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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

ストーム・その18・刀剣の達人、とんでも無いものを掘り当てる 

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 サムソンの朝は早い。
 朝六時の鐘の音と同時に、人々は仕事を開始する。
 だが、ストームはその時間にゆっくりとベットから体を起こすと、井戸でいつものようにトレーニングを開始する。

「おはようございます、ストームさん」
「ああ、おはよう。今日は11人か、まずはストレッチから始めるか」
 と軽く体操を行ってから、いつものトレーニングを開始する。
「あら、今日はもう始まっていたのかしら」
 やがて、トレーニングが始まって少ししてカレン・アルバートもラフな服装で姿を表した。
「ああ、カレンか。取り敢えず体操してから加わってくれ。それではいくぞ、サムソン体操第一、よーーーーいっ」

――チャーンチヤーンカチャンチャンチャンチヤン‥‥
 と楽しそうに日課を行っている。
 それを一通り終わらせると、今日は2週間ぶりの出張である。
「さてと。それじゃあ出かけてくる。10日ほどで戻ってくるので」
「あら? どちらに?」
「鉱石が切れたので採掘してくるだけだ。ドゥーサ鉱区までいってくる」
「それはまた遠いわね。でも、あそこ何か掘れました? 既に帝国が見捨てた廃坑ですわよ」
「うちの鉱石は全てあそこで採掘している。ミスリルも含めてな」
 ニィッと笑うストーム。
「なっ、まだミスリルが出るというのですか?」
「ああ。あそこの鉱脈は実にいい。もう少しでアダマ‥‥いや、それじゃあな」
 とドゥーサ鉱区行きの乗合馬車に向かうストーム。
「ちょ、いまあなにたアダマって‥‥アダマンタイト?」
 カレンは慌てて家に戻ると、アルバート商会の採掘師を連れてドゥーサ地区へと向かうことにした。


 ○ ○ ○ ○ ○


 サムソン辺境都市の北東門を抜けて、馬車で北へ約6時間。
 大型の荷車や運搬馬車が通るため広い道幅に整備された街道の終着点に、『ドゥーサ鉱区』と呼ばれている放棄された鉱山区画がある。
 いつものように宿場に向かい部屋を一つ抑えると、ストームは鉱山管理施設で手続きを終え、いつものように坑道の集まっている広場へと向かう。

「さてと‥‥今日はどこが‥‥」
 『鉱脈探査』を起動して、目的の鉱脈を探す。
 今日はミスリルとアダマンテイン(アダマンタイト)の鉱脈を探す予定である。
 もっとも、この二つが同時に反応する坑道は三箇所しかないので、取り敢えずはその中でも人気のない坑道を選択し、テクテクと入っていく。
 途中の分岐点や広い採掘現場で顔見知りのドワーフたちに挨拶をすると、いよいよ目的の最下層の空間へ
と到達した。
「ここは始めてなんだよなぁ。さてと‥‥」
 と周囲をグルッと見渡して、その何かでも一番反応の高いところに向かうと、ストームはバックの中から愛用のツルハシを取り出す。

――チャラララッチャラー

天目一箇あめのまひとつの鶴嘴つるはしー!!」
 と呟きつつ取り出すと、一気に採掘を始める。
――ガギィンガギィン
 次々と鉱石を掘り出す。
 ただ黙々と作業を続けていた時、ふと後ろから視線を感じる。
「あ、ここでしたか‥‥」
 とカレンがストームに話しかけた。
「ああ、アルバート商会は、とうとう鉱石の販売まで手を出したのか?」
「ストームあるところに儲け話ありってね。こちら、掘らせてもらっても?」
「構わないよ。ここのルールはわかっているんだろう?」
  とストームにコクリと返事をすると、カレンは同行したドワーフの採掘師たちに作業をお願いした。

――ガギィンガギィンガギィン
 心地よい音を響かせて掘り進んでいるようだが、ストームはそんなのお構いなしにひたすらに掘る。

――ガギバギッ
 と、カレンの採掘場からツルハシの折れる音が聞こえてくる。
「あっちゃーー。嫌な音」
「お嬢、岩盤にぶち当たった」
「誰がお嬢よっ。オーナーと呼びなさい」
「オーナー、ここから先は無理だ。でっかい岩盤にぶつかっちまった」
 と叫んでいる。
「あー、それはおつかれさんだな。この当たりの最下層はすぐ分厚い岩盤にぶつかるから、気をつけたほうがいいぞ」
 ラージザックの口を広げて、予備のミスリル製のツルハシを3本取り出すと、カレンを呼びつけて手渡す。

