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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第271話・ソーゴさん、貴方は何ということをしてくれたのですか
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メルセデスさまの別荘から町の宿へと戻って来た翌日。
私たちはのんびりとした時間を過ごしていました。
午前中は部屋に籠り、デビュタントに必要な野菜の調達について、型録を眺めつつ調査。
この時期は異世界でも野菜の出荷が少ないのか、お取り寄せコーナーに掲載されている分も、いつもの半分程度の種類のみ。
「ええっと、今、取り寄せられるものは『新じゃがと玉ねぎのセット』、『北海道の5種類の野菜の詰め合わせ』……ふむふむ。これにはジャガイモと玉ねぎのほかに、南瓜しか入っていませんよね。あ、じゃがいもに種類があるのですか」
「ジャガイモって、私たちの世界でいうところのポテトの事ですわね。でも、ここには男爵ときたあかり、メークインっていう名前が記されていますわね。二つはよく分かりませんけれど、この男爵というのはおそらく、栽培地が貴族様の直轄地なのでしょうかね……」
うん、クレアさんの説明にも一理あります。
ということは、この5種類の野菜セットは購入確定ではないでしょうか。
「こちらの田上養蜂場というところの、野菜ジェラートってなんでしょうか? 見た感じですと、いつもクリス店長が仕入れしているアイスクリームのようですけれど?」
「ジェラートとアイスクリームは、確か滑らかさが違う程度で、ほぼ一緒ですわ。でも、野菜を使ったジェラートというのも興味が出てきますわね」
うんうん、一つ一つ吟味して、サンプルを取り寄せなくてはなりません。
そのために、仕入れ確定したものはすぐに発注書に書き込み、また吟味を続けますが。
野菜の加工品は結構あるのですが、肝心の新鮮なお野菜となりますと、先ほどの2種類しか見当たりません。あとは、この季節限定野菜詰め合わせセットですが……ええ、やはり異世界の気候と季節によって内容が変化しているようですわ。
「ええっと、今の時期は、異世界の野菜は2月限定品というものになるのですか……ふむふむ」
今の時期は……モロヘイヤと赤ピーマン、にんじん、甘長とうがらし、そして名倉なすというものだそうです。はい、にんじんとピーマン、ナスは分かりますがとうがらしとモロヘイヤというものが判りませんね。
「あ、とうがらしは干して粉末にしてつかう香辛料の一種ですね。カマンベール王国でも栽培地がありましたよ。ハーバリオスに輸出するときは、粉末にしたものが壺に納めてあったはずですよ」
「なるほど、どうりで私が知らない筈ですわね。それで、このモロヘイヤとはご存じですか?」
「もろへいや……残念ですが、カマンベール王国でも見たことも聞いたこともありませんわね。やはり異世界限定野菜なのかもしれません」
「この写真ですと……この青菜がモロヘイヤのようですわね。うん、似たような雑草はよく見かけますけれど……」
食用となりますと、私でも区別がつきません。
ちなみに雑草というのは、道端に生えているアオバナやカンネ、ノビエ、シプクサ、ツギツギ、クローバーといったどこにでも生えて来る草の総称です。特に食べられるわけでもなく、馬が道草を食べる程度にしか消費されていないので、雑草とひとくくりにして読んでいるのです。
これも一部は勇者語録に記されていまして、初代勇者様が命名した品種が結構あるそうですが、それについてはまたそのうち。
「うーん。まあ、試しに仕入れてみますか。何に使うか知りませんけれど、きっと宮廷料理人ならば使いこなしてくれると思います」
「そうね。あとは適当な調味料とか、デザート用のアイスクリームも仕入れてみた方がいいんじゃないかしら? 展示即売会でアイスクリームは完売したのですよね?」
