上 下
198 / 279
第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第250話・イブさんのカバン、再び

しおりを挟む
 お稲荷さんも完成し、しっかりとネプトゥス教会に向かったのち、アゲ・イナリさまにお供えしにやってきました。
 教会奥につくられた大聖堂に入り、壁際にずらりと並んでいる神像の中からアゲ・イナリさまを探し出すと、クレアさんと共にその場に跪いて頭を下げます。

「アゲ・イナリさま、大変お待たせしました。前回のような名店街シリーズではなく、私とクレアさん二人の共同制作です。どうぞお納めください」
「つきましては、私にもより高位の加護を授けて頂けると幸いですわ。私は商人として独り立ちしたいのです、過去の確執につきましてはすでに清算したと思っていますので」
『コーーーーーン!!』

 最後はキリコさんの一鳴き。
 するとアゲ・イナリ様の神像がゆっくりと輝き始めました。

『おーおー、今日は二人の手作りかいな。それじゃあ、捧げてもらおかな?』
「はい、こちらです」

 アイテムボックスからお稲荷さんの収められている保存容器を取り出し、私たちの目の前に捧げました。
 するとお稲荷さんが光り輝き、次々と消えていくではありませんか。

『では、一つ味見を……と、ほほう、これはまたいい仕上がりやな。味付けその他は全てスタンダード、でも、うちに捧げようていう気持ちがギュッと詰まっておる。よし、クレア・エルスハイマー、あんたに加護を授けたるわ!!』

――ザワザワザワザワ
 すると、周囲に集まって来ていた商人たちがざわめき始めます。
 お供え物をするだけで加護が授かるだなんて、誰も予測をしていなかったのでしょう。
 そしてクレアさんもイナリさまの言葉を聞いて、呆けた顔になっていますけれど。

「クレアさん……お礼を」

 ツンツンと肘で彼女を突きますと、我に返った彼女が深々と頭を下げました。

「あ、有難うございます~」
『ええでええで。あんたも商人としてがんばっていたのはうちの眷属たちを通じて見ていたからな。キリコもお疲れ様や』
『コンココンコーーーン』

 とてもうれしそうな二人。
 私はすでに商人としての加護は得ていますので、これ以上を望むのはよろしくありません。
 商人たるもの、欲をかいてはダメです。アーレスト商会の教えにもありました……。
 そしてクレアさんとキリコさんの姿が光り、アゲ・イナリさまの声が響きます。

『クレア・エルスハイマー。あんたには【アイテムボックス】と【商業全般】の加護を授けたる。ついでにな、【鑑定のメガネ】もつけてやるわ。それを付けて居れば鑑定というスキルが使えるようになる。ただし、あんたがフェイール商店を裏切るようなことをしたら、その加護は全て消えるから気を付けてや』
「はいっ。私はフェイール店長を裏切るようなことは決して行いません」
『まあ、クリスと共にいるか、彼女を裏切らない限りは加護は永久に持続するで。と、キリコ、あんたにはこれや!!』

――ボフッ
 突然、私の真横でキリコさんが獣人の姿に変化しました。
 しっかりとガンバナニーワ式の作務衣サムーエという衣服を身に付けています。
 私と年齢は私と同じぐらいかな?

『キリコは二人の護衛と仕事の御手伝いを頑張るようにな。さて、クリスには……今回はなしや。その代わり、シャーリィからの伝言を伝えておくで』
「は、はい、このあとシャーリィさまのところにも伺う予定でした」
『今、ここにはおらん。留守やな。ということで伝言。【フォンミューラー王国内なら、今まで通りに加護は使えますよ】だそうや。まあ、うちの祠や神像を仲介するので、ネプトゥス大聖堂がある都市だけや』
「ありがとうございます。シャーリィさまにも、私が無事に到着したことをお伝えください」
『それぐらいかまへん。そんじゃ、あとはきばってや~や~や~』

 ああ、セルフエコーという奴ですね。
 遠くに消え入るように、小声になるのを、この大陸ではそういうそうです。
 でも、ハーバリオスの勇者語録ではドップラー効果といっていたような気が。

「では、いきましょうか? 今日は町の中を散策したいのと、商業ギルドにいって露店の使用許可を取りたいのですよ」
「そうね。それじゃあそうしましょう……と、この子は、子狐のキリコでいいのよね?」
「そーだよー。キリコだよー」

 尻尾をパタパタと振りつつ呟くキリコちゃん。
 うん、可愛いですねぇ。
 ギュッと抱きしめて眠りたい気分です。
 
 〇 〇 〇 〇 〇

――バンクーバー・商業ギルド
「フェイール商店さん、こちらのギルドカードはフォンミューラーでは使えませんね」

 教会を出て町の中心部に向かい、そこから商業区と呼ばれている大手商会の密集する地区にやってきまして。この一角に巨大な商業ギルドがあったので、まずはここで諸々の手続きを行おうとしたのですが。
 突然の出来事に、ちょっと困りそうです。

「それはつまり、新しくこの国でも登録する必要があるということですか?」
「ええ。フォンミューラー王国およびその近郊の国々で商業を生業とする場合、商会登録を行う必要があるのですが。その際は王国もしくは都市に本店を構えている必要があります。こちらのハーバリオス発行のギルドカードですと、フェイール商店の本店はオーウェンという都市になっていますよね。他国の商人がフォンミューラーで商売を行う場合、こちらの『通商許可証』を購入していただくことになります」

 この通商許可証を購入し登録すれば、フォンミューラー近郊の国家での商業は可能だそうで。
 これは仕方がありません、素直に購入することにしましょう。

「……では、購入させていただきます」
「はい、通商許可証は金貨20枚ですけれど、他国の商人の場合、通行税と商業税が別途必要になりますのでお気を付けください。ちなみにバンクーバーでの露店での商売は可能ですが、現在は空いている場所がございません。どこか店舗を借りるか、もしくは軒下を使う許可を取った方がよろしいかと思いますが」
「うーん、ちょっと待ってくださいね」

 これは、予定を切り上げてバンクーバーを離れた方が良いかもしれません。
 そう考えていると。

「あれ、見た顔のお嬢さんだと思ったら、フェイールさんか。ひょっとして商業手続きかな?」

 イブさんが私たちの近くにやって来て、話しかけてくれました。
 
「ええ。ですが、露店の場所に空きがなくてですね。それなら次の町に向かった方がいいかなぁと思ったのですが」
「ふぅん。それなら、うちの店の隅っこで使う? うちのカバン屋ってさ、私ひとりで回しているんだけれど店舗だけは大きくてすきまだらけなんだよ。この街にいる間ぐらいなら、貸してあげるよ、格安で」
「借ります!! 貸してください!!」
「ということなんだけれど、ミランダ、うちをフェイール商店に貸すので手続きをしておいて。私は納品を終わらせてくるから」
 
 そう告げて、イブさんはとっととどこかに行ってしまいました。
 
「それでは、手続きを再開しますね……」
「はい、お願いします」

 これでようやく、バンクーバーでの店舗も確保できました。 
 さて、あとは何を販売するか、そこが勝負ですね。
しおりを挟む
感想 652

あなたにおすすめの小説

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。