異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第一部・二人の転生者と異世界と

ラグナ動乱・その2・騎士団になったそうです

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 パパーーーバララパパパーー

 高らかにラッパの音が鳴り響く。
 ストームとマチュア、ウォルフラム、アンジェラの4名は静かに膝を付き、正面に座っていてる人物をじっと見つめた。
 荘厳な室内。
 謁見の間の奥にある玉座に鎮座している人物こそ、ラグナ・マリア帝国皇帝のレックス・ラグナ・マリアである。
 その玉座の左右には、鮮やかな色どりのローブを身にまとった人物が二人ずつ待機している。

「では、これよりベルガー家・幻影騎士団の任命式を執り行う!!」
 玉座の斜め正面に立っていた、白銀の衣服を身に纏った女性騎士が、手にした書状を静かに読み上げた。

(シルヴィーに図られた‥‥)
(ありゃあ、これは予想外だぁねぇ)
(ま、ま、ま、まさか皇帝陛下の玉座でこんなことになるとは)
(ガクガクブルブルガクブルガクブル‥‥)
 
 マチュアとストームたち四人とも、そう思っているようである。
 さて、どうしてこんな事になっているのかというと‥‥‥。


 ○ ○ ○ ○ ○


 マチュアたちがベルガー邸に宿泊した翌日。

 早朝から、マチュアとウォルフラム、アンジェラの3名は仕込みと仕入れに大忙しであった。
 今日も正午から楽しい露店の始まりである。
 ちなみに昨日の売上は620000クルーラ、金貨でざっと62枚。
 620食の売上を出したのである おかげて寸胴に仕込んでおいたカレーの在庫は残り1つ。
 タンドリーチキンも焼いて置いたものは既になく、タレにつけておいたものが少々残っているだけである。
 普通に仕込んでも、正午までは数が作れないということで、本日は苦肉の作に出る。

「本日、フルーツクレープの日です」

 仕込みの準備をしていたウォルフラムとアンジェラに、マチュアはそう話し始めた。
「はぁ。それはそれは‥‥」
「具体的には、どうすればいいのですか?」
 と問い掛ける二人に対して、マチュアはまずクレープを一人前焼いて見せる。
 作り方は、昨日露店でシルヴィー達に焼いてあげたものと全く同じで。
 結果として、これなら短時間でなんとかなるという結論に達した3人は、時間一杯まで生クリームと生地、そして焼いた果物を大量に仕上げることになった。
 もっとも、クレープ生地を焼くのはアンジェラが試作で器用にやって見せたのでアンジェラが担当。
    ウォルフラムは果物を切って、生クリームを泡立てる役目となった。
 マチュアは果物を焼いて味を調える作業に没頭。
 ちなみにストームはというと、この日は朝から鍛冶場に篭ってマチュアに頼まれた包丁セットを仕上げる予定であるらしく、朝からどこかに出かけている。
 正午までには、昨日頼んでいた包丁が全て仕上がる。
 あとはそれを昼に渡して、ストームは街の見物と洒落込むことにしたようだ。

‥‥‥
‥‥


「大武道大会は明日からか。会場はあそこの闘技場と‥‥」
 ストームは大会の会場である闘技場に向かっていた。その後ろには、ストーム付きの侍女であるシャーリィも付き従っている。
「シャーリィ、別にずっとついてくる必要は無いんだが」
「いえいえ。シルヴィー様に言われておりますので」
 どれだけ付いて来なくてもいいと説明しても、全く駄目。
 ただ、鍛冶場とかストームの仕事場については入り込むようなことはしない。
 そのへんは心得ているらしく、部屋の外で待機していたのである。 

 マチュアの露店から30分ほど歩いたところに、巨大な闘技場はあった。
 地球で言うところのフラウィウス円形闘技場、またの名をコロッセオ。その円形競技場のような形をしているが、その大きさは実に1.5倍以上。施されている彫刻の豪華さから、この国がどれぐらい裕福なのか見て取れるようである。

「ストーム様。こちらが闘技場の受付です。明日からの大会参加者は、ここで受付を行い、城内の控室へと通されます‥‥」
 詳しい説明をするシャーリィ。
「随分と詳しいな‥‥っておい!!」
 ストームの横で、大会についての詳細の記された羊皮紙をじっと見ているシャーリィ。

