上 下
57 / 183
第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

浮遊大陸の章・その2・本気のストームとショートタイマーズ

しおりを挟む
 幻影騎士団のメンバーが、レッサーデーモンを破壊してから。

「では、先程も話をしましたが、いま戦って頂いたのはあくまでも尖兵です。此奴らは自分たちの力で自在に空間にゲートを作り、次々と仲間を呼びます」 
 マチュアはその場にいる騎士たちに向かって、演説でも行うかのように話を始めた。
   
――ゴクッ
 初めて聞く得体の知れないモンスターに、誰問わず息を飲む。
 この場にいる騎士たちにとっては、魔族など夢もしくは伝承の世界でしか知らない。
 そのようなものと戦うということが如何に無謀であるのか、レッサデーモンと戦って実感したはずなのに。

「なので、レッサーデーモンの撃破は、大体五分以内で出来るようにお願い致します。陛下、何処か騎士団の訓練施設を所望します。このレッサーデーモンは其処で誰もが使えるように配置しておきたいのですが」
「近日中に手配しよう。して、本番とは?」
 との皇帝の言葉に、ストームは頷く。
 騎士団に取っては、マチュアの言葉は死刑宣告のようなものである。
「此方が本番です。レッサーデーモンが尖兵ならば、恐らくこれが主な戦力かと推測されます。外見は違うかもしれませんが、その実力は同等かと」
 と告げると、マチュアの影の中から、全長10mのグレーターデーモンが姿を現した。

 常に周囲に恐怖フィアーを放出する危険な存在。
 その岩のような深い緑色の体躯と巨大な翼、捻れた角と無機質な感じをうかがわせる人ならざる顔。
 その場にいた殆どのものが、死を覚悟した。

「伝承に伝えられるグレーターデーモンか。これは想像以上だのう」
「こ、これは私達が戦える相手なの?」
 初めて見る脅威に、ケルビムやミストも数歩下がりつつ呟く。

――ザッ!!
 そして皇帝直属の騎士団は、素早く皇帝の護りに入った。
 マチュアが作り出したものであることはわかっている。それでも、本能的に皇帝の守りに移ってしまった。

「こ、こんなの勝てるはずがないだろう?」
 と、騎士団の誰かが告げる。
「ティルナノーグの封印が解けたら、此れが世界中に出現するらしい。諦めるのは仕方ないと思う。なので、勝てないと思う者は、騎士たる剣を返上してこの場から帰っても構わない」
 とブリュンヒルデが叫ぶ。
 なんとか耐えているものもいるが、やはり命が惜しいのであろう。
 騎士として無益に命を散らせるぐらいならば、ここで騎士位を降りるのも道である。
 それに気づいたのか、一人、また一人と自分の主君に剣を返上して立ち去る騎士の姿が現れた。
 それでも半数は、どうにかこの場に止まっていた。

「しかし。あれに勝つことは出来るのか?」
 とシュミッツが呟く。
「やってみますか? シュミッツ殿」
「口惜しいが、実力差は肌で感じる。いまのワシでは無理だ。幻影騎士団やストーム殿は行けそうなのか?」
 とシュミッツに問われたのでストームは一言。
「流石にうちの幻影騎士団でも無傷では無理ですね。今から鍛え直して、どうにか一人で確殺できるようにはしたいのだが」
 その言葉を聞いて、ブンブンとウォルフラム達が頭を左右に振る
「せめて、三人にして下さい。それなら出来るようにしますので」
 と懇願するウォルフラム。
 それでもできないと言わないのはさすがであろう。
「ならば、あれ相手だと流石に全力でいかないとなぁ」
 と呟くと、ストームが一歩前にでた。


 ○ ○ ○ ○ ○


 ゆっくりとストームがグレーターデーモンに近づいていく。
 そして、いきなり特撮ヒーローお約束の変身ポーズを取った。
「変身っ!!」

――シャキーーン
 ストームの全身が輝き、虹色に輝く光の玉に包まれる。
 そして輝きがスッと消えると、その場に静かに立っている謎の人物の姿があった。

 全身を覆う漆黒の鎧。
 筋肉をモチーフにした、異形の生命体のような外見。
 そして頭部を覆う、某昆虫のような外見の金属の覆面。
 覆面に付いているその赤い瞳に、不思議な力を感じる。

