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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

マチュア・その15・魔導の真髄、でも忍者です。

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 サムソンの夕方。
 城外の農地から戻ってくる人々や、冒険帰りの冒険者で街は賑わっている。
 マチュアはストームの家を出てからエンジにコッソリと姿を変えると、暇そうに街の中を散策する。
 散策した行き先は、サムソン鍛治組合。
 正々堂々と正面から入ると、エンジは受付に向かって一言。

「武器の研ぎはおいくらですかー」
「あらいらっしゃい。お嬢ちゃん冒険者か?」
「そーだよ。武器を研いで欲しいんだけど」
「了解。預り証を出すから、ギルドカード出しな」
 と言われたので、エンジは冒険者ギルドカードを出す。 

(そっか、其処までは考えていなかったが、まあ良いや。此処に長く世話になるわけではないしね)

 と思ってギルドカードを差し出す。
「名前はエンジと。ほう、オールラウンダーとはまた珍しいな。戦士寄りか?」
「ファッ。そ、そうなんですよー」
 この格好だと、冒険者ギルドカードの表示はエンジになっており、クラスも『万能者(オールラウンダー)』になっている。
 外見によって、ギルドカードや魂の護符の内容が変化しているのはびっくりだった。
「それで、どの武器なんだ?」
「えーっと、武器はこれね」
 と背中のバックパックから、両手剣・テンペストを取り出す。

 テンペストは暗黒騎士の中期装備、風の加護が付与されている一品で、やはりオンラインゲームでマチュアが使っていた装備である。
 この程度の装備が、空間収納チェストにはゴロゴロしている。
 いらない武具を売れば一攫千金間違いなしとわかっているのだが、それだと目立ってしまうため死蔵しているものが大半である。

「ほう。これは凄いな。ダンジョン産か?」
「当然。こんなの作れる人いるの?」
「どうだろうなぁ。で、いつまで仕上げれば良いんだ?」
「明日の朝まで」
 と相手の様子を確認する。
「そりゃあ無理だ。これだけの名剣なら、最低でも3日は欲しい。道具を用意する時間もあるからな。それで良いのなら、受けるがどうする?」
 暫し考えたふり。
「では、残念ですが諦めますね。確か、此処には異国の鍛治師さんもいたはずですので、そっち行きますので」
 と剣をしまい込むと頭を下げる。
 一瞬で建物の中の空気が変わるのを、エンジは見逃さない。
「ち、ちょっと待て下さい。今、上のものと掛け合って来ますので」
 と受付が慌てて奥の事務所へと走っていく。
 しばらくすると、ガッチリとした体型の男と、貴族らしい男性が受付にやってくる。
「サムソン鍛治組合の責任者のランディです。うちで研ぎが可能かどうか、もう一度見せていただけますか?」

(よし、ターゲットが釣れた)

 と内心はほくそ笑みつつ、背中に背負っておいたバックからテンペストを取り出して手渡す。
「ほう。これはまた随分といい武器ですね。刀身はアダマンティン、魔法処理も古代魔法王国のもので相違ないです。此方は何処の遺跡で?」
 と問われた時、入り口の方に数名の騎士がやって来た。
「このクラスの武器は、出所を明かさないのがお約束では? これらの入手経路もまた、冒険者の財産ですからね」
「ですが、これは此方の貴族の屋敷から盗まれたものでして。お客さまには申し訳有りませんが、サムソン鍛治組合で没取させて頂きます。憲兵、この者を連行しろ、ガリクソン伯爵邸に忍び込んだ泥棒だ」
その言葉と同時に、憲兵か、エンジの左右に立つ。
「では、此方へ」

