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第21卦・緋風妃の悩みと、侍女たちの思惑
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緋風妃が後宮に入内して、間もなくひと月。
当初は陽匈の姫様の入内ということで、緊張した空気が漂っていたものの、ここ最近はそのようなそぶりもあまり見えなくなっている。
正確には、後宮勤めの侍女や宮官たちは、賢妃・緋風妃の住まう青鸞宮にはよほどのことが無い限り近寄ることが無くなっていた。
相変わらず侍女たちは陽匈の言葉しか話さず、他の宮に住む妃妾たちを鼻で笑っている節もある。
そのような苦情が日々、東廠宮にも届けられていたり、白梅の相談所にも苦情の申し入れが行われていたりすしている。
もっとも、白梅の元に届けられた苦情や相談は全て、東廠長たる洪氏の元に届けられるので、あとは彼らに一任して白梅はいつも通り相談所で執務に励んでいたのであるが。
『……』
「……」
とある日の午後。
賢妃・緋風妃が侍女を伴って相談所を訪れた。
室内に入って来た緋風妃たちは、相談所に勤めている官吏が予想以上の麗人であったこと、そして他の侍女や宮官とは異なり、にっこりとほほ笑んで迎え入れてくれたことに驚いて言葉を失っている。
片や白梅はというと、ここ最近の問題児である緋風妃が直接乗り込んでくるとは思ってもおらず、どのような用事なのか出方を伺っていた。
『おい、貴様がこの後宮の相談役なんだろう? 緋風妃が困っているんだ、力を貸せ!!』
『男だか女だかしらないけれど、こんな弱っちい奴が相談役とは、後宮というのは本当に人材が足りないんだなぁ。ここは無能の集団の寄り合い所か?』
『ああ、どうせそんなところだろうさ。どうして我が君が、こんな玉無しばかりの国に従ったのか理解できないねぇ……』
陽匈の言葉であざけわらう侍女たち。
そして緋風妃も、そんな彼女らを諫めるどころか、口元を翳という団扇で隠しつつ、ほくそ笑んでいる。
なお、彼女たちが相談所を訪れた時点で、白梅は深く調息を行い、室内に仙気を滞留させている。つまり、侍女たちの言葉は白梅には全て理解できている。
「さてと。そこの侍女3人、お前たちは主上たの劉皇帝の国を玉無し呼ばわりし、後宮自体を馬鹿にした。ということで東廠長たる洪氏さまに、このことは報告させてもらう。最低でも鞭打ちは覚悟しておけ。そして賢妃・緋風妃、侍女の無礼を何故、嗜めようとしないのですか? あなたには彼女たちを監督する責任があるはずですが」
淡々と呟く白梅。
そしてその言葉の意味が正しく伝わったのか、侍女たちは狼狽し緋風妃に助けを乞うような顔つきになる。
自分たちの言葉を理解できているはずがないと思っていた矢先、陽匈の言葉で返事が返って来たのである。
これには緋風妃も目を丸くしているが、頭を下げるような仕草はない。
『別に、貴方が宦官であり、我が侍女たちにも劣るということについては間違いではありません。つまり、私どもは真実を述べたにすぎず。ただ、この国を玉無しの国と告げたことについては、謝罪させましょう』
その言葉の直後、侍女たちは渋々ながら白梅に頭を下げる。
その姿がいかにも面倒臭そうに見えたので、白梅はため息をつくしかなかったが。
「はぁ。それで、今日はどのような御用でしょうか?」
『吾が君である緋風妃の待遇を改善していただきたく、相談に参った次第』
『そもそも、我ら陽匈の民にとって、帯剣を認められていないのは裸当然。そのような状況では、緋風妃を守ることもできません』
『それに食事についても、多少は改善されているとは思いますが量が足りない。それに、自分たちで狩ってきた食料でなくては、いつ、毒を盛られるか分かったものではない』
