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第8章・海洋国家と妖精王

第327話・大商会がやって来た、そして露店を追い出されましたが。

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 早朝。

 いつものように、ペルソナさんが配達にやってきました。
 うん、今日はアルルカンさんではなくペルソナさんです、ホッとしてしまうのはなんとなくご理解ください。
 私たちも宿の前で待機していましたので、ペルソナさんが私たちを見つけて目の前までやってきました。そして宿の中で私たちの動向を伺っていた冒険者たちが一人、また一人と宿から外に出ていきましたが。
 はて、商人が交渉目的で待っているのなら理解できるのですけれど、どうして冒険者さんたちが待っていたのでしょうか?

「ん~、あれはきっと、クリスっちの露店の邪魔をするために集まっていたと思うし。仕入れの邪魔をして、露店が開けなくなるようにしたかったと思うし?」
「そうですわね。柚月さんの仰る通りかと。あの冒険者たちが小声で相談していたのをしっかりと聞いていましたから」
「そうなのですか!!」

 うわぁ、この極限状態の町で、どうして露店の邪魔をしようと考えているのかわかりませんね。
 そもそも、そんなことをしてメリットがあるのかどうかすら、私には理解できません。

「さて、なにやら不穏な会話が聞こえてきましたが。まずは納品を終らせることにしましょう。ノワールさん、手伝って貰えますか?」
「はい、畏まりました」

 馬車から降りて来たペルソナさんがノワールさんと一緒に馬車から商品を下ろしています。
 それを私と柚月さん二人がかりで検品し、アイテムボックスに収納。
 ふと気が付くと、馬車の近くにはこの町の商人さんたちも集まってきていますが申し訳ありません、そちらに販売する余裕はないのですよ。
 そんなこんなですべての商品をアイテムボックスに収納し、支払いを終らせて完了です。 

「それでは、こちらが来月分の型録です。もうすぐ年末年始、そしてクリスマス商戦が始まりますので、今のうちに目を通しておいてください。あとは……こちらをどうぞ、アリサちゃんから手紙を預かってきています」
「アリサちゃんからですか!! 彼女は元気ですか?」
「ええ、それはもう……すっかり精霊界に馴染んだようですよ」

 そっかぁ、それは良かった。
 一刻も早く彼女の呪い……のようなものですよね、それを治療しなくてはなりませんから。

「ちなみにですが、魔王紋はどうなっていますか?」
「ブランシュの弟子が、毎日治療を行っています。まあ、魔王紋の活性を止める術式を施している程度ですけれど、少なくとも精霊界にいる間は魔王紋は活性しないでしょうという話です」
「そうですか。まあ、こちらもできるだけ早く、妖精王さんを探す必要がありますから、もう少し待っていてねって伝えて頂けると」

 その言葉に、ペルソナさんはにっこりとほほ笑んでくれました。
 うん、やっぱりその笑顔はずるいですね。

「クリスっち……そろそろ露店の準備をするし。ペルソナっちと離れるのが寂しいのは分かるけれど」
「なっ、なにを言い出すのですか……って、うん、それではお仕事、頑張ってください」
「はい、それではまた明日……」

 ま、まあ、柚月さんにからかわれるのもわかりますが。
 毎日朝一番で配達に来てくれているので、寂しくはないのですけれど……って、そこで二人、ニヤニヤしていない!!

「んんん、あーしたちは何もしていないし?」
「では、露店の場所まで移動しましょう」
「それでは、お二人も頑張ってください」

 そう告げて、ペルソナさんは帰還します。
 そして認識阻害の効果が途切れた途端に、商人たちが集まって来る……こない?

「ふう、ようやく納品が終わったようだから、あとで露店に寄らせてもらうよ」
「そうそう、昨日遅くにさ、東街道を越えて隊商が来たらしいから。そっちの商品も確認しないとならなくてね。まあ、フェイール商店もかなりの荷物を仕入れたようだから、ちょっとだけおまけしてくれると助かるけれどね……それじゃあ」

 そう告げて、商人さんたちも移動を開始しました。
 それでは私たちも、露店の場所に移動することにしましょう。

………
……


「……んんん?」

 私たちが借りている露店の場所に到着しましたけれど、すでにどこかの商人が露店を開き始めています。はて、これは一体、どういう事でしょうか?

