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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第276話・妨害工作ですか? いえいえ、そんなものにはクッしません。

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 バンクーバーの町中を爆走する、一台のエセリアル馬車。
 幸いなことに、まだペルソナさんが納品に訪れる朝6っつの鐘までは時間があります。
 それまでにデビュタント・ボールの会場である、郊外の屋敷へと向かわなくてはなりません。
 ということで、エセリアル馬車の能力全開で草原と突っ切り森の中に突入し、最短コースで会場に向かいました。

「はい、どうにか無事に到着できそうですね。まだ時間的に余裕がありますので、今のうちに細工を施しておきましょう……と、クレアさーん、大丈夫ですかぁ~」
『だ、だ、大丈夫なわけがないわよっ!! なによこの馬車、ちょっと早くて隠蔽能力と空間拡張が施されている魔法の馬車だと思っていたのにって……ウップ』
「凄い、これはびっくりだコン!」
「ありゃあ、キリコさんは平気でしたか。それじゃあ、私一人で細工を終わらせるしかありませんか」

 はい、馬車の中に併設されているキッチンで、クレアさんがどうやらピンチの模様。乙女としては、あってはいけないリバース効果が発動していました。って、大賢者・武田さんがあのような状況を優しく説明するときは、リバース効果が発動していると言えばいいよって教えてくれました。
 これは勇者語録どころか勇者さまから直々に教わったので、間違いではありませんよね、はい。

「クレアさーん。ここにすっきりする飲み物を置いておきますので、一休みしたら飲んでくださいねー」
『ウップ……はい……あとはよろしくお願いします』

 うんうん。
 私も柚月さんも、そしてガンバナワのギルドマスターもリバース効果は体験しましたからね。
 でも大丈夫、一度経験すれば次からは慣れる、慣れます、慣れてください。
 ということで馬車は街道に戻り、一路屋敷へ。
 そして丘を越えて湖が見え始めた時、そのほとりに立つ屋敷がようやく見えてきました。
 私は馬車の速度を落とし、まだ閉じている正門をスッと通り抜けます。
 ちなみに正門近くには、2台の馬車と数名の冒険者らしきひとたち。
 そして正門の中、来客用の停車場では騎士が待機していましたけれど。
 騎士は多分ですが、ここの警備だと思いますけれど。外の冒険者らしき男たちは、どう考えても私たち目当ての雇われだと思います。
 まあ、ここに私が向かっているということはまだ伝わっていないと思いますので、今のうちに……どこに向かえばいいでしょうかねぇ。

「さてと、とりあえずペルソナさんからに納品して貰ってすぐに、副料理長さんに荷物を引き渡したいので、厨房の近くがいいのですけれどねぇ」

 ゆっくりと低速で、屋敷の周囲を走って見ます。
 建物の大きさ、煙突の位置、外から荷物を搬入できそうな納屋、もしくは倉庫の入り口はあるかどうか……。
 ぐるぐると回っているうちに、どうやら厨房の勝手口らしき場所を確認できたので、その横にエセリアル馬車を止めると、さっそく先日購入した秘密兵器を設置します。

「じゃーーーん!! LEDセンサーライト付き防犯カメラ~」

 これは壁や門、玄関わきに設置することで人が近寄って来た時に自動的に稼働し、撮影を始めてくれる便利なアイテムだそうです。しかも撮影した映像は、カメラ本体の後ろについている液晶モニターもしくはタイプC接続可能なスマホで確認できるそうです、ええ、取説にはそう書いてありました。
 柚月さんからも、『家電は取説さえしっかりと読むことが出来れば簡単だよ』って教わっていましたので、ぶっつけ本番ですが設置することにしました。
 ちなみに取説に書いてあることは何度も読み返したので大丈夫……だと思います。
 御者台の真上の屋根の部分と後ろの荷台の上に設置し、電源は武田さんが作った発電機なる魔導具を馬車の中に置いて、そこからケーブルを伸ばして接続。
 パイロットランプとかいう部分が点灯したので、これでだいたい間違いはないはずです。

――パシャッ!!
 すると荷台のカメラが作動したらしく、フラッシュとかいうものが光り撮影が始まったようです。

「ついに来ましたか!!」

 慌てて馬車から外に飛び出すようなことはせず、窓を開いてこっそりと確認。
 すると、良く見慣れた純白の馬車とペルソナさん、そしてノワールさんが馬車の後ろに立っていました。

「あわわわわ、ちょ、ちょっとお待ちくださーい」

 急ぎ馬車から飛び出すと、ペルソナさんも私に気が付き、帽子を取って頭を下げています。

「お待たせしました、型録通販のシャーリィより商品をお届けに参りました。しかし……いつの間にカメラまで設置していたのですか? また何か、厄介ごとに巻き込まれましたか?」
「はい、厄介ごとですか、まあ、多分ですが、巻き込まれているようです」

 テヘッと笑いつつそう説明すると、ペルソナさんはにっこりとほほ笑んで。

「まあ、勇者カナンの系譜ですからねぇ。あの方も、かなりのトラブルメーカーと言われていたそうですから。と、まずは納品を始めてしまいましょうか、どうやらこちらの商品をお待ちの方々がいらっしゃるようですから」
「へ?」