――ギリギリギリギリ
「そういうのは、先に俺に見せるんじゃないのか?」
  素早くシャーリィの右腕をつかみ、アームロックを仕掛ける。 
「い、痛いですストームさまぁぁぁ」
 無意識なのか、残った腕でストームの体を2回叩いたのでアームロックを解く。
「侍女なら、そういうのは先に‥‥まあいいか」
「では、ストーム様は私を侍女として認めてくれたのですね?」
 瞳をキラキラさせながら、シャーリィがそう話しかけてくるがストームは無視。
 ということで受付まで歩いて行くストーム達。
「お疲れ様です。明日の大会の参加選手の方ですよね。登録確認を行いますので、冒険者ギルドカードの提示をお願いします」
 と、受付のエルフ嬢がストームに話しかける。
「ギルドカードね。ほれ」

――ヴゥゥゥゥン
 銀色のギルドカードを実体化して、受付嬢に手渡す。
 そけを受け取った受付は、一瞬だけカードとストームを交互に見て、ウンウンと何かうなずいて確認を終えていた。

「はい、確認完了しました。このままお通り頂いても問題ありませんので、なお、当日は登録選手以外に一人だけ従者を連れて行くことが許されています。大会中の怪我を癒やすための治療術士ヒーラーでもいいですし、壊れた武具を治す鍛冶師でも構いませんので」
 と一通りの説明を受けると、ストームは早速会場の中に入っていく。

 中央の階段を降りた先にある細く長い通路。
 その左右にある横道が、選手の控室となっているのであろう。
「ストーム様、明日の付き添いは私で宜しいのですか?」
 と問い掛けるシャーリィ。
「何故だ?」
「私は戦いに関しては何も出来ない侍女です。そんな私を連れて行くよりは、治療術士を雇って連れて行ったほうが宜しいかと思われますが」
 と下を向いているシャーリィ。
「まあ、別にシャーリィにそういうのは期待していない」
「そうですよね。私は中途半端ですから‥‥」
 そのシャーリィの言葉の真意が判らなかったが、とりあえずストームは真っ直ぐに会場へと入っていった。
 
 やや楕円形の闘技場中央。
 直径は大体150m、その全周に高さ3mの壁が作られている。
 その壁の上の方には、鷹さ50m以上にも連なる、階段状になっている客席がある。
 闘技場の中は、足元は踏み固められた固い土。
 ガッガッとそこにつま先を立てて、地面の硬さを確認するストーム。
「踏み込みには問題はなし。さて、明日はどのスタイルでいくか‥‥」
 そんな事を考えていた時。

――ヒュウンッ
 突然、ナイフが一本、ストームに向かって飛んでくる。
 それを素早く躱すと、ストームはナイフが飛んできた方向にいる少年を睨みつける。

「試合前にそういう事は、フェアじゃないと思うが?」
 よく見ると、その方向には数人の人物がいる。
 どうやら明日からの大会参加者らしく、どうやら下見に来たときに鉢合わせたのであろう。それぞれがお互いを警戒しているようだ。
「あ、すいません。ちょっと手元が狂ったもので」
 と、ストームに向かってニィッと笑う少年。
「そうか、それは済まなかったな」
 と呟きつつ、落ちているナイフを拾う。

(部分換装『ムルキベルの篭手』っ)

 『換装』‥‥これもストームが詳しく調べたコマンドの使い方の一つである。
 発動は思考のみで行えるのは、以前から理解している。
 なのでこれは応用技らしい。
 『換装』のコマンドは、瞬時に装備を装着したり外したりすることができる。
 今回は腕に、『ムルギベルの篭手』を装備した。
「あー、すいません。それミスリルのナイフなんですよ。試合に使うので、返してもらっていてですか?」
 と少年が告げるので、ひょいと拾うと、それを手にしたまま少年の元へと歩み寄る。

(ふん。『ムルギベルの篭手』よ、ヒート開始)