「ええ。他にも紅茶の茶葉も切れていますからね。デビュタントに必要なものを一通り仕入れて、あとは直接話し合いをしなから追加発注することにしましょう」
ということで、ある程度の商品は発注書に記して、急ぎ注文。
まだ午前中なので、明日の朝いちばんの配達には間に合います。
いえ、ここはバンクーバーですから、ひょっとしたら夕方便で来てくれるかもしれませんね。
〇 〇 〇 〇 〇
午後。
宿の食堂で軽食をとり、のんびりと街並みを眺めていますと。
――ガラガラガラガラ
4頭立ての馬車が宿の前に到着しました。
そこから身なりのいい紳士が二人ほど降りてきますと、宿の食堂へと一直線にやってきました。
というか、受付で私たちの事を訪ねてきたことを伝えたのでしょう。
「失礼。あなたがフェイールさんですか?」
「はい。私がクリスティナ・フェイールですが」
物腰の柔らかい紳士。それが私の第一印象です。
その後ろについてきている青年は、こっちを見て一瞬、チッ、と舌打ちをしたように見えましたが。
「私はマウロ・グレゴリーと申します。宮廷料理人の副責任者を務めています。彼は私の助手を務めるサンマルコ、本日はフェイール商店のお力をお借りしたく、やって参りました」
「はい。メルセデス夫人からお話は伺っています。それで、どのような食材が必要なのでしょうか?」
そう丁寧にお話を続けますが、サンマルコさんは私をじっと睨みつけていますが。
さて、私はなにかしたのでしょうか?
「そうですね。まあ、ここでは何ですので、一度、アスパッハ辺境伯邸までご一緒していただけますか? ここでお話できることではありませんので」
「畏まりました。では、クレアさん、キリコさん、準備をお願いします」
「はい」
まあ、準備というか、外出用のマントを取って来てもらうだけですけれどね。
ついでに部屋に置いてある貴重品入れ……のダミーを持ってきて貰いますと、あとはマウロさんの馬車の後ろをついていくだけです。エセリアル馬車で。
本当に久しぶりのエセリアル馬車、私が御者を務めるというのもおかしな話ということで、キリコさんが率先して御者台で手綱を握っています。
まあ、握りさえすれば、あとは念じるだけでエセリアルホースは動いてくれるので助かっていますけれどね。
そのまま小1時間ほど、郊外のアスパッハ辺境伯邸まで向かいます。
そして正門を抜けると、昨日のようにメルセデス夫人たちが出迎えてくれました。
「これはメルセデス夫人。わざわざお迎え有難うございます」
「いえいえ、宮廷料理人であるグレゴリー様を、私自らお迎えしなくては主人に叱られてしまいますので……と、フェイールさんもお久しぶりですわ。やっぱり、昨晩は別荘に泊まっていった方がよかったでしょう?」
「そのようですわね。まあ、今日はどうなるか分かりませんけれど」
「一応、客間の用意はさせてありますので。さあ、どうぞ。応接間は開けてありますので、打ち合わせにお使いください」
「感謝します」
丁寧に頭を下げるマウロさんとサンマルコさん。
私たちも一緒に頭を下げてから、侍女に案内されて応接間へ。
そして椅子にすわり一息入れると、マウロさんがさっそく話を始めました。
「フェイールさんにお願いしたいことがあります。すでにメルセデス夫人からお話は伺っているかと思われますが、デビュタントにて供与される料理についてです。その食材の一部を急ぎ用意して欲しいのですが」
「はい。急ぎ用意できるもの、出来ないものがございますが。どのような食材を必要としているのでしょうか?」
「必要なものは、こちらです……」
そう告げて、マウロさんが一枚の羊皮紙を私に手渡してくれました。
そこに記されている食材、特に珍しいというものは見当たらないのですが……。
タマネギやポテトといった一般的なものばかり……ああ、そういうことですか。