「ストーム殿が消えただと!!」
 ある騎士が叫びながらストームを探す。
「何処だ、ストーム殿は何処に消えたんだ!!」
 とある司祭もまた、周囲に聞こえるように叫んでいた。
「そして、代わりに立っているあいつは何者だ」
 誰かが、そこにいる異形の人物を指差す。

「「「「何者だ!!」」」」

  騎士団の声が、周囲に響いたその時!!

「お゛れ゛の゛な゛は゛」

――ズバァァァァァァン
 マチュアのハリセンが、遠隔で異形の人物ストームの頭部を直撃した。

「其処までやらんでもえーわっ」
「そ、そうか。なら改めて」
 すかさずポーズを取り直すストーム。
「俺は『哲学する獅子』っ!! 仮面ビルダー・ストームっっっっっ」
 バーンと名乗りポースまで完璧。
 もし此処が地球の何処かの遊園地なら、チビッ子たちから拍手喝采であろう。
 今のストームにパチパチと拍手しているのは、シルヴィーとブリュンヒルデ、あとはノリのいい騎士団達だけである。
 というか、この変身ヒーロー、ブリュンヒルデにとってはかなりツボに入った模様。
 キラキラと目を輝かせて、じっとストームを見ている。
 
――トゥッッッツ
 と勇ましくグレーターデーモンに向かって駆け出す。
 其処からの戦いは実に見事である。
 ボディビルダーらしくポージングを殺陣の中に組み込み、さらにそれを実践レベルにまで磨き上げている。
 時折攻撃を受けるものの、持ち前の戦闘技術で致命傷まではいかない。
 手にしたカリバーンは聖属性の武器の為、魔族にとっては驚異なのかも知れない。
 次々とグレーターデーモンの体に、抗うことのではない傷を叩き込んていく。
「‥‥グッ、オノレェェェェェ」

――キィィィィィン
 とグレーターデーモンが右手を頭上に掲げる。
 その手を中心に、膨大な魔力が集められる。

「くるぞ。推定温度10,000度を超える、グレーターデーモン最大の魔術っっっっっ」
 と、マチュアが叫ぶ。
 咄嗟にその場にいた騎士団は、自分の主君たる王を守るために走り出す。
 マチュアも瞬時に印を汲むと、防御魔法の発動タイミングに入った。
「クラエ、メルトブラストォォォォォォォォォ」
 グレーターデーモンの手に集められた魔力が渦巻く炎となり、ストームに向かって叩きつけられる。
 それは幾つものドラゴンの頭の形を取ると、ストームや周囲の大地に向かって飛来した。

――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 その炎は、闘技場全体に広がった。
 大地は熱により溶岩の海へと変質していく。
 触れるものは、瞬時に全身を焼き尽くされるであろう。
 だが

――ビシィィィッ
 マチュアは右手を前に差し出すと、王達の周囲に結界を施す。
 そしてグレーターデーモンのメルトブラストが生み出した幾重もの焔は、マチュアの結界に阻まれて消滅していった。
 周囲の騎士たちも結界で身を守っているが、次々と結界が破壊され、焼き殺されていく。
 この攻撃が幻影投射イマジナリーでなければ、被害甚大であろう。
 そして焔の中心にいたストームはというと。

「デンデンデンデンデンデン、カーン、デンデンデンデン‥‥♪」
 左腕に発生した『波動の楯』でメルトブラストを弾き飛ばすと、何かを口ずさみながらグレーターデーモンに向かう。
 そして鎧の腰の部分、ベルトのバックルに仕込まれだ剣の柄を引き抜いた。

聖なる光剣Re-proteinっっっっ!!」 
 先日、皇帝によって授けられた『剣聖の証』たる剣である。
 その柄からはストームの意思を具現化した刃が生み出される。
 素早くグレーターデーモンに駆けていくと、次々とその岩のような皮膚を切り裂いていく。

