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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

ストーム・その15・刀剣の達人、裏工作の好きな人達です 

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――ガサササッ
 とストームの家の近くに駆け寄ってくる何かがいる。
 明らかにストーム達に向けられている殺気を、ストーム達は感じ取った。

「ふん。どうせどっかの依頼で大会の邪魔をしに来たのだろうさ。よーしマチュア、やーってお終い!!」
「アラホラサッサー、じゃないわっ!! どうして私がストームの後始末しないとならないのよっ」
 ストームのノリにつられて叫ぶマチュア。
 すると、ストームはややまじめな顔でマチュアの肩をトン、とたたいて一言。
「上手くあしらったら、土地半分売ってやる」
 そう告げた瞬間に、マチュアは素早く指をパチンと慣らした。

――スッ
 とマチュアの真横に忍者エンジが姿をあらわす。
 漆黒の衣服に頭巾、俗にいうくのいちスタイルではなく、本当の忍者装束を身に着けている。

「全て処分で宜しく」
「御意」
 と返事をして、エンジはスッと影の中に消えていく。
 忍者のスキルの一つ、影潜りシャドーダイブである。
 その一連の光景を、その場にいた関係者たちは呆然と見ていた。

「ブッ!! あれは一体なんじゃ?」
 とウルスは驚きの声を上げるが、カレンは平然としている。
「あー、あれはだな。マチュアの冒険者仲間の一人でエンジっていう、隠密行動の得意な子だ。いまは二人で仕事をしているらしいが、仕事の内容についてはノーコメントらしい。ていうか、カレンは驚かないのか?」
 突然エンジが現れたので、一瞬だけビクッとしたものの、その後は平然としているカレン。
 近くの席では、マチュアゴーレムがノーコメントという感じで、焼きあがった料理を皿に盛り込んでゆっくりとディナータイムに突入している。
 その姿をちらっと見てから、カレンは静かに口を開く。
「ええ。大武道大会を貴賓席で見ていましたので。あれを見たからこそ、あなた達に敵対心を燃やすよりも手を組んだほうが得策と思っただけですわ。まさかただの食いしん坊とは思いませんでしたけれど」

――ポリポリポリポリ
 と呟いているカレンを見てニイッと笑いつつ、焼いたとうもろこしを食べているマチュアゴーレム
「えーっと、その、大武道大会って、一体なにがあったんだ? ストームの知り合いのさっきのお嬢ちゃんが出場していたのか?」
 デクスターがカレンに問い掛ける。
 ふいにストームの方を見るカレンだが、ストームは静かに頷いたので一言。
「貴方はストームの知り合いのようですから。ストームもマチュアさんも大武道大会の上位者ですわ」

──ブーーーッ
「まてカレン、俺のことまでバラすのか?」
 と咄嗟に叫ぶストーム。
 ストームとしてはごまかしてほしいという腹積もりだったらしいが、カレンはそれを話してよいと感じ取った。
「あら? 頷いたのでてっきり」
 意思疎通が今一つのカレンとストーム。
「まあ、それならそれで、カレンも覚悟があるということだな」
 そんなやり取りをしているうちに、デクスターとウルスはやけ酒のみモードに突入した模様。
「まあ、以前から思っていたのだが、ストームのことはあまり深く考えない方がいい。ウルスさん、こっちの野菜焼けているよ」
「ああ済まんな。ただの鍛冶師ではないと思っていたが、まさか大武道大会の上位者とはなぁ‥‥」
 と飲み会モードを継続している。
「まあ、それについてはあまり気にしなくていい。優勝したわけでもないし、途中棄権なのでね」
「でも、最後まで出場していれば優勝は狙えたのでは?」
 とまあ、大会のときの話に花が咲いている模様。
 そんな中、マチュアゴーレムはというと。
 時折コンロで肉や野菜を焼いては、それを皿に盛り込んで幸せそうに食べている模様。
 なお、こっちがゴーレムだとストームは確信したらしいので、そっちに会話が流れないようにストームはうまく誘導しているらしい。