 そうペルソナさんが説明しつつ、私の馬車の前にある、屋敷の勝手口を指さしています。
 ちなみにノワールさんは呆れたような顔で、馬車の後ろを指さしていますが。

「勝手口からはマウロさんと料理人の方が、そして後ろからはサンマルコと冒険者……そして共に、私たちを見て呆然としている……これってつまり」
「ええ。いつも通りの認識阻害効果ですね。それでは、邪魔が入る前に納品作業をして仕舞いましょう。ちなみにクレアさんは?」
「あ、あの……本日は体調がすぐれなくてですね」

 乙女のプライドゆえ、詳しくは語りません。
 それにペルソナさんなら理解してくれると思っていますので。
 クレアさんにはキリコさんが付いていますので、問題はないでしょう、ええ。

「では、ノワールが荷物を下ろしてください。少々時間が掛かっても構いません。今日は邪魔が入らないようにお膳立てをしておく必要がありそうですからね」
「あ~、はいはい、了解しましたわ。それじゃあクリスティナさま、私が荷物を下ろしますので検品をお願いします」
「そのあとは、こちらの屋敷に納品する分は勝手口の近くに置いておくとよいかもしれませんね。私どもの納品が終わってからすぐに、こちらに卸すのでしょう?」
「はいっ!!」

 ああ、ペルソナさんはお見通しなのですね。
 それじゃあご厚意に甘えて出来るだけ急いで、且つ、正確な検品を行いましょう。
 そうしているうちに、勝手口からは料理人の方々が出てきて私たちを眺めていますし、マウロさんはサンマルコに気が付いたのか、そっちを睨みつけています。
 そりゃあ、デビュタント本番もいよいよ明日だというのに、仕事をしないでほっつき歩いていれば、怒り心頭間違いないでしょうから。

「……はい、これで全て完了です。ノワールさん、ありがとうございます」
「いえいえ、これもフェイール商店の従業員の務めですから。それで、ここに納品するのは、どの荷物ですか?」
「こちらの木箱5つです。残りは全て私のアイテムボックスに納めてありますので」
「はいはい、それじゃあ力仕事はお任せくださいっと!!」

 ぐいっと木箱を軽々と持ち上げ。勝手口の前に並べます。
 すると、マウロさんがノワールさんに気が付いたらしく、彼女に話しかけました。

「あの、すいませんが……これはひょっとして、フェイール商店からの荷物でしょうか?」
「あら、阻害効果の範囲外だったの? ええ、こちらはフェイ―ル商店からの納品分です。検品をお願いしますわ」
「ああ、助かったよ。おい、急いでチェックを始めてくれ!! それでフェイールさんは?」

 その声が聞こえてきたとき、私はすでに支払いを終えてどうしようかと思案していました。

「では、ここで一旦、認識阻害効果を解除しますね。私たちもこの場に残って、成り行きを確認させてもらいますので。それでよろしいでしょうか?」
「ええっと……よろしいのでしょうか?」
「はい。型録通販のシャーリィは、アフターケアも万全ですので」

 ペルソナさんからの、まさかの提案。
 これに乗らない手はありません。
 ということで、私も覚悟を決めて頷きました。

「よろしくお願いします」
「それでは……」

――パチン!!
 ペルソナさんが指を鳴らす。
 その瞬間、後ろから走って来ていたサンマルコと冒険者たちが私たちの馬車まで走ってきました!

「そこまでだっ、この納品は無効だ、そんな鮮度の悪い商品なんて、うちの副料理長が使う筈がない。とっとと代わりの商品を……って、マ、マウロ副料理長?」

 冒険者たちが私とペルソナさんの馬車を囲み、脅しを掛けようとしていましたが。

「サンマルコ、そんなところで何をしている……どうもお前は、今回のデビュタント・ボールの担当となってから様子がおかしかったのだが……これについては、あとで説明を聞かせてもらうからな」
「い、いえ、あのですね、俺は、フェイール商店の納品する素材の品質が悪いっていう噂を聞きましてですね、先に俺がチェックしてからここに届けて貰おうかと」
「ほう、今、俺たちが確認した限りでは、どの素材も鮮度、品質ともに最高級だ。それに納品された量についても、万が一のことを考えてか少し多めに入れてある。この野菜の品質が悪いだって? お前の目は節穴かよ!! また下働きからやり直すか?」

 別の料理人がサンマルコに向かって怒鳴りつけました。
 すると、その勢いに気圧されたのか、冒険者たちが一斉に走りだし、屋敷から逃げ去っていきます。
 
「く、くっそぉぉぉぉっ……こんなところで働いてなんていられねーよっ!! 覚えておけっ!!」

 そう吐き捨てるように叫ぶと、サンマルコも走り去ります。
 ふぅ、どうやら余計なことに巻き込まれることはなくなったようです。

「おお、フェイールさんもそちらに居ましたか。それで、そちらの方は?」
「私どもは、フェイール商店の本店から荷物を運んで来たものです。それで、確かに納品を終えましたので、これで失礼します……ノワール、あとはお任せしますよ」
「はいっ」

 そう告げて、ペルソナさんが馬車に飛び乗って立ち去ります。
 それを見送っている……ノワールさん!!

「クリスティナさま。ノワール、本日より護衛任務に戻らせていただきます」
「も、もう大丈夫なのですか?」

 心配そうに問い掛ける私に、ノワールさんは右手首に装着している腕輪を見せてくれます。
 そこには精霊の加護が籠められた宝玉が填められています、ええ、私の鑑定眼がそう告げています。

「竜変化は使えませんが、この姿なら」
「はいっ……おかえりなさい」

 これで怖いものなし。
 あとは……ああっ、マウロさんへの納品手続きの途中でした!!
 早く終わらせないと大変ですよ。
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