「トゥゥゥゥゥッユ、トォリャァァァァァッ」
 次々と必死にストームの攻撃を躱して殴り掛かるのだが、それよりもストームは素早く動くと、隙を見て再びグレーターデーモンにを切りつけていく。
 やがて膝から崩れていくのを見ると、ストームは聖なる光剣Re-proteinを前に突き出し、その刀身に左手を添える。

――キィィィィィィィィィィィン
 柄から生み出された刀身が更に輝きを増す。
 そして弱り切ったグレーターデーモンの正面に立つと、ジャンプして光剣で一閃。
オリンピア3連返しっフランク・ゼーン
 素早くグレーターデーモンを左右3連の袈裟斬りにすると、ストームはその場に着地した。
「一欠っ」

――チュドーーーン
 と叫んで最後の名乗りポーズを取る仮面ビルダーストーム。
 その背後で、グレーターデーモンが崩れていった。


 ○ ○ ○ ○ ○


――スパァァァァァン
「誰が完膚なきまでに破壊しろと言った。あれ作るの大変なんだぞ」 
 戻ってきたストームに向かって、マチュアは力いっぱいハリセンを叩き込んだ。
 あそこまで破壊されると、ここでの修理は不可能である。
「あ、それは済まなかった」 
 と変身を解くストーム。
 そして箒とちりとりを手に、グレーターデーモンに向かって走り出す。
 サッサッサッと残骸を回収すると、王たちの目の前でゴーレム作成の魔法陣を起動していた。

──ブゥゥゥゥゥン
 その魔方陣の中で、破壊されたグレーターデーモンは新たなる肉体を得ることになる。

「まあ、皇帝直属の騎士団には、これぐらい出来るようになって貰いましょうかね。他の騎士団は、レッサーデーモンを五人で五分。此れを当面の課題にして良いかと」
 魔法陣の近くで、マチュアが振り向きざまにドヤ顏で呟く。
 その言葉に騎士団員たちの背筋が凍りつく。
「ま、マチュアさんもいまの倒せるのですか?」
 とどこからか質問が飛んできたが。
「まあ、そんなに難しくは無いからねぇ‥‥」
 と軽く返事を返す。
「では、諸王は自国の騎士団の戦力増強に努めよ。ティルナノーグの解放までの時間はあと僅かである。世界の存亡は、我等の腕に掛かっているのだ」
 との皇帝の言葉に、騎士団ほ敬礼した。
 そして皇帝が下がるのを確認して、其々の騎士団は自分の王の元へと集まったのである。

‥‥‥
‥‥


「やはり妾の騎士団は最強ぢゃ」
 にこやかに告げるシルヴィーに、ウォルフラムや班目、アンジェラはため息一つ。
「此処まで強くなってるとは思っても居ませんよ」
「全くだ。ストーム殿の特訓の成果が出たのう」
「私なんて、高位司祭の魔術まで覚えさせられたのですよ」
 と叫んでいる。
「あー、因みに、幻影騎士団は有事には、皇帝直属の近衛騎士団と同等の管理を持つぞよ」

「「「初めて聞きましたよ」」」

 と三人が更に大声を出す。
「おや?説明しておらなかったか?」
 キョトンとした表情でそう告げるシルヴィー。
 ストームたちは知っていたので、皆知っているものと思っていたらしい。
「初耳ですよ。どうしてそういう事を教えてくれなかったのですか?」
 とウォルフラムがシルヴィーに問いかけている。
「ちょっと待て、今現在。その制限は外れているはずだが。俺やマチュアが六王の任務を遂行する条件で、平時でも皇帝近衛騎士団と同等の権利があるはずではなかったか?」
 そう遠くから叫ぶストームの言葉に、シルヴィーが、ポン、と手を叩く。
 さらに最悪な状況に、一同はあきらめの表情である。
「おお、そうじゃった」