「これは?」
「暫くは貸してやる。このあたりの岩盤はこれでないと破壊できない。ここを出るときには返せ」
 と告げて、ラージザックに掘り出した鉱石を放り込むストーム。
「あら? そちらはもう休憩?」
「バカタレ。一度しまわないと駄目だろうが」
 と次々とラージザックに放り込んでいる時、カレンの雇った採掘師が一人近づいてくる。
「すまないが、ちょいと掘ったものを見せてくれるか?」
「ああ、いいぜ。あんた随分と目がいいな」
 と近くの塊をヒョイと渡す。
 それをじっと見つめながら、ドワーフはため息一つ。
「ふぅ。まさかとは思ったが。お嬢、ここはアダマンティンの鉱脈だ」
「な、ん、で、すってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 慌ててカレンもストームの元に飛んで来ると、近くに落ちている石を一つ拾い上げてじっと見る。
「ほう。前から疑問だったが、カレンは『鑑定眼』持ちか」
 生まれながら、物事の真贋を見極めることの出来る眼が『鑑定眼』。
 魔力を眼に集めることで、瞳に込められている鑑定スキルが発動するらしい。 
「ええ。生まれついてね。魔導器なしで鑑定できる人間はほんの一握り、私はその一握りだけれど。ストームも?」
「ああ、鑑定は使える。だからここにいるだろうが」
 その言葉にカレンも納得。
「しかし、惜しいわ。少し場所をずらして掘ってみて。岩盤は避けてね」
 と指示を飛ばすカレンだが、暫くするとすぐに岩盤にぶつかっている。

――ガギィィィン
 それをひたすら繰り返しているが、すでに8時間以上は経過している。
「さてと。それじゃあ俺は今日はこのへんで。あとは勝手に掘っていいぞ」
 とカレンに場所を譲る。
「あ、ありがとうございます。ほら、あと少しで日が変わるから、それまでで一度終わりましょう」
 と採掘師たちに発破をかけるカレン。
 それを横目で見ながら、ストームは地上へと戻っていった。

 そして翌日の朝。
 いつものように『鉱脈感知』で場所を探しているが、昨日見つけたところは全て場所を取られてしまっていた。
 どうやら先日のカレンの雇っていた採掘師の一人が、ここにある酒場でつい口を滑らせてしまったらしい。
 俺の見つけていた鉱脈とぶつかる坑道には、大勢の人が詰め寄っている。

「あ、ストーム、本当にごめんっっっっっっ」
 パン、と手を合わせて頭を下げてくるカレン。
「あ、ああ、そういう事か。まあ、別のやつにチャレンジするからいい。来るか?」
 とカレンに声を掛ける。
「ええ、でも何処に?」
「昨日の場所」
「でも、あれから私の掘っていた所も岩盤にぶつかってしまいましたけど」
「まあ、見ていろって」
 と話をしながら、昨日の採掘現場へと向かう。
 そこでは、数名の採掘師が陣取っていたものの、分厚い岩盤から先には進めなくなっていたので、お手上げになったらしい。
 荷物を片付けてストームたちと入れ替わったのである。
「ほら。ここから先は無理なのよ」
「ああ、普通はな。それが俺だと‥‥」
 と天目一箇あめのまひとつの鶴嘴つるはしーを取り出して、ゆつくりと構え、そして一気に岩盤に叩きつける。

――ガギ‥‥ガギ‥‥ガギィィィィン
 10分もしないうちに岩盤が砕けた。
「な、なんて技なの‥‥」
「ちなみに良い事を教えてやる。カレン、この岩盤がアダマンティン鉱石だ」
 と砕けた岩盤を手に取り、それをヒョイと手渡す。
「まっ、まさかで‥‥あららららあらぁ」
 と動揺するカレン。
「こ、これ全てって‥‥」
「あまり知られてはいないんだが、この岩盤は鉄鉱石。だが、アダマンティンも混ざっている。火炉に掛けて鉄の部分だけ溶かしたら、アダマンティンの鉱石が取れるぞ」
 と、いま砕いた場所を指差す。
「ほら、ここ掘ってよし、アダマンティンが周囲の岩にまで浸透してて硬度が増しているから、ミスリル以上の硬度のツルハシじゃないと破壊できないからな」
 と告げて、岩盤の割れた場所はカレンに譲った。
 昨日に引き続き、ミスリルのツルハシも三本ほど貸してやると、カレンはそれを受け取ってストームをじっと見る。