――シュツ
 素早くテンペストを睨み付けると、チェストのコマンドを発動してテンペストとバックパックを空間収納に仕舞う。
 『オーナー限定』の加護がある装備は、マチュアの意思で自由に出し入れできる。だが『破壊不可』の加護は、どうも最近はあやふやになっている。
 現に、ボルケイノ戦でマチュアの装備はボロボロになった。
「き、貴様何をした?」
「は? 貴方こそ私の剣を隠しましたね? 憲兵さん見ましたか? 私は何もしていませんよね」
 と必死に叫ぶ。
「ええい、憲兵、とっとと此奴を連れて行け、必ず何処かに隠しているに違いない」
 痺れを切らしたガリクソン伯爵が叫ぶと、エンジは両腕を拘束されて連れ出された。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「さて、いつまでもじっとしているとためにはならないぞ。あの武器を何処に隠した? どうやって伯爵邸に侵入した?」
 両腕を拘束されて椅子に座らされると、先程の憲兵がエンジに叫ぶ。
「ですから、私には何のことか分からないのですよ」

――ドガッ!!
 頭を掴んでテーブルに叩きつけられる。
 ドバッと、口と鼻から大量の血が流れだした。

(あー、これは腐りきってるなー。『痛覚遮断』が効いてなかったら絶叫ものだよ)

 忍者のスキルで、傷みを遮断するスキルを予め発動しておいたエンジ。これにより、痛みによる精神的かつ肉体的ペナルティーを消去するのだが、使い方を間違えると死ぬこともある。
「し、知らないんです……」

――ガンッ
 再びテーブルに叩きつけられると、エンジは気絶したフリをする。
「ふん。取り敢えず此奴は奥の独房に放り込んでおけ」
 ズルズルと独房に連れられると、そのままベットの上に放り出される。

(さーて、そろそろかな)

 素早く姿を隠蔽ステルスすると、マチュアはエンジの姿のゴーレムを生成する。
 傷までしっかりと再現してからゴーレムの園児をベツトに寝かせておくと、マチュアはそのまま影の中に消えていった。

 影潜りのスキルで、エンジマチュアは急ぎ鍛治組合の建物に向かう。
 そのまま影の中を移動して受付奥の部屋へと忍び込むことに成功すると、その部屋にいた数名の人物の話をじっと聞いていた。
「早くあの剣を手に入れるんだ、一体何をしているんだ」
 鍛治組合の奥の部屋で、ガリクソン伯爵がランディに向かって叫ぶ。
「少々お待ちください。あの様に目の前で消えてしまうと、我々としてもどうして良いか分からないのですよ」
 ランディが伯爵の怒りを宥めつつ告げる。
「空間拡張型のバッグが何かであろう? 所持品を全て調べれば分かるだろうが」
「まだ其方の報告は届いていません。所持品も、持っていたはずのバックパックもどこにも見当たらないのです」
「まあ、あの武器がストームの野郎のとこに向かわなかったのは幸いだったな。あいつの所に持っていかれたら、盗品として没取できなくなるぞ」
「それを何とかするのが貴様の仕事だろう?セドリック、わしがどれだけ帝国鍛治工房に援助していると思っている? ランディもそうだ」
 と怒鳴りつけられている、ランディとセドリック。
 ここまでの会話だけでも十分に真っ黒である。
「その代わり、魔法の武具を持ってくる冒険者の情報も流しているじゃないですか? 伯爵の好きそうな奴をね」
「その情報を使って何かしているのは分かっていますよ。最近は魔法の武具を所持していた冒険者の行方不明事件が後を絶ちませんからね。最も、依頼遂行中の事故として処理されているようですが」
「其処まで分かっているのなら、とっととあの武器を探せ。夢にまで見たアダマンティンの剣だぞ、儂は絶対に諦めぬからな」
「了解ですよ。最後は薬を使ってでも聞き出しますから。それよりも、次の技術認定審査、宜しくお願いしますよ」
 まるで絵に描いたような悪役の雰囲気を醸し出している三人。
「分かっておる。ストームとやらをここから叩きだすのだろう?心配するな」
「あいつの使っている鍛治道具も全て回収して下さいね。うちの奴等の報告だと、その道具もかなりの逸品らしいのですから」 
「巡回騎士の一部は既に買収済みだ。審査員は手を回す必要はないのだろう?」
「ええ。伯爵様と私が審査員にいる限りは、他の審査員の意見など簡単に揉み潰しますよ」
 明らかにストームを大会で潰したいようである。
「フッフッフッ。早くあの武器を楽しみたいのう」
「所詮は小娘。薬で聞き出した後は娼婦街が奴隷商人にでも売り飛ばしますよ」
 という、黒を見えて漆黒というかんじの、実に真っ黒な会話が聞こえてくる。