――ガクッ
 と膝から落ちる3名。
 すると、マチュアはついでという感じで、白銀のローブを身に纏う。

「あ、白銀の賢者タイムだな」
「賢者タイムいうなや。ストームも確か叙勲あるはずだよ。後で皇帝の所行ってこような」
 と、近所に遊びに行く感じで話しかけるマチュア。
「ああ、先日略式であるが『剣聖』の叙任は終わったぞ。マチュアと同じ権力を貰ったが」
「もう好きにしてください。それよりも、私達はどうすればいいのですか? 他の騎士団は色々と打ち合わせをしているようですが」
「うむ。拙者たちも、もっと強くなりたい。今よりもな」
「回復魔法の真髄を、まだ見て居ないのですよ」
 あー、確かにねー。
 という事で、マチュアはストームの肩をぽん、と叩く。
「なんだ?」
「ちょいと読み込ませてくれ…。」
 と、ストームの戦闘データを、『GPSコマンド』で読み込む。そして深淵の書庫アーカイブを起動すると、ストームから読みとったデータを元に、『知識のスフィア』『技術のスフィア』を作り出した。
 そしてバックに仕舞ってあった『ミスリル製シルヴィーちゃん人形』を二つ取り出すと、そのうちの一つに組み込む。
 そしてもう一体には、マチュアの知識のスフィアを組み込んだ。

「ほい、君たちの教官だよー」
 と二体のミスリルゴーレムを用意する。
「えーーっと。戦闘教官は‥‥ハートマンでいいか。こっちはハートマン。で、魔術教官は‥‥ディードという名前で行こう」
 と、その言葉と意思を読み取ったのか、男性教官は帽子を被った壮年の男性に、女性教官はエルフの女性の姿に変化していった。
「仕上げと。コマンドセット‥‥どちらもマスター権限は私が、サブ権限はシルヴィーとストームが持つ。君たちの任務は、幻影騎士団の団員及び騎士団員の認めた者達が求めるときには、自分たちの持てる技術を叩き込んてほしい」
 と告げる。
「了解しましたわマスター。初めまして、私はディード、あなた達に魔法について色々と教えてあげますね」
 と丁寧に挨拶をするディード。
「了解だ。よく聞け騎士団共。貴様らは人間ではない!オークのクソをかき集めた価値しかない!」
 いきなりきたぞ。
 とストームは喜ぶが、ハートマンの言葉には恐怖フィアーが乗せられているため、ストームとマチュア以外は背筋を延ばして立っている。

「おれは厳しいが公平だ。人種差別は許さん。貧弱骨エルフ、酒漬けドブドワーフ、合法ロリをおれは見下さん。すべて平等に価値がない!」

 かなりノリノリで話を始めているハートマン教官。
 そろそろ放置しましょう。
「で、なんでシルヴィーも騎士団に混ざってるの?」
「た、助けてたもれ‥‥」
 シルヴィーも巻き込まれたらしく、抜け出せなくて困っている模様。
 なのでマチュアがハートマン教官の元に歩いていくと、ザッと敬礼をする。
 素早くハートマン教官も敬礼を返すと、その場でじっと立っている。
「ハートマン教官。シルヴィーは貴公らの上官にあたる。解放を願いたい」
「サー、イェッサー」
 と踵を返して、マチュアに挨拶するハートマン。
「ということでシルヴィーはこっちね。あとは、本国に戻ってからの特訓をよろしく」
 と告げると。
「マチュア殿、済まないが、うちの騎士たちもそちらの教官の始動を受けさせたいのだが」
「うむ、それは頼みたいところじゃな」
「そうね。私の所もお願いしたいわ」
 とシュミッツとケルビム、ブリュンヒルデがマチュアの元にやってくる。
「ではこうしましよう。まずはレッサーデーモンで試験をします。例の5人チームで、それをクリアしたチームから、ハートマン教官の特訓を受けるというのはいかがかと」
「それは構わないが、先にそちらて特訓したほうがいいのでは?」
「あ、この方、グレーターデーモンクラスの戦術指南ですので、マジで死にますよ。特訓では幻影イマジナリーなんて使いませんから、死ぬ時は本気で死にます。それでよろしいのでしたら」