ここ、ミュラーゼン諸島連合は南方の地、常夏の国であるがために、これらの食材は今の時期は北方に向かわないと入手できません。
おそらくですが、これらの食材は外国からの輸入に頼っているのでしょう。
「タマネギとポテトについては、明日にでもサンプルをご用意します。それと、ここに記されているものについてですが、何故、当商会が取り扱っているということをご存じなのでしょうか?」
私が指さした商品、それは米と酢、そしてアイスクリーム。
そもそもアイスクリームを知っているというのが不思議でなりません。
このバンクーバーでも何度か販売はしたことがありますが、それをメニューに持ってきた挙句、仕入れ先がフェイール商店だなんして知っているとすれば……。
「そうですね。旅商人のソーゴ・タカシマヤという方をご存じでしょうか?」
「やはりですか……彼が、これらの商品についてはフェイール商店で取り扱っているとおっしゃっていたのですね?」
「ええ。しかも、魔法の調味料までお持ちとか。出来れば、それらも一緒に卸して欲しいのです。可能でしょうか?」
切羽詰まったような表情のマウロさん。
そもそも、これらの食材をメニューに使うということは、仕入れについても手を回していたはずですよね。それが今更、フェイール商店に連絡が届いたのでしょうか。
「可能ですわね」
「嘘をつけ!! ここに記されている商品は、このバンクーバでも郊外にある一軒の農家でしか取り扱っていない貴重なものだ。それが今年は不作で、例年の半量しか収穫されていない……そもそも、デビュタントのメニューに必要な分量もギリギリだっていう連絡が来たのに、どうしてあんたはそれを仕入れられるんだ!!」
突然、 サンマルコさんがキレたように叫びました。
えええ、そこでキレるのはどういうことですか!!
「どうといわれましても……そういうルートを持っている、ということです。参考までに、そちらでの仕入れについては、どのような状態なのですか?」
「納品は可能だけれど、価格は例年の5倍ほどになってしまうそうでして。当初は例年通りの価格だったのですけれど、異常気象のために収穫量が1/5に減ったそうで。しかも今の時期は在庫も少なく、すべてを買い取らなくては到底間に合いそうにないのですが……そうなりますと予算の都合もありますので」
「それで、いつもの価格で仕入れられる伝手を探した結果、ソーゴさんがフェイール商店を勧めたと。ちなみにですが、その北方の農家って、よくこれらの野菜を栽培できましたね? これらの殆どは北方地方の特産品、まあ、ハーバリオスでは普通に栽培されているものばかりですけれど」
そう問いかけますと、マウロさんも頷きつつ。
「その農家は、ハーバリオスからの移民なのです。それで何年にもわたり、作物の品種改良を続けて居た結果、数年前にようやく栽培に成功したそうです。ですが、品種改良の結果、作物としての収穫は可能になったのですけれど、病害に弱くなってしまったそうで……ああ、その農家というのが、サンマルコの知人宅なのです」
「なるほど。では、明日の朝までにサンプルをご用意します」
「だから、何処から仕入れるっていうんだ!! でまかせもいい加減にしろ!!」
「サンマルコ、黙りなさい!!」
また激昂する。
そしてマウロさんに咎められ、サンマルコさんは意気消沈。
まあ、知人の家の野菜が売れないと困るというのも理解できますけれど、それはそれ、これはこれ。
商売である以上は、こちらも正々堂々とお相手しましょう。
とにかく、5倍の値段は高すぎます。
もう少し何とかすればよかったのかもしれませんけれどね。
「では、私たちは一旦、街に戻ります。出入りしている商会の方に連絡し、明日にでもこちらにサンプルをお持ちしますので」
「では、よろしくお願いします」
ということで、一旦、メルセデス夫人にご挨拶したのち、私たちは町に戻ることにしました。
いきなり別荘に【型録通販のシャーリィ】の馬車が到着しても、きつと困ることになりますから。