 ○ ○ ○ ○ ○ 

 
 飲み会もたけなわになった頃、暫くして近くの影からエンジがスッと現れる。

「大漁だね。はいお土産」
 と影の中から、4人の冒険者らしき連中を引っ張り出した。
 丁寧に後ろ手に縛り上げられて、丁寧に魔法による拘束バインドまで施している。
 全員が覆面をして黒っぽいレザーアーマーを装備しているところから、シーフギルドの関係者かもしれない。
「ああ、ご苦労。さて、どうしようかな」
「取り敢えずあとは任せます。私は食事を何もないぃぃぃぃぃぃぃ」
 とコンロを見るエンジ。
 既に炭火も消えており、エールとワインの樽も空っぽである。
 その近くでは、大漁に食事を盛り込んだ皿からムシャムシャと食事を楽しんでいるマチュアゴーレムの姿がある。
「今日も私はターキーサンドかい」
 と保存食代わりに大漁に作ってあるターキーサンドを食べるエンジ。
「さて、この4人はどうするのぢゃ?」
「とりあえずは巡回騎士の詰め所にでも持っていくほうがいいだう」
 とデクスターが告げるが。
「それだと、こいつらの依頼主が分からないからなぁ」
 と呟きつつ、ストームは一人の男の前に立つ。
「ということで、話しして貰おうかな? 俺を狙うように依頼したのは何処のどいつだ?」

――ペッ
 とストームに向かって唾を吐くシーフらしき男。
 じっとストームをにらみつけると、すぐに横を向いてしまう。
「こう見えても依頼人について口を割るようなヘマはしないぜ。それに街の中で手を出してみろよ、逆に巡回騎士があんたたちを捕まえるだろうさ」
 と開き直る。
「そうか、なら仕方ないか」
 と告げて、その場を離れるストーム。
 そのままエンジの近くに近寄ると、グイッと親指でしーふたちを指さして。
「エンジ、そいつら地面に埋めとけ」
「はぁ? そんな事したら、お前たちだって」
「そうだ。それに俺たちが戻らなかったら、依頼人が動くだろうさ。こんな深夜に城塞の外にでることなんて出来ないしなぁ」
 と意気がるシーフ達。
 どうやら背後にいるのはそこそこに権力を持っている人物らしいと予測はついたが、いまだ決定打にかけてしまう。
 なので。
「誰が地面に埋めると言った? お前手たちは影の中に埋めておくだけだ。決して誰もお前たちを見つけることは出来ない。中でどれだけ叫んでも外には聞こえないしなぁ」
 ニィィィィッと笑いつつ呟くストーム。
 そしてエンジの瞳が狂気に歪んだような演技をすると、クックックッと笑いながらシーフの一人に近寄っていく。
「ストーム様の仰せのままに‥‥では」
 と告げて、エンジがまず一人の肩に手を掛けると、そのまま地面の影の中に男を押し込んだ。

――ズブズブズブズブ‥‥
 足元から、まるで泥の中に沈んでいくように吸い込まれていく。
 そして悲鳴を上げつつ、最初の男は影の中に消えていった。
「まず一人だね。次は誰?」
「そそそそそ、そんなことで‥‥よせ、くるなぁぁぁぁ」
 必死に抵抗しようとするが、腕を縛られている上に『拘束』されているので体の身動きも取れない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

――ズブズブズブズブ‥‥ 
 二人目も影に埋まる。
 そしてスッと影の中からエンジが姿を表わすと、口元にニィッと怪しい笑みを浮かべた。
 その光景を、ウルスとデクスター、カレンの3人もじっと見ていた。

――ゴクッ
「あと二人だね。まあ、最後の一人にすれば、もし口を割っても仲間にバレることはないからねぇ‥‥」
 もう一人の男もエンジは影の中に押し込める。

――ズブズブズブズブッ‥‥ 
 これで残りは一人。
「さてと、で、口を割る?」
 とエンジが問いかけると、男は勢い良く頭を縦に振る。
「わわわ、わかった話す、全て話すから許してくれ!!」
 降参したかのように叫ぶ最後のシーフ。
「では、尋問はストームにタッチします。私は影の中の奴らの始末してくるので」
 と告げて、エンジは影の中に消えていった。

「さて、誰の依頼だ?」
 とストームが問い掛けると、シーフはチラッとカレンを見て一言。
「ランディだ。ソロモン鍛冶組合の責任者の一人、ランディが俺たちに依頼を持ってきたんだ。こういう仕事はシーフギルドを通せないので、直接な」
 と口を割った。
 まさかの知り合いの名前に、カレンは驚いたものの、すぐに頭を左右に振る。
「まさかランディとはねぇ。確かに彼は自分の立場を守るためには何でもする男だけれど、ここまでやるとはねぇ」
「で、帝国鍛冶工房とランディが繋がっているんだろう? 偽物の大会説明書類を用意して持ってきたり、第三ステージで俺にだけ固くて丈夫な鎧を準備したり」
「なっ、まさか帝国鍛冶工房のものまでが?」
「成る程ねぇ。どうりで何も持たないでストームが会場入りした訳ね。貴方はランディに繋がっている人物を知っているの?」
 とカレンがシーフに問い掛ける。
「依頼人はランディ、依頼内容はストームとウルスの二人を痛めつける。命を取るとまでは言わず、鍛冶作業できない程度にやれと、そして可能ならば、二人の鍛冶道具を奪ってくるように‥‥それが依頼内容だ」
 そこまで話すと、シーフは観念したかのように静かになる。