「「「「分かった。試験をクリアしたらだな」」」」

 とその場の王達も皆叫ぶ。
 かくしてその日は解散となり、其々が自国での訓練に突入した。
 なお、訓練用レッサーデーモンはミストにサブ権限を持たせて取扱い方法を伝授し、闘技場での訓練に使用されることとなった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 サムソンに戻ったストームは、とりあえずはいつものように淡々と注文をこなす。
 そして一通りの作業が終わった後、ミスリルの武器の量産を開始した。

「一つでも多く作っておかないとなぁ‥‥俺とマチュアで突っ込んでいってどうにかっていう問題じゃなくなったし」
 幾つもの転移門が同時に開くと、マチュアとストームだけでは処理できない。
 そのためにも、いまは一人でも戦力になる存在が欲しい。
 各国の騎士団はそのために訓練を開始、魔族に有効な技術を身に着けようとしている。
 ならば、魔族にダメージを通すために魔法金属で作った武器が必要なのである。

――キィィィンキィィィィン
 と槌の音が響いている。
 その横にある自宅では、現在もマチュアが封印の水晶柱クリア・コフィンの解読を続けているところである。

「ふむふむ。ほほうほうほう‥‥」
 と深淵の書庫アーカイブの中で色々と魔法を試みているマチュア。
「攻撃魔術以外には自動防衛は起動しないのか。しかし、これまたやっつけ仕事だなぁ‥‥」
 と水晶柱に刻まれている術式に触れる。

――キィィィィィン
 とマチュアの魔力に反応し、赤く輝く。
「一つ一つを剥がさないといけないとは、時間がかかる結界だねぇ」
 とマチュアはゆっくりと解読を続けるしかなかった。

――ガチャッ
 暫くすると、ストームが室内に入ってくる。

「おう、こっちの様子はどんなもんだ?」
「これがまたねぇ。術式はこの国の南方、古代ドワーフ王国の文字による術式。ドワーフの魔術師の仕業というところまでは分かった。だが、私の知る限り、そのドワーフ王国は遥か過去に滅んでいるんよ」
 手がかりはそこにある可能性大。
 だが、今は存在しない遺跡の調査となると、どれだけの時間が掛かるか分かったものではない。
「そこに行ってみないと分からないか。距離は?」
「ここからだと、シュミッツ殿の城から南下して7日っていう所な。ただ、そこにあったという噂しかなく、遺跡はそこでは確認されていないんだよ」
「ドワーフの知り合いにでも、話を聞いてくるか。何か分かったら戻ってくる」
 と告げて、ストームは再び外に出ていった。

‥‥‥
‥‥


「‥‥ドワーフの古代王国?」
 いつもの酒場『鋼の煉瓦亭』に姿を表したストームは、そこで食事を取っているウルスに話を聞いてみた。
「ああ、この帝国の南方にあったと聞いているが、実際に存在したのか?」
「さてと、ストームの話しているのは、『黄金郷エル・カネック』のことだな」
 そう告げてから、ウルスは食事を終えてストームとゆっくり話を始める。
「エル・カネックは、遥か昔に人間によって滅ぼされてしまった国だ。ドワーフの秘儀とも言える技術が集まっている国とも伝えられ、そして豊富な金鉱石を有していた国でもあった。だが、欲に目がくらんだ冒険者がエル・カネックを訪れてから、滅びの歴史は始まったと伝えられている」
「いまは存在しない、人によって滅ぼされた国か」
「うむ。奪い取られた金などは全て南方の国に持ち帰られた。現在流通している金貨は、そのときに略奪されたものと伝えられている」
「そのエル・カネックには、魔術文化はあったのか?」
「ドワーフ氏族には、生まれながらに大地の加護が与えられておる。それ故に、大地の魔術を使えるものも少なくはない。最も、今はそれらの魔術の中でも鍛治や採掘に使う魔術のみで、それ以外は殆んど伝えられてはいない」
「と言うことは、昔はもっと様々な魔術があったと言うことか?」
「古くから、我等ドワーフは幾多もの民と交流して来た。その中でも、魔術に特化した水晶の民とは、様々な交流があった。エル・カネックにも、君たちの言う古代種、水晶の民が大勢住んで居たのじゃよ」
「ビンゴおおおおおおおおおお」
 思わず叫んでしまうストーム。
「おおう、突然どうした?」
「いや、ちょっと嬉しくてな。そのエル・カネックにはどうやって行けばいいんだ?」
「今は滅びし廃墟の遺跡。しかも長き時によって、大地の下に沈んでしまっている。場所だけならば、南方のブラウヴァルト大森林の横、フェルゼンハント森林王国に住むドワーフは知っておるぞ。エル・カネックは我等ドワーフにとっては聖地であるからなぁ」