ここは私たちが商会と連絡を取り、ちゃんと仕入れをしていたっていう体裁をとった方がよいでしょうから。
それにしても、なにやら一波乱起こりそうな雰囲気ですわ。
ソーゴさん、今度会ったらどうしてあげましょうかねぇ。
私たちはのんびりとした時間を過ごしていました。
午前中は部屋に籠り、デビュタントに必要な野菜の調達について、型録を眺めつつ調査。
この時期は異世界でも野菜の出荷が少ないのか、お取り寄せコーナーに掲載されている分も、いつもの半分程度の種類のみ。
「ええっと、今、取り寄せられるものは『新じゃがと玉ねぎのセット』、『北海道の5種類の野菜の詰め合わせ』……ふむふむ。これにはジャガイモと玉ねぎのほかに、南瓜しか入っていませんよね。あ、じゃがいもに種類があるのですか」
「ジャガイモって、私たちの世界でいうところのポテトの事ですわね。でも、ここには男爵ときたあかり、メークインっていう名前が記されていますわね。二つはよく分かりませんけれど、この男爵というのはおそらく、栽培地が貴族様の直轄地なのでしょうかね……」
うん、クレアさんの説明にも一理あります。
ということは、この5種類の野菜セットは購入確定ではないでしょうか。
「こちらの田上養蜂場というところの、野菜ジェラートってなんでしょうか? 見た感じですと、いつもクリス店長が仕入れしているアイスクリームのようですけれど?」
「ジェラートとアイスクリームは、確か滑らかさが違う程度で、ほぼ一緒ですわ。でも、野菜を使ったジェラートというのも興味が出てきますわね」
うんうん、一つ一つ吟味して、サンプルを取り寄せなくてはなりません。
そのために、仕入れ確定したものはすぐに発注書に書き込み、また吟味を続けますが。
野菜の加工品は結構あるのですが、肝心の新鮮なお野菜となりますと、先ほどの2種類しか見当たりません。あとは、この季節限定野菜詰め合わせセットですが……ええ、やはり異世界の気候と季節によって内容が変化しているようですわ。
「ええっと、今の時期は、異世界の野菜は2月限定品というものになるのですか……ふむふむ」
今の時期は……モロヘイヤと赤ピーマン、にんじん、甘長とうがらし、そして名倉なすというものだそうです。はい、にんじんとピーマン、ナスは分かりますがとうがらしとモロヘイヤというものが判りませんね。
「あ、とうがらしは干して粉末にしてつかう香辛料の一種ですね。カマンベール王国でも栽培地がありましたよ。ハーバリオスに輸出するときは、粉末にしたものが壺に納めてあったはずですよ」
「なるほど、どうりで私が知らない筈ですわね。それで、このモロヘイヤとはご存じですか?」
「もろへいや……残念ですが、カマンベール王国でも見たことも聞いたこともありませんわね。やはり異世界限定野菜なのかもしれません」
「この写真ですと……この青菜がモロヘイヤのようですわね。うん、似たような雑草はよく見かけますけれど……」
食用となりますと、私でも区別がつきません。
ちなみに雑草というのは、道端に生えているアオバナやカンネ、ノビエ、シプクサ、ツギツギ、クローバーといったどこにでも生えて来る草の総称です。特に食べられるわけでもなく、馬が道草を食べる程度にしか消費されていないので、雑草とひとくくりにして読んでいるのです。
これも一部は勇者語録に記されていまして、初代勇者様が命名した品種が結構あるそうですが、それについてはまたそのうち。
「うーん。まあ、試しに仕入れてみますか。何に使うか知りませんけれど、きっと宮廷料理人ならば使いこなしてくれると思います」
「そうね。あとは適当な調味料とか、デザート用のアイスクリームも仕入れてみた方がいいんじゃないかしら? 展示即売会でアイスクリームは完売したのですよね?」
「ええ。他にも紅茶の茶葉も切れていますからね。デビュタントに必要なものを一通り仕入れて、あとは直接話し合いをしなから追加発注することにしましょう」
ということで、ある程度の商品は発注書に記して、急ぎ注文。