――ゴクッ
「い、いいの?」
「俺はこっちで掘るから、そっちは好きにしな」
 と告げて、ストームは再び別の岩盤を砕く。
 他の人が来ても手を出せないように、砕くのは一箇所に留めて、そこから岩盤全体を砕いていく。
 その日の日付が変わる頃には、いまいる場所の岩盤はすべて撤去した。
 ちなみにカレンのチームは全体の40%、残りは全てストームが破壊した。

「今日はありがとう。助かったわ」
「いやいや、別に気にしないさ」
「でもこれで、明日からの作業は楽になるわね」
 掘りやすい岩肌を見ながら、カレンが告げるが。
「ここは、あと暫くは鉄鉱石と銅鉱石の混ざったのしか無い。多分別のところで岩盤にぶつかって放置する所があるから、明日はそっちだ。今回の採掘の目的はアダマンタイン一つに絞っているのでね」
 と告げて地上へと戻っていくストーム。
「ということだ。酒場にいくんだったら、その当たりの噂を探してみるといいよ。それじゃあな」
 暫くしてカレンたちも地上へと戻っていく。

 そして、鉱区滞在最終日。
 カレンとアダマンタイトを掘り出した翌日から、ストームの言葉は的中し、厚い岩盤にぶち当たった坑道は放置された。
 その結果、ストームたちは労せずに岩盤を破壊し。次々とアダマンタイトを入手していたのである。

「はぁ。ストームの言ったとおりになったわね」
「で、カレンたちは今日は付いてかないのか? なら勝手に行くが」
「喜んでお供しますわ」
 とストームとアルバート商会の一行は、別の坑道に進む。
 そろそろ感のいい採掘師たちは、ストームたちの後ろについてくるが、到着した場所がまたしても岩盤がびっしりと剥き出しになっているところなので、やむを得ず見学している。
「それじゃあ、カレンたちはここな」

――ガギガギガギガギッ
 と分厚い岩盤を破壊する。
 深い亀裂をストームが入れてくれたおかげて、カレンたちの作業は順調に進んだ。
 そしてストームは別の場所で採掘を開始したのだが。

――ガギガギ‥‥キィィィィン
 と突然澄んだ音が響く。
「なんだぁ?」
 と、慌てていま入れた亀裂の周りの岩を少しずつ破壊していく。
 ゴツ‥‥ゴツ‥‥ゴツ‥‥
 とゆっくりと削っていくと、岩盤の中から巨大な水晶柱が発掘された。
 直径で1m、長さ3mほどの透き通った水晶柱。
 その中には、全裸の女性が眠っていた。

「あっちゃあーーー。掘ってはいけないものを掘ってしまった‥‥」
 頭を抱えてしゃがみ込むストーム。
「なに? 何か掘り出した‥‥って‥‥これは‥‥」
 とカレンも固唾を飲む。
「これ、分かるか?」
「分かるもなにも‥‥水晶の民、古代種ローディガントよ。古い言い伝えにしか出てこない古の種族。水晶柱に入っているということは、確か、休眠しているだけの筈よ‥‥」
 よく見ると、水晶柱の彼方此方に紋様が刻み込まれている。
「これは?」
「これは古い古代魔法語ね。もう使われていない古代魔導王朝クルーラーか、もしくは魔導王国スタイファーの文字。残念だけど、これを解析できる魔術師は極僅かよ。これどうするの?」
 と言われるが、ストームもどうしていいか分からない。
「このまま見なかったことにしたら駄目か」
「この子は他の誰かに運び出されて見世物ね」
「じゃあ、仕方ない持って帰るか」
 とあっさりと方向性が決まったので、取り敢えずこの水晶柱は横にずらしておく。

――ズルッズルッ
 とゆっくりと、水晶が砕けないようにそっと横に置くと、ストームは再び作業を開始した。
「はぁ、こんな珍しいものが掘れるとは‥‥と、おや?」
 水晶柱を避けたさきにある、光った鉱石。
 それを手に取ると、ストームは鑑定を開始、そして素早くツルハシを手に取ると、その鉱石を一気に掘り出し始めた。

「ん? ストーム、何かいいものが掘れてるの?」
「ああ。とってもいいものがな‥‥ひゃっほう」
 と上機嫌で掘り続けるストーム。
 その掘り出された鉱石を一つ手にとって、カレンはじっと鑑定。
「ク‥‥クルーラー?」
「シーーッ。静かに」
 とカレンの方を向いて、人差し指を口元に当てる。
「ス、ストーム? それ、こっちでも掘れるかしら?」
「鉱脈は一緒だから、可能だとは‥‥」

