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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

マチュア・その17・魔導の真髄、マチュアのゴーレム工房

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 サムソンでの任務も無事に終わり、マチュアは辺境都市カナンへと戻っていた。
 冒険者ギルドの酒場でノンビリと酒を飲み、何時ものように口煩いやつらとの口喧嘩三昧。
 夕方には馴染み亭に戻り、ベランダで趣味の魔導具作成の為の図面を作ってみる。
 そんなゆっくりとした毎日が理想だったのに‥‥。


「ダミーを二つ作る必要があるかー」
 先日のストーム宅襲撃事件の時、マチュアは、エンジと入れ替わって隠密行動を取った。が、魔力ベースのゴーレムを用意し人が大勢いる所での入れ替わりなど、とてつもない技術がいると知ることになった。
 あの日は酔っ払いばかりなので何とかなったが、今後の隠密行動の時はもっとスムーズに入れ替わる必要がある。
 そのためには、やることは一つ!!

「ダミーと瞬間的に入れ替わる、さらに複数のコマンドと魔法のリンク能力か~。あー、スーパーマンの気持ちがよく分かるわ」
 羊皮紙に図面を書いては捨てる。をただひたすら繰り返している。
 煮詰まった時は、何をやってもうまくいかない。
 時折店員が持ってくるエールを煽るように飲んでは、また頭を捻りつつ図面を書く。
 
「駄目だあ。私は駄目な子なんだぁ」
「そんなのカナンの住人は知ってるわ、駄目ックスター」
「そうそう。それよりも駄目にはならないから心配するな」
「それよりも飲もうぜ、うまい酒があるんだろう?」
 と好奇心旺盛な常連の冒険者が、マチュアの近くにやって来る。
 最近馴染み亭によく飲みに来る、マチュアの口喧嘩仲間である。
 ちなみに彼らは三兄弟、ホイ家という名前の、親は准男爵の貴族家らしい。
「煩いわ、早く中に入って飲め」
 と叫ぶと、ちょうど西風ゼファーのメンバーもやってきた。

「マチュアさん。部屋を3つお願いします」
「いつもの部屋なら空いてるよ。ていうか、カナンを拠点にするのなら月契約でも構わないよ」
「ほ、ホント? 僕たちお金余りないよっ。今日もサイノスのミスで依頼失敗して、違約金を支払ってきたばかりなんだ」
「フィリア、それは言わない約束でしょう? でも確かに拠点があると助かりますわ。今私たちが使っている宿も、いつも空いているわけではないので」
「クッ‥‥まさか回収品を破壊してしまうとは‥・まあ、それはおいといて。月契約だとどれぐらいですか?」
 とサイノスが交渉に乗った。
  しかし、回収品の破壊って、いったい何をやらかしたのだろうと、そっちが気になる。
 違約金を支払ってまだ余裕あるということは、そこそこにランクも上がったのだろうと納得しておく。

「金貨5枚で良いよ。食事は別ね」
 ちなみにカナンでは一泊素泊まりだと銀貨3枚。
 マチュアの提示した価格は安い。
「それで頼みます。三人で金貨15枚ですね」
 ということで交渉は成立。すぐさま金貨15枚がテーブルに乗せられた。
「ジェイクさん、部屋を3つ用意して。月契約なのでよろしくね~」
「了解しました。では、此方へどうぞ。サイノス様は8号室、フィリア様は9号室、メレア様は10号室をお使い下さい」
 とサイノス達はジェイクに案内されて、二階の部屋へと移動する。
「マジか、マチュア、俺たちも頼む」
「そうそう。うちのチームの定宿にしたいわ」
 と別のチームの連中がそう叫ぶ。
「ちょっとまて、お前達はギルド前に常宿があるだろーが。あんまり他から客を引き抜くと、仕事で顔を出しづらくなるんだよっ」
 マチュアが笑いながら叫ぶ。
 縄張りというわけではないが、一応馴染み亭も商人ギルドに登録はしている。
 客をとったとられたのトラブルで悪評が流れるのは、あまりよろしくない。
「そうかー。じゃあ今日は三人分の部屋を頼むよ。明日朝一で出発だから此処の宿は便利なんだ」
「そかそか。それは毎度あり。エールをサービスしとくよ。アンリさん、ホイ三兄弟は素泊まり一泊、案内して」
「かしこまりました。先に部屋にご案内しますね」
 笑顔で返事を返すと、従業員のアンリが三人を案内する。
 すると、さらに珍客もやってきた。
 