まだ午前中なので、明日の朝いちばんの配達には間に合います。
いえ、ここはバンクーバーですから、ひょっとしたら夕方便で来てくれるかもしれませんね。
〇 〇 〇 〇 〇
午後。
宿の食堂で軽食をとり、のんびりと街並みを眺めていますと。
――ガラガラガラガラ
4頭立ての馬車が宿の前に到着しました。
そこから身なりのいい紳士が二人ほど降りてきますと、宿の食堂へと一直線にやってきました。
というか、受付で私たちの事を訪ねてきたことを伝えたのでしょう。
「失礼。あなたがフェイールさんですか?」
「はい。私がクリスティナ・フェイールですが」
物腰の柔らかい紳士。それが私の第一印象です。
その後ろについてきている青年は、こっちを見て一瞬、チッ、と舌打ちをしたように見えましたが。
「私はマウロ・グレゴリーと申します。宮廷料理人の副責任者を務めています。彼は私の助手を務めるサンマルコ、本日はフェイール商店のお力をお借りしたく、やって参りました」
「はい。メルセデス夫人からお話は伺っています。それで、どのような食材が必要なのでしょうか?」
そう丁寧にお話を続けますが、サンマルコさんは私をじっと睨みつけていますが。
さて、私はなにかしたのでしょうか?
「そうですね。まあ、ここでは何ですので、一度、アスパッハ辺境伯邸までご一緒していただけますか? ここでお話できることではありませんので」
「畏まりました。では、クレアさん、キリコさん、準備をお願いします」
「はい」
まあ、準備というか、外出用のマントを取って来てもらうだけですけれどね。
ついでに部屋に置いてある貴重品入れ……のダミーを持ってきて貰いますと、あとはマウロさんの馬車の後ろをついていくだけです。エセリアル馬車で。
本当に久しぶりのエセリアル馬車、私が御者を務めるというのもおかしな話ということで、キリコさんが率先して御者台で手綱を握っています。
まあ、握りさえすれば、あとは念じるだけでエセリアルホースは動いてくれるので助かっていますけれどね。
そのまま小1時間ほど、郊外のアスパッハ辺境伯邸まで向かいます。
そして正門を抜けると、昨日のようにメルセデス夫人たちが出迎えてくれました。
「これはメルセデス夫人。わざわざお迎え有難うございます」
「いえいえ、宮廷料理人であるグレゴリー様を、私自らお迎えしなくては主人に叱られてしまいますので……と、フェイールさんもお久しぶりですわ。やっぱり、昨晩は別荘に泊まっていった方がよかったでしょう?」
「そのようですわね。まあ、今日はどうなるか分かりませんけれど」
「一応、客間の用意はさせてありますので。さあ、どうぞ。応接間は開けてありますので、打ち合わせにお使いください」
「感謝します」
丁寧に頭を下げるマウロさんとサンマルコさん。
私たちも一緒に頭を下げてから、侍女に案内されて応接間へ。
そして椅子にすわり一息入れると、マウロさんがさっそく話を始めました。
「フェイールさんにお願いしたいことがあります。すでにメルセデス夫人からお話は伺っているかと思われますが、デビュタントにて供与される料理についてです。その食材の一部を急ぎ用意して欲しいのですが」
「はい。急ぎ用意できるもの、出来ないものがございますが。どのような食材を必要としているのでしょうか?」
「必要なものは、こちらです……」
そう告げて、マウロさんが一枚の羊皮紙を私に手渡してくれました。
そこに記されている食材、特に珍しいというものは見当たらないのですが……。
タマネギやポテトといった一般的なものばかり……ああ、そういうことですか。
ここ、ミュラーゼン諸島連合は南方の地、常夏の国であるがために、これらの食材は今の時期は北方に向かわないと入手できません。
おそらくですが、これらの食材は外国からの輸入に頼っているのでしょう。
「タマネギとポテトについては、明日にでもサンプルをご用意します。それと、ここに記されているものについてですが、何故、当商会が取り扱っているということをご存じなのでしょうか?」