――ガンガンカン‥‥ガンカンガン‥‥ガンガンン
 突然けたたましく採掘音が響く。

 ストームが掘り出した紺碧色に輝く鉱石。
 これは『クルーラ鉱』と呼ばれている精神感応魔法金属で、ミスリルやアダマンティンなどと同じ希少な鉱石である。
 これを精製したものは魔導器などの核に使われたり、古代にはアクセサリーとしても使われているもので、所有者の魔力を高めるという力を持っている。
 精製した金属は『緋碧色』と『紺碧色』の二色が存在し、前者はストームの聖騎士の鎧に使われている『火廣金ヒヒロカネ』とも呼ばれている。
 この世界では、この金属を極限まで精製することで、オリハルコンが作られるらしい。

「ふぅ。大体こんなかんじかな?』
 と一通り掘り尽くして放置されているクルーラ鉱を横目に、ストームは大満足の表情である。
 かたやカレンも、なんとか20kgほどの鉱石の採取に成功。
 坑道の入り口からは大勢の採掘師が集まってきて、こっちを見ている。

「お、おい、本物のクルーラ鉱だぜ」
「ああ、あれだけあれば‥‥」
 と呟きつつ、じっとこっちを見ている。
「まあ、いいもの掘れたわ。それじゃあ」
 とストームは次々とラージザックにクルーラ鉱を放り込み、最後に水晶柱にロープを掛けて持ち上げる。
「ふんっ‥‥」
 どうにかそれを持ち上げると、無理やりトロッコに縛り上げて地上まで戻る準備をする。
「それもラージザックにしまえばいいのに」
「この袋は、生き物は入らないのっ。さっき入れようとしたけど入らなかったんだっ」
 とカレンに話す。
「あ、あの‥‥貴方が出たら、そこ掘っていいですか?」
 と入り口で話しかけてくる採掘師がいたので一言。
「俺は今日はもう終わりだから。このあと誰が掘ろうがご自由にだ」

――ダダダタダタッ
 と次々と入り口から内に飛び込んでくる採掘師。
 そして我先にとツルハシを入れて、自分が占有権があると叫ぶ。
 もっとも、そこのクルーラ鉱はストームが回収を終えたので、まだでるかどうかは疑問らしい。
 精製温度はアダマンティンを遥かに上回るので、そんじょそこらの火炉では溶かすのは不可能だろうし。
 カレンの方はまだ暫く掘ればでるので、その事だけをカレンに告げてストームは地上へと戻っていった。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


 サムソンに帰るための荷馬車のレンタル代、金貨3枚。
 巨大な水晶柱の運搬費用である。
 生物はラージザックに入らないため、止むを得ず代金を支払ってサムソンまで無事に戻って来る。
 中が透けて見えるので、男達の好奇心の目に晒されないようにマントやテント布を被せてロープで固定。
 取り敢えずは自宅の土間に安置して置くしかない。

「ふう。いつまでも此処に置いておく訳には行かないよなぁ。一体どうすれば良いんだ?」
 と水晶柱をポンポンと叩きながら呟く。
 こういう時のマチュアなのだが、今日はサムソンにいるか分からない。
 ストームの家の隣には、既にマチュアの酒場『馴染み亭』が建ててある。
 一階が酒場、二階は自宅兼転移の祭壇のある礼拝所が作られている。
 酒場の入り口に『本日休業』のプレートが掛かっているので、今日はサムソンにいないのだろう。
「参ったな。シルヴィーにでも相談してみるか」
 と呟くと、マチュアから預かっている鍵で酒場入り口のカギを開けると、二階の礼拝所からベルナー王城へと転移する。

――スッ
 転移先は、ベルナー王城内に作られた転移の祭壇。
 礼拝所のような室内には、マチュアが新しく作った巨大な魔法陣が設置してある。
 ラグナ王城地下にある転移魔法陣を解析し、設置したらしい。これで大人数の移動も可能なのだそうだ。

「おや? ストーム殿、今日はどうしたのですか?」
 転移の礼拝所から出て来たストームに、城内巡回中の騎士団長のスコットが話しかける。
「やあ、シルヴィーに用事があったのだが、何処にいる?」
「執務室で唸っていますね。新しく王都から派遣されて来た執務官と一緒に仕事中ですが」
 あー、なるほどね。
 今までとは違い、国の王となった以上は全ての民に対しての責任というものがある。
 転移でホイホイと遊びには来れなかったようだ。
「なるほどね。シルヴィーの事だから、転移の魔法陣でホイホイと遊びに来るのかなと思ったのだが、最近遊びに来ない理由はそれか」
「ええ。マチュア殿が魔法陣の設定に細工をしたらしくて、転移許可証がなくては転移して来れないのですよ」
「そうなのか? 俺は普通に飛んで来れたが」
「幻影騎士団と、シルヴィー様以外の五王は不要だそうです。余りに頻繁に遊びに行くので、ケルビム様からお叱りを受けて、マチュア殿が設定を変えたとか」
「あー、そうなのか。マチュアは今日は此処に?」
「いえ、最近は見かけていませんが」
 必要ない時はヒョイヒョイと顔を出すのに、必要な時は何処にいるか分からない。
「だからトリックスターかよ。参ったな」
 と頭を掻きながら、王城の鍛冶場に向かう。

