は積んであるが、どっちに向かっていいかもわからない。
「GPSコマンド。現在位置を示して‥‥地図がないと何も表示されないのか」
 現在地点を示すことが出来るが、周囲が海なのでどうしようもない。
 指で画面をフリックしても、地図が登録されていないので白い画面のままである。
 やがて霧が晴れた時、ストームは周囲に何もない海のど真ん中にいた。

――ピッピッ
 と慌ててイヤリングに指を当てて、マチュアを呼び出す。
「マチュア、ちょっと済まないが海で迷った。迎えに来てくれないか?」

『はぁ?私は一度行ったことがある場所じゃないと転移できないよ。それに海は座標も固定できないから、転移の祭壇も使えないよ』

 とマチュアの笑い声が聞こえてくる。
「そ、そうか。俺はどうすればいい?」
『陸地に着くまで頑張って、転移の祭壇を設置するだね』
「俺、それ作れないぞ」
 ハァー、とマチュアの溜息が聞こえる。
『なら、自力で転移しろ』
「だから、転移もできないんだって、まだ修得もしていないわっ」
『自慢するなっ。精霊魔法があるだろ、それで風を作って推進力を生み出して、なんとか陸地を探してくれ』
「やっぱりそれかぁ。分かった。陸地に着いたら連絡するわ」
──ピッピッ

 と話を終えると、精霊魔法で風を生み出して進み始めた。
「まあ、マチュアが慌てていないということは、対処方法はあるということだな、緊急時には連絡するようにしよう」
 この後、キャスバルにも連絡を行い、マクドガル領の件と留守の間の執務を任せると、暫しの漂流の旅を楽しむことにした。
 幸いなことに、バックにはマチュアから貰った食料が入っている。
 水は魔法で作れるので問題もない。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 漂流から二十日。
 釣りの技術もかなり向上し、最近では大物を狙い始めている。
 すでにマグロのようなものは大量に釣った(一部、槍で突いた)ので、なんとなく日本近海のような場所だと察しはついてきた。 
 そして釣れた魚は取り敢えずバックパックに放り込み、マチュアに売りつけようと言う算段もつけた。

「そろそろ陸地が見えても………おおおおおっ」
 水平線に陸地が見えた。
 素早く風を生み出すとストームは急いで陸地を目指す。
 そしてその日の夕方、綺麗な砂浜にストームは上陸した。

「着いたぁぁぁぁぁぁあ」
 丁度近くに人影が見えたので、ストームはバックに船をしまい込むと、そちらに向かう事にした。
 多少ボロではあるが、ちゃんとした着物を着ている。
 近くには船と漁で使ったであろう網が干してあるので、このあたりが漁村であるのが分かった。
「うわ、髪も髭も伸び放題だ。風呂にも入りたいしなぁ‥‥」
 とりあえず見栄えを少しでも良くしようと、長く伸びた髪を後ろで束ね、短刀で髭を多少整える。
 バックパックを背負いロングソードを腰に下げると、何処から見ても立派な旅人か冒険者である。
「ちょっと済まない。道を尋ねたいのだが」
「おや、珍しいねえ、外国の冒険者さんかい?」
「このあたりで冒険者ギルドのある街はどっちに行けばいい?」
 と当たり障りのない質問をする。
 相手から冒険者の単語が出たので、この質問はベストであろう。
「この先の街道を進むと、二日ほどで霧島の城下町まで出られるよ。道中は旅籠もあるから、そこでまた道を聞くといいさ」
「済まなかったな、これは礼だ」
 と金貨を一枚握らせると、かなり驚いているようだ。
「こ、これは有難い。こんなに貰って良いのですかい?」
「ああ、正直道に迷って困っていたんだ。助かったよ」
 と頭を下げると、ストームは説明された街道に向かう。

 周囲の風景、風の匂い。
 途中で行き交う人々の姿を見て、ストームは確信した。
「和の国だ、ここ!!」
 という事で、まずは本国のキャスバルに連絡する。
 漂流中にも色々と決裁が必要な話はイヤリングを通して行なっていたので、特に問題はない。

ーーピッピッ
「キャスバル、陸地に上陸した。取り敢えず冒険者ギルドに向かう」
『それは良かった。どの国か分かりますか?』
「恐らくは和の国だ」
『交易路でこちらに戻って来られますね。一先ず安心しました。諸王にも連絡を入れておきますので』
「わかった。また連絡する」
ーーピッピッ

 と連絡を切ると、ストームは再び街道を歩き始めた。
 なお、ストームが漂流した初日。
 彼が何日で陸地に着くのかを諸王は賭けをしていたのだが、二十一日と言う予想をしていたケルビムの一人勝ちで幕を閉じた。
 六王の中では、ストームは現在『漂流王』という渾名が付いていた。
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