(こ、此処まで真っ黒だと同情の余地なんてないよなぁ。ゴーレムには薬なんて効かないから、そのまま適当なことを語って貰って、誘導しますか……)

 そのままじっと、影の中で静かにしているエンジマチュア
 そして部屋から全員が出ていくのを確認すると、証拠となるだろう書付や書面を探すことにする。
 幸いなことに、鍛治組合責任者の部屋でそれらは発見できたので、複写コピーという魔法で同じものを作り出し、偽物の方を置いておく。
 そして一旦この場から逃げると、マチュアに戻って何事もなかったかのように街に溶け込んでいった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 数日後。
 サムソンでは帝国鍛治工房主催の技術認定審査が行われた。
 回収した資料によると、一回戦から既にストームには幾つかの罠が張り巡らされている。

(まあ、この程度の罠を張ってくれた方が、此方としても都合がいいなぁ。どうせストームには効かないだろうし、寧ろストームを本気にしてくれないと困るからねえぇ)

 と心の中でニマニマしながら、会場の観客席でじっと見学している。

(ブリュンヒルデ殿が貴賓として来るのが決勝。其処まではストームに勝ち進んで貰わないとねぇ)

 そんな事を考えつつ、第一ステージが終わった時点で、マチュアは、一旦サイドチェスト鍛治工房へと向かう。
 そして鍛冶場から少し離れた所に、魔法でバーベキューコンロを作り始めた。
 大地操作アースコントロール大地の壁ストーンウォール、この二つの魔法で幅1m.長さ3m.の、巨大コンロを作り出す。
 更に永続化パーマネントの魔法を付与する事で、誰にも破壊できない丈夫なバーベキューコンロの出来上がりである。
「よしよし。これで祝賀会のコンロは出来たけど。屋根は欲しいなぁ」
 という事で、建築専門のギルドに向かい、金貨15枚で屋根と風除けの簡単な壁も作ってもらう。
 此処までいくと、あとは仕込みの時間だ。
 ボルケイノの肉を部位別に用意し、食べやすい大きさにカットしてタレに漬け込む。
 カナンの馴染み亭で仕込んだドラゴンソーセージなども準備完了。
 あとはゆっくりと昼寝である。

‥‥‥
‥‥


「おーきーろー。一体これは何だ? いつ作った?」
「おや。これは早いおかえりで。勝った?」
 どうやら初日の試合は終わったらしい。
 ストームがマチュアをゆさゆさと起こしている。
「ああ。色々とやってくれたが、全て返り討ちだ」
「それは重畳。祝賀会用のバーベキューコンロを用意したぜい。今宵は焼肉パーティだ」
 とストームもコンロの方を見てニィッと笑う。
「成る程な。それじゃあ知り合いも誘って来るわ」
「ほいほい。食べ物は準備しておくねー」
 とストームを見送った後、マチュアは取り敢えず魔法陣を起動。
「大会期間中限定で仕掛けるか。聖域範囲セイクリッド敵対警告エネミーアラートと」
 やがてストームの知り合いや近所の人達が集まると、バーベキュー大会は始まった。

「かんぱーーーーーい」
 マチュアはタレに漬け込んで置いた肉や、ベルナー国で仕入れた新鮮な野菜を焼いている。

――ホフッ‥‥ハフハフ
「うん‥‥この味だぁぁぁぁ」
 ストームが絶叫しながら、バーベキューに舌鼓を打つ。
 其処には大会で一緒に戦ったというウルスや『鋼の煉瓦亭』の常連らしいデクスター、そして何故かカレン・アルバートというサムソンの武器商会の娘の姿もあった。
 うんうん、いつの間にかしっかりと近所付き合いができているようで。
「いい香りだねぇ。これはどんな調味料だい?」
「これはねぇ。私の故郷では晩餐などで使う調味料だよ。よかったら少し分けてあげるよ」
 とマチュアは調味料のはいっている壺をおばちゃんに手渡した。
「してマチュアはもう用事は終わったのか?」
 とストームがツッコミを入れる。
「一応ね。それよりも、今はこの最高の肉を楽しんでおくれよ」
 と告げられて、ストームはハッと気がつく。
「ま、マチュア、この肉はまさか?」
「その通り。『赤神竜ザンジバル』が眷属、ボルケイノのもも肉と胸肉、そしてサーロインだ!!」