次々と不平不満をぶちまけていく侍女たちだが、緋風妃はまるで興味がないようにそっぽを向き、大きなあくびをしている。
全て侍女たちに任せ、自身は高みの見物を楽しんでいるようにも白梅には見て取れた。
だからこそ、白梅も彼女たちのやり方で返事を返すことにした。
「まず最初に伝えておく。ここは相談所であり待遇改善を求める場所ではない。そのようなことは、直接、東廠に申し出た方がいいとは考えなかったのか?」
『考えましたよ。それで結論に達したということです。貴様はこの後宮に勤めている宮官ではない。東廠に所属している侍女の一人でしかないってね』
『でも、東廠務めの管理の中でも、数少ない東廠長に意見できるものであるとも聞いている。つまり、あんたを私たちの手駒にすれば、後宮でも好き勝手出来るっていう算段だよ』
突然、侍女たちの態度が豹変し、言葉遣いが荒くなる。
「それで、私を手駒にするといっても、どうすればいいのか教えて貰えるかな?」
『力で従わせるさ。それが陽匈のやり方だ。強き者が弱者を支配する、それが決まりなのでね。だから、私たちはあんたを力ずくで従わせてみせる。まさか私と彼女が、陽匈の仙人長だったところまでは調べていなかったようだからさ……ということで、どうする?』
ゴキゴキッと拳を鳴らす侍女二人。
だが、今の説明を聞いて、白梅も口元を釣り上げてニイッと笑った。
「いいね、実にいい。まさかここで素手でやり合える相手に会えるとは思っていなかったからさ。じっちゃんの言う通り、脳みそまで筋肉で作られていそうな戦闘狂は、この後宮にはいなかったからさ。私も久しぶりに全力で戦える相手と会えるなんて思っていなかったよ……それじゃあ、やろうか?」
椅子から立ちあがり、白梅は拳を握って半身に構える。
その姿に、さっきまで白梅を侮っていた侍女たちも表情が引き締まると、一人が机を挟んで白梅と相対時する。
残りの二人は緋風妃に被害が及ばないように、部屋の隅に椅子ごと移動し、戦いのなりゆきを黙って見ていることにした。
当初は陽匈の姫様の入内ということで、緊張した空気が漂っていたものの、ここ最近はそのようなそぶりもあまり見えなくなっている。
正確には、後宮勤めの侍女や宮官たちは、賢妃・緋風妃の住まう青鸞宮にはよほどのことが無い限り近寄ることが無くなっていた。
相変わらず侍女たちは陽匈の言葉しか話さず、他の宮に住む妃妾たちを鼻で笑っている節もある。
そのような苦情が日々、東廠宮にも届けられていたり、白梅の相談所にも苦情の申し入れが行われていたりすしている。
もっとも、白梅の元に届けられた苦情や相談は全て、東廠長たる洪氏の元に届けられるので、あとは彼らに一任して白梅はいつも通り相談所で執務に励んでいたのであるが。
『……』
「……」
とある日の午後。
賢妃・緋風妃が侍女を伴って相談所を訪れた。
室内に入って来た緋風妃たちは、相談所に勤めている官吏が予想以上の麗人であったこと、そして他の侍女や宮官とは異なり、にっこりとほほ笑んで迎え入れてくれたことに驚いて言葉を失っている。
片や白梅はというと、ここ最近の問題児である緋風妃が直接乗り込んでくるとは思ってもおらず、どのような用事なのか出方を伺っていた。
『おい、貴様がこの後宮の相談役なんだろう? 緋風妃が困っているんだ、力を貸せ!!』
『男だか女だかしらないけれど、こんな弱っちい奴が相談役とは、後宮というのは本当に人材が足りないんだなぁ。ここは無能の集団の寄り合い所か?』
『ああ、どうせそんなところだろうさ。どうして我が君が、こんな玉無しばかりの国に従ったのか理解できないねぇ……』
陽匈の言葉であざけわらう侍女たち。
そして緋風妃も、そんな彼女らを諫めるどころか、口元を翳という団扇で隠しつつ、ほくそ笑んでいる。