――ドン
 とストームがテーブルに金貨を一枚置く。
「ウルス、ここのデーブルの支払いは俺が持つよ。釣りは全部飲んでくれ、いい話ありがとよ」
 と頭を下げて、ストームは酒場から走って出て行った。

‥‥‥
‥‥


「と言うことだ」
「ふむ、何もわからん、ちゃんと一から話しろ」
 突然自宅に戻ったストームがマチュアに話しかけたが、そんなこと言われてもさっぱり分からないので、ストームに最初から説明させることにした。
 そしてストームも落ち着いてゆっくりと説明すると、マチュアは腕を組んで唸っている。

「さーて、どうやってそこに向かうかだな」
「道中の時間計算は、基本マチュアなら片道分だよな。10日って所だろう?」
「まあ、そうなんだが。現地での調査時間なども考えると、半月から20日は欲しい所だ。貴重な戦力を分割するのも考えものだし、何より留守中はここが手薄になるのはまずい」
 と色々と思考を巡らす。
「ここの結界は中々破れないのでは?」
「いや、これが油断は禁物なんだ。破れないはずの結界なのだが、この前の鍛治師の大会の時、まんまと侵入を許してしまった。手練れのシーフの使うスキルをすっかり忘れていたよ。それにな」
 と、マチュアはボルケイノ戦で使った両手剣を取り出す。
「ボロボロだろ?」
「ああ、その程度なら幾らでも修復して……あ!!」
「そうだ。破壊不可耐性が機能していないんだよ」
 ストームは自分で修復可能だったし、鍛治師であったので『破損したら修復する』という思考がある。そのため加護の一つである『破壊不可耐性』をすっかり忘れていたのである。
「なぜいまになって?」
 と頭を捻るストームに、マチュアが困ったような顔をしている。
「予想だが、いいか?」

――ゴクッ
「あ、ああ」
「私たちの魂の修練は進んでいるんだ。それに伴って全体の難易度が上がったのか、もしくは此れ迄の加護が薄まったか、どちらかだ。今回のケースは多分だが前者、難易度の上昇だと思う」
 これにはストームもある程度は納得した。
「今まで壊れなかったのは、直せるものが居なかったから。今はストームが直せるから、多少の損傷は発生すると言うことだと思う。だから、多分難易度が上がったと解釈していいと思う。現に、ストームや私の直せないアイテムは未だに破壊不可だと思うよ」
 と告げると、二人は久しぶりにバックの中身を引っ張り出す。
 案の定、オリハルコンや火廣金ヒヒロガネと行った材質は未だに破壊不可だが、アダマンタイトなどの武具の加護は『全体性能強化及び頑丈』に切り替えられている。

「はー、なるほどな。ずっと護られっぱなしだと修練にはならないと言うことか。まあ、この程度は、問題はない」
「加えて、この前発動した私の結界も、そんじょそこらのシーフでは破壊できない強度を持っていた筈なんだ。つまりほぼ侵入不可だった。が、他の職業やクラスの魔術。技術では簡単に突破可能だと言うことも判明した」
「具体的には? さっきのシーフスキルの話か?」
 と荷物を片付けながら問いかける。
「そう言うこと。忍者になってスキルを見たら、初期のシーフスキルで『結界効果半減』て言うのがあったんだ。エンジだとその上位の『結界効果無効』まで使えるから、手強い相手に対してなら、それなりの強度の魔術を使わないとならないと言うこと。まあ、これはどこの世界でもそうなんだけれど、余りにも自分の強さを過信していたよ。もっと考えて使わないとやばいこともあるかもしれない……あれ?」
 と、自分の言葉をもう一度遂行するマチュア。