――スーーーッ 
 とエンジが影から出てくる。
 満足そうな笑みを浮かべつつ、最後のシーフをちらっと見てから。
 
「3人は処分したよ」
 と笑みを浮かべてストームに告げると、デクスターとウルス、カレンがチラッとエンジの方を向く。
「処分って‥‥殺したのか?」
「それとも影の底に沈めて、二度と出てこれなく‥‥」
「そ、そこまでする必要はなかったのじゃないかしら? ほら、きっと反省しているでしょうからねぇ‥‥」
 と顔を引きつらせながら告げる。
「こいつはもういいの? ならこいつも処分ね」
 と告げて、エンジは最後のシーフも影の中へと引きずり始める。
「ちょ、ちょっと待て、全てを話したら許してくれると」
「俺は返事していないけれどね。じゃあさようなら‥‥」
 とシーフに告げると、エンジはそのまま影の中へと引きずり込んだ。 

「す、ストーム。そこまでやる必要はないと思うが」
「いくらワシやストームの命を狙っていたとは言え、そこまで‥‥」
「そ、そうですわ。見損ないましたわ‥‥マチュアさん、貴方の友達なら止めてあげて下さい!!」
 と3人が呟いていると。
「ククッ‥‥クククッ‥‥あーーーつはっはっ。いや、済まない。ここまで上手く演技できるとは思っていなくてな」
 と笑いすぎて流れる涙を拭いつつ、ストームが三人に頭を下げる。
 突然のストームの笑い声に、三人はポカーンとしてしまう。
「え? 演技‥‥なの?」
「さっきのアレが演技かよ」
「ああ。中々迫真に迫っていただろう? 俺もマチュアも、人間をそう簡単には殺さないよ。むしろ治すほうが得意だ」
 とストームが呟く。
「では、あの影に沈めたのは?」
「エンジの影潜りシャドーダイブは影の中を移動する能力、触れた対象も一緒に移動できるだけ。ただ、影の中で手を放したりするとそこに固定されるけれど、時間が切れると地面からポン、とはじき出される。移動用魔法で安全無害だよ」
 と笑いつつストームが告げる。
「バインドで身動きがとれないから、影の中で動けなくなっているように感じているだけでしたか。ふぅ。ではエンジさんでしたか? いまはどちらに?」
 とカレンが告げると、近くからポンとエンジが飛び出して、素早くマチュアに駆け寄る。
「ただーいまっと。縛り上げて路地裏に捨ててきたよ。幻影投射イマジナリーをゆるくかけてきたから、今頃は幻覚を見て眠っているよ。依頼に成功して、報酬を貰って何処かで豪遊している夢とみた!! それじゃあねー」
 と呟いて、エンジは再び影の中へ。
 そして素早くマチュアはゴーレムと入れ替わった。

「という事だ。そもそも俺もマチュアも人は殺せないよ」
「そうか。酔いが一気に冷めてしまったわい」
「全くだ。飲みなおしといこうか」
「そうですわね。ランディと繋がっている帝国鍛冶工房の人物のあぶり出しも必要ですしね」
「むう。バーベキューが冷めている」
 とマチュアは皿に守られている冷めた肉や野菜をツンツンとつついて呟く。
「一人で食べようと取りすぎですわ。まだお腹が減っているのでしたら、場所を変えて飲み直しまょう」
 ということで、一行は『鋼の煉瓦亭』へと移動し、とりあえず飲みなおしとなった。 


 ○ ○ ○ ○ ○
 

 ガンガンガンガンガンガンガンガン 
 『鋼の煉瓦亭』でしこたま飲んだ翌日は、大体二日酔いになっているストーム。
 深夜に自宅の帰ってきた所までは覚えているが、ウルスやカレン、マチュアがどうなったのかまでは覚えていない。

「あー、またやっちまったかな」
 と懐の財布に手を伸ばす。案の定、袋の中には銀貨が数枚しか入っていない。
 いつも何かあったときのために、懐の財布には金貨5枚分のお金を入れてある。それ以外は別の袋にいれて空間収納チェストに仕舞ってあるので、手持ち以上には飲んだりはしない。