――ブーーーーーーーーーーッ
 おばちゃん達以外の面子が一斉に吹き出した。
「な、なんじゃと?」
「おいおい、嘘だろ。これがドラゴンの肉なのか?」
「ふ、ふぅん‥‥まあまあじゃないかしら?」
 とウルスとデクスター、カレンが叫ぶ。
「本物ね。だから美味しいでしょう?」
 というマチュアの言葉に、3人は高速で頷く。 
 その後はみんな適当にバーベキューを楽しんでいるようだったので、どさくさ紛れにこの場所の権利を半分売ってくれないかストームに交渉を持ちかける。
 拠点となる場所は多い方がいいのである。
「あと、ストーム、ここの土地半分売ってくれ」
「はぁ? ここ俺の鍛冶場とかあるんだが」
「空いている所を売ってくれ、ここに居酒屋を作る。サムソンの食文化に革命を起こしてやる」
 という話をしながら、バーベキューパーティは大いに盛り上がっていた。
暫くして、近所のおばちゃんたちもそれに合わせて帰宅し、残った面子で二次会に突入したとき。
 突然、いままでとは違う風が吹き始めた。

──ピッピッ
(広範囲敵対警告に反応だと? しかも結界に侵入した?)

 それはマチュアにとって新しい感覚。
 今までは反応はあったものの、結界を超えるものはいなかった。
 だが今、結界を突破したものが現れたのである。
 しかも此方に向けて殺気を放っている。
 チラリとストームを見ると、彼も気がついたらしくコクリと頷いていた。

「ふん。どうせどっかの依頼で大会の邪魔をしに来たのだろうさ。よーしマチュア、やーってお終い!!」
「アラホラサッサー、じゃないわっ!! どうして私がストームの後始末しないとならないのよっ」
 と叫ぶマチュア。
「上手くあしらったら、土地半分売ってやる」
 と告げた瞬間に、マチュアは素早く指をパチンと慣らした。

――スッ
 マチュアの真横に忍者エンジが姿をあらわす。
 このエンジはゴーレム。
 そして素早くマチュアはエンジに、ゴーレムのエンジはマチュアに姿と立ち位置を変える。
 周りの人達は酔っているので、細かい所までは気づかないだろうとコマンドをフル活用している。

「全て処分で宜しく」
「御意」
 と返事をすると、エンジはスッと影の中に消えていった。
 侵入者の位置は聖域範囲セイクリッド敵対警告エネミーアラートで確認済み。なので影潜りで一度姿を消すと、近くまで移動開始。
「ふっふーーーん。発見」 
 と影の中から頭だけを出して、周囲を見渡すと、建物の影にいた怪しい二人をまず視認したので、二人の近くまでいくと、脚を掴んで影の中に引きずり込む。
「う、うわ、なんだこれは!!」
「敵か、敵なのかうわぁぁぁぁ」

――ズボッ
 そして二人組を膝まで影の中に引きずり込んでから、すぐ近くの影から姿をあらわす。
 影潜りのスキルは、触れた対象も影の中に引きずり込むことが出来るが、術者から離れると身動きが取れなくなる。
 それを応用して、脚を固定したのである。