「来客ぢゃ、焼きフルーツのクレープを頼む」
 と二階からシルヴィーが降りて来る。

 ちなみに転移の祭壇のある礼拝所については、従業員には説明してあるので驚く様子もない。
 町をお忍び徘徊するときの普段着なので、見た目にはシルヴィーとは気づかれないだろう。
 もっとも、ここカナンはベルナー王領とはかなり離れているので、シルヴィーの姿を知っているものはそうそういないはず。

「よし、シルヴィー、此処に正座だ」
「ぐぬぬ。またしても正座ぢゃ」
 ストーム宅に続いて、シルヴィーは2回目の正座である。
 正座という概念はこの大陸にはない。だが、マチュアやストームがやっているのを見て、シルヴィーやウォルフラムたちが真似をしたので教えてあげたらしい。
 結果、ストームとマチュア以外には罰ゲームということになっているのはご愛敬である。

「この書面だけど余りにも雑すぎる。幾ら面倒でも、ちゃんとした書面の書き方を覚えなさい」
「あうあう、その件は毎日執務官どのにも怒られているのぢゃ。いまはまさに頑張っている最中なのぢゃよ」
「そっか。それならよし。今クレープを作って来るから、店の中で待ってろ」
 とマチュアが厨房に入る。ついでに二人の料理人、猫族の女性キャリコと人間の男性フランキにも、焼きクレープの作り方を教える事にした。
 そしていくつかの試作の末、二人はどうにか焼きクレープを作り出すことが出来たのである。
──スッ
「ほら、食べるのだ」
 とカウンターで待っているシルヴィーにできたての焼きクレープを差し出す。
「おおお、これぢゃ。久しぶりぢゃ」
「良かったな。で、執務官どのは何処にいる、シルヴィーは一人では来れないだろ」
「其処で食事中ぢゃ」
 よく見ると、近くのテーブルでゆっくりと食事を取っている執務官がいた。
 モノクルと呼ばれているメガネを掛けた、ナイスミドルのおじ様である。
「ふう、ようやく落ち着きましたよ、マチュアさん食事を三人分お願いします」
 荷物を置いて着替えてきたサイノス達が、酒場に降りてきた。
「はいはいと、えーっと」
 とマチュアは店内をグルッと見渡して、手の空いているウェイトレスをさがす。
「ジョセフィーヌ、こちらの注文をお願いします。メアリーは空いてるテーブル片付けてねー」
「「はい」」
 と元気な返事が返って来る。
 この忙しさこそ、マチュアにとっては楽しみでもあった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 翌日、マチュアは朝からずっと自室に籠もっていた。
「こ、これでなんとかなりそうだけど。果たしてきちんとできるのかぁ?」
 幾多もの羊皮紙に書いた図面を眺めながら、マチュアは腕を組んで考えていた。
 だが、これ以上は無理と判断し、まずは図面に書いてあるものを作ってみることにする。

――ドダダダダダダッ
 と階段を一気に駆け下りると、カウンターで仕入れの確認をしているジェイクに一言。
「暫く留守にする。ラグナに行ってくる」
「了解しました。、お気をつけて」
 と、あっさりと返事が来る。
 そのまま王都ラグナ地下に転移すると、魔導具の管理をしている担当官の元に向かう事にした。

――ブゥゥゥゥン
「幻影騎士団のマチュアだ。魔導器で遊びに来た」
 と転移の魔法陣を管理している、ハーピュレイ魔法兵団の団員に向かって叫ぶ。
「あのーマチュア様? そんなに堂々と遊びに来たと言われましても。魔導具の研究についてはミスト様からは許可は出ていますので、どうぞご自由にして下さい」
「うむ。ありがとう。そしてありがとう!!」
 と何処かのヒーロ―の口真似をしてみたのだが、相変わらず反応はない。
「スカイ・ハイは駄目ですか。まあいいか。ちょっとここの空間借りるね」
 と宣言すると、早速実験を開始する。
 まずは最初の作業から始める。