「ふむふむ。そろそろ考え方も直さないといけないと言うことだ。私たちの受けている加護は半分ずつなんだと言うこともね。あらためて、これからは気をつけるようにしよう」
「そうだな。真っ先に権力と地位が手に入ったが、それ以外も構築する必要もあるか」
「魂の修練にゲージがあったら、うちらの権力ゲージは多分だがマックスだぞ」
 と笑い合う二人。
 まあ、そうかもしれない。
「と言うことでだ。此処には留守番でツヴァイを置いていく。ストームはエル・カネックの調査を頼みたい」
 と銀色の旗を魔術で作り出すと、それをストームに手渡す。
「俺もツヴァイみたいなゴーレムが欲しいのだが」
「あー、もう少しストームの魔力が強くなったら作ってあげよう、これのコントロール、以外と魔力使うのよ」
 と、笑いながら説明する。
「それは仕方ないか。で、俺がエル・カネックに向かっている間に、マチュアはどうするんだ?」
「ティルナノーグについての調査をしてみるよ。それじゃあねー」
 と告げてマチュアはツヴァイを召喚すると、留守番を命じた。
 そしてストームもまた、旅の準備を終えると、『馴染み亭』の転移魔法陣から、シュミッツの城へと転移した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚
ファンタジー
 今から1000年前。  異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。  たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。  時代は進み1000年後。  そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。  滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。  そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。  魔導レンタルショップ『オールレント』。  この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。    

解体新書から始まる、転生者・杉田玄白のスローライフ~わし、今度の人生は女の子なのじゃよ~

呑兵衛和尚
ファンタジー
杉田玄白。 享年、享年八十三歳。 徳を積んだ功績により、異世界転生を果たす。 与えられたチート能力は二つ。 神によって作られた御神体、そして神器『解体新書(ターヘルアナトミア)』。 回復魔法という概念のない世界で、蘭学医の杉田玄白が神器を武器に世界を癒す。 男であった自分の肉体を捨て、知識としてしか知らない女性の体を得て。 さまざまな困難も、蘭学医ならば大丈夫w 己の好奇心を満たすため二つのチート能力を駆使して、杉田玄白が異世界を探訪する。 注)毎週月曜日、午前10時の更新です。

【完結】魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター

呑兵衛和尚
ファンタジー
 異世界での二十五年間の生活を終えて、無事に生まれ故郷の地球に帰ってきた|十六夜悠《いざよい・ゆう》  帰還時の運試しで、三つのスキル・加護を持ち帰ることができることになったので、『|空間収納《チェスト》』と『ゴーレムマスター』という加護を持ち帰ることにした。  その加護を選んだ理由は一つで、地球でゴーレム魔法を使って『|魔導騎士《マーギア・ギア》』という、身長30cmほどのゴーレムを作り出し、誰でも手軽に『ゴーレムバトル』を楽しんでもらおうと考えたのである。  最初に自分をサポートさせるために作り出した、汎用ゴーレムの『綾姫』と、隣に住む幼馴染の【秋田小町』との三人で、ゴーレムを世界に普及させる‼︎  この物語は、魔法の存在しない地球で、ゴーレムマスターの主人公【十六夜悠】が、のんびりといろんなゴーレムやマジックアイテムを製作し、とんでも事件に巻き込まれるという面白おかしい人生の物語である。 ・第一部  十六夜悠による魔導騎士(マーギア・ギア)の開発史がメインストーリーです。 ・第二部  十六夜悠の息子の『十六夜銀河』が主人公の、高校生・魔導騎士(マーギア・ギア)バトルがメインストーリーです。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...