「な、なんだこれはっ」
「抜けないぞ、一体何をしたんだっ!!」
 と叫ぶが無視。
 さらに近くでこの光景を見て逃げた二人が居たので、今度はそちらに移動。
「ピキーンピキーーン」
 と潜水艦のソナー音を口に出して呟くエンジ。
 影が繋がっていれば、一瞬で移動できるのがこのスキル。
 いまは夜、月影が街の中に広がっているので、どこまでも追跡可能である。
「敵補足、2時の方向。距離200,いけーーーー」
 と笑いながら影に飛び込むと、残りの二人の足元に到着。すばやく二人を影の中に沈めて捕縛する。
 さらに影の中で二人をロープで後ろ手に縛り上げて、念入りに拘束バインドの魔法で身動きも取れなくする。
 そして最初の二人も影の中に引きずり込んで、やはり同じく縛り上げると、そのまま影の中を4人を引っ張って移動した。 

 エンジが四人を捕まえて戻ったころ、飲み会もたけなわになっていた。
「大漁だね。はいお土産」
 と影の中から、4人の冒険者らしき連中を引っ張り出すと、それをストームに突き出す。
 丁寧に後ろ手に縛り上げられて、丁寧に魔法による拘束バインドまで施している。
 全員が覆面をして黒っぽいレザーアーマーを装備しているところから、シーフギルドの関係者かもしれない。
「うおっ。ストーム、此奴は一体?」
「暗殺者だろうな。俺たちを狙っていたらしい。エンジが見つけて捕獲してくれた」
 と告げるストーム。
「身動きは取れなくしてあります」
「ああ、ご苦労。さて、どうしようかな」
「取り敢えずあとは任せます。私は食事を何もないぃぃぃぃぃぃぃ」
 とコンロを見るエンジ。
 既に炭火も消えており、エールとワインの樽も空っぽである。
 その近くでは、大漁に食事を盛り込んだ皿からムシャムシャと食事を楽しんでいるマチュアゴーレムの姿がある。
「今日も私はターキーサンドかい」
 と保存食代わりに大漁に作ってあるターキーサンドを食べるエンジ。
「さて、この4人はどうするのぢゃ?」
「とりあえずは巡回騎士の詰め所にでも持っていくほうがいいだう」
 とデクスターが告げるが。
「それだと、こいつらの依頼主が分からないからなぁ」
 と呟きつつ、ストームは一人の男の前に立つ。
「ということで、話しして貰おうかな? 俺を狙うように依頼したのは何処のどいつだ?」

――ペッ
 とストームに向かって唾を吐くシーフらしき男。
「こう見えても依頼人について口を割るようなヘマはしないぜ。それに街の中で手を出してみろよ、逆に巡回騎士があんたたちを捕まえるだろうさ」
 と開き直る。
「そうか、なら仕方ないか」
 と告げて、その場を離れるストーム。
「エンジ、そいつら地面に埋めとけ」
「はぁ? そんな事したら、お前たちだってタダじゃ済まないぜ」
「そうだ。それに俺たちが戻らなかったら、依頼人が動くだろうさ。こんな深夜に城塞の外にでることなんて出来ないしなぁ」
 と意気がるシーフ達。
「だれが地面に埋めると言った? お前手たちは影の中に埋めておくだけだ。決して誰もお前たちを見つけることは出来ない。中でどれだけ叫んでも外には聞こえないしなぁ」
 ニィィィィッと笑いつつ呟くストーム。
「ストーム様の仰せのままに‥‥では」
 と告げて、エンジがまず一人の肩に手を掛けると、そのまま地面の影の中に男を押し込んだ。

――ズブズブズブズブ‥‥
「まず一人だね。次は誰?」
「そそそそそ、そんなことで‥‥よせ、くるなぁぁぁぁ」
 必死に抵抗しようとするが、腕を縛られている上に『拘束』されているので体の身動きも取れない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

――ズブズブズブズブ‥‥ 
 二人目も影に埋まる。
 そしてスッと影の中からエンジが姿を表わすと、口元にニィッと怪しい笑みを浮かべた。
 その光景を、ウルスとデクスター、カレンの3人もじっと見ていた。
――ゴクッ
「あと二人だね。まあ、最後の一人にすれば、もし口を割っても仲間にバレることはないからねぇ‥‥」
 もう一人の男もエンジは影の中に押し込める。