――ブゥゥゥゥン
 静かに詠唱を開始する。
 それは、いままでのような無詠唱発動が出来ない高度な魔法である。
 錬金術師の魔法の一つ魔導工房ファクトリーを発動する。
 巨大な魔法陣が形成されたその空間は、マチュアが魔法物品を作るための空間である。
 その中にゆっくりと入り中央に立つ。
 さらにもう一つ魔術創造ビルドアップも発動すると、それまでは平面であった巨大魔法陣が、輝きながら球形に姿を変える。
 その光景を見ていた魔法兵団の術師達は、ただ静かに固唾を飲む。
 自分達が目指していた赤の導師ミストの、さらなる高みに存在する魔術師が、今目の前にいるのである。
 しかも、いままで見たことも聞いたこともない魔術が目の前で展開しているのである。
「まず、私のすべてをトレース。そして魔晶石を媒体に『魂のスフィア』を形成。ここに私の魔力と魂の基本データを注入。そしてミスリルを媒体に体を形成……」

――シュルルルルルッ
 魔法陣の中に黄色く輝くこぶし大の結晶が出来上がると、マチュアが空間収納チェストから取り出したミスリルも空間に溶けていき、結晶を取り込みながら人型を形成する。
 それはまるで、もう一人のマチュアである。
 さらに。
「さて。あなたには『ツヴァイ』の名をあげます。そして、私の中のアバターとモードチェンジのコマンドを複製、万が一用にリンクも施します。これをあなたに注入します……」
 両手を合わせて、そ間にマチュアの知識を網羅した『知識のスフィア』と、同じく記憶のすべてを網羅した『記憶のスフィア』というものを作り出す。
 この二つを組み込むことで、ツヴァイはマチュアの知識も記憶も受け継ぐことができる。
 その二つを『魂のスフィア』と同期させていよいよ仕上げである。

――シュルルルルッ
 魔法陣の中のマチュアの姿が輝き、今度はエンジに変わる。
「そして私とツヴァイをリンク。貴方は必要に応じて、エンジとツヴァイの二つの名前を使いなさい。私が呼ぶまでは、影の中で眠っていて……」
 その言葉にコクリと頷くと、ツヴァイは忍者のスキルの一つ、影空間シャドウボックスという|空間収納『チェスト》の忍者版の中に消えていった。

――スーツ
 そして魔法陣が霧のように溶けて消えていく。
 するとマチュアは、全身汗だらけでその場に崩れ落ちた。

「マチュア殿、大丈夫ですか?」
「ハァハァハァハァ‥‥流石にきついわー。でも完成。エンジ来なさい!!」
 パチン、と指を鳴らすと、影の中からエンジがスッと出て来る。
 装備はチュニックとスカート、腰のベルトにはミスリルのダガーという出で立ちである。
 今までよりも、思考ルーチンがマチュアに似たゴーレムである。しかも、呼んだ瞬間にマチュアと入れ替わることも可能になったので、かなり便利である。

「さて皆さん。この子は私の侍女のエンジです」
「マ、マチュア殿、まさかとは思いますが、ゴーレムですか?」
「イェス、この娘の分類はミスリルゴーレムだね。強いよー」
 その言葉に、魔導兵団の魔術師達は次々と集まって来る。
 生まれて始めてみたゴーレムの創造。
 失われた古代魔法王国の技術が、そして本物のゴレームが、いま、目の前にある。
「触ってもいいですか?」
「何処までオリジナルと同じですか?」
「戦闘可能ですか」
 などなど、大量の質問が飛び交うが。
「取り敢えず休ませて、エンジ、教えてはいけない知識以外は話してもいいわよー」
「了解しましたっ。まずはクレープの焼き方について説明しますっ」
 と魔術師達の相手はツヴァイに任せて、マチュアは暫し仮眠に突入した。


◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 翌日はベルナー城へと向かったマチュア。
 まずはシルヴィーの元を訪れると、早速ツヴァイを召喚して見せた。