「しっかし、気持ちいいほど飲んだなぁ‥‥」
 上着を脱いで外にある井戸に向かうと、いつものように汗を拭いトレーニングを開始する。  
「早朝から済まない、ストーム殿、ちょっといいかな?」
 すると、街道近くを歩いてきた巡回騎士のスティーヴが、トレーニング後のストームに話しかけてきた。
 ストームもコクコクと頷いて汗を拭うと、まっすぐにスティーヴの近くに向かう。
「どうしました?」
「今朝方なんだが、ストーム殿が『ご禁制の品』を隠し持っているっていう話があってな。通報があった以上は、ちょっと調べさせて貰っていいか?」
「はぁ、構いませんけれど」
 と告げて、ストームは家の中や外の鍛冶場にスティーブを案内する。
 スティーヴも調べてみたが、通報にあったような怪しいものがなかったため、そのままストームに頭を下げた。
「怪しいものはなにもなし。元々おかしいとは思っていたんだよ。しかしなんであんな通報があったのか‥‥」
「何もなかったですよね。一体誰がそんな通報を?」
「無記名の書簡で届いたので、誰が差出人なのかわからないのだよ。まあ、腕のいい職人とかがいやがらせを受けるのはよくあることなので、あまり気にしないほうがいいぞ。それじゃあな」
 スティーヴは再び巡回に戻ったので、ストームもいつもどおりの作業に戻る事にした。
 そして技術認定審査の第二回戦の日を迎えたのである。


 ○ ○ ○ ○ ○


 第一回戦を無事に突破した鍛冶師から6名ずつのチームに別れて、二回戦は開始された。
 組み合わせは厳選な抽選に寄って行われたらしく、今回のストームの対戦相手たちはどれも帝国では有名な鍛冶師達ばかりである。

「何処が厳選だよ。明らかに潰しに来ているじゃねーか」
 というストームの呟きはさておき。
 第一ステージと第二ステージはいきなりデットヒート状態に突入。
 課題がバルチザンという事もあって、皆気合の入ったものを仕上げていったが。
 第三ステージの課題で皆の手が止まる事になった。

「それでは皆さん、第三ステージの課題はクリスナイフです。魔法術式を最低二つ組み込んで仕上げて下さい。術式付与の出来ない方には、術式を付与してある魔晶石を材料としてお渡しします」
 という、とんでもないものであった。
「クリスナイフということは‥‥」
 必要な魔術付与は魔術増幅アンプリフアィアであるが、ストームは司祭や付与魔術師エンチャンターのクラスを持っていないので、武具に対しての魔術付与はできない。
 その為、術式付与の魔晶石を組み込んで、どうにかクリスナイフを仕上げる。
 流石は帝国の凄腕鍛冶師達、この課題を難なくクリアしていったものの、元々のクリスナイフの完成度でストームはどうにか二番手で突破した。
 そこから二日後の第三試合、さらに二日後の第四試合とすべて順調に勝ち進んで、いよいよ本日は決勝である。 
 
「最終ステージに集まった鍛冶師は全部で4名です。この中から、帝国で最高の栄誉を受けることが出来る者はいったい誰か!! それでは始めましょう‥‥」
 と司会が静かに挨拶をする。
「最終ステージは一発勝負、ある課題を出しますので、皆さんはそれがどういうものなのかを考えた上で、作業を開始して下さい‥‥最終課題、それは『ドラゴンスレイヤー』です」
 おおっと。
 その場にいる鍛冶師たちの顔がゆがむ。

 そもそもドラゴンが襲来したのは100年以上も前、休眠期に入っていたドラゴンを怒らせた冒険者によって、王都ラグナに一体のドラゴンが襲来したところから始まった。
 そのときに使われたドラゴンスレイヤーは、『竜殺しの神槍ク・ヴァング』。
 伝説の鉱石と呼ばれているアダマンティンを大量に使用して作られた逸品であり、それと同じものを作るのは不可能と言われている名品である。

「これまた難しい課題を」
「そもそも、どうやってドラゴンスレイヤーを表現すればいいんだ?」
 と頭を抱えている鍛冶師の中で、ここまで偶然勝ち残ってきたランディが、すかさず火炉にインゴットを放り込んだ。
「伝説の名剣といえばミスリルだろう? 魔力伝達の高いミスリルを使った武器こそ、俺の表現するドラゴンスレイヤーだろう」
 と叫びつつ作業を開始するランディ。
 その言葉に触発されて、他の鍛冶師たちも次々と作業を開始した。
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