型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第309話・狙われた魔導書と、事業拡大したナンバ屋?

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 朝。

 まだ白い靄が町の中に漂っている早朝。
 協会の鐘が朝6っつの時を告げている最中、朝靄を切り裂くように【型録令嬢のシャーリィ】の配達馬車がやってきます。
 いつもの純白の馬車ではなく、黒い馬車。
 つまり、今日の配達はクラウンさんのようですけれど。

「貴方たちって、いつもこんな朝早くに仕入れをしているの?」
「……あの、おはようございます」

 はい、フェイール商店の前で馬車の到着を待っていますと、どこからともなく聖女・八千草と魔導師・三田森さんが姿を現しました。
 相変わらず、ペルソナさんのことをあきらめきれていないようですか。
 まったく……困ったものですよ、ええ。

「まあ、使用人としてはこれが当たり前ですから。そもそも朝六つの鐘がなるのですから、働き始めて当然じゃないですか、私たちなんて遅い方かもしれませんよ?」
「うわ、どこまでブラック企業なのよ。いいこと、人が働く時間は朝9時から夕方17時までって決まっているのよ、その間に休憩時間や昼食の時間も全て含まれていますし、それ以上の勤務は残業になるの。しかも、残業時間っていうのは、月に働いていい時間が決まっていのよ」
「……まあ、異世界じゃあ、そうなのでしょうね。ここは私たちの世界で、私たちの住む国です。あなたたちの価値観を押し付けたりしないでください。郷に入れば郷に従え、勇者語録にもあることはご存知ですよね?」

 淡々と説明してあげますと、八千草さんが苦虫をかみつぶしたような顔で歯ぎしりしていますよ。
 そもそも、朝6つの鐘から夕方6つの鐘までが仕事の時間ですよ。
 私たちは商人ゆえ、ある程度の時間のやりくりはしていますから、びっちりと働くなんて言うことはありませんけれどね。

――ガラガラッ 
 そして私と八千草さんがやり取りしている間に馬車も到着。
 黒い鍔広帽子を被ったジョーカーさんが降りてきました。

「あらら、認識阻害の効果が無効化されていますか。つまり、そちらのお二人が勇者なのですね」
「はい。まあ今日は見学という事で、二人の事は全て無視してください。特にそっちの聖女さんは」
「聖女……ああ、シャーリィさまからお話は伺っていますわ。では、早速です納品処理をして仕舞いましょうか」
「という事ですので、そこで見ている分には構いませんけれど、余計なことはしないでくださいね」

 先に釘を刺しておかないと、この聖女は何をしでかすか分かりませんからね。
 そしてその横で困った顔をしている三田森さん、聖女無理やり引っ張られてきたのがよく分かりますよ。必死に、こちらに頭を下げていますから。

「よ、余計なことってなによ、私がいつ、貴方の邪魔をしたっていうのよ」
「まあまあ、八千草さん、それこそ郷に入れば郷に従えですよ。フェイールさん、今日はここで見学していますので、どうぞお仕事を続けてください」

 ふう。
 それでは気を取り直して始めますか。
 ブランシュさんが荷物を下ろしても、私が検品と収納、いつもどおりです。
 そんなこんなで作業も順調に終了、しっかりと魔導書経由で支払いも終え、クラウンさんは馬車で帰っていきました。  

「……ということで、このようにして商品を仕入れています。分かっていただけましたか?」

 そう二人に告げると、聖女が私に向かって右手を差し出します。
 これはなんでしょうか?

「なにか?」
「その魔導書を寄越しなさい。勇者権限で徴収しますわ」
「はい、お 断りします」

――シュンッ
 一瞬で【シャーリィの魔導書】を指輪の中へ収納。
 突然目の前で消えたので、聖女は周囲を見渡しています。

「ちょっと、どこにゃったのよ、あの魔導書が異世界の商品を仕入れる鍵なのでしょう? だったら、貴方じゃなく私がゃってあげるわよ、だから寄越しなさいって」
「絶対にお断りしますわ。そもそも、私が契約している魔導書なのですから、貴方には使えませんとなんどいえばわかるのですか!!」
「まあ、貴方がそういう態度を取るのでしたら、こちらにも考えがあります。私たち勇者は、あなたの持つ魔導書を渡さない限り、今回のカマンベール王国奪還作戦には加担しません、これは聖女として宣言しますわ」 
「なっ……この性悪聖女!!」