「ほうほう。これは誰ぢゃ?」
「私の作った侍女です。名前はエンジ、ミスリルゴーレムです」
 そう告げると、エンジは丁寧に頭を下げる。
 今日の服装は、ベルナー城の侍女と同じものをマチュアが作成した。
 どこから見ても、立派な侍女である。
「……今、なんと?」
「ミスリルゴーレムです、私が作ったの!!」
 いつものドヤ顔で返事をするが。
「マ、マチュア、世界でも征服するのか?」
 と素っ頓狂な質問が飛んできた。
「はぁ? どうしてそういう話が出るのですか?」
「マチュアはこの大陸の者ではないから知らぬかも知れぬが、この地には古代魔導王朝クルーラーという伝承があってな。遥か古の時代に栄えた文明らしいのぢゃ。そこには今の世界には伝えられていない様々な魔法や魔導器があってのう」
「ふむふむ」 
 と真面目に話を聞いているマチュア。
「ある時、自我が目覚めた大量のゴーレムによって滅んでしまったそうぢゃ。そしてゴーレム達は世界を滅ぼそうとしたが、自分達に魔力を供給する人間がいなくなって、やがて魔力切れで停止してしまったらしいのぢゃ。古代魔導王朝クルーラーは、この世界の何処かにあると伝えられておる」
「ほほう。ですがご安心を。このゴーレム、実は人に危害を加えることは『あまり』ありません。シルヴィーには分からないかもしれませんが、ロボット三原則という魔法を組み込んでいます。一部変えてありますけれど」
 最後だけはボソッと呟く。
「そうかそうか、で、この子は何ができるのぢゃ?」
「掃除洗濯炊事戦闘暗殺、礼儀作法も完璧です」
「それは凄い…。はて、今何か余計なものもなかったか?」
「いえいえ」
 と笑ってごまかすマチュアであるが。
 シルヴィーはニィッと笑ってマチュアを見る。
「で、妾のはいつ作ってくれるのぢゃ?」
「はぁ? これ欲しいのですか?」
「うむ。妾にも作ってたもれ」
 子供がおもちゃをねだるときのような表情で、シルヴィーはマチュアに頼み込んだ。
 もっとも、マチュアとしてもこれを作る気ではあったので問題はないらしい。
「……はいはい。仕方ないですね。その代わり、ここの鍛冶場のミスリルを分けてもらいますよ。では」
「了解ぢや」
 という事で、マチュアはゴーレムの材料となるミスリルを手に入れるため、一度王城鍛治工房へと向かう事にした。


 ○ ○ ○ ○ ○


――ガギィィィンガギィィィン
 とリズムに乗った槌の音が響く鍛冶工房。
 数名のドワーフたちが、武具を作り上げたり砥ぎを行っているところであった。
「おお、これは幻影騎士団の方、今日はどの様な御用で?」
 鍛冶工房責任者であるドワーフのダンが、マチュアにそう挨拶をする。
 マチュアもまた、ペコリと頭を下げると一言。
「シルヴィーから許可を貰ったので、ミスリルを分けて欲しいのですよ。あと、これは別に頼みたいことがあるのですが」
 と告げて、カナンの宿で書いていた数枚の図面をダンに手渡す。
「これを作って欲しいのです。詳しくは……」
 と説明を開始するマチュア。
 手渡した図面はマチュアが構想していた最新兵器。
 ダン達にとっても、マチュアの発想と注文は興味深いらしく、細かい打ち合わせも兼ねて暫くはその場で話し合いを続けていた。
 そしてある程度の話し合いが終わると、マチュアはミスリルを受け取ってシルヴィーのゴーレムを作る場所を探し始める。
「さてと。シルヴィーのだから、今度はラグナ王城地下という訳にはいかないよなぁ。何処かいい場所はないかな」
 と暫し考えたのち、マチュアはカナンの自宅に戻って作業することにした。