 そのコマンドで、ムルギベルの篭手は火炉と同じように発熱を開始した。
「大切な装備を投げるのは感心しないなぁ」

――モミモミッ
 と、歩きながらミスリルのナイフを揉んで柔らかくし、球体に丸めていく。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ、あんたそれは一体‥‥」
 と少年が叫んでいるが時遅し。

(部分換装。両手の篭手を解除)

 瞬時に篭手を消して、ミスリルの球を少年に手渡す。
「はい、今度はなくすなよ」

――ジュゥゥゥゥゥゥッ
 咄嗟に手を引いて酷い火傷はま逃れた模様。
 ドン、とミスリル球が床に落ちる。
「あっつぃぃぃぃぃぃ。お、俺のナイフは?」
「それ。その球がナ・イ・フ。それじゃあな‥‥」
 と告げて入ってきた入り口に向かう。
 その光景を、会場にいた参加者たちがじっと見つめていた。
 
「彼が今回の挑戦者の中でもダークホースと呼ばれているストームか。以前あったことがあるんだけれど、奴の実力はまさに未知数だな‥‥」
 と、観客席からシャーリィに向かって話しかける、筋骨隆々のエルフが一人。
「あ、貴方は?」
 咄嗟に後ろを振り向くシャーリィ。
「私か。私の名はライ。西の大陸のディーン森林に住むエルフだ。では」
 と告げて、ライはその場から立ち去る。
 何、知っていたのかライ・ディーン。
 手にしていた『明〇書房発行』の大辞典のようなものを閉じて、スッとその場から立ち去っていった。
 ライと入れ替わりにストームは戻ってくるが、その表情は何処か楽しそうであった。
「ストーム様。何か良いことでもあったのですか?」
 と問い掛けるシャーリィに、ストームは静かに一言。
「対戦ものは好きじゃなかったんだけどなぁ‥‥」
 

 ○ ○ ○ ○ ○


 死屍累々。
 マチュアの露店を一言で表すと、まさにそれ。
 先日の香辛料を効かせたタンドリーチキンもカレーもない状況から、本日は一転して甘いスウィーツで勝負を仕掛けたのである。
 そのためか、前日よりも来店するお客は減っているが、値段が安いことから本日も大盛況である。
 作り置きした材料を次々と中袋から取り出し、それをウォルフラムとアンジェラの作業台に広げる。
 二人はそのまま注文を受けて、フルーツクレープを仕上げていく。
 材料などの加工は全て終わっているので、あとはクレープに具材を載せて丸めるだけの簡単なお仕事である。
 そして売り子は、先日と同じシルヴィーと、シルヴィー付侍女長の『エマ』の二人である。

「な、何故、妾まで売り子など‥‥」
「休んでもいいですよ。私は明日からの大武道大会参加しないで、此処で露店開いてても構わないので」
「ぐぬぬ。止むを得んのぢゃ。いらっしゃいませなのじゃ。ご注文をお聞きするの‥‥のぉぉぉぉ」
 と、シルヴィーが素っ頓狂な声を揚げた。

 彼女の前に立って入るのは、純白のローブを着たパルテノと、蒼いローブをまとったケルビム老。そして白銀の鎧を身につけたブリュンヒルデの三名。
 もっとも、マチュアの知っているのはパルテノのみ。あとの二人はどちら様というところだろうが、マチュアは仕込みで大忙しなので、こっちで何が起こっているのかは、まったく気がついていない。

「‥‥客だ。フルーツクレープを10人前頼むぞ」
 ブリュンヒルデがシルヴィーに話しかける。
 よく見ると、パルテノ達の後ろには、王国近衛騎士達まで護衛についている。
「は、はいなのじゃ。アンジェとウォル、急ぎ10人前ぢゃ。固まっていないで取っとと作るのぢゃ」
 五大王家の王が三人も、露店に買い食いにやってきているのである。
 それだけで二人の思考は停止している。
「はっ、只今!!」
「しょ、しょ、少々お待ちくださいっ!!」
 慌てて10人前のクレープを仕上げると、シルヴィーはそれをブリュンヒルデ達に差し出す。
「お代は?」
「そうぢゃな。10人前なので銀貨8枚ぢゃ。なんなら、妾の騎士達に帝国近衛騎士と同等の権利をくれても構わぬぞ」
 と、悪戯っ子のように告げるシルヴィー。
「了承した、我等五大王家の三王が承認する。夕刻の鐘ののち、騎士団を伴って王城へ来たれ」
 とケルビム老がシルヴィーに告げて、その場から立ち去ってしまった。
 この言葉に、シルヴィーは一言。
「上手くはぐらかされて、食い逃げされてしまった」
 と呟くが、後ろの作業台のウォルとアンジェは凍りついている模様。
 なお、マチュアはというと。
「うーむ。明日はやはりこっちでいくか。これだよなぁ」
 と、揚げたてのノッキングバードの唐揚げを食べている。