私が指さした商品、それは米と酢、そしてアイスクリーム。
そもそもアイスクリームを知っているというのが不思議でなりません。
このバンクーバーでも何度か販売はしたことがありますが、それをメニューに持ってきた挙句、仕入れ先がフェイール商店だなんして知っているとすれば……。
「そうですね。旅商人のソーゴ・タカシマヤという方をご存じでしょうか?」
「やはりですか……彼が、これらの商品についてはフェイール商店で取り扱っているとおっしゃっていたのですね?」
「ええ。しかも、魔法の調味料までお持ちとか。出来れば、それらも一緒に卸して欲しいのです。可能でしょうか?」
切羽詰まったような表情のマウロさん。
そもそも、これらの食材をメニューに使うということは、仕入れについても手を回していたはずですよね。それが今更、フェイール商店に連絡が届いたのでしょうか。
「可能ですわね」
「嘘をつけ!! ここに記されている商品は、このバンクーバでも郊外にある一軒の農家でしか取り扱っていない貴重なものだ。それが今年は不作で、例年の半量しか収穫されていない……そもそも、デビュタントのメニューに必要な分量もギリギリだっていう連絡が来たのに、どうしてあんたはそれを仕入れられるんだ!!」
突然、 サンマルコさんがキレたように叫びました。
えええ、そこでキレるのはどういうことですか!!
「どうといわれましても……そういうルートを持っている、ということです。参考までに、そちらでの仕入れについては、どのような状態なのですか?」
「納品は可能だけれど、価格は例年の5倍ほどになってしまうそうでして。当初は例年通りの価格だったのですけれど、異常気象のために収穫量が1/5に減ったそうで。しかも今の時期は在庫も少なく、すべてを買い取らなくては到底間に合いそうにないのですが……そうなりますと予算の都合もありますので」
「それで、いつもの価格で仕入れられる伝手を探した結果、ソーゴさんがフェイール商店を勧めたと。ちなみにですが、その北方の農家って、よくこれらの野菜を栽培できましたね? これらの殆どは北方地方の特産品、まあ、ハーバリオスでは普通に栽培されているものばかりですけれど」
そう問いかけますと、マウロさんも頷きつつ。
「その農家は、ハーバリオスからの移民なのです。それで何年にもわたり、作物の品種改良を続けて居た結果、数年前にようやく栽培に成功したそうです。ですが、品種改良の結果、作物としての収穫は可能になったのですけれど、病害に弱くなってしまったそうで……ああ、その農家というのが、サンマルコの知人宅なのです」
「なるほど。では、明日の朝までにサンプルをご用意します」
「だから、何処から仕入れるっていうんだ!! でまかせもいい加減にしろ!!」
「サンマルコ、黙りなさい!!」
また激昂する。
そしてマウロさんに咎められ、サンマルコさんは意気消沈。
まあ、知人の家の野菜が売れないと困るというのも理解できますけれど、それはそれ、これはこれ。
商売である以上は、こちらも正々堂々とお相手しましょう。
とにかく、5倍の値段は高すぎます。
もう少し何とかすればよかったのかもしれませんけれどね。
「では、私たちは一旦、街に戻ります。出入りしている商会の方に連絡し、明日にでもこちらにサンプルをお持ちしますので」
「では、よろしくお願いします」
ということで、一旦、メルセデス夫人にご挨拶したのち、私たちは町に戻ることにしました。
いきなり別荘に【型録通販のシャーリィ】の馬車が到着しても、きつと困ることになりますから。
ここは私たちが商会と連絡を取り、ちゃんと仕入れをしていたっていう体裁をとった方がよいでしょうから。
それにしても、なにやら一波乱起こりそうな雰囲気ですわ。
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