 その頃のシルヴィーの執務室では。
「して、エンジよ、マチュアは、何処に?」
 とマチュアが回収するのを忘れて、その場に置きっぱなしになっているエンジに問い掛けるシルヴィー。
「はい。マチュアさまは私の存在をすっかり忘れて、何処かでシルヴィー様のゴーレムを作っているのかと」
 と丁寧に答えを返すエンジ。
「そうか。ならば‥‥エンジは料理は得意か?」
「はい。マチュアの作れるものは全て作れます」
 この言葉にシルヴィーは狂喜乱舞。
 いつもは出し渋っているマチュアの菓子。
 それを作り出せる侍女が、シルヴィーの眼の前にいるのである。
「では、まだ妾の食べたことのない甘い菓子を作ってくれぬか?」
「かしこまりました。では厨房をお借りします」
 と丁寧に頭を下げると、エンジはスッと部屋から出ていき、厨房へと向かっていった。
 そしてシルヴィーの命令ならばと、エンジは黙々と菓子作りを始めるのであった。


 ○ ○ ○ ○ ○


 シルヴィーのゴーレムづくりは困難を極めていた。
「くっ。シルヴィーの『魂のスフィア』が定着しない‥‥」
 マチュアがカナンに戻り自室に篭って2日。
 すでに4体のゴーレムを作ってみたが、一つも成功していない。
 原因は、『魂のスフィア』という人格や魔力・知識・感情を形成する核となる部分である。
 これがシルヴィーの疑似魂は定着しない。
「しっかし。これで他人のコピーを作るのは不可能と分かった。ならば‥‥」
 と今度は、床に転がっている『ミスリル製シルヴィーちゃん人形』、つまり失敗作を使って新たなシルヴィーの制作を開始。

「私の魔力を基準に『魂のスフィア』を形成。これに『学習能力』と付与」
 と再びミスリルゴーレムの作成を開始。
「私の魔術の中の‥‥と‥‥を付与、そして‥‥に‥‥を‥‥して‥‥ウヒョヒョヒョ!!」
 なんかマッドサイエンティストっぽくなってきたマチュア。
 かなりノリノリである。
 そして同じものを残り3体にも付与すると、その中の一体だけを残して全てバックにしまいこんだ。
 残った一体の外見をシルヴィーの姿に作り替えて、シルヴィーの姿をしたゴーレムは完成した。

「ほい完成と。気分はどうですか?」
「最悪ぢゃ。甘いものが食べたいのぢゃ‥‥」
 といつものシルヴィーの口調で、ゴーレムが返事をかえしてくる。
「貴方の名前は?」
「妾の名前は『シュバルツカッツェ』ぢゃ。シルヴィーと呼んでも構わぬぞ」
「うむうむ、シュバちゃんと呼んであげよう」
「カッツェの方がよいのぢゃが、それでも構わぬぞ」
 とにこやかに告げるシュバちゃん。
「では、貴方に装備を作ってあげるねー」
 と魔導工房ファクトリーを起動すると、銀色の仮面を作り出す。
「はい、これ付けてね。衣服は私のローブと同じミスリル製。それで、貴方の外見に合わせて、これは変化するように作ったので‥‥」
 と説明すると、シュバちゃんの外見が25歳ほどの美女に変わる。
 もっとも仮面を付けているので、中身が誰なのか全くわからなくなっている。
「では、ベルナー城へ向かいますか」
「うむ。では参ろうぞ」
 ということで、マチュアとシュバちゃんはベルナー城へと転移した。

‥‥‥
‥‥


 執務室では、シルヴィーは執務に追われている。
 なので、それが終わるまではマチュアは食堂で食事を‥‥と思ったが。
「あれ? エンジ?」
「ハァ‥‥ようやく来やがりましたか、この駄目ックスターさん」
 とエンジがマチュアに告げる。

――スパァァァァン
 素早く空間収納チェストからハリセンを引き抜き、エンジの顔面に叩き込む。
 ここ最近は空間収納チェストがばれないようにと自重していた事を忘れて、堂々と使うようになっていた。
 それでも『トリックスターの魔術』とごまかして何とかなっているところは凄いと思われる。