なお、彼女たちが相談所を訪れた時点で、白梅は深く調息を行い、室内に仙気を滞留させている。つまり、侍女たちの言葉は白梅には全て理解できている。
「さてと。そこの侍女3人、お前たちは主上たの劉皇帝の国を玉無し呼ばわりし、後宮自体を馬鹿にした。ということで東廠長たる洪氏さまに、このことは報告させてもらう。最低でも鞭打ちは覚悟しておけ。そして賢妃・緋風妃、侍女の無礼を何故、嗜めようとしないのですか? あなたには彼女たちを監督する責任があるはずですが」
淡々と呟く白梅。
そしてその言葉の意味が正しく伝わったのか、侍女たちは狼狽し緋風妃に助けを乞うような顔つきになる。
自分たちの言葉を理解できているはずがないと思っていた矢先、陽匈の言葉で返事が返って来たのである。
これには緋風妃も目を丸くしているが、頭を下げるような仕草はない。
『別に、貴方が宦官であり、我が侍女たちにも劣るということについては間違いではありません。つまり、私どもは真実を述べたにすぎず。ただ、この国を玉無しの国と告げたことについては、謝罪させましょう』
その言葉の直後、侍女たちは渋々ながら白梅に頭を下げる。
その姿がいかにも面倒臭そうに見えたので、白梅はため息をつくしかなかったが。
「はぁ。それで、今日はどのような御用でしょうか?」
『吾が君である緋風妃の待遇を改善していただきたく、相談に参った次第』
『そもそも、我ら陽匈の民にとって、帯剣を認められていないのは裸当然。そのような状況では、緋風妃を守ることもできません』
『それに食事についても、多少は改善されているとは思いますが量が足りない。それに、自分たちで狩ってきた食料でなくては、いつ、毒を盛られるか分かったものではない』
次々と不平不満をぶちまけていく侍女たちだが、緋風妃はまるで興味がないようにそっぽを向き、大きなあくびをしている。
全て侍女たちに任せ、自身は高みの見物を楽しんでいるようにも白梅には見て取れた。
だからこそ、白梅も彼女たちのやり方で返事を返すことにした。
「まず最初に伝えておく。ここは相談所であり待遇改善を求める場所ではない。そのようなことは、直接、東廠に申し出た方がいいとは考えなかったのか?」
『考えましたよ。それで結論に達したということです。貴様はこの後宮に勤めている宮官ではない。東廠に所属している侍女の一人でしかないってね』
『でも、東廠務めの管理の中でも、数少ない東廠長に意見できるものであるとも聞いている。つまり、あんたを私たちの手駒にすれば、後宮でも好き勝手出来るっていう算段だよ』
突然、侍女たちの態度が豹変し、言葉遣いが荒くなる。
「それで、私を手駒にするといっても、どうすればいいのか教えて貰えるかな?」
『力で従わせるさ。それが陽匈のやり方だ。強き者が弱者を支配する、それが決まりなのでね。だから、私たちはあんたを力ずくで従わせてみせる。まさか私と彼女が、陽匈の仙人長だったところまでは調べていなかったようだからさ……ということで、どうする?』
ゴキゴキッと拳を鳴らす侍女二人。
だが、今の説明を聞いて、白梅も口元を釣り上げてニイッと笑った。
「いいね、実にいい。まさかここで素手でやり合える相手に会えるとは思っていなかったからさ。じっちゃんの言う通り、脳みそまで筋肉で作られていそうな戦闘狂は、この後宮にはいなかったからさ。私も久しぶりに全力で戦える相手と会えるなんて思っていなかったよ……それじゃあ、やろうか?」
椅子から立ちあがり、白梅は拳を握って半身に構える。
その姿に、さっきまで白梅を侮っていた侍女たちも表情が引き締まると、一人が机を挟んで白梅と相対時する。
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