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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第274話・お買い求めは、計画的に

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 アスパッハ辺境伯別荘にて打ち合わせを全て終えた私たちは、自前の馬車でのんびりとバンクーバーまで戻ってきました。

 途中、ものすごい速度で走っていく馬車や、馬に乗った冒険者らしき人たちが街道を縦横無尽に走りまわっていましたけれど、あれは私たちを探していたのかもしれません。
 やはり、今回の納品を妨害している誰かがいると、訂正、サンマルコさんを含めた妨害者が存在しているということはほぼ確定です。
 こうなりますと、再び宿に泊まったとしても昨晩のようにまた襲撃を受ける可能性も出てくるかもしれません。昨日の今日で、また暴漢が襲い掛かってくるなどということはないかもしれませんけれど、これはどうしたものか対策を考える必要がありますね。

 まあ、以前ならノワールさんとブランシュさんが護衛についていたので、ある程度は安心していましたけれど。
 さすがに今の状況では、私たちで対策を講じる必要があります。
 そんなことをつらつらと考えているうちに、エセリアル馬車はアッという間に宿に到着。

「さてと。それじゃあ連泊の手続きをしてきますので、待っていてくださいね」 
「ちょっと待って……クリス店長。今日は宿に泊まらないで、このまま馬車の中に籠っていた方がいいんじゃない?」
「へ?」

 御者台から馬車の中にいるクレアさんとキリコさんに話しかけたところ、そのような返答が返ってきましたよ。

「ちょっと待っててくださいね。エセリアル・モードを再開してください!!」

――シュンッ
 宿の前で立ち話もなんですから、ひとまず馬車はエセリアルモードに切り替えて、近くの港湾施設に併設されている停車場まで移動します。
 そして馬車の中に移動してから、改めてクレアさんの話を伺うことにしました。

「先ほどの話ですけれど、このまま明日の納品まで、馬車の中で過ごすということですよね?」
「ええ。だって、私たちが狙われているのは確定ですし、今回の納品の件じゃなく、私はその裏で何か大きな話が進んでいるような気がするのですよ」
「大きな………と言いますと?」
「これは私の予想ですけれど。今回の納品の件、本当の狙いはあのサンマルコとかいう料理人の知りあいの野菜を高額で売ることじゃなく、デビュタント・ボールそのものを失敗させることなんじゃないかなぁって思えてきたのですわ」

 それはまた、随分と話が飛躍していますね。
 とはいえ、その可能性が否定できないというのも事実。

「それは何故?」
「野菜を高額で売りたいのなら、別にデビュタント・ボール以外でも買い取りたい商人はいるんじゃないかって思えたのよ。出荷量が少ない、それでいてその農家でしか扱っていない野菜ってうことは、市場に普通に出荷しても十分高値で取引されると思ったのよ。それに、野菜の卸しを邪魔するという理由だけで暴漢をけしかけてくるなんていうリスクは負わないと思うのよね」

 確かに、その通りです。
 寝込みを襲撃して邪魔をする……普通に考えれば、一料理人が行う手とは思えません。
 そもそも、それだけのために暴漢を雇い、犯罪者となるリスクを冒してまで儲けを出すなんてことはありえないということですか。 

「確かに、クレアさんの言う通りかもしれません……そうなりますと、私たちから野菜などを仕入れできなくしてデビュタント・ボールを失敗させることが目的……王位継承に関するものかしら? でも、王位継承の話は確か、国に戻って来た第三王子が兄弟喧嘩を止めて、一旦は病気の父親の治療方法を探すことに専念するということで話が纏まったはずですよね?」
「兄弟の間では……っていうことよね。どのみち、国王の病が癒えたあとで、また王位継承騒動は発生するわよ、当事者である皇太子たちの間ではなく、彼らを支援している貴族間で。そうなると、デビュタント・ボールを取り仕切っている第三王子の面子を潰しておきたいっていうところもあるんじゃないかしら?」

 ふむふむ。
 
「つまり、王位継承騒動を治めた第三王子の手柄を潰しておきたいと。国王の病が癒えた時にも、『治療のために尽力を尽くしてくれたのは第三王子ですが、そのあとの政はお粗末で……』っていう感じでレッテルを貼り付けたい貴族がいると?」
「これは私の予測でしかないけれどね。ねぇ、【型録通販のシャーリィ】で、情報を集めるような商品はないのかしら? 魔導具とかでも構わないから、そういう便利な商品って取り扱っていないの?」
「ははぁ……そうですね。私が今まで見たことがある商品については、それらしいものはありませんでしたけれど……」

 そう呟きつつ、指輪の中から【シャーリィの魔導書】を取り出します。
 そして一ページずつ、注意深く探してみようと思いましたけれど、其れより先に明日の仕入れを終わらせてしまわなくてはなれません。

「とりあえず、先に仕入れを終わらせてしまいますね。ちょっと待っていてください」

 マウロさんから受け取ったメモ、そこに記されている野菜をはじめとした各種素材、調味料、菓子類。一部調理器具を次々と発注書に移していきます。
 あとは注文品数……は、妨害された時のために、多めに仕入れておくとして。
 
「ふう。とりあえず納品用の商品発注書は送りましたよ」
「それじゃあ、さっきの話の続きね。私も一緒に探してみたいんだけれど、型録を見せて貰ってもいい?」
「私は構いませんけれど、クレアさんに見えるかなぁ……」

 ちょっと不安だったのですけれど、しっかりと見ることが出来たようなので、あとは二人で……もとい、キリコさんも交えて型録のチェックです。
 そうしますと、こういう時のための切り札的なものも購入しようと思っていましたけれど。

「ねぇ、クリス店長? これって使えるんじゃない?」
「これは……ちょっと待ってくださいね、付属の取説を確認してみますので……」

 クレアさんが指摘した商品。
 彼女は勇者言語が読めませんので、一つ一つ私が説明してあげていたのですが、ふと、ある商品が気になったそうです。
 それで私も確認して見ましたら……ええ、今回はこれが使えるかもということになりましたので、追加で注文しましょう。あと、付属品とか、使うために必要な道具などなど。
 それらを注文したのちも、色々と調べているとかなり時間が経過してしまったので、今日はここで寝ることにしましょう。
 幸いなことに、この馬車には寝具も全て積んであります。
 トランプとか簡単な遊具も仕舞ってありますので、時間を潰すのに困ることはありませんから。
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