 大きめの一口大に切ったノッキングバードをボールに入れて、そこに醤油と酒を3対7。
 生姜とニンニクのすりおろしを少々、粗挽きの胡椒と搾りたてのオレンジジュースを少し加えて、半日寝かせる。あとは片栗粉をまぶして揚げるだけ。

「よし、明日はこのザンギ串と、あれだょなぁ~で、なんかあったの?」
 と、様子のおかしい二人を見る。
「うむ、王国の偉いのに食い逃げされた。夕方の鐘が鳴ったら王城にこいと」
 腕を組んでそう告げるシルヴィー。

――スパァァァァァン
 と、向かいの露店で売っていたハリセンの形をしたマジックアイテム『突っ込みハリセン』で、シルヴィーの後頭部を痛打。ツッコミ用なので、痛みはさほどしかない。
「一見さんにツケで物を売ったらダメでしょーが。ほら、アンジェもウォルも、まだお客さんが並んでいるのだから働いて頂戴」
 と漸く落ち着いた二人が、先ほどの話など無かったかのようにクレープを作り始めた。


 ○ ○ ○ ○ ○


「で、この後はどうするんだ?」
 闘技所から戻ってきたストームが、明日の販売商品である『ザンギ串』と『揚げじゃが』を食べながらマチュアに問いかけていた。

 この世界のジャガイモは少し甘いがホクホク感が足りない。
 まあ、それはそれ、これはこれということで妥協したらしい。
 皮を剥き軽く下茹でして冷ましたジャガイモに、小麦粉とタマゴ・砂糖を加えて作った衣を付けて、表面がこんがりきつね色にあるように上げる。
 揚げたてのジャガイモを手作りの串に刺すと『揚げじゃが』の出来上がりである。

 まもなく夕方の6時。
 教会の鐘の鳴る時間である。
 既に、本日分のクレープは完売している。
 なので、今は明日の仕込みとザンギ串・揚げじゃがの試食である。

「ホフッホフッ。この後は王城へ向かうのぢゃ」
「そ。集金だ。王家の人たちにツケでクレープ食べられたから、その代金を回収しにいく」
「ほう。それは面白そうだな。俺もいっていいか?」
 というストームの言葉に
「新しい騎士団全員でこいとの話ぢゃ。ウォルとアンジェも一緒ぢゃ」
 とシルヴィーが楽しそうに告げる。
「あの、シルヴィー様。代金の代わりに、あの‥‥」
「そうですよ。代金の代わりのものを受け取りに行くって‥‥」
 ポン、と手を叩いてシルヴィーが頷く。
「そうぢゃった。ということで、片付けたら行くぞ」
 というシルヴィーの言葉で、一行は後片付けを行い、そのまま王城へと向かっていった。 

 王城の跳ね橋の手前では、真紅のマントを纏った王宮近衛騎士団が待機していた。
「シルヴィー殿ですね。こちらへどうぞ」
 と一人の騎士が、シルヴィー達を見るや駆け寄ってきた。
 そして後ろについてくるように告げた後、一行を謁見の間へと案内する。
 そして冒頭のような状況になっていたのである。

………
……


「告、ストーム、マチュア、ウォルフラム、アンジェラの4名は、本日付でシルヴィー・ベルナー、旧名シルヴィー・ラグナ・マリア・ベルナー付きの王宮近衛騎士として任命する。所属する騎士団はベルナー家直属、幻影騎士団ザ・ファントムとなる‥‥」
 白銀の聖衣ミスリルガーブを纏ったブリュンヒルデが、室内に響くように告げる。