「おう、ストーム久しいな」
「ミスリルの在庫がそろそろ尽きそうでな。少し融通して欲しいのだが」
 王城鍛治師のレバンスとダンの二人が早々に頼み込むので、バックの中から少し出して手渡す。
「そう言えば、マチュアは顔を出していないか?」
「そのマチュア殿からの注文で、色々なものを作っているのじゃよ。これが一体何の部品が見当もつかないのじゃよ」
 と羊皮紙に描かれた設計図をストームに手渡す。
「あー、これ作るのか。ていうか、できるのか?」
 と頭を捻るストーム。

 マチュアの持ってきた図面は、ヒーターシールドに特殊鋼で作った杭を打ち出す魔法ギミックを施した盾。
 俗にいうパイルシューターという武器である。
 じつにロマンあふれて、そしてむせる。

「この部分は俺が今作ってやるよ。丁度試したい材料があるんだ。火炉借りるぞ」
 と鍛治道具一式を装備して、早速作業を開始。
 夕方までには、青く輝く金属の杭を完成させた。
「ストーム殿、この金属はまさか?」
「ああ、クルーラ鉱から精製した青生生魂アボイタカラだ。サイズも全て合わせてあるから、ミスリルでなくこっちに切り替えて置いてくれ」
 と説明すると、設計図の若干の手直しをして、鍛冶場から出る。

――グウゥゥゥゥ
 サムソンに戻ってからずっと彼方此方に走り回っていて、まともに食事を取っていないストーム、
「それにしても、腹が減った‥‥食堂にでも行くか」
 と食事を取るために、城内の食堂へと向かう。

「お疲れ様です、って、ストーム様、ご無沙汰しております」
 食堂に入ると、ストームを見かけてシャーリィが走って来た。
「おや、シャーリィは今は食堂勤務か?」
「私はストーム様付きの侍女です。ストーム様不在の時は、様々な雑務をこなしているだけですわ」
 と笑いながら呟く。
「そうか、取り敢えず直ぐに食べられるものを頼む。もう腹ペコでなぁ」
「了解しました、料理長にそう伝えます」
 シャーリィはスッと後ろに下がると、厨房へと走って行く。
「あ、そうか。シャーリィが俺の侍女なら、この城にマチュアの侍女も居るはずだな。シャーリィ、ちょっといいか?」
「はい?まだ料理は出来ていませんが、どうしましたか?」
「シャーリィは俺専属の侍女だよな」
「はい、そ、そうですが、ストーム様、こんな人のいるとこで突然、求められたら拒めないのをイタタタッ」

――ギリギリギリッ
 何か誤解している妄想娘にアームロックを仕掛けるストーム。
「ギ、ギフです」
「よーし落ち着いたか。ここの城にいるマチュアの侍女は何処にいるか教えて欲しい」
「マチュア様の侍女と言いますと、エンジ様ですね。いつもマチュア様とご一緒で‥‥どうしましたか?」
 力が抜けてテーブルにうっつぶすストーム。
「あーー、なんでこういう時にあいつはいないんだっ。侍女がエンジってどういう事だよ」

――カチャッ
 とストームの目の前に食事が運ばれる。
 この精神的敗北を解消するため、ストームは兎に角食べた。
 そして腹一杯になると、そのままサムソンへと戻っていった。

――ガヤガヤガヤガヤ
 居酒屋馴染み亭に到着したストームは、酒場の中が騒がしいのに気がつく。
「誰だ?」
 と店に移動すると、カウンターでマチュアが仕事をしているのが目につく。
 カレンやデクスター、サムソンに居着いたウルスなど、この店の常連たちが集まって楽しそうに飲んでいた。
「おやストームお帰り。何処いってたんだい?皆んなで飲もうって誘いにいったのに」
「はぁ、もう疲れたわ。取り敢えず明日、大切な頼みがある。が、もういい、酒だ。ドラゴンソーセージも頼む!!」
 と、ストームは自棄酒モードに突入した模様。
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