――ズブズブズブズブッ‥‥ 
「さてと、で、口を割る?」
 とエンジが問いかけると、男は勢い良く頭を縦に振る。
「わわわ、わかった話す、全て話すから許してくれ!!」
 降参したかのように叫ぶ最後のシーフ。
「では、尋問はストームにタッチします。私は影の中の奴らの始末してくるので」
 と告げて、エンジは影の中に消えていった。
「さて、誰の依頼だ?」
 とストームが問い掛けると、シーフはチラッとカレンを見て一言。
「ランディだ。ソロモン鍛冶組合の責任者の一人、ランディが俺たちに依頼を持ってきたんだ。こういう仕事はシーフギルドを通せないので、直接な」
 と口を割った。
 まさかの知り合いの名前に、カレンは驚いたものの、すぐに頭を左右に振る。
「まさかランディとはねぇ。確かに彼は自分の立場を守るためには何でもする男だけれど、ここまでやるとはねぇ」
「で、帝国鍛冶工房とランディが繋がっているんだろう? 偽物の大会説明書類を用意して持ってきたり、第三ステージで俺にだけ固くて丈夫な鎧を準備したり」
「なっ、まさか帝国鍛冶工房のものまでが?」
「成る程ねぇ。どうりで何も持たないでストームが会場入りした訳ね。貴方はランディに繋がっている人物を知っているの?」
 とカレンがシーフに問い掛ける。
「依頼人はランディ、依頼内容はストームとウルスの二人を痛めつける。命を取るとまでは言わず、鍛冶作業できない程度にやれと、そして可能ならば、二人の鍛冶道具を奪ってくるように‥‥それが依頼内容だ」
 そこまで話すと、シーフは観念したかのように静かになる。

――スーーーッ 
 とエンジが影から出てくる。
「3人は処分したよ」
 と笑みを浮かべて告げると、デクスターとウルス、カレンがチラッとエンジの方を向く。
「処分って‥‥殺したのか?」
「それとも影の底に沈めて、二度と出てこれなく‥‥」
「そ、そこまでする必要はなかったのじゃないかしら? ほら、きっと反省しているでしょうからねぇ‥‥」
 と顔を引きつらせながら告げる。
「こいつはもういいの? ならこいつも処分ね」
 と告げて、エンジは最後のシーフも影の中へと引きずり始める。
「ちょ、ちょっと待て、全てを話したら許してくれると」
「俺は返事していないけれどね。じゃあさようなら‥‥」
 とシーフに告げると、エンジはそのまま影の中へと引きずり込んだ。 
「さてと、何処か人気の無いところへと‥‥」
 エンジはそのまま縛り上げた四人を人気家の少ない路地裏まで連れて行くと、そのまま壁に四人を並べる。
「ではでは。聖域範囲セイクリッド・幻影投射《イマジナリー》と。浅くしておいたけど、一週間は夢の中だよー」  
 と四人組を放置すると、再び影の中に飛び込んで、ストームたちの元へと戻っていく。
「ただーいまっと。縛り上げて路地裏に捨ててきたよ。幻影投射イマジナリーをゆるくかけてきたから、今頃は幻覚を見て眠っているよ。依頼に成功して、報酬を貰って何処かで豪遊している夢とみた!! それじゃあねー」
 と呟いて、エンジは再び影の中へ。
 そして素早くマチュアはゴーレムと入れ替わった。
「という事だ。そもそも俺もマチュアも人は殺せないよ」
「そうか。酔いが一気に冷めてしまったわい」
「全くだ。飲みなおしといこうか」
「そうですわね。ランディとと繋がっている帝国鍛冶工房の人物のあぶり出しも必要ですしね」
「むう。バーベキューが冷めている」
 とマチュアは皿に守られている冷めた肉や野菜をツンツンとつついて呟く。
「一人で食べようと取りすぎですわ。まだお腹が減っているのでしたら、場所を変えて飲み直しまょう」
 ということで、一行は『鋼の煉瓦亭』へと移動し、とりあえず飲みなおしとなった。 


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