「あの、そこは確か、私たちフェイール商店が契約している場所ですけれど?」
「ああ、そういう話もあったらしいけれどね。今日からは、うちの隊商がこの場所で露店を開くことになったんだよ、悪いねぇ」
「はぁ? 意味が全く分からないし。そもそもここは、あーしたちが契約した場所だし、あと三日は借りることになっているし」

 はい、私より先に柚月さんがキレました。
 そしてその横では、ノワールさんが商人を睨みつけています。
 すると、こちらでなにか起きたのかと隊商の人たちが集まってきました。

「おいおい、一体なにがあったんだ?」
「このお嬢さんたちが、この場所を返せってうるさいんですけれど。ガメッツィの旦那、何とかしてくださいよ」

 隊商の責任者らしき人と話を始める商人さん。
 そしてガメッツィと呼ばれた責任者らしき人が、私たちの前にやってきましたが。

「あ~、君たちは、ここで昨日まで露店をやっていた商人だね?」
「はい。フェイール商店と申します。商業ギルドのギルドマスターから直接依頼されて、ここで露店を開いていました。ですが、今朝になって場所を横取りされていましてですね、どういうことかと話を聞いていたところですが」

 そう丁寧にご説明しますと、ガメッツィさんは何か考え始めて。

「ああ、そういうことですか、理解しました。こちらの場所の露店契約は、確か他の町から商品が届かないので、臨時で露店を開いてほしいという事でしたよね? それでしたら、私たち隊商が到着したので契約は完了されているはずです。商業ギルドで確認して頂けると判ると思いますが」
「なるほど、そういうことでしたか」

 ふむ。
 私たちに発行されている許可証がそういうものなら、それは仕方がない事。
 ということで商業ギルドに向かって受付で確認を取って見たのですが、どうにも受付がしどろもどろです。私たちの質問に対して、『そうですねぇ、そうなのですか……』といった具合で、話がはっきりしていません。
 そうしているうちに、商業ギルドのギルドマスターであるローランドさんがやって来て、別の部屋で話をしたいという事になりましたが。

………
……


「すまない!!」

 別室でソファーに座った瞬間、ローランドさんが私たちにら向かって頭を下げました。
 つまり、なにか問題が起こったという事ですか?

「はは~ん。これって、あの隊商の人たちが悪だくみして嵌められたっていう感じだし」
「大方……この街の露店契約を全て取り消さなければ、この街には何も卸さず次の町に向かう、とでも言われたのでしょうか?」
「んんん、まさかそんなことあるわけがない……ってあれ?」

 柚月さんとノワールさんが、勝ち誇ったようにそう呟いていますので、私はしっかりと否定しようとしましたが。
 目の前のローランドさんが、顔中に噴き出した汗を拭きつつ視線がキョロキョロとあらぬ方向を見つめています、つまり図星ということですか。

「ああ、そういう事でしたか。まあ、私たちは別に気にしていませんよ、ちょっと強引すぎてどうしてやろうかとも考えましたけれど、この街にとって必要なことでしたらそれでよろしいのではないでしょうか。私たちフェイール商店は、この街で露店を開かなくても大丈夫です。それに、色々な商品が大量に入ってきたのでしたら、北西の渓谷が開通するまでは物資に困ることはないかと思いますし」

 商業ギルドに来る途中で、隊商の規模を確認してきましたけれど。
 荷馬車だけでも15台、その護衛の冒険者さんたちも大勢いたようです。
 どこかの大商会がやって来たという感じですね。
 それなら、当面は安泰でしょう。
 あとは早く渓谷が開通して欲しいところですね。

「ま、まあ、そうなのですが……フェイール商店の商品を心待ちにしている人々がいるというのもご理解ください。ですが、やはりガメッツィ商会としては、自分たち以外の露店は認めない、どうしてもというのなら、一時的にでもガメッツィ商会の傘下に加われと申しておりまして、はい」
「はい、 お断りします。フェイール商店は、どこの商会の傘下にも加わることはありません。まあ、数日はここでノンビリトしていますので、なにかありましたらご連絡ください」
「そうですか……では、ダンジョンと霊峰しかない町ですが、のんびりと寛いでいってください」

 これで話し合いは終わりましたので、あとはいつ出発するか考える必要がありますね。
 とりあえずは宿に戻って、今後のスケジュールを考えることにしましょうか。

 はあ、なんだかすごく面倒くさいことに巻き込まれたような気がしてきましたよ。
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