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第一部・二人の転生者と異世界と

幕間の4・神々の戯れ、再び

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 パルテノス大神殿。

 それは、神々の住まう世界エーリュシオンの中央にある、正神の務める神殿。
 エーリシオンには8柱神と呼ばれている正神以外にも、亜神と呼ばれる大勢の人々が住まう。
 彼らは地上の人間と同じく生を受け、この世界で暮らしている。
 決して自らは人の世に降りる事はなく、必要な場合は地上に【代理人】を定めて信託を授ける。
 最も、一部の亜神はその姿を変え、地上に姿を表すことがあるらしい。

 水無瀬真央みなせ・まお三三矢善さみや・ぜんの肉体が沈んでいる巨大な水槽。
 その傍らに作られている二つの石碑。
 それは二人の『魂の修練』の進行具合を示しており、全部で10個の紋章が刻み込まれている。
 紋章の数が『魂の修練』の数。紋章の司る行動や、感情の成長により紋章は輝きを増す。

 光、闇、太陽、月、大地、炎、風、水、武、愛

 ストームとマチュア、二人の石碑は、同じ紋章や異なる紋章が輝き始めていた。
「ふぅん。マチュアは今のところ『炎、風、闇、武』の紋章に輝きが発生しつつありますね」
 石碑を嬉しそうに眺めつつ、秩序神ミスティがにこやかに告げる。
 その傍らでは、武神セルジオも善の石碑の前でポージングを取っていた。
「いやいや、これを見るがいい。ストームもまた立派なものだ。『光、水、月、武、大地』の5つの紋章が輝きを増しているではないか? しかも『武』に至っては、かなり強い」
 ミスティに負けじと叫ぶセルジオ。
「うん。問題は‥‥太陽にまったく輝きがないといいうことかしら?」
「まあまて、まだこの二人の『魂の修練』は始まったばかり。1000年前の『魂の修練』も、全てが輝くまで大体30年はかかっていたではないか」
 すると、二人のやり取りを見ていた創造神が、その場に居合わせた神々に向かって話しかける。
 そして長い髭を撫でながら、石碑にゆっくりと近づいていく。
「それに見るがいい。他の輝きが強すぎて見えていないだけで、全ての紋章が活性している」
 と一つ一つの紋章を指差すと、創造神は石碑に近寄ってきた残り6人の神々にもそう告げた。

「ミスティの加護があるのに、マチュアの水の紋章の輝きが弱いとは、プーーークスクスっ」
 魔神イェリネックがミスティの方を向くと、口元に手をかざして笑っている。
「ふ、ふん。それを言うのでしたら、ストームだって武神セルジオの加護があるのに武の輝きが‥‥あうあう」
 それはもう、ストームの武の紋章はかなり強く輝いている。
「ムンッ」

――ムキムキィッ
 と武神セルジオは両腕を体の前に回し、全身に力を込める。
 最も強く雄々しいモスト・マスキュラーポーズをミスティに見せた。
「二人は冒険者ゆえ、武の加護があるのは当然。人によって正義の幅は違うので、クルーラーの加護も届いていると思うが」
 セルジオはその場に居合わせた神々にそう告げた。
「してイェリネックよ、眷属に命じて色々と動いていたようだが」
 と創造神がイェリネックに問い掛ける。
「ええ。それもまた神々の与えし試練ですわ。直接的関与ではありませんので、構わないとは思いましたけれど」
 と悪びれる様子もなく呟くイェリネック。
「それは一向に構わない」