 突然、何を言い出すかと思ったら。
 そんな我儘が通用すると思っているのですか!!
 ほら、彼女の少し後ろで、三田森さんが頭を下げているじゃないですか。

「それじゃあ、そろそろ戻りましょうか……そうね、今日の昼までに魔導書を持ってきなさい。もしも持ってこなかったら、私たち勇者は一切、力を貸しませんので……」
「……はぁ。本当に聖女なのですか? 神の加護を失いますよ?」
「はぁ? そんなことあるわけないじゃないのよ。いいこと、勇者が神から授かった加護は絶対なのよ? 失われるはずがないじゃない」

 うん、このパターンはあれですよ、確か、勇者タクマとかいうやつが暴走したときと同じですよ。
 あの時は、ブランシュさんがキレで勇者琢磨の持つ勇者の資質を封じたのですよね。
 そのブランシュさんは……と、聖女を見てニヤニヤと笑っていますね。

「まあ、そう思うのならご勝手にどうぞ」
「後悔しないようによく考えることね」

 捨て台詞もそれですか。
 そして二人が歩いて帰っていきましたよ。

「それでペルソナさん、さっきから何を笑っているのですか?」
「いや、あの三田森とかいう魔導師と、念話で会話をしていただけだ。あまりにも我儘で傍若無人すぎて、教会でも王城でも味方になってくれる奴はほとんどいないらしい。それで、起死回生に姐さんから魔導書を取り上げて、力を見せつけたかったんじゃないか?」

 淡々と説明してくれますが、やはりブランシュさんは侮れませんね。
 
「それで、聖女の権限で勇者が派遣されないっていうのは?」
「ないな。逆に聖女が囚われて教会に軟禁されるレベルだ。一人のエゴで、一つの国の掬えるはずの命を蔑ろにしてはいけない。王族はそのあたりは理解している。まあ、回復要因が足りなくなるが、そのあたりは教会でどうとでもできるだろうさ」
「そうですか……って、それも三田森さんが?」
「そういうこと。それじゃあ、とっとと準備をして、ガンバナニーワ王国に向かうとしますか」

 はい、それじゃあ急ぎ荷物の仕分け、商品を倉庫に移動、あとは二人に店を任せて、ガンバナニーワ王国に向かう事にしましょうか。

………
……


――ガンバナニーワ王国
 片道旅行券で到着し他の葉、やはりいつものドートン川の橋の上。
 ここがガンバナニーワ王国のスタート地点なので、もう驚くことはありませんが。

「3年……いや、4年ぐらいぶりか。ずいぶんと情勢が変わったのだなぁ」
「情勢……ああ、そういうことですか」

 以前なら、この場所に降り立った瞬間に威勢のいい客引きの声と、ソースの香りがただよっていました。でも、今はソースの薫りしかしていませんし、橋の下、河川敷には大勢の人たちが小屋の建設に大忙しのようです。

「ブランシュさん、あの小屋ってなんでしょうか?」
「さすがにわからないなぁ。まあ、詳しいことはこの国の商業ギルドにでも聞いてみた方がいいな」
「ナンバ屋さんの責任者、フローレンス・ルナパークさんでしたよね。それじゃあとっとと行きましょうか」

 ということで、ここからはエセリアル馬車での移動です。
 ちなみに一度でも来たことがある場所なら、エセリアル馬車は目的地を指示すれば勝手に走っていってくれます。
 柚月さん曰く、オートクルジングというそうですが、非常に便利ですよね。

「ということで、到着したのですけれど……こんなに大きかったですかねぇ」
「しかもピカピカの新品だな。入り口もでかいし、横には馬車が幾つも止まって荷下ろしをしている。出入りしている人たちの姿は商人のようだから、間違いはないと思うがねぇ……いくか?」
「当然です。毒を喰らわば皿まで、ですよ」
「いや、姐さん、その勇者語録の使い方は間違っているからな」

 ありゃ、それは失礼。
 ということでエセリアル馬車から降りてから、馬車は認識阻害モードを発動。
 私たちは堂々と正面入り口から中に入っていくと、空いているカウンターを……ないですよねぇ。
 どこのカウンターでも商人らしき人が商談というか、何か手続きをしていますよ。
 それじゃあ待合札を頂いて、呼び出しがかかるまでは窓際の椅子にでも座って待っていましょうかねぇ。

「まあ、そうするしかないんだが……気のせいか、こっちを見ている奴らの視線が痛いんだが」
「4年前に、あれだけ派手なことをやらかしましたからね。あの時、王城に出入りしていた商人や貴族の人なら、私の事に気が付く方もいるかと……って違いますよ、あれから4年たっていますから、私の姿も変わっているじゃないですか!!」
「う~ん、そんなに変化していないんだがなぁ。まあ、大人っぽくはなっているとおもうが」

 失礼な!!
 こう見えても立派な淑女ですよ。
 そりゃあまあ、行き遅れというかなんとていうか……そんなことはどうでもいいのです、とっとと仕事に戻りましょう。
 
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