「4名とも、表を上げてくれ」
 すると、レックス皇帝が静かにマチュアたちに話しかけた。
 その場には、五大王家の王全てが集まっている。
「いまこの時より、貴殿らを幻影騎士団ザ・ファントムに任命する。爵位は騎士位を授け、士爵を名乗ることを許す。ただし、主であるシルヴィー公爵の命により動く事あらば、その時は法衣貴族として『伯爵』と同等の権限を持つものとする。以上だ!!」

 その皇帝の言葉には、五名の諸王を始め、その場にいる騎士団全てが動揺する。
 有事の際には、皇帝直属と同等の権限を『幻影騎士団』は有してしまった。

「こ、皇帝陛下。いくらなんでもその権限は‥‥」
 とケルビム老が問い掛ける。
 が、レックスはさっと手を挙げるだけで制してしまった。
 そしてストームたちに向き直すと、レックスはゆっくりと口を開く。
「幻影騎士団の騎士よ。シルヴィーの事を大切に守ってあげて欲しい。我は、シルヴィーを守ってやることができなかったのだから‥‥」

 レックスは、優しい表情でマチュアたちにそう告げた。
 その言葉の真意がなんであるのか、マチュアたちにはわからない。
 ただ、レックス皇帝はシルヴィーを守りたいらしく、マチュアたちにそのような権限を与えたのだろう。
 そして傍らに控えていた騎士が、マチュアたちに純白のマントを手渡す。
 マントには、ラグナ・マリア帝国の国章と旧ベルナー王国の国章、この二つが金糸と銀糸によってあしらわれている。

「では、これにて幻影騎士団の設立および諸侯の士爵叙名を終える。以上だ!!」

――ザッ!!
 皇帝以外の、全ての騎士達が剣を翳す。
 そしてマチュアたちは、ゆっくりと退席することとなった。


 ○ ○ ○ ○ ○


 さて。
 全てが終わったのち、一行はシルヴィーの屋敷へと移動した。

「あ、あの‥‥シルヴィー様。私たちはその、宿を取ってありますので」
「そうですわ。私も教会の宿に向かわないと」
 と告げるウォルフラムとアンジェラ。
「そうじゃな。エマ、あとで二人を送ってあげてくれぬか? 」
「仰せのままに」
 と静かに頭を下げるエマ。
「さて、スコット。実はな‥‥」
 と、ここまでの顛末を、騎士団長のスコットに説明するシルヴィー。
 どうやらスコットも今回の件については喜ばしかったらしく、髭を撫でながらニコニコとしている。
「ほうほう、それは実に喜ばしいことですな。よかったですねシルヴィー様」
「まあ、こっちはしてやったりというかしてやられた感じだが」
 とストームが魂の護符プレートを取り出す。
 それは金色に輝き、点滅している。
「おお、魂の質が変化しておる。妾と同じ金色ぢゃ」
 シルヴィーもよほど嬉しかったのか、『金色のプレート』を取り出して見せる。
 だが、それは点滅していない。
 そして、その点滅はストームにしか見えていないようだった。
「ほほーう。これが、金色ですねぇ」
 マチュアもそれを取り出して、じっと眺めている

――チカッ‥‥チカッ‥‥
 と、マチュアの【魂の護符(プレート)】も点滅していた。

(ははーん。これが『魂の修練』の合図ですか、なるほどなるほど‥‥)

 と納得してプレートを仕舞う。
「あ、以前も話したと思うが、ここの仕事が終わったら俺はサムソンに戻るからな」
「うむ。それは約束だから仕方ないのぢゃ。サムソンからベルナー首都まではそれほど離れていないから、また何時でも会いに行くのぢゃ」 
 と呟くシルヴィー。
「あ」
 ポン、と手をたたくマチュア。
「ん? なにかあったのか?」
「いや、ちょっと色々と。ストーム、あとで打ち合わせしないか?」
 その言葉に頭を捻るストーム。
 どうやら、色々とお互いにすり合わせしないといけないようである。    
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