「「「「「「「 えぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」」」 
 
 とイェリネック以外の7人の神が同時に叫ぶ。
「何を驚いておる? イェリネックの眷属によって齎された試練は、『武と水と闇』に繋がる。二人の試練の妨害ではなく、その行動が修練と結びつくのであれば、私は止はしないが」
 と告げる創造神に対して、イェリネック以外の一同はしばし考える。
「我々神は直接言葉を告げることは出来ないが、眷属や代理人を通じては可能である」
「だが、直接的な試験や加護を与えることは出来ず、全ては自然の摂理に従う」
 クルーラーとセルジオが、腕を組んで頷きつつ告げる。
「左様。我々はここで、全ての成り行きを見守ることしか出来ない‥‥」
 しばし神々は考える。
 二人に対して、どのようなアプローチがもっとも修練に結びつくか。
 太陽と月、この二つの紋章は創造神の干渉によるが、それ以外は、8柱の神それぞれの加護がある。
 だが、其々が対であり対極、うまくパランスを取らないと輝きは失ってしまう。
 二人が今後、どのように生きていくかによって、失われたり輝きを増す紋章が発生する。
 イェリネック以外は、その重要性を知っているからこそ、自身の眷属や代行者に指示を飛ばしては居なかった。が、彼女は違った。
 積極的に手駒を動かし、全ての紋章に僅かながら輝きを生み出させたのである。
 が。それもここまで。
 全てが輝き始めた現在、ここからの調節が難しくなる。
「さて、私は別の世界に向かう。そこでもまた、新しい『魂の修練』が始まったのでな。またいずれ顔は出す‥‥」
 と告げると、創造神は神殿の外へと向かう。
 残った8柱神は、その場に跪いて頭を下げた。
 

 ○ ○ ○ ○ ○ 


 魔神イェリネックの住まう神殿。
 そこに夢魔・カーマインが姿を表したのは、その日の夕刻であった。
「あら、カーマイン。何かあったのかしら?」
「イェリネック様にはご機嫌麗しく。浮遊大陸に封じられている『魔族』が活動期を迎えます」
 ピクッ、と眉を動かすイェリネック。
「あれが動くと厄介なのよねぇ‥‥」
 と呟いていると、神殿の外から二人の魔神がやってくる。

 黒い翼に竜の鱗を持つ魔神・ゲゼルシャフト
 白い翼に輝く衣を纏った魔神・エクリプス

 その二人がイェリネックの元にやってくると、開口一発。
「ティルナノーグの封印が解けるが、あれはどうする?」
「ああ、確か封印したのは、1000年前の転生者である、えーーっと」
 エクリプスとゲゼルシャフトがそう呟くと。
「転生者アレキサンドラでしょ。未だに自身の世界に帰らずに、この世界を飄々としている転生者」
 イェリネックが、やれやれという表情で告げる。
「そうそう。アレキサンドラの施した封印が、そろそろ解ける。忌まわしき浮遊大陸が人の目の前に姿を表すかもしれぬが」
「あれは、私達神が手を出していい代物ではないでしょう? あれもまた、世界の中の自然の一つ。魔族のすまう地『浮遊大陸ティルナノーグ』に対しては、放置するしかないじゃない」
 と言い捨てるイェリネック。
「となると、あれの処理もいまの転生者の二人に託すしかないか‥‥」
 腕を組み、唸るように告げるゲゼルシャフト。
「それにしても、アレキサンドラはまだ生きていたのか。彼奴はいつ自分の世界に戻るんだ?」
「さあねぇ。そのうち飽きたら戻るのでしよ?」
 エクリプスの問に、イェリネックがやれやれといったジェスチャーをしながら呟いた。

 1000年前の転生者であるアレキサンドラ。
 『魂の修練』を全て終えたのち、彼女は自分のいた世界に戻らないという選択肢を選び、いまでもこの世界を旅しているらしい。 
 代償として、永遠に老いのない肉体を『時と空間を司る神・天狼』より授けられた。
 その存在は、今では吟遊詩人の紡ぐ物語りの中か、もしくは不老であるロリエット氏族しか知る者はいないという。

「世界の魔族と竜族の管轄は、私達魔神の仕事。人やエルフといった亜人の管轄はミスティとクルーラー、セルジオの役割」
「そしてこの星の時と空間は天狼、精霊などの幻想種は精霊王アウレオースの役割」
「二人の言う通り。私たちは私達の仕事をするだけ。カーマイン、引き続きティルナノーグの監視をお願いね」
「イェリネック様の仰せのままに」
 と頭を告げて、カーマインはスッと姿を消した。
 そしてゲゼルシャフトとエクリプスもまた、自分の神殿へと戻っていく。
 それぞれが、自身の眷属に連絡を取るために。
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