「自分の作ったゴーレムにまで言われとうないわ!! で何しているの?」
「マチュアさまが私を忘れて何処かに行ってしまったので、回収して貰うまでここでメイドのなんたるかを教えていただきました。いまはシルヴィー様のお茶と菓子を作っています」
 ふぅんと一言呟いて、エンジの作ったクッキーらしきものを食べてみる。
「美味い。これは美味いぞぉぉぉぉ」
「当然です。私を誰だと思っているのですか?」
 と高飛車に告げるエンジ。
「あれれ? あんたまさかシルヴィーの性格もコピーしたの?」
 と問い掛けると、ツヴァイはドャァっていう顔をする。
「はぁー。なんだろう、この独立思考。ま、いいや」
 と取り敢えず納得する。
「エンジ、スタンバイモード。影に戻りなさい」
「イエス、マイマスター」
 と告げて、シュッとエンジは影に戻る。
「えーっと。シュバルツカッツェ起動。貴方の仕事はあくまでもシルヴィーの影である事。必要に応じてシルヴィーを守りなさい。そして彼女の考え方や性格を学び、もうひとりの彼女となれるようにするのです」
 とシュバルツカッツェに命じる。
「えーっと。マスター権限設定、マスターは私に、サブマスターはシルヴィーに。そして絶対命令、貴方のマスターは私でありシルヴィーである。それを理解している限りは、独自に動いてもよい」
 と説明すると、マチュアは今しがたエンジが作った菓子と紅茶の乗せられたトレーを手に取ると、それをシュバちゃんに手渡す。
「これシルヴィーの元に持っていって頂戴。そして自己紹介してきて」
「はい。それでは‥‥」
 とスタスタと歩いて行くシュバちゃんを見送ると、マチュアはそのまま食事を取り始める。

――シュタタタタタタ‥‥スパァァァァン
 と突然、廊下の向こうから高速でシルヴィーが駆け寄ってくると、マチュアに向かってハリセンを叩き込む。

「痛々しい、ていうか痛い。いやそれは痛くないけど心が痛い。一体何がどうなったのですか?」
「それは妾が聞きたいわ。あのムチムチの妾は何者ぢゃ?」
 恐らくはシュバちゃんの事だろうと、マチュアは思った。
「あー、はいはい。シュバちゃんちょっと来なさい」
 と呼びつけると、シルヴィーの影からシュバちゃんが姿を表した。
「妾に何か?」
 と呟いたので。
「シルヴィーの注文通りのミスリルゴーレムです。名前はシュバルツカッツェ」
「どこも似ておらぬぞ」
 と言うので、パチンと指を鳴らす。
「シュバちゃん、シルヴィーになりなさい」
「はい。それでは」

──シュゥゥゥゥゥッ
 と呟いた瞬間、シュバルツカッツェの姿が淡く輝き、いまの目の前のシルヴィーと全く同じ姿になった。
「これで判りましたか? 完全にシルヴィーと同じ姿を取ることも出来ますが、普段必要の無い時はシルヴィーの護衛としても戦えるように、ちょっと成長した外見に作ってみたのですよ」
 とシルヴィーに説明すると、彼女はなんとなく理解したらしい。
「ほうほう。では先程の姿になってたもれ‥‥ぉぉぉぉぉぅ」
 見る見るうちにムッチムチのシルヴィーの出来上がりである。
「そうかそうか。妾は成長するとこのようにボインボインになるのか?」
 と満足そうなシルヴィーにマチュアが一言。
「多分無理なので、せめてゴーレムだけでも、ふべしぃぃぃぃぃっ」

――スパァァァァァァン
 ハリセン再び。
「だーかーらー。そういうのは不愉快ぢゃとなんど言えばいいのぢゃ?」
「ま、まあいまのは冗談ですよ。シュバルツカッツェは私の祖国では『黒猫』という意味です。シルヴィーの影となって動くことが出来る、シルヴィーのためのゴーレムです。ご注文の品、たしかに納品しましたので」
 と丁寧に告げるマチュア。
「ありがとうぢゃ。流石にシュバルツカッツェは幻影騎士団には登録できぬのう」
「あー、シルヴィー付きの侍女としてでいいのでは? 無理に権力持たせることはありませんよ。では私はこれで」
 とにこやかに告げるマチュア。
「ありがとうなのぢゃ」
「いえいえ、礼には及びません。私の魔術もまだまだ未熟ということも判りましたので‥‥」
 と告げると、マチュアはそのままカナンの自宅